12話 次回予告に意味はない
「あ、開けるわよ? 良いわよね?」
青蜜の言葉と共に扉がゆっくりと開かれた。
やばい! やばい! やばいって!
「あ、青蜜! 悪い!! 後ちょっとだけ待っててくれ!!」
「えっ? ち、ちょっと!」
俺は急いで立ち上がり、青蜜の声を無視して少し開いた扉を勢い良く閉めた。
い、今のこの状況で青蜜とルカを合わせるのは危険だ。 あんまり役に立たない俺の脳がこの事態には最大級の警鐘を鳴らしているからな。
れ、冷静に考えたらやっぱ高校生と小学生ってまずいよな、ロリコン認定待ったなしの状況だもん。
「どうしたのダーリン? 凄い汗よ? それに私は別にあの子を入れても良いわよ? ダーリンの友達には挨拶しないといけないと思っていたしね!」
ルカは目を輝かせて俺の前に近付く。
クソ、こんな状況じゃなきゃ滅茶苦茶嬉しい言葉なのに!
扉一枚挟んだ向こうに鬼がいる状態だと全然喜べないな。
「まどかちゃん……何してるの?」
僅かに怒気を含んだ様な声が俺の背後から響く。
え、もしかして青蜜怒ってるの? なんで??
と、取りあえず今はルカに頼んで話を合わせて貰おう。
青蜜には俺達の関係を伝えない方向で話を進め、ルカの件は個人的にまた話し合おう。
「ル、ルカ。 ちょっと良いか?」
「ん? どうしたの?」
直ぐそばまで来ていたルカに俺は小さく耳打ちする。
「ルカが俺の友達に挨拶しようとしてくれるのは凄い嬉しいけど、今日はやめて貰えないかな?
ほら、俺達って出会ったばかりだろ?
いくら愛し合っていても流石に誰かに報告してするのは早いんじゃないかなぁって」
「あ、あ愛!! ……そ、そうよね。 付き合ってるって事は愛し合ってるのよね私達。 わ、わかったわ。
ダ、ダーリンがそう言うなら今日は挨拶しないでおくね」
俺の言葉にルカは力強く頷いた。
あ、愛し合ってるって言葉は失敗だったかも……調子乗ってつい言っちゃったけど、自分の首を思いっきり絞めた気が……ま、まぁ今は置いておこう。
とりあえず青蜜だな。
俺はルカに軽く相槌を打ち、振り返って扉を開けた。
「よ、よぉ!! 目が覚めたみたいで良かったよ! 結衣ちゃんと一緒に心配してたんだ、無事で良かったよ本当に」
扉の前で俯く青蜜に俺は元気よく話しかける。
「あー、なんかさっきまで一緒にいて話してたのに随分と久しぶりに感じるな!
ってそれは俺だけかな? まぁ何はともあれまた話せて嬉しいよ! これからもまたよろしくな!!」
こ、こう言う時は一気に押し切る!
相手に質問させる事なく話題を先に進め、情報量で相手の頭を圧迫できたらこっちの勝ちなんだから!!
「そうだ! 青蜜が寝てる間にさ、おっさんが言ってたルカに出会ったんだ。
この子がルカ・ルーレット! 青蜜を看病する為の部屋や道具もルカが用意してくれたんだぜ? 意外って言ったら失礼かも知れないけど、優しい子でさ。
俺達のとんでも話も真面目に聞いてくれてたんだ」
俺の説明に合わせるようにルカは深くお辞儀し、青蜜もそれに返す。
め、目線を下げてるから青蜜の顔色が窺えない……ってかなんでこいつ一言も話さないの? 普段の青蜜とは大違いだぞ? もしかして相当に怒ってるのか?
……プ、プラン2だ! 押し切りつつ言い訳を挟む作戦に変更しよう!
「そうそう! それでちょうど話の途中だったから青蜜には待ってて貰ったんだよ! ほら、区切り悪いのって良くないだろ? ほ、本当にそれだけ! や、やましい事とか一切ないから! 本当に!!」
「……」
こ、怖い怖い怖い怖い! 青蜜が黙ってるのってかなり怖いんだが!!
もしかして会話全部聞こえてた? 俺がダーリンって呼ばれてるのを部屋の外でずっと聞いてたんじゃ!!
「あ、青蜜さん? もしかして全部聞いてっ」
恐る恐る尋ねる俺の言葉は青蜜の予期せぬ行動によって止められた。
急に顔を上げた青蜜は目に涙を浮かべ、その涙が溢れると同時に俺の身体に倒れかかる様に抱きついてきたのだ。
「えっ! ちょっと!! あ、青蜜さん??」
な、なんで青蜜が泣いてるんだ? いや、それよりこれって……ハ、ハグってやつじゃ?
状況が全く読み込めない俺の首筋に青蜜の息遣いが伝わる。
「ごめんなさい、まどかちゃん。 本当にごめんなさい」
小さくそう呟く青蜜の言葉にいつもの力強さは欠片も感じれなかった。
「な、なんの事かな?」
青蜜が泣いて謝る訳が本気で分からない……俺なんかやったか? いや、なにかされたか?
「私、あの時まどかちゃんを見捨てて自分だけ助かろうとしたじゃない、本当に最低な事をしたわ。 目が覚めた時あの後の記憶が曖昧だったから、もしかしたらまどかちゃん、本当に死んじゃったんじゃないかって思って……本当に無事で良かったわ……本当にごめんなさい」
鼻を啜りながら青蜜は何度も俺の耳元でごめんなさいと呟いた。
そ、そう言えばそんな事あったな、全く忘れてた。 死の恐怖より告白された幸せの方が上回ってたわ。
まぁ全然気にしてなかったから忘れてたってのもあるんだろうけど。
それにしてもまさかあの青蜜が泣くほど俺の心配をしてくれていたとはな……あ、相変わらず可愛い所あるよな青蜜って。
「べ、別に気にしてないよ。 状況が状況だったしな! それに元を辿れば俺がリアを怒らせて、狼達を呼んだのが悪かったし! もし死んでても自業自得で青蜜が気にする事じゃないさ!」
「……ゆ、許してくれるの??」
俺の肩の上に乗せていた頭を動かし、青蜜が上目遣いを向ける。
こ、こいつこんなに可愛いかったけ? さっきから心臓が痛い位に高鳴ってるんだが。
「ゆ、許すも何も最初から怒ってないよ! さっきも言ったけど、これからもよろしくな青蜜!」
緊張してるのを悟られない様に俺はゆっくりと青蜜の前に手を差し出した。
「あ、ありがとうまどかちゃん……よ、よろしくね」
泣いていたからか青道は僅かに頬を赤らめながら俺の手を握ると、そのまま可愛らしい笑顔を浮かべた。
もしかしてこれ凄い良い感じなんじゃないの? なんか青蜜との絆が深まったかもな!
これでなんとかなりそ……はっ!
「へぇー、随分とその子と仲良いのね? まるで私の事なんてもう忘れているみたい。 ねぇ、ダーリン?」
青蜜の予想外の行動によって完全に放置されていたルカは当てつけるかの様に子供とは思えない妖艶な声で俺の事をそう呼んだ。
「ダーリン??」
ルカの言葉に青蜜が直ぐに反応を示す。
青蜜とルカの間に漂う不穏な空気と骨が折れそうなくらいに強く握られた手の痛みを感じながら、俺は必死に現実逃避を始めた。
……じ、次回なんだかんだでハーレム完成! ご、ご期待ください。




