13話 女子小学生は最強
「まどかちゃん、今この子貴方の事をダーリンって言ってなかった?」
「い、いやぁ? 俺には普通にまどかって聞こえたけど? さっき会ったばかりのルカが俺の事をダーリンなんて呼ぶ訳ないだろ?
あ、青蜜の聞き間違えだよ。 多分起きたばかりで疲れてるんじゃないか?」
多少強引だけど青蜜が聴き間違えたって事にしよう……今は笑ってるけど、青蜜の目が怖すぎる。
絶対怒ってるわ、あれ。
俺は直ぐにルカを見つめ、祈る様に首を横に小さく振って合図を送った。
頼むルカ! これ以上余計な事を言わないで下さい、お願いします!
話を合わせるって約束を思い出してくれ!!
俺の想いを感じ取ってくれたのか、ルカは優しく微笑みながら頷いた。
良かった……どうやら伝わった様だな、流石は天才少女。 人の心を察するのなんて訳ないって事か。
さてと後は二人で青蜜相手にごり押しすればなんとかっ。
「ねぇ? 貴方一体いつまでその手を掴んでるのかしら? ダーリンの手を握って良いのは私だけなのよ?
ほら、ダーリンも痛がってるじゃない、早く離しなさいよ!!」
得意げに胸を張りルカは青蜜にそう告げた後、俺にウインクを飛ばす。
「……そ、そっちかぁ」
いや、確かに痛かったけどさ、骨折れるかと思ってたけどさ……そっちかぁ。
「そう、それは失礼したわね。 まぁ私も好きで掴んでた訳じゃないし離してあげるわ。 それに手汗ベトベトで気持ち悪かったしね」
そう言って青蜜は強く握ってた俺の手を離す。
そんな酷い捨て台詞言わなくたって良いのに……お、俺の手ベタベタしてたのか。
「う、嘘よ。 いちいちそんな悲しい顔しないでくれる? 話が進まないじゃない!」
……良かったぁ、嘘かぁ。
ってか青蜜! そんな嘘つくなよ!
言っとくけど俺はこう言う系は直ぐにトラウマになるんだからな! 危うく一生女の子と手を繋げなくなる所だったじゃねぇーか!!
「ほ、本当に嘘だよね? 気を遣ってる訳じゃないよね?」
「嘘よ! むしろ意外に手は大きんだなって思ってたし、だ、大体本当だったとしても手汗くらい気にしなっ……って今はそんな事どうでも良いのよ!!
まどかちゃん私が寝てる間に一体この子と何してたのかしら? ダーリンって……せ、説明しなさい!!」
頬を赤く染めて青蜜は勢い良く声を発する。
「あっ、いや、これには深い事情があって」
なんて言えば良いのかな? 素直に実験を止めて貰う為の条件が付き合って欲しいって事だったって言っても納得してくれると思えないし、その言い方だとルカも良い気しないだろうしな……む、難しいな。
「ねぇ、ダーリン? さっきからこの女はなんなのかしら? 何をこんなに怒ってるの? もしかしてこの子もダーリンの事好きなの?」
少し不機嫌になったのかルカは頭を捻りながら冷たい視線を俺に向ける。
「はぁー? そんな訳ないじゃない! 誰がこんな変態ロリコン野郎を好きになるのよ! 有り得ないわ!! 私はただ貴方達の関係を聞いてるだけなの、こんな変態でも一様同じ目的を共有してるから、勝手な行動はして欲しくないのよ!
勘違いしないでくれるかしら?」
おい、誰が変態ロリコン野郎だよ……いや、まぁ今の状況で強くは否定出来ないけど。
ってかルカもこれ以上青蜜を刺激するのはやめてくれないかな? 基本傷付くの俺なんだけど?
俺との約束全く守る気ないよね??
