とある天才少女達の発明品 1
「ば、馬鹿な! ありえんじゃろ!! 一体何が起こっているのじゃ??」
いつも通りの時間に目を覚まし研究に使う材料を取りに近所を散歩をしている時、我はこの世界に大きな異変が起こった事に気付いた。
「淀魔素濃度が低下しておるじゃと? 近くで大きな災害でも発生したのか? いや、それは流石に早すぎる。
ここら一体の魔素は融合をする程ではなかったしのぅ……もしや自然に濃度が薄まったのか?」
いやいや、それこそありえんじゃろ。 魔素が自然に消える事などない、誰かが人工的に消したと考える方が百倍可能性がある。
だとすれば一体誰じゃ? ユミアルテのケインか? それともアーレスクのマリンか?
いや、彼奴らは確かに優秀じゃがそれはあくまで人間レベルじゃ。 我に比べればまだまだ馬鹿で未熟じゃし……うむ、全く心当たりがないのぅ。
良く良く考えれば我の長年の悲願の一つでもある魔素濃度の操作をたかが人間に出来るとは思えん。
それに仮にそんな事が出来たら其奴は我より優秀と言う事になるしのぅ、我の作り上げたこの箱庭でそんな存在が生まれる訳はないのじゃ。
つまり可能性の低い方が真実って事じゃ。
「これはあくまで偶然の産物、8千年も時間が経過すればこんな事が起こる日もあるって事にしておこうかの。 まだまだ我にもわからぬ真理が世界にはあるって事じゃ。 ふふっ、研究のしがいがあるのぅ」
明日になればいつも通り淀魔素濃度は増していく。
そうなって当然だと、この日は納得し我は目当ての物を採取して家へ帰る事にした。
だから翌日再度その場所に着いた時、我は自分の考えが初めて外れた事に心底驚いた。
「……う、嘘じゃろ?」
常に増していく筈の淀魔素濃度は昨日から一切の変動をしていなかった。
「な、何がどうなっておるのじゃ。 意味がわからん!!」
初めて目撃する摩訶不思議な現象に我の頭の中は興奮と混乱でごちゃまぜになっていた。
「お、落ち着くのじゃリアメストよ。 わ、我はこの世界の創造主じゃぞ? こういう時は冷静に何が起こっているのか確かめれば良いのじゃ、そうじゃろ??」
パンクしそうな自分に言い聞かせるように呟き、我は大きく深呼吸をした。
「ふぅー、そうじゃ、我は天才魔女なのじゃ。 もし本当にこの現象が人工的に作られた物だとしても落ち着いて対処すれば誰が何をしたのかを調べるなぞ造作もない。
あやつに聞けば直ぐに答えは出るのじゃしな」
我は直ぐに目を瞑り意識を集中させて心の中で話かけた。
「おい、この星よ。 最近世界に起こった出来事を教えるのじゃ」
「はぁ? 何よ、急に! 嫌よ。 今はそれどころじゃ無いし、その言い方も気に食わないわ」
「えっ……いや、我創造主ぞ? そう言うの良いから早く教えてくれない??」
脳内に響く女の声に我は再び声をかける。
「はぁ? いつの話してるの? いつまでも母親振るの辞めてもらえるかしら?
私の中で生きてる癖に! 頼む時にはそれなりの言い方があるでしょ??」
ぐっ、この腐れ星め。 アバンの王子が死んでからずっと反抗期になりおって! ……まぁここは大人な我が折れてやろう。
「わ、わかったのじゃ。 我の言い方が悪かったのは認めるとしよう。 謝るから教えては貰えないじゃろうか? 最近のこの世界の出来事について」
「謝ってないじゃない、騙されないわよ??」
「すまんかったって! ごめんなさい、我が悪かったです! 申し訳ございませんでした!!」
くそ、なぜ我が謝らなくちゃならないのじゃ、全く!
「全然誠意が感じられないけど、謝ってくれただけマシね。 成長したじゃないお母様」
「う、上から目線なのは腑に落ちないが、まぁ良い。 では教えてもらえるか?」
「だめー! 教えないわよ! 元々私忙しいって言ったでしょ? 謝られても教えませーん!!」
……このクソ星いつか絶対滅ぼしてやるわ! 最高に煽ってる顔してるし! いや、顔ないけど!! そんな気がする! 絶対ニヤニヤしてる!
「あはは、冗談よ。 そんな怖い顔しないで。 お母様ったら最近全く話しかけてくれないから、ちょっと拗ねてみただけなんだから」
「そ、そうじゃったのか。 それはすまん事をしたな、確かにお主は我としか話す事が出来ぬものな」
急にしよらしい声を出す星に申し訳なくなってしまう。
同時に寂しい思いをさせてしまっていた事を我は反省した。
「……良いのよ。 自分の立場は弁えてるつもりだもの。 えーと、確か最近起きた出来事だったわよね?
