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19話 人生山あり谷あり谷間あり


「き、気持ち悪い……吐きそう」

 

「ちょっと大丈夫なの? 水でも持ってこようか??」

 

 気分悪い俺を心配してくれている優しい青蜜の声が直ぐ近くから聞こえた。


 なんだかんだ言っても優しいよな、こいつ。 

 過去に飛ばされた時も最初に心配してくれたもんな、あの時も今と同じぐらい気持ち悪かったのを思いだっ……そうだ、この感覚あの時と全く一緒だ。 

 つまり俺達、未来に戻って来たのか?


 自分の置かれている現状を思い出した俺はゆっくりと目を開けて辺りを見渡した。

 

「………あんまり好きな空間じゃ無かったが今日だけは凄い安心するな」

 

 足元に無造作に散らばった紙に不気味な造形をした歪な機械。 


 俺の目に映ったのは初めてこの世界に来た時に最初に見た光景だった。

 

「まぁその気持ちはわかるわ。 一先ずは私達、帰って来れたみたいだからね」

 

「あぁ、どうやらその様だな……って、あ、あ青蜜! な、なんて格好してんだよ!!」

 

「え? あぁこれ? 仕方ないじゃない、今はこれしかないんだから」

 

 俺の視線の先で16歳の姿に戻った青蜜が襟元を引っ張りながらあっけらかんと答える。

 

 いや、これしかないって言われても……その格好は流石に色々と刺激が強すぎるんだが。 む、胸とかかなりきつそうだし。

 

「言っとくけどまどかちゃんの格好だって相当よ?」

  

 青蜜に促される様に俺は自分の服に視線を向ける。

 

「えっ? な、なんじゃこりゃ!!」

 

 なんでこんなボロボロなんだ? ってか俺なんでこんな短いパンツ履いてるの? 

 これじゃあもう少しでアレが見えちゃいそうじゃん。 しかも今気づいたけど、この服滅茶苦茶食い込んでて痛いし……。

 

「どうやら未来に戻って来る時は服は変わらないみたいね。 まどかちゃんが来てたシャツのアニメキャラの顔がパンパンに膨れてるし」

 

「うわぁ、本当だ。 これ気に入ってたのに……もうお尻の小さな女の子じゃ無くなっちゃったな、ぷくっとはしてるけど」 

 

「私もそのアニメ好きだったから気持ちは分かるわ。 まぁ昔着ていた服が今着れなくなるのは当然だから、仕方ないって諦める事ね」

 

「うん、まぁそうだな。 そう言うもんだよな」

 

 ……ん? いや、おかしくない? 最初に俺が着てた服は何処に行ったの?

 ってかそもそもなんで過去に行く時は服変えてくれるのに戻って来る時は変えてくれないの?

 

 まぁ青蜜のこの格好を見れたのは正直言ってラッキーだから別にいいんだけど……はっ! ちょっと待って! だとしたら絶対に見ておきたい人がいるわ! 結衣ちゃん! 結衣ちゃんは今どこにいるんだ!?

 

「なぁ青蜜、結衣ちゃんはどこにいるんだ?」

 

「結衣ならそこで寝てるわよ?」


 そう言って青蜜は部屋の壁側に指を差した。

 

 本当だ! 少し見辛いけど、気持ち良さそうに寝てるわ!! 

 ど、どうにかしてもう少し近くに行く方法を考えよう。 

 結衣ちゃんは過去の世界でまさかのタンクトップだったからな……男なら誰でも今の姿を見たいと思うだろう?


「……まどかちゃん、何処に行くつもりなの?」 


「えっ? あぁー、そのなんだ。 結衣ちゃんに怪我とか無いかなーって思ってさ、それにあのままあの場所で寝かせておくわけにも行かないだろう? とりあえず起こしに行った方が良いと思ってな」


「そう。 まぁ私には起こせなかったけど、結衣ならまどかちゃんが声をかけたら起きるかも知れないものね」


「そ、そうだろ? って事でちょっと声かけて来るよ」


 青蜜との会話を切り上げて俺は視線の先で優雅に寝転ぶ結衣ちゃんの元へと足を進める事に成功した。


 良しっ!! 我ながらかなり上手く誤魔化せた気がするぞ! 後はこのまましれっと近かずくだけだな。


「あっ、そうそう、一様言っておくわ。 結衣が寝てる対面の壁際にも目を向けておいた方が良いと思うわよ?」


 壁際? しかも結衣ちゃんの居る対面って一体そこに何かあるのか?? 

 出来れば直ぐにでも結衣ちゃんの姿を見たいんだけどな……。

 

 はやる気持ちを抑え青蜜に言われた通りに俺は渋々立ち止まって振り返った。

 

 うーん、別になんも無くないか? ここからじゃそんなはっきりとは見えないけど、少なくとも今の俺の足を止める様なものは見当たらないとおもっ………ねぇ、あそこで誰か倒れてる様に見えるんだけど気のせいかな?


