7話 全員ゲロイン破滅主義者
「で?? 結局あんたは何しに来たのよ?? まさかダーリンの匂いを嗅ぐ為に来たんじゃないでしょうね??」
説教を終えたルカが冷たい口調でリアに尋ねた。
「なっ! ち、違うわ!! まどかには言ったが少し困った事になってな。
青っ子達も含めて一度日本に帰ってきて欲しいのじゃよ!!」
「困った事?? って、その前に私達日本に戻れるの??」
リアの言葉に青蜜が驚く。
「ふん、力を取り戻した今の我ならお主らをあちらの世界に戻す事くらい容易いわい。 そうじゃな、論より証拠じゃ。
とりあえず、これからの事はあっちで話そうとするかのぅ」
「ま、待ちなさいよ!! 勿論、私も連れて行ってくれるのよね?? 置いてきぼりは許さないわよ??」
「わかっておるわ!! そう言うと思って部屋も6つ用意してある。 では行くぞ?? 少しきついかも知れんが……まぁ我慢せい」
そう言うとリアは聞き取れない言葉で何かを呟きだす。
簡単に日本に帰れるなんて相変わらず何でもありだなこの魔女さんは……ん?? ってか今、部屋を用意してるって言った??
日本に帰るなら普通に俺は自分の部屋があるんだが??
それに何で6つ?? 俺達以外に誰かいるのか??
……まぁこんな事を考えてても仕方ないか。 だってこの部屋、もう歪み始めてるもん。
さてと……この後の流れはわかってる、ずっと経験してきた事だしな。
……どうか今回は吐かない程度のダメージで勘弁してください。
俺は覚悟を決め流れに身を任せる様に、そっと目を閉じた。
「着いたぞ。 もう目を開けても大丈夫じゃ!!」
「えっ??」
リアに言葉に俺は直ぐに目を開けた。
と言ってもついさっき閉じたばかりだ!?
いくらなんでも早すぎじゃないか??
しかも全然気持ち悪くないし!!
「それに……もしかしてここって……俺の部屋じゃないか??」
見慣れた家具に、干しっぱなしの普段着。 辺りを見渡すとそこは間違いなく俺の部屋だった。
「そうじゃ。 ここはまどかの部屋じゃぞ?? お主はアパートで一人暮らしじゃったから、何かと都合が良くてな」
「都合??」
「うむ、お主の住んでいたアパートの住人には全員退去してもらったのじゃ。
部屋はちょうど6つじゃったしな!!
じゃからしばらくはこのアパートを我らの拠点にしようと思っておる!!」
「……はっ??」
拠点?? 何言ってんだリアは??
「あっ、ちなみに我の部屋はこの一つ下じゃ! 我は階段が大っ嫌いじゃからな。 それ以外は適当に決めておいたぞ!!
右隣が青っ子、左が貧乳っ子じゃ。 ルカは我の部屋の隣じゃな!!」
まるで席替えかの様なテンションでリアは言った。
「……も、もしかしてこのアパートに全員住むのか??」
「そうじゃが?? そっちの方が連絡も取りやすいじゃろ??」
「いや、そうかも知れないけど……」
……うん、なんだろう、普通に嫌なんだが??
こいつらと同じアパートなんて平和に暮らせる気がしないもん!!
「あっ、でもさ!! お、俺は良いけど、青蜜や結衣ちゃんは厳しんじゃないか??
高校生の女の子の一人暮らしなんて親が心配するだろ?? 特に青蜜の家なんてそう言うのに厳しそうだし!!
そうだよな、青蜜??」
「………」
えっ?? 反応なし?? ってかあれ?? 青蜜どころか、結衣ちゃんもルカもみんな顔色やばくない??
今にも吐きそうなっ……。
その瞬間俺は無言で、床にあったクッションを蹴っ飛ばし、貯め置きしていたビニール袋まで走る。
や、やばいやばいやばい!!
嘘だろ?? 今回はこっち側なの??
いや、ここが俺の部屋である以上、今回も一番ダメージを受けるのは間違いなく俺だ!!
最悪の展開を回避すべく袋を鷲掴みにして、急いで青蜜達の元へ駆け寄る。
「お、おい!! 吐くならせめてこの袋の中にっ」
「「「お、おえぇ……」」」
「いや、タイミング良すぎだろ!!」
あまりのタイミングの良さに俺は思わず全力でツッコミを入れてしまう。
何で3人同時なんだよ!! 普通時間差あるだろ!! 誰も救えないじゃねぇーか、こんなの!!
……まぁ、俺も前に吐いたから気持ちはわかるけど……そうだよな、あんなの我慢できるもんじゃ無いもんな。
入学祝いで買って貰ったお気に入りのカーペットが凄い勢いで汚れていくのを見ながら俺は3人の背中を交互に撫でる。
「大丈夫か? 水とかいるか??」
「……」
反応なしか……まぁとりあえず、袋は渡したし落ち着くまでこのまま待とう。
確かにカーペットは汚れちゃったけど、一番のお気に入りのクッションは何とか守り抜く事が出来たしな。
汚れない為に急いで蹴っ飛ばしたクッションの行方を探す。
確か、リアのいる方向に……っておいおいおいおい!!
「うっ……うっぷ」
視線の先には明らかに気持ち悪そうな表情を浮かたリアが、そのクッションを抱え込んでいた。
「ち、ちょっと待て? リアさん??
貴方は慣れてるよね?? さっきまで元気そうだったもんね??
異世界に行く事なんて容易いって言ってたよね???」
「す、すまん……我は……うっ……ずっと園児として過ごして来たからか、他人のゲロが大っ嫌いのじゃ……一度、顔面に直接吐かれた事もあって、それ以来……うっぷ、見ただけで気持ち悪くなってしまうのじゃ」
「そ、そうか。 わかった、わかったからもう少し我慢してくれ。 この際吐くのは仕方ない、生理現象みたいなもんだからな。 だからこそ、せめてこの袋の中にっ」
「おえぇー……」
俺が袋を渡すより前に、リアは持っていたクッションに向かって勢い良く吐き出した。
……嘘じゃん、何これ?? どう言う状況??
初めて部屋に入れた女の子全員に嘔吐されるなんて、聞いた事ないんだけど??
こんな事なら俺が吐いた方が何倍もマシだわ!!
唯一の救いは、おっさんや野郎のゲロじゃなくて良かったってくらいしかなっ………いや、ゲロはゲロだわ。 美少女だから良いとか無いわ。
……なぁ異世界の神様よ、あっ、今は地球の神様か?? まぁどっちでも良いけどさ……本当にこれでいいの??
暴力ヒロインに全員ゲロインなんてさ……クソアニメ確定だからな??
何度目かも覚えてない神への文句を言いながら、俺は4人の看病と部屋の掃除を始めた。