抽象的すぎていまいちピンと来ないけど、お母様の事だからきっとあの事ね。
ユミアルテ国のケインって人物を尋ねたら良いと思うわ」
「さ、流石話が早いのぅ、それにしてもまさかケインが……。 わかったのじゃ、今すぐ訪ねてみるとしよう! ありがとうのぅ!!」
「ふふっ、いってらっしゃい。 何かあったらまた話かけてね! じゃ!」
「わかったのじゃ! 本当にありがとうな!!」
我はそう言い残し目を開けて急いで家に戻った。
ふふっ、それにしてもまた話しかけて欲しいなど随分と可愛い事を言う様になったな。 ようやく長かった反抗期が終わったのかもしれん。
し、仕方ないから今度からは月一回くらいは話をしようかのぅ。
そんな事を考えながら最低限の旅支度をして、我はケインが滞在するユミアルテ国へと向かった。
その後、ユミアルテに着いた我はケインの結婚式に参加するべくそのまま1週間程滞在していた。
それにしても彼奴が結婚とはな、しかも相手が王族とは。 ふっ、柄にもなく緊張してしまったわい。 まさか我が人様の見届け人を務めるなんて思ってもなかったしのぅ。
は、初めて人間の結婚式に参加したが中々に良い物じゃったな。
不覚にも我もいつか結婚してみようかと思ってしまったわい。 幸せになるんじゃぞケインよ、お主は我が認めた数少ない者の一人なんじゃからな。
さてと用事も済んだ事じゃし、我も研究に戻るとするかのぅ。 我にはまだまだやりたい事が沢山あるしっ……。
「……って違うわっ!! おい、聞こえておるんじゃろ? 誰が弟子の結婚式に行きたいなんて言ったのじゃ! 全然違うわい!!」
「えっ? 違ったの?? てっきりお母様もそろそろ結婚したくなったから他人の式を一度見て見たいのかと思ったのだけど??
それになんだかんだ楽しんでたじゃない、あの挨拶も良かったわよ。 私も感動しちゃったわ」
「ほ、本当か? いやー、そう言われると悩んで考えた甲斐があったのぅ………ごほん!
た、確かに楽しんでいたのは認める。
じゃが、我が求めてたのとは違うのじゃ。 その、わかるじゃろ? もっと世界にとって大きな出来事が最近あったじゃろ?」
「あー、そう言う事ね。 完全に理解したわ! ごめんなさい、悪気は無かったの。 次は大丈夫よ、お母様が求めてる事はマリンに会えば分かる筈よ」
「なるほど! そっちじゃったか! まぁ我も詳しく言ってなかったからな、わかりにくくてすまんかったぞ。 では早速会いに行ってくる、ありがとうのぅ」
星との会話を終え、我はケインに別れを告げその足で急いでマリンの国へと向かった。
多少時間をロスしたがまぁ間違いは誰にでもあるし、仕方ないのぅ。 それに決して無駄な時間ではなかったしのぅ。
2日後、アーレスク国に着いた我はマリンの赤ん坊の出産に立ち会う事になった。
……まさかあのマリンが出産とはな。 ふむ、いつ見ても生命の生まれる瞬間というのは何とも形容し難い感情に襲われるもんじゃな。
それにあのマリンの娘となれば将来が楽しみじゃしな、まぁ母親に似て暴力的な女にならねば良いが。
わ、我にもし子が生まれたら名前は何にしようかのぅ?
迷うのぅ、帰ったら色々考えて見ても良いかもしれんなっ……。
「……いや、違うんじゃよ! だからこう言う事じゃないんじゃよ!!」
「う、嘘でしょ? だってあのマリンの出産よ? まさに天変地異級の出来事じゃない! それにお母様も出産時かなり驚いていたわよね? おどおどしてたじゃない、あんな慌てたお母様を見るのは初めてだったわよ?」
「……うん、まぁそう言う見方もあるかも知れんがな? もっとこう直接世界に関係する事があると思うんじゃが?」
「直接? あー! なるほどね!! じゃあの子しかいないわ、極東の国に佐倉咲って子が居るの。 あの子ならお母様が求めている答えを知っているわ」
「佐倉? 聞いた事ない名前じゃな? まぁじゃが今は名を知らぬ子の方が、信用できる気がして来たぞ。 訪ねてみるとしようかのぅ」
マリンとその赤ん坊に別れを告げ、我は再びその地に向けて旅立つ事にした。
……だけど結局その佐倉と言う娘も我の求めていた答えを持ってはいなかった。
それどころかこの先、星から紹介された10人程は全く関係のない人間達だった。
「……なぁ、もしやと思うがお主わざとやっておらんか?
かれこれ2ヶ月全く関係ない事をしとる気がしておるんじゃが??」
「そんなわけ無いじゃない、たまたまよ。 まぁでももう2ヶ月なのね……うん、そろそろお母様の反応にも飽きてきたし、本命の名前を教えてあげるわ」
ん? 今、飽きたって言った? 聞き間違いじゃよな?
「暇潰しの割には楽しめたし、サービスで居場所も教えてあげる。
ルカの森に住む、ルカ・ルーレットって子を尋ねると良いわ」
……暇潰し??
な、なるほどのう、これが殺意と言うものか。
どうやらこのクソ星の反抗期はまだ終わってなかったららしい。
「じゃあそう言う事だから、しばらく話しかけて来ないでね? お気に入りのイケメンを見つけたから邪魔されたくないのよね。 バイバイ!」
「お、おい! 待つのじゃ! おい!!」
……うん、決めたわ。 いつか絶対滅ぼすのじゃ。
「はぁー、まぁとりあえずルーレットとやらに会いに行くとするか。
久しぶりに聞く名じゃが、ルカの木は随分前に調べ尽くしておるから、また嘘の可能性の方が高いじゃろうけど、かと言って他に当てもないしのぅ」
こうして我は僅かな期待を胸にルカの森に住む、ルカ・ルーレットを尋ねる事にした。