「あ、青蜜さん? もしかしてだけどあそこで誰か倒れてない? 俺の見間違いかな??」

 

「あぁ、あれ? 寝ぼけた結衣に殴られてぶっ飛ばされたおっさんよ。 今思い出しても凄い速度で壁から壁に飛んでいっていたわね。 あの打たれ強いおっさんじゃなきゃ最悪死んでたかも」

 

 やっぱりおっさんだったか、そう言えば帰って来たのに姿見なかったもんな……まぁシルエットで想像は出来てたけどさ。


 ん? ってか今寝ぼけた結衣ちゃんに殴られたって言った??

 

 ……結衣ちゃんに殴られたおっさんが壁に叩き付けられるシーンが簡単に想像できるな。

 同時に仮に殴られたのが俺だったなら完全に事切れる事も。

 

「まぁだからまどかちゃんも気をつけなさいよ? 無いとは思うけど煩悩まみれで結衣に近づいたら命を落とす事になるかもだから」

 

「ぼ、煩悩なんて無いさ。 俺は純粋に起こしに行こうと思ってただけだからな」

 

「そう……じゃあなんでそんな結衣から遠ざかってるのかしら??」

 

「い、いやさ、よくよく考えたら気持ち良さそうに寝てる人を起こす必要なんてないかなって思ってさ! それにどっちかと言うとぶっ飛ばされたおっさんの方が重傷だろうから、先におっさんの無事を確認しようかなって」


 冷めた視線を向ける青蜜に俺は必死に言い訳を並べながら後退る。


 うん、まぁどう考えてもタンクトップ美女より命でしょ。

 ってか忘れてたけど今の結衣ちゃんって胸無いしな、貧乳のタンクトップ姿見てもそんなに興奮しないだろきっと………本当にそうか?

  

「あら? おっさんの所に行くんじゃなかったの?」

 

「ち、ちょっと考え事があって」

 

 考えるより先に動いた身体を俺は再度頭で止めた。

 

 貧乳のタンクトップってさ……もしかしてかなりエロいんじゃないか? 今、この機会を逃せば一生見る事出来ない程レアなコスチュームなんじゃ?

 

 いや、よく考えろ俺! 確かにレアかも知れないけど、命の危険を冒してまで見に行くべきものじゃないはずだ! 今までなんだかんだ生きて来れたけど、もし結衣ちゃんの拳喰らったら冗談抜きに死ぬ、良くて廃人だぞ? 流石にそこまでの価値はないだろ!!


 いやいや、待てよ? 何も結衣ちゃんの射程圏内に入る必要はないよな。 安全を考慮して5メートルくらいの距離を保れば見るのだけは可能か? そしたらそこまで危険も高くなさそうだな。

 

 いやいやいや!! 無理だろ! 結衣ちゃんなら寝ぼけてても一瞬で距離詰めて来そうだし、何より俺がそんな距離を保てるとは思えないわ! 

 それにタンクトップの谷間は普通の谷間とは吸引力が段違いなんだ! あと少しで谷間の向こう側、山が観れるかも知れないと言う期待が絶対に俺の思考を破壊するのは目に見えてるし! 


 ………良し、決めた!!

 

「うん、じゃあとりあえず行って来るわ」

 

 俺は青蜜に適当に返事をし、全速力で結衣ちゃんが眠る壁に向かって走り始めた。

 

 やっぱ命とかそんな小さい事どうでも良いわ!!

 もしかしたら結衣ちゃんを起こせるかも知れないし、そのまま大人しく寝ててくれて殴られないかも知れないし、殴られても死なないかも知れないし!! 

 全ては天命じゃー!! なんとなるで生きてきた16年間なんだ、最後まで本能に従って生き抜いてやぁっ。 

 

「……おい、待てこら」

 

 全速力で走ったいた俺の腕を力強く握り締め、青蜜は憤怒の表情を作り上げていた。

 

「あ、青蜜さん?? な、なんか用かな?」 

 

 い、いつの間に? 全速力だったんだけど?? それに腕が全く動かせないんだが……。

 

 徐々に冷静さを取り戻していく俺の脳に最大級の警報が鳴り響く。


 ……うん、どうやら選択を間違えたみたいだわ。


「さてと何か言い訳はあるかしら?」 

 

「えーっと、なんかしたっけ?」

 

「えぇ、150年程前にね」

 

 あぁーそうだった。 この姿に戻ったら一発殴るって言われてるんだったわ。

 

「こ、心の準備をしたいんだけど?」

 

「駄目ね。 言っとくけどこれでもチャンスはあげたのよ? まどかちゃんがやる気を出しておっさんに直ぐに話を持っていけば許してあげても良いかなって思ってたから。 

 なのにまどかちゃんったらこっちに帰ってきてからずっとやらしい事しか考えてなかったでしょ? 

 だから今すぐ喝を入れてあげえるわ。 大丈夫、多少は手加減してあげるから」

 

 ………うん、まぁこれは俺が悪いな、図星過ぎてなんも言えねぇ。 

 


 俺は素直に全てを諦め、目を閉じてその瞬間をじっと待つ。

 

 目を瞑る時に一瞬見えた青蜜の拳の構えがパーじゃなくてグーだった事が俺のその足を大きく震わせていた。

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