14話 サブヒロイン対モブヒロイン
「な、なぁ青蜜。 本当に任せても大丈夫なんだろうな? 喧嘩になったりしないよな?」
ルカを真っ直ぐ見つめる青蜜に俺は小さく耳打ちする。
青蜜には邪魔するなと言われたけど流石にこの雰囲気は看過出来そうになかった。
青蜜もルカも気が強い方だからな、ほっといたら本当に喧嘩になりそうだ。
「け、喧嘩? そんな事有り得ないわ! 大丈夫に決まってるじゃない! いくら天才少女って言ってもあの子まだまだ子供でしょ? 多分直ぐに説得できると思うわ。
こう見えて私、話し合いは得意なんだから」
俺の質問に青蜜は自信満々に胸を張る。
この自信はどこから来るんだろうな本当、まぁ確かに青蜜が言葉で誰かに負けてる姿は想像つかない……話し合いと言うよりは脅迫が得意の間違いだとは思うけど。
「さてと、えーとルカちゃんだったっけ? 私を助けてくれた事、改めてお礼を言うわ。 ありがとうね、貴方のお陰でっ」
「そんな事今更どうでも良いわ。 そう言うのは良いから話を進めてくれるかしら? 結論を遠ざける会話を挟むの嫌いなのよね、時間の無駄だから。 簡潔にまとめてくれる? 結局貴方は何がしたいのかしら??」
青蜜の言葉を大きなため息で遮りルカは冷たく言い放つ。
「な、なかなか面白いわね、この子」
身体を僅かに震わせながら青蜜は小さく呟く。
……もう既に切れそうじゃねぇーか。
「ふぅー、そうよね。 確かに貴方の言う通り時間の無駄ね。 さっきも言ったけど私は貴方にまどかちゃんと別れて欲しいのよ。 あっ、でも勘違いしないでね? これは私の願いじゃないわ。 むしろ貴方の事を思って言っている事なの」
おっ、良く我慢したな。 まぁさっきも自分で言ってたけど、相手はまだ子供だし流石に怒って感情をぶつける訳にはいかないって事か。
それにしてもルカの為って? 一体何を言うつもりなんだ青蜜は?
純粋に青蜜がどうやってルカに俺を諦めさせるのか興味をあるな。
「ふーん。 まぁ別れるつもりは無いけど、私の為って言うならとりあえず聞いてあげるわ。 貴方も一様はダーリンの知り合いみたいだしね」
「あ、ありがとう。 じゃあ早速教えるわ、まず第一にっ」
次の言葉を口にする為か青蜜は大きく息を吸い込む。
第一って事は結構あるのか? 凄いな、良くこの短期間で色々思いつくもんだ。
「まどかちゃんに貴方は勿体無いからよ!!」
「「……はっ??」」
青蜜が溜めた大声に俺とルカは言葉を合わせる。
……もしかしてこの女。
俺は横目で青蜜に視線を向ける。 俺と目が合った青蜜は不敵な笑みを浮かべてそのまま視線をルカへと戻す。
その笑みを見た瞬間、青蜜が俺にとって一番嫌な方法を取った事を俺はすぐに理解した。
「ど、どう言う事? 勿体無い??」
困惑する様にルカが首を傾げる。
「そのままの意味よ。 貴方みたいな可愛くて賢い子とまどかちゃんじゃ釣り合ってないのよ! 天と地の差があるわ! 月とすっぽん! 美女と変態! 絶対付き合うのはやめた方が良いわ!」
青蜜はルカとの距離を詰め目の前の手を握りながら叫ぶ。
……まぁ効果的な方法なのは認めるけどさ、美女と変態ってなんだよ。 完全に悪口入ってるじゃん。
「それがダーリンと別れた方が良い理由の一つ目なの??」
「いいえ! まだあるわ」
えっ、まだあんの??
「まどかちゃんはね、ハーレムを目指しているのよ」
「ハーレム??」
再びルカが首を傾げる。
あ、青蜜さん、それ以上は約束違反では? リアが開いた魔女裁判の出来事は口外しないって約束だったじゃん!
「ハーレムって言うのはね、沢山の女の子をはべらかす事よ。 良い? まどかちゃんはたった一人の女の子を愛するつもりなんて微塵もないのよ! ルカちゃんも最悪いつか捨てられる可能性があるわ。 そんな男と付き合うのなんてそれこそ時間の無駄じゃないかしら??」
「くっ!!」
す、好き勝手言いやがって……いや、頼んだのは俺だしルカの事を考えればこれで良いんだ。 ルカの俺への好感度を下げる方法は間違ってはないからな……うん、まぁ辛いけど。
「どうかしら? これでも貴方はあのクソ男と付き合えるの? もう一度考え直した方が良いんじゃない?」
おい、クソ男は完全に余計だろ。 思いっきり私怨じゃねぇーか!
