↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
75/158

33話 天才少女と別れてしまった。

 

「ま、まどかさん! 大丈夫ですか??」

 

 結衣ちゃんの心配そうな声が俺の耳に届く。

 

「んっ……あぁ、大丈夫だよ」

 

 その声に促される様に俺はゆっくりと目を開け辺りの状況を確認する。

 

 見慣れた天井に何処か親近感さえ覚える歪な機械、俺達が未来に帰って来た事はすぐに分かった。

 

 慣れた感覚だった筈なのに今までの数倍は気分が悪いな……まぁこれも帰って来たって証拠でもあるか。

 

「良かったです。 まどかさんだけ暫く意識が戻らなかったので心配してたんですよ。 それにしてもどうして私達またこの時代に戻って来たのでしょうか?

 さっきまでルカさんの家に居たと思うのですが??」

 

「あぁ、結衣ちゃんは寝てたから知らないよな……実はっ」


「そんな事いちいち説明しなくても良いわ。 私達はまた此処に戻ってきた、その事実だけ十分よ」

 

 隣に立つ青蜜は俺の言葉を遮って冷静に続ける。

 

「それより……まどかちゃん、身体は大丈夫なの?」

 

「えっ?」

 

 青蜜の口から心配の声が漏れた事に俺は素直に驚いた。 良くて罵倒されるか、最悪もう二度と口を聞いてくれないと覚悟していたから。

 

「か、身体は問題ないよ。 いつもと同じく気分は良くはないけど特に痛みとかは感じないから」

 

「『身体は』ね……全く本当に馬鹿なんだから」

 

 青蜜は小さく呟き溜息を吐く。 

 

 その表情は怒ってるのか、悲しんでいるのか俺にはわからなった。 だからきっとこれは青蜜の最後の優しさなんだろうと勝手に推測する。 

 

 青蜜が俺に怒ってる事は間違えない、ルカに酷い事を言った俺を許すとは思えないから。 

 

「……無理して俺と話さなくても良いよ。 それくらい酷い事をしたと思ってる、言い訳するつもりも無い。 それにあれは俺の本心だから」 

 

「そうね、本当に最低だったわ。 心の底から軽蔑したわ、出来る事ならもう一生話したくも無いくらいにね」

 

「あぁ、覚悟の上だよ」

 

「はぁー、ほんっとうに馬鹿なのねまどかちゃんって」

 

 さっきよりも大きな溜息を吐き、青蜜は声を張った。

 

「……あれがまどかちゃんの本心じゃない事くらいわかるわよ。 理由があったんでしょ? ルカちゃんに研究を再開させようとしたあたりから演技だったのは分かったわ。 

 どういう心境の変化があったかは知らないけど、まどかちゃんは未来に戻る選択を、いえ世界を救う選択をしたんでしょ?」

 

 呆れた様に額を抑え青蜜は優しく俺に尋ねる。

 

 ……全く、本当に鋭い所あるよなこいつ。

 

「でも、だからと言ってまどかちゃんのやり方を許した訳じゃないからね? 女の子を泣かせて良い理由なんてどんな理由があっても正当化されるものじゃないんだから。 

 それに……私や結衣にも相談してくれても良かったんじゃない?」

 

 寂しげにそう言う青蜜の表情は悔しさを滲ませている様にも見えた。

 

 その表情を見て俺はもう嘘をつく事を辞めた。

 

「悪かったな……青蜜も結衣ちゃんも本当にごめん」

 

「か、顔を上げてくださいまどかさん! むしろ今回も私は何もしてないんです、だから謝るのは私の方なんです!」

 

「良いのよ、結衣。 むしろまどかちゃんには謝らせた方が良いわ……その方がまどかちゃんの為にもなるんだから」

 

 結衣ちゃんに耳打ちする青蜜の声が僅かに俺にも届く。

 

 ……青蜜の言う通りだ、俺が本当に謝るべきはルカだけど、それでも、それでも誰かに頭を下げているだけで少しだけ気が楽になる。

 

「わ、わかれば良いのよ。 でも次からはどんな理由があっても許さないから覚悟しておくこと! 良いわねっ??」

 

『次からは』か。 本当に優しい奴だな。

 

「……ありがとう」

 

「も、もう良いわよ! 分かったら顔を上げなさい、とりあえず殴るのも後にしてあげるから」

 

 あっ、殴るのは決定事項なんだ……。

 

「落ち着いたらとりあえずこれを見なさい。 まどかちゃんが一番気になっている事が書いてある筈だから」

 

 そう言うと青蜜は俺に一冊のノートを渡してきた。

 

「あ、私のノート! 見つからないと思ってたらあかねちゃんが持ってたんですね!」

 

 隣で結衣ちゃんが驚いた声をあげる。

  

 そのノートが結衣ちゃんの物である事は俺にも直ぐにわかった。

 同時に青蜜が俺に見せたい事が何であるかも。

 

「……そんなに緊張しなくても良いと思うわよ。 どっちにしろもう全て終わった事で今更結果は変えられないんだから」

 

「えっ?」

 

 青蜜に言われて俺は自分の手が震えている事に気付く。

 

 ルカの能力に疑問を持っている訳でもリアの言葉を疑っている訳でもない。

 だけど、どうしたってルカの研究が上手くいかなかった場合を想像してしまう。 人生には何が起こるかはわからないんだから。

 

 ……俺には今更ルカの事を心配する資格すらないよな。 

 青蜜の言う通り、結果はもう出てる。

 それがどんな結果でも受け止める事しか、いや受け止めなくちゃいけないんだ、それが俺の責任なんだから。

 

