2話 時間を進めたい時はゲームをしよう。
「ま、またまたー! そう言う冗談は要らないわよ? 今日で1ヶ月になるのよ? 流石にそのページだけしか解読して無いなんて嘘よね?」
震えた声で青蜜はおっさんに問いかけた。
「冗談などでは無いぞ? 本当にこの一文しか解読しておらんからな」
胸を張るな、そしてドヤ顔するな。 なんでこの状況でそんな自信満々なんだよ。
「そう……まぁ冗談じゃないならちょっとした洒落って所かしら? 結構面白かったわ、だから早く続きを話して貰えるかしら?」
それ殆ど一緒だよ青蜜……まぁ信じたく無い気持ちはわかるけどさ。 残念だけどおっさんは嘘はついてないと思うぞ。
「洒落などでは無いぞ? 本当にこの一文しか解読しておらんからな」
ほらな?
悪びれもせずおっさんは同じ言葉を繰り返す。
「ははっ、そんな訳ないわ。 毎日夜遅くまでこの本を読んでいたじゃない!」
「あっそれは私も思いました! 王様はいつもこの本を持ち歩いて居たので今回は本気なんだと感心してましたから」
え? 俺はおっさんのそんな姿見た事ないけど? ……まさか。
俺は急いでおっさんの方に目を向ける。
俺と目があったおっさんは額に大量の汗を流しながら直ぐに目を逸らす。
「えーと、それはのぅ、そのぅ」
はっきりとしない口取りで誤魔化そうとするおっさんの姿に俺はさっき頭に浮かんだ事が間違いではなかっあ事を確信する。
このおっさん、アピールしてやがったな。 しかも青蜜と結衣ちゃんの前だけで! 頑張ってます、忙しいですって思われる為にわざと本を持ち歩いてただろ!
「それだけ頑張ってもこの一文しか解読出来なかったって事ですか? それなら王様を責めるのは間違いかも知れませんね」
「そ、そうなのじゃよ! よく言ってくれた結衣殿! わしは本当に一生懸命やったのじゃ、確かに最近面白いゲームが発売されたけど決して解読をさぼっていた訳ではないのじゃよ。 今日お主達を呼んだのもこのままじゃもう間に合わないから諦めようと説得したかったとかでは断じて無いのじゃ。 ただ、そのどうしようかのぅと思って……。
おっさんは目頭を押さえて急に悔しそうに話した。
異世界にもゲームあるのか、すごいな。 やってみたいなぁー、おっさんがクリアした借りようかな……いや、違うわ!
危ない、魅力的な言葉に引き寄せられる所だったわ。 ってかおっさんこれ完全にゲームに夢中になってたよね? 何悔しそうにしてるのこの人??
「それってもしかしてネオ勇者物語じゃない?」
「おー、それじゃ! 良く知っておるのぅ、なんじゃあかね殿もやっているのか?」
青蜜の言葉におっさんは少年の様に目を輝かした。
あっ、おっさんこの流れは気をつけた方が……まぁもう遅いか。
それにしても情報通だな青蜜、まさか異世界ゲームのタイトルまで知ってるとはな。
「最近始めたのよ。 結構面白いわよね、でも私にはちょっと難しいかも。 どうしても最初のボスに勝てないのよね」
「最初のボス? あれは異世界のんびりライフゲームじゃからボスはいないぞ?」
「そ、そうだったかしら? でもほら一人居るじゃない、あのむかつく奴」
まぁネオ勇者物語でボスが出て来ないとは思わないもんな、今のはしょうがないとは言えむかつく奴って……流石のおっさんも気付いたんじゃないか??
「むかつく奴? あぁ、上司のスーツマンの事かのぅ?? 確かに彼奴はむかつくのぅ、毎日お茶汲みしろとうるさいし、絶対使わない資料をコピーして来いとかって言ってくるしのぅ」
え? ゲームの舞台日本だったりする??
おっさんが青蜜の狙いに気付いたかと思ったけど、そんな事より内容に驚いたわ。
もしかしてこのゲームも日本から転生してきた奴が作ってるのか??
ってかつまんなさそうだな、おい。 全然のんびりライフじゃないだろ。
「そう、あのスーツマンよ!! あいつが嫌なのよね、どうにか出来ないかしら?」
ここぞとばかりに青蜜はおっさんに詰め寄る。
「それならわしに任せろ! わしはこのゲームを極めたからな! なんでも教えてやれるぞ!」
あーあ。
「本当に極めたの? だってあのゲーム結構ボリュームあるって聞いたけど??」
「安心せい! わしはこの3週間みっちりやり込んだからのぅ。 寝る時間も削るほどな! このゲームはまさに神ゲーと呼ぶにふさわしいものでな、あかね殿も絶対ハマる筈じゃ!! あっ、わからない事が有ればまた直ぐにわしに聞きに来てくれて構わんぞ? いつものしょうもない話じゃ無ければ大歓迎じゃ!」
「寝る間も惜しんで? ゲームを?? このさんしゅうかん?」
「そうじゃ! 本当にめちゃくちゃ面白いぞ!! あかね殿がむかついていたあのスーツマンも少ししたら味方になるしのぅ!! あとそれから」
……あ、阿呆や。
青蜜の質問の意図も解らずにおっさんはひたすらそのゲームの魅力を語っていた。
正直こんな事しなくても青蜜が少し脅せば直ぐに本音を吐いてたと思うんだけどな……まぁ途中までは少し楽しそうだったもんな青蜜も。
今は顔を赤くしてるけど。
あいつ結構感情が顔に出る方だよな、怒ってるのが丸わかりだ。
「おっさん言いたい事はそれで全部かしら??」
指の骨を鳴らしながら青蜜はおっさんに近付いて行った。
「いや、まだまだじゃ! これからが良い所なのじゃよ!! ストーリーの最後でな……ってあれ? あかね殿? なんでそんな怖い顔をしておるんじゃ??」
「してないわ」
「いやいや! してるでは無いか! 今にも人を殺しそうな顔じゃぞ! そ、そして何故わしに近付いてくるのじゃ!!
……ま、まどか殿助けてはくれんか?」
無言の青蜜のプレッシャーに耐えきれなくなったおっさんは何処かで見た顔で俺に助けを求める。
ごめん、おっさん。 そんな目で見ないでくれ、ここまで来たらもう俺にできる事なんて何もないって……それに今回は完全におっさんが悪いし。
俺はおっさんに一礼して視線を逸らす。
「う、裏技教えてあげるから。 だから許して下さい」
「無理ね」
おっさんの命乞いを直ぐに却下して青蜜は大きく自分の手を振りかぶり、勢いよくおっさんの頬へと叩きつけた。
拳じゃなくて良かったな、おっさん……あっ、ゲームの裏技は後で俺に教えてくれよ。
それにしても良く裏技を教える事でこの状態を乗り切ろうとしたな。
青蜜に叩かれ目の焦点が合っていないおっさんを眺めながら、俺はおっさんの凄さを再認識していた。