まぁ今更そこまで影響はないか……流石にルカも失望しただろうしな。 付き合ってる男がハーレムを目指してるなんて聞かさせれたら普通にドン引きだろうからな。
「考え直す必要なんて無いわ!!」
ルカは青蜜の手を振り解き俺に視線を合わせる。
最初あった時と同じ様な冷たい視線を……ってあれ? なんか滅茶苦茶熱い気がするんだが??
「そ、そうよね! じゃあ他の条件を教えてもらっ」
「だって今の話の何処にダーリンと別れる要素があったのかしら? 顔や頭脳が釣り合ってない? ハーレムを目指している思想が可笑しい? 下らなさすぎて欠伸が出そうになったわ」
「「……えっ??」」
今度は俺と青蜜が言葉を合わせた。
「いや、俺が言うのも何だけど確かに俺とルカは釣り合って無いぜ? ルカならもっと良い男を捕まえれると思うし」
「ダ、ダーリンは格好良いわよ! 優しいし!!」
顔を真っ赤に染めるルカに思わずドキッとしてしまう。
「で、でもハーレムよ?? それは嫌じゃ無いの??」
次いで青蜜が焦った様にルカに尋ねる。
「そ、それは嫌よ! まぁでもそれがダーリンの夢って言うなら少しくらいは許してあげるわよ。 私が一番なのを約束してくれるなら……」
恥ずかしそうに手を絡ませ上目遣いでルカは呟く。
……ロリコンってそんな駄目な事かな? だとしたらそんなのもうどうでも良いわ! そもそもここ異世界だし!
ロリコンの定義とか無いだろどうせ! こんな可愛い子を逃したら男の恥だわ!! 決めた俺はルカとけっこっ。
「いてぇ!!」
頭で考えた事を見透かされたのか、青蜜の頭部を殴られた。
「ちょっと! 変な事考えるの辞めないさいよ!! 誰の為にやってると思ってるのよ!!」
「あぁ、悪い……」
にしても良くわかったな、今のは言葉に出てなかったと思うんだが。
「それにしても意外に手強いわね、あの子。 まぁ、この程度じゃ上手く行かないとは思っていたし、切り替えて次の案に行くしか無いわね」
……上手くいくと思ってなかったんなら辞めて欲しかったわ、無駄に傷付いた。
「ル、ルカちゃん! 貴方の愛がここまで深いとは思ってなかったわ! でもまだ別れた方が良い第二、第三の理由があるわ!! それも聞いて貰えるかしら??」
なんかその言い方だと、何かのボスみたいだな。
「まぁ別に良いけど今度はまともな事言いなさいよ? 下らないのはもう懲り懲りだから。 あっ、その前に私も貴方に一つ質問したいけど良いかしら?」
「……ええっ! 良いわ、何かしら??」
相変わらず煽りに弱いなこいつ、今回は拳握りしめてるし……それにしてもルカの聞きたい事か。
なんだろう、なんか嫌な予感する。
「貴方のその髪の色って青よね? やっぱ青色の髪をしているとこう言った無駄な事をしなきゃ行けないもんなのかしら? それとも誰かに頼まれているの?? だとしたらサブヒロインの立場って辛いのね……」
全力で地雷を踏み潰したルカは哀れみの目を青蜜に向ける。
いや、リアの時も思ったけどそんなに青色って不遇な色なのか? 空も海も青だよ? に、人気な方だろ!!
……人気な方だよね??
「サ、サブねぇ。 まぁでも緑色のモブヒロインよりはマシかしら」
ルカの言葉に青蜜は気丈に振る舞いながら返す。
あー、完全にスイッチ入ったな青蜜。
腕に濃い血管が浮いてるし、相変わらずわかりやすいなこいつ。
……ん? ってか緑ってモブなの? 緑も好きだよ俺は! 山とか緑じゃん!! 緑で好きなキャラも居るし!!
「モ、モブですって??」
今まで涼しい顔していたルカの顔が僅かに歪む。
「ええ、少なくとも青よりは下ね」
「はぁ?? どう考えても上だと思うけど??」
……何これ? 喧嘩になるかとは思ったけどまさかこんな小学生みたいな事で??
完全に燃え上がった2人を眺めながら、この心の底からどうでも良い論争が出来るだけ早く終わる事を俺は祈った。




