2-2話 やっぱつれぇーわ。
「はぁはぁ……こ、ここまで来たら流石に大丈夫かな」
「……」
後ろを振り返りシャロさんの姿が見えなくなった時、俺はようやく足を止めた。
な、なんとか逃げ切ったみたいだな……持久力のないガチムチで良かったぜ本当。
「それにいつの間にか目的地にも着いたみたいだな」
「……」
目的なく走っていたつもりだったが、辺りを見渡せばここはさっき部屋から覗いていた中庭だった。
青蜜が魔法でぶっ壊した的も散乱してるしな、間違いないだろう。
「さて、じゃあ青蜜達を探そうか……ってどうしたんだルカ? 顔が真っ赤だぞ??」
って、まぁそりぁそうだよな。 力はそれなりに強くてもルカは女の子なんだもんな。
こんだけ全速力で走らせたら身体にも大きな負担がかかるよな、俺だってかなり疲れたし。
「悪かったなルカ。 無理矢理走らせてごめんな、疲れたよな?? ここで少し休憩していっ」
「さ、最高だったわ!!」
心配する俺の言葉を遮り、ルカが目を輝かせて満面の笑みで叫ぶ。
……あー、うん。 このパターンは知ってるわ、予感というよりはもう予知出来る。 絶対に俺にとって嫌な事を考えてるわ。
「ねぇ、ダーリン!! 手を繋いで走るのってこんなに楽しいのね!! 今度から一緒に走りましょう!!」
な? やっぱり辛い事だっ……えっ??
「走る? 手を繋いで??」
「えぇ! なんだか心がふわふわしてとても気持ち良かったの……だから今度から、そうね、月曜日は一緒に走る日にしない??」
「ほ、本当に? じゃあ月曜日はビンタ無しって事??」
「うん……ダーリンと一緒に走りたいの」
俺と繋いだ手を胸に当てルカは妖艶な声で小さく囁いた。
か、可愛い……ってかマジかよ!! 正直めちゃくちゃ嬉しいんだがっ!!
そりゃあ走るのは好きな方じゃ無いけど、ビンタされるよりは全然良いわ!!
「わ、わかった。 じゃあ月曜日は走る日って事で! 約束な!」
ルカのまさかの要求に俺はすぐに答えた。
「うん!! えへへ、ありがとう!!」
嬉しそうに身体をもじもじさせるルカの姿に、なんだか俺まで嬉しくなってしまう。
つまり週一のマラソンデートって事だよな? な、なんか健康的で良いな。
しかも手を繋いで走るって……最高では??
もしかしてようやく俺にも異世界での楽しみが出来るんじゃ!!
「あっ、私そんなに体力ある方じゃないし、遅いかも知れないけど我慢してね?」
「えっ? あぁ勿論だよ! ちゃんとルカのペースに合わせるさ!!」
ついさっきルカに格好悪い所を見られた手前、俺はキメ顔でそう言った。
「本当に? じゃあ朝に結衣と一緒に走ってるくらいの距離にしようかな??」
朝に結衣ちゃんとも走ってたんだ! どうりで仲良くなる訳だ!
……何キロくらい走ってたんだろう?? ま、まぁ朝だし、いくら結衣ちゃんとは言えそんなに全力で走らないだろ。
今さっき力が強くても持久力は無いパターンを見てきたしな。
多めに考えても10キロくらいかな?
「因みにどのくらいの距離走ってるんだ??」
「えーと、朝だと大体40キロくらいかしら! 結衣ってば凄い早いのよ!
3時に出て6時にはもう帰ってくるみたいなの! 私はいつも7時過ぎになっちゃうのよね……だからダーリンには私が6時頃に帰って来れる様に手伝って欲しいかな!」
「40キロかぁー、まぁ想像してたよりは……ん?」
40キロ? 4キロじゃなくて??
「えーと……約3時間で40キロ走るって事? 毎週月曜日に??」
「ええ! よろしくねダーリン!!」
ルカはそう言うと年相応な可愛いの笑みを俺に向けた。
……フ、フルマラソンじゃん。 いや、でもビンタよりは……うん、どっちも同じぐらい辛いわ。
あっ、いや、ガチムチのおっさんに犯されるよりはマシか??
……ふぅー、これくらいの異世界ハンデなんぞ今更たいした事無いと思える自分が怖いわ。
まぁでもどうせこんな事だろうと心の奥底では思ってたけどね……もうある意味テンプレだもん。
あっ、因みにジャンルは俺虐な? 今度はこれが流行って異世界生活を送る全ての男が不幸になるのを祈ってるわ。
不貞腐れた心で俺は出来る限り大勢の他人を巻き込む方法を考えていた。




