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ポンコツなおっさんに今更ながら異世界に召喚されてしまった。  作者: みんみ
ポンコツなおっさんに召喚されてしまった。
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6話 一人目の聖女候補


「あのぅ……一体何の御用でしょうか? それに私なんかをこの場所に入れても大丈夫なのでしょうか??」

 

「なに、気にする事はない。 そもそもここはわしの所有地なのだから、誰を入れようとも問題はないじゃろう?」



 誰かとおっさん会話が俺の耳に届く。

 

 つ、ついに来たか。 

 何だかとても緊張する、思えばこの世界に来ておっさん以外の人間に会うのは初めてだ。


 会話から察するに占い師の方かな?

 声が少しだけ震えている様にも感じる。

 

「おーい! 連れてきたぞ!! こちらの方がわしに助言をくれた占い師、キャリオンじゃ! 他の二人にも声はかけてあるから時期に来るじゃろう」

 

 大声を出し、女の人の手を引いておっさんは帰ってきた。 


 

 俺はすぐさまその人に視線を向ける。

 

 おっさんが連れてきた女の人、キャリオンさんは俺が想像していた占い師のイメージに通りの格好をしていた。 


 身体全体を包み込む赤いローブを羽織り、顔の下半分は黒いベールで覆われていた。

 更に当然と言わんばかりにおっさんに握られていない反対の手にはお約束アイテムの水晶を持っている。


 あんまり人の事を疑いたくは無いが、ここまでイメージ通りだと、やっぱりおっさんは騙されているんじゃないかと思える。


 ……まぁここまで胡散臭いと一周回って本物の様な気もするけど。


 それにしてもなんで異世界に来てるのに、前の世界のイメージに重なるのだろうか??

 住む世界が違うんだし、この世界の占い師は水着が基本ですとか有り得なさそうな事を言われた方がむしろ納得出来るんだけどなぁ。 

 ……別に水着が見たい訳でもないよ? 

 例えばの話だからな??


「あっ、こ、こんにちわ」

 

 無意味な事を考えつつも俺はとりあえず目の前に無理やり連れてこられたキャリオンさんに軽く会釈をした。 


 だけどキャリオンさんは全く俺の方を見ようとはせず、終始おっさんの後ろに隠れていた。


 キャリオンさんも緊張しているのかなとも思ったが、小刻みに震える様はどちらかと言うと怯えている印象に近かった。

 

「キャリオン、紹介しよう。 わしが異世界から召喚した三人目の聖女候補……えーと、その……なぁ、そう言えばお主名前なんと言うんじゃ? 今、こっそり教えてはくれないか??」


 おっさんは俺の耳に顔を近づけて言った。

  

 ……近い。 いつもながら本当に近い、それに声も大きいし! 

 絶対これキャリオンさんにも聞こえてるだろ。

  

 それに俺の名前は最初に言った通り……あれ? 


 もしかして俺まだ自分の名前すら名乗ってもいなかったのか??


 全く気付かなかった。 

 それどころか俺だっておっさんの名前さえ知らない。

 おっさんとは自己紹介なんてしなくても普通に話せていたって事か。 


 思えば今だって大分楽に話せている所を考えるとこの人はもしかしたら他人との距離を詰めるのが上手い人なのかも。


「おい! どうしたのじゃ? まさかお主、自分の名前を忘れたわけではあるまいな?? それとももしや意地悪でわしに教えないつもりなのか? わしに恥をかかす為に!」

 

 ……波長が合うとはあんまり思いたく無いからそういうことにしよう。


「わかったって! 忘れてないし、意地悪するつもりもないよ。 だからあんまり耳元で大きな声を出さないでくれ。 俺の名前だよな? 俺は福吉円じっ」

 


「あれ? この鞄って私達の学校のものじゃない? って事はもしかして三人目の聖女も私と同じ学校の生徒なの? 

 いくら世間は狭いって言っても流石に狭すぎじゃない?」

 


 聞き覚えのある声が俺の言葉を遮る。


 その瞬間、俺の身体が自分の意思とは無関係に震え始めた。 

 

 お、おい、まさか、この声って……。

 

「あっ、おっさんじゃん! それにキャリオンさんまで! 何してるの? おっさん達も集合かけられた感じなの??

 ……ん? そこにいる子は誰なの? もしかしてその子が新しい聖女さん?」

 

 鼻につく甘ったるい声を響かせてその女はこちらに近づき、後ろから俺の顔を覗き込んできた。

 

「よろしくね新しい聖女ちゃ……」


 俺の顔を見るなりその女は言葉を失って目の色を変えた。

 

 どうやら俺は今までで一番当たって欲しくない予想を当ててしまったみたいだ。


 目の前で驚いた表情を浮かべるこの女の名は、

青蜜あおみつあかね。


 俺のクラスメイトだ。


「……なんでこいつがここにいるのかしら?」


「ん? なんじゃ、お主ら二人も知り合いだったのか??」


「そうね、知り合いって言えば知り合いだけど、知らないと言えば全く知らないわ!

 そんな事はどうでも良いからどうしてここにいるかを教えて貰えない? 何? あんたどっかから迷い込んできたの?」

 

 ……相変わらず俺には冷たいなこいつ。 入学してからずっとこの調子だ、ほとんど喋ったことすら無いのに。

 

「詳しい事はおっさんに聞けよ」

 

「うるさい!! 最初からあんたには話しかけてないから! で! おっさん! なんでこいつがここに居るのよ!」

 

 いや、俺の方見てたのに??


「あっ、いや……わ、わしが呼んだからじゃよ」

 

 おっさんの声は震えていた。  


 あぁそうか。 こいつがおっさんを気絶させるまで殴った張本人なのか。 

 

 なんが妙に納得してしまう、この女ならやりかねないと思えるからな。

 

「はぁ?? つまりまどかちゃんが3人目の聖女候補って事? そんなの有り得ないでしょ! こいつは男なのよ?? それに変な奴だし!」

 

 腰まで伸びた珍しい薄い水色の髪をなびかせて、誰が聞いても怒ってると分かる声色で青蜜は叫ぶ。


 

 最後の言葉以外、その意見には全面的に賛成だが、ちゃん付けするのは辞めて欲しい。 

 名前も違うし。


 ……うん、やっぱり異世界なんて自分で体験するもんじゃないな。 

 


 全く良い思いをしてないこの数分間を振り返りながら、目の前で吠えてる青蜜の言葉を俺はひたすら聞こえてないふりをしてやり過ごす事にした。

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