 勝手に震える右手に力を込め俺は青蜜から受け取ったノートのページをめくる。

 

 今までと違いルカに関する記事は直ぐに俺の目にとまった。

 


 『偉大なるルカ・ルーレットに敬意を込めて』

 

 僅か14歳の少女がこの世界を変えた時、我々はその偉大さに直ぐ気付く事は出来なかった。 

 彼女が読み上げた論文をどの学者も信じる事はせず、あろうことかただの少女の妄想だと蔑んだ。 

 ……勿論私も例外ではない、当時の私は夢を見る少女のとんでも理論と彼女の研究を小馬鹿にした事をよく覚えている。

 

 だかそれから10年、彼女の理論は何一つ間違って無い事が証明される。

 今まで人工的に作る事が不可能だとされていた『完器樹』が彼女の理論によって遂に完成したからである。

 これによって人類にとって長年の問題、いや悲願とも言える願いが遂に叶いつつあるのだ。

 

 世界を変えた瞬間がいつだと聞かれたら私は迷わず今日のこの出来事を挙げるだろう。

 

 今更調子の良い事を言ってるのは分かっているが、もし許されるなら彼女には謝りたい、そして同時に最大級の感謝と敬意を此処に示す。

 

 


 記事はその後、ルカの研究に関する内容を書き記していた。 

 

「……ははっ、俺が心配する必要なんてこれっぽっちも無かったな。 ルカは本物の天才だったんだもんな」

 

「ええ、そうね。 でも驚くのはまだ早いわよ。 まだ続きがあるんだから」

 

「続き?」

 

 笑顔で微笑む青蜜に促され俺は次のページに手を伸ばす。 

 

 『天才少女ルカ・ルーレットが世界を救う』

 

 『英雄ルカ・ルーレットへ感謝を』

  

 『天才という言葉は彼女にこそ相応しい』

  

 以前とは違い結衣ちゃんのノートはそこから先、全てがルカに関する内容だった。

 

 その一つ一つに俺はじっくりと目を通す。 

 

 その全てがルカを称賛する。 

 

 俺はそれが自分の事の様に嬉しく、読めば読むほど記事の文字が滲んで見えなくなっていった。

 

「……凄い、本当に凄いな」 

 

「まさに有言実行ですね。 もしかしたらルカさんには本当に未来が見えていたのかも知れませんね」

 

 結衣ちゃんの言葉に俺は初めて会ったルカの姿を思い出す。

 

 自分の才能を疑ってない。 胸を張ってそう言っていたルカの姿を。

 

「これで良かったのかもね。 ……でも一つだけ気になる事があるのよね」

 

「気になる事ですか??」

 

「えぇ。 全ての記事が14歳の頃のルカちゃんを称賛しているでしょ? 

 研究内容を発表したのが若い時だったとはいえ、どの記事もその当時のルカちゃんを称賛してないのが気になって……まぁ大した事じゃないんだろうけど」

 

 結衣ちゃんの質問に青蜜は言葉を選んで答える。

 

 青蜜の言っている事は俺も少し気になっていた。

 

 どの記事にも14歳以降のルカの事を記載して無かったし、10年後に『完器樹』の完成を発表をしたのもルカ・ルーレットではなくルカ・リマエルと言う人物になっている。

 

 だけどこれも青蜜と同じく大した事ではないと思っている。 きっとルカの事だからメディアには特に興味ないのだろうと勝手に納得していた。

 

「まぁこの世界ではこれが普通なのかも知れないし、今更考えても仕方ないわね。 さてと、じゃあ私達もそろそろ次に進みましょうか。 

 今の世界の状況を聞かないとね、おっさんに聞けば直ぐにわかるだろうし……っておっさんは何処いったのかしら? まだ戻ってこなっ」

 


「よ、よせ! この先は神聖な場所なのじゃ!! わしの許可なく勝手に入る事は許さんぞ! そもそも用件はなんなのじゃ! お主わしに用があったのではないのか??」

 

 今度は青蜜の言葉を遮る様におっさんの大声が部屋の外から響く。

 

 何やってんだ、あのおっさん。 もしかしてまたなんか揉めてるんじゃ……。

 

 目に溜まった涙を拭きとり、俺は態勢を整えて部屋のドアへと目を向けた。

 

「……いいからそこを退けなさい。 殴るわよ?」

 

 その声を聞いた瞬間、俺の心臓は一気に鼓動を早める。 

 

 ……おい、嘘だろ? こ、この声って。

 

「な、殴るじゃと? ふん、お主の様な華奢な女子に殴られても大した事はないわい。 そんなに凄んでも無駄じゃ、分かったらさっさとかえっ……ぐへぇっ!!」

 

 おっさんの断末魔と共に部屋のドアが勢い良く開く。

 

「ちょっとまどかちゃん……あれって」

 

 隣で青蜜が目を見開いて呟く。

 

 青蜜の言いたい事は直ぐに分かった、俺も全く同じ事を思ったから。

 

 壊れたドアの残骸を踏み進み、綺麗な緑色の髪をなびかせながら少女は俺達の元へと近付き、その足を止めた。

 

「……久しぶりね、ダーリン」

 

「な、なんで? どうしてここに??」

 

 何が起きているか理解出来ず、考えるより先に声が出る。


 

 目の前に立つその少女の顔立ちはルカが成長した姿なんじゃないかと俺に期待させるには十分な程に、とても良く似ていたから。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。