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1話 主人公にはなれない


「よし! これでこの教科書の内容も終わりだな!! やっぱ高校の勉強は難しいな。 まぁでもその分やり甲斐もあったから良しとするか! 暇潰しにもなったしな!」

 

 机に出した教科書を閉じ、俺は固まった身体を伸ばす。

 

 それにしても、あの時に弁当だけじゃなく鞄ごとトイレに持っていって正解だったな。

 お陰で異世界に来ながらも自習が出来て助かったぜ、流石俺だな!!


 ……まぁ便所飯してるってバレるのが嫌だったから持ち歩いてただけなんだけど。

 


「さてと、これからどうするかな」

 

 勉強もひと段落つき再び暇になった俺は特に意味もなく辺りを見渡す。

 

 

 掃除は昨日したばかりだし、おっさんから借りたゲームはもうクリアしたしなぁ。 買い物でも行くか? 

 うーん、でも別に欲しい物なんてないしな。

 

 少しの間考えてみたが、結局やりたい事もするべき事も今の俺には見つけられなかった。

 


 

 ……うん、こんな事言うのは贅沢なのかも知れないし本当は言いたくないんだけどさ、もう限界だから言うわ。

 

 俺は深呼吸し今日まで溜めいていた不満を声にだして吐き出す。

 


「いや、飽きたわ!! もう異世界生活に飽きたんだが??

 ここ最近は自習しかしてないし、めっちゃ暇なんだよ! なんだこれ!!」



 リアが力を取り戻すまでのこの4ヶ月間で、俺は完全に異世界生活に飽きていた。


 そりゃあさ、確かに最初の1ヶ月ぐらいは楽しかったよ? 

 異世界に来たいと思ってたし、まぁ想像してた異世界ではなかったけど、それでも日本じゃ体験できない事も沢山出来たしな。 


 魔法だって初めて見た時は感動したよ? 

 人間の掌から火が出た時は興奮ものだったさ!



 でもさ、もう慣れちゃったんだよ!!

 今では普通にマジックを見てる気分になるし、なんなら小学生の頃に見たキャンプファイヤーの方が興奮してたかもって思い始めてるし!!

 

 それにさ、あんなに好きだった獣人も、今やただ可愛い子がコスプレしてるようにしか見えないんだよ。

 ……日本で可愛いギャル見た時の様な感覚にまでなっちまったんだよ。



 あれ? なんか思い返すと悲しくなるわ。 やっぱ慣れって怖いな。

 


「あんなに来たかった場所なんだけどな……俺がクズだからこの現状に飽きちゃうんだろうか?

 やっぱり簡単に主人公になんてなれるもんじゃないよな」

  


 俺は徐に椅子から立ち上がり、部屋の窓から中庭を見下ろす。 

 視線の先には青蜜と結衣ちゃん、それからルカが楽しそうに話をしてた。

 

 

「ねぇ! 今のどうだった? 結構威力があったと思うんだけど!!」

 

「んー、確かに威力はあるけど精度が悪いわね。 それにねブルーちゃん、私は的の中心に当てろって言ったわよね?

 壊せなんて一言も言ってないわよ? もっと集中して魔力を抑えなさい」

 

「わ、わかったわよ。 でも魔力を抑えるって難しいのよね」

 

「感覚は掴めてるから後は慣れよ、そのまま何発も打ってればそのうち制御出来るわ。 

 それより結衣、私のビンタの威力は上がってるかしら? 貴女の言う通りのトレーニングをしてるんだけど、自分じゃ上達してるか分からなくて」 

 

「上達してますよ! むしろルカさんの上達が早くて驚いてます! 

 この分だと直ぐにでも私より強くなりそうです!!」

 

「そ、そうかしら? それなら良かったけど貴女より強くなるのは遠慮しとくわ。 ダーリンが死んじゃうかも知れないしね」

 

「もう! 私をなんだと思ってるんですか!!

 あっ、あかねちゃん! これどうですか? かなり上手く作れたと思うんですが……」

 

「ん? どれどれ? おー!! 凄いじゃない結衣! 遂に創造魔法のコツを掴んだのね! これは剣かしら? かなりいい感じよ! でもまだ実用出来るレベルじゃないわね、もう少し強度を持たせると良いかも。 魔素の混合比を増やしてみたら?」

 

「な、なるほど! 早速やり直してみます!!」

 


 

 4ヶ月前からは考えられない程に仲良くなっていた3人は、それぞれの目標の為に頑張ってトレーニングをしていた。

 


 俺も青蜜や結衣ちゃんみたいな性格だったら、この異世界生活も楽しく過ごせたのかもな。 今の俺がこんなに暇なのも、きっと自分のせいなんだ。

 


 

 笑顔で話す青蜜達を見て俺はそう思っ……。


 

 

「いや、俺のせいじゃねぇーだろ!!」

 

 自分の心の声に俺は声を大にして突っ込む。

 


 お、俺だってな! 俺だって魔法さえ使えればこんな所で勉強なんてしてないし、暇にだってなってないんだよ! 


 青蜜の様に火の玉飛ばして、結衣ちゃんみたいに剣とか盾を作ってみたいわ!!