「あー、私達の関係を知りたいの? そんな簡単な事ならいつでも教えてあげるわ。
私達は付き合ってるのよ! 私が今までしてきた実験を中断する事を条件としてね」
あっ、あんまりそこは気にしないのね……いや、まぁ事実だし下手な事を言われるよりは良いんだけど、なんか少し残念な気持ちになるな、これ。
「実験……なるほどね」
ルカの言葉に青蜜は全てを悟った様に小さく溜息を吐き、ルカに聞こえない様に俺に耳打ちする。
「諸々の事情は聞かないであげるわ、気を失っていた私にも責任は有るでしょうしね。 で? 一体これからどうするつもりなっ……あっ、やっぱりなんでもないわ。 まどかちゃんの事だからどうせ後でなんとかしようとして無責任にほったらかしている最中なんでしょう?」
流石青蜜、話が早いし鋭いな。
うん、ここはもう素直に青蜜に頼ろう、何も考えてないのは図星だし。
「……どうしたら良いと思う?」
「し、知らないわよ! まどかちゃんはどうしたいのよ、あの子と本気で付き合いたいの?」
「そ、それは……正直最初はかなり嬉しくて舞い上がっていたけど、よくよく考えたらこんな交換条件みたいな形で付き合うもんじゃないよな。 それになんて言ってもルカってまだ子供だしな」
「いや、それはよく考えなくてもわかると思うんだけど……まぁ例えまどかちゃんが本気だったとしても私達は未来に戻るんだから、早いうちにこの条件は無かった事にして貰った方が良いわ。 他に何か条件が無いかを聞いてみましょうよ」
「まぁそうなるよな……うん」
「なによ、まだ何かあるの? もしかして既に契約書とか書かされたりしてるの?」
「いや、そう言う訳じゃ無いんだけどさ……」
「じゃあ何をそんなに戸惑ってるよ! 条件を考え直して欲しいって言うだけじゃない!」
俺の煮えきらない態度に徐々に青蜜は語気を強める。
わかってる、自分でもわかってはいるんだ。 ルカにちゃんと付き合うのは無理だって伝えなきゃいけない事は……い、言いたくないなぁー。
「青蜜さ、お願いがあるんだけどっ」
「嫌よ!! 自分で撒いた種でしょ? 自分でなんとかしなさいよ!」
次に出る言葉を予測したのか青蜜は即座に俺の声を遮った。
さ、悟りかよこいつ! それにしたってもうちょっと優しくしてくれたって良いのに!
さっきまであんなに汐らしく謝ってきたくせに……って、そうか、この手があったか!
いやいや、これは流石にダサ過ぎるんじゃ?
下手したらさっき深まった気がした絆を打ち壊すことになりそうだしな。
ここは諦めて覚悟を決めっ。
「ねぇ、一体いつまで考えてるの? はぁー、これだから童貞は嫌なのよね、幼い女の子相手でさえ、上手く話せないだもの。
でもそう考えた尚更付き合うなんて無理な話だったって事よね、ふふっ」
……こいつとの絆なんて元々無かったの忘れてたわ、1が0に戻った所で関係ないしな、こうなったら俺の尻拭いを全力で手伝わさせてやる。
「青蜜、やっぱ思い直したんだけど、あの森で俺を犠牲にしようとしたの許せないわ」
「は、はぁ? な、何よ急に! その話はもう終わったでしょ! まどかちゃんが自分で最初から怒ってないって言ってたじゃない!!」
「あれは……う、嘘だ! 本当は滅茶苦茶気にしてたし、本気で怒ってたって事にする! 今そう決めた!」
「な、何よそのトンデモ理論は! そんなの知らないわよ! 私はちゃんと謝ったし、まどかちゃんは許すって言ってくれっ」
「あーあ、普段はあんな格好良い事言ってたのに、いざとなったら俺を見捨てるんだもなぁー、あれにはかなりガッカリしたなぁー」
ムキになって声を荒らげた青蜜の言葉を俺はここぞとばかりに遮って煽る。
わ、我ながら最低な事してるな。 一回許した事を掘り返すってどう考えても相当ダサいし……やっぱ辞めよう、情けなくて泣きそうになってきた。
「……はぁー、わかったわ。 今回は手伝ってあげるわよ」
「え? ほ、本当に?」
「えぇ。 だからもうこれで貸し借りなしなんだからね!」
何故か安堵したかの様に青蜜は胸を撫で下ろしていた。
い、いつになく優しいな。 それ程あの森の出来事は青蜜にとっては忘れたい黒歴史って事か。
「そのかわり私が手伝う以上は私のやり方で行かせて貰うから! くれぐれも邪魔しないでね?」
そう言うと青蜜は直ぐに振り返り、視線をルカの方へと向ける。
「あっ、いや! 青蜜は俺の手伝いをっ!」
既に全く俺の言葉を聞くつもりもない青蜜はそのままルカへ言葉を投げかけた。
「単刀直入に言うわね? まどかちゃんと別れて貰えるかしら??」
「嫌よ、それに貴方にそんな事言われる筋合いは無いわ」
不快感を隠す事なく即座にルカが返す。
見た目は幼い少女同士の睨み合いの筈なのに俺は寒気を感じてしまう。
たった2人の女の子が向かい合ってるだけの筈なのにこんなに空気が重くなるんだな。
あれ? ハ、ハーレムってもしかして辛いだけなんじゃ……。
想像してなかったハーレムのマイナス面を目の当たりにして考え方が変わりそうになりながら、青蜜とルカを交互に見つめていた。
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