18話 時をかけたい少年
「ダーリン達がこの時代に来たのは私の研究を止める為でしょ?
だったら私がはっきりと研究を辞めるって宣言したら役目は終わりって事になるんじゃないかしら?」
先程と同じ様にルカは得意げに声を出す。
「あー、うん。 まぁそうなんだけどさ……じゃあ試しに宣言してもらっても良いかな?」
まぁ普通はそう思うよね。 流石のルカでもおっさんのポンコツ具合まではわからないだろうから仕方ないけど、あのおっさんがそんな普通な事を条件にするとは全く思えないんだよな。
「えぇ、勿論よ。 私、ルカ・ルーレットは今までの研究を破棄し、これからは全く違う事を研究する事を誓うわ!!」
軽く咳払いをした後、ルカは胸を張って自信に満ち溢れた表情を浮かべながら大きな声でそう叫んだ。
「……」
「……」
「……」
「ふ、ふーん。 そ、そう言う事ね。 ま、まぁいいわ! 一発で上手くいくとは思ってなかったしね!! つ、次よ、次!!」
結構自信あったんだろうな、耳まで真っ赤だし。 あんだけ恥ずかしがってるが分かるとこっちまで恥ずかしくなるな。
ルカには悪い事したかも……まぁルカの事だから他にも色々案を考えてそっ。
「わ、私は研究を辞めるぞー!!」
……うん、今回は無さそうだな。 もう既に言い方変えただけの作戦になってるし。
結局その後もルカは数十分間ずっと同じ様な事を叫び続けてた。
「……な、なんなのよ! 可笑しいじゃない! ダーリンは私の研究を止めに来たんじゃないの? こんなに何回も辞めるって宣言してるのよ??
署名まで書いたし、今までの研究データも全部破棄したのに、なんで未来に帰れないのよ!!
ブルーちゃん! なんかヒントとか無いの? ダーリン達をこの時代に連れてきた人はなんか言ってなかったかしら??」
だ、大分荒れてるな。 まぁその気持ちは凄い分かるけど。
「な、なんかって言われても……まどかちゃん心当たりある?」
「う、うーん、そうだな」
正直言って心当たりなんて一切ないんだよな。
強制的にこの時代に飛ばされたし、全く説明もなかったしな。
ってか改めて思い出したら腹立って来たな。
なんの説明もない癖に、ルカが美少女だったらワシの事を宜しく言っといてくれとか言ってたしな。
誰がおっさんの事なんてっ……ん?
……いやいやいやいや、流石にそんな訳ないだろ。
「ど、どうしたの? まどかちゃん??」
「……なぁ、青蜜。 あのおっさんさ、ルカが美人だったら宜しく言っといてくれとか言ってなかった?」
「えっ? あぁ、そう言えばそんな事言ってた様なっ……っていやいやいやいや、まどかちゃん。 流石にそんな訳ないと思うわよ?」
青蜜は苦笑いを浮かべながら頭を振って続けて口を開く。
「ま、まぁ試すのは自由なんだしとりあえずルカちゃんにも伝えてみれば? 関係ないとは思うけど他に何も思いつかないし」
「そ、そうだよな。 試すのは自由だしな」
見るからに引きつった笑顔を浮かべる青蜜に釣られる様に俺も無理やり笑顔を作り、そのままルカの方へとゆっくりと視線を戻した。
「ダーリン? 何かわかったの??」
「えーと……少し遅くなったけど俺達をこの時代に連れて来た人の事を話そうと思って! その人にルカにあったら宜しく伝えて欲しいって言われてたの思い出してさ」
「い、今? まぁダーリンがそう言うなら別に良いけど……で、その人は私になんて?」
勢いで言ったけどなんて言うのが正解なんだろうな、案外迷うなこれ。
まぁ適当で良いか、おっさんは宜しく言っといてくれとしか言ってなかったしな。
「……宜しくだってさ」
「え? あぁ、うん。 はい、よろしくお願いします」
自分の語学力の無さに悲しくなってくるな。 ルカが無理に合わせてくれてるのがわかって辛いわ……。
「な、なんも起きなかったわね、まどかちゃん」
青蜜が安心した様に胸を撫で下ろす。
「そうだな、まぁ流石のおっさんでもこんなアホな条件にはしないよな。 勘違いで良かったよ」
「そうね、もしこれが『条件』だったらゾッとしてたわ。 まどかちゃんが思い出さなきゃ一生戻れなかったでしょうから」
「まぁ、今も見当は付いてないけどな……とりあえず一旦落ち着いてもう一回考えようか。 4人で案を出し合えばそのうちわかっぁぁぁぁ」
青蜜の方を振り向いた瞬間、今迄足元にあった筈の床が急に無くなり、俺は吸い込まれる様に真っ直ぐとその穴に落ちていった。
こ、この感覚、この時代に来た時と同じだ! 本当におっさんの事を宜しく伝えるのが条件だったって事か?
「あのクソポンコツ……絶対殴る」
隣で一緒に落下していた青蜜が拳を握りながら呟く。
「……zzz」
その奥では結衣ちゃんが寝息を立てて目を瞑っていた。
姿見ないと思ったら寝てたのか……結構自由だよな、結衣ちゃんって。
「ダ、ダーリン!! ここで! 過去で! 私は待ってるから!!」
今までで一番大きなルカの声が上から響く。
「か、必ずもう一度会いに行くよ! ルカ!!」
出来る限り精一杯声を張り上げてルカの名前を叫ぶと同時に俺の意識はここで途切れた。