 ……なんで俺だけ魔法適正ゼロなんだよ、おかしいだろ。

 


 悔しくて泣きそうになりながら俺はある魔導師の言葉を思い出す。

 

 

 ルカと再会して1ヶ月ぐらい経ったある日、俺達はルカの提案で魔法適正があるかを確認する事になった。


 元々この世界の人間じゃないし、期待もしてなかったが観光も込みで俺達はとある魔導師に鑑定を依頼し、結果はその日のうちに分かった。

 

 魔導師曰く青蜜はこの世界の魔素に愛されているらしい、多大な魔素を必要とする創造魔法に向いていると言ってた。


 結衣ちゃんは単純に潜在魔力が桁違いに多いと言ってた。 練習すれば高威力の魔法を放つ事も可能だと。

 

 そして俺はこう言われたのだ。

 

 

「こ、こんな人間は初めて見たぞ! 大発見じゃ! 基本的に好意的な魔素がお主の周りには一切近づこうとせん!!

 お主相当嫌われてるぞ!! それに魔力も一切感じない! 魔法適正ゼロじゃ! 

 どんなに頑張っても一生魔法を使える日は来ないじゃろうな! いやー、珍しい者もいるもんじゃな!! 折角じゃから握手してもらえるかのぅ??」

 

 

 

 ……どう思う? ねぇ? これって俺のせいか?? 

 確かにさ、この世界に嫌われてるとは思ってたよ?? 

 心当たりはあったけどさ、こんなのってないじゃん。 

 


 魔法も使えない、クソマイナススキル持ち、その上見えない何かに嫌われてるんだよ??


 

 こんなんどんな主人公でも異世界が嫌いになるだろ! 飽きても仕方ないだろ!!

 

 異世界に来たので、のんびり生きていきますとかスローライフしますとか言ってる奴はこの状況で同じ事が言えるのか! 言えねぇーだろ!! 

 食堂でも開くか? 言っとくけどこの世界のご飯めっちゃ美味いからな!! 

 日本で店開くのとたいして変わらねぇーからな!!

 


 

 ………いや、これはただの嫉妬か。 あいつらは関係ないし、作中でも頑張ってたのは事実だしな。

 


 うん。 結局、悪いのは魔力の無い俺なんだもんな。 

 魔素に嫌われてるってのは納得いかないけど、それもどうでも良いや。

 

 

「はぁー、もう帰りたいわ」


 思わず声に出てしまう。 それくらい俺にとっては辛い出来事だった。

 

 

「ん? なんじゃお主帰りたいのか? それはちょうど良かった! 

 実は少し困った事になってな? 一度日本に帰ってきて欲しいんじゃよ」

 

「帰れるなら今すぐ帰るさ、ついでに参考書も買えるしな……ん?」

 


 誰と話してんだ俺? 

 

 後ろから響く聴きなれた声に釣られ、俺はゆっくり振り返る。 


 振り返った先には困り顔を浮かべて首を傾げるリアの姿があった。

 

「リ、リア? どうやってここに??」

 

「久しいなまどかよ! なぁに、予定通り魔女の力を少し取り戻したからこっちの世界に来たまでじゃ。 

 それにしてもお主随分と元気がないのぅ? だ、大丈夫なのか??」

 

「い、いやなんでもないさ。 それより本当に力を取り戻したんだな! また会えて嬉しいよリア」

 

 優しい声で言うリアの言葉に俺は思わず泣きそうになるのを必死に堪えて返した。

 

「う、嬉しいのか? そうか、お主は我に会えて嬉しいのか!!

 ふふっ、ちょっと無理して会いに来た甲斐があったのぅ……ってそんな事はどうでも良いんじゃ!! 話を逸らすでないわ!」


「あ、あぁ悪かったな。 それで困った事ってなんなんだ?」


「うむ。 とりあえず青っ子達にも声をかけて貰えるかのぅ? 

 今回はどちらかと言えばお主らの問題じゃしな」

 

 俺達の方の問題? どう言う意味だ? 

 まぁ考えても仕方ない、リアの事だしなにかあったのは確かなんだしな。

 今は言われた通り青蜜達を呼んでくるか。

 

「分かった、呼んでくるからリアはここで待っててくれ」 

 

「そ、そうじゃな、座る場所がないからベットの上で待っとるとしようかのぅ! 

 き、汚そうだけどここしか無いから仕方ないしのぅ! あー、それからゆっくりで良いぞ? 

 ちょっと疲れておるから少し横になりたいからな!」

 

「え? まぁ汚くないないと思うけど、気になるならベットじゃなくてソファーもあるぞ……ってもう寝てるのかよ。

 はぁー、珍しく本当に疲れてるんだな、じゃあ出来るだけゆっくり行ってくるからな。 よだれ垂らすなよ」

 



 寝転ぶリアにそう告げ、俺は静かに部屋のドアを閉めて青蜜達がいる中庭へと向かった。

 


 ゆっくり歩くつもりだったのに、少しだけ早歩きになってしまったのはきっと久しぶりにワクワクしていたからだと俺は思う。

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