4話 聖女への恨み
「なんか悔しいけど、おっさんの言う通りだ。 確かに間違えで召喚された事も不満ではあったけど、俺が何より不満なのは聖女って所だ!
俺はな、聖女にも聖人にも、勿論聖男にだってなりたくないんだよ!!」
俺は本音をおっさんにぶつける。
正直、聖人とか普通に考えてなりたいような職業じゃないだろ。
勿論尊敬はしてるが俺には荷が重い、真人間じゃないと務まらないじゃないかと言うプレッシャーもあるしな。
それに、そもそも聖女って他の世界の人間にやらせるものなのか??
「せ、聖女の何が嫌いなのじゃ! あんな楽な役職は他に無いのだぞ?
手の空いた暇な時間に祈りの間で手を合わせるだけの簡単なお仕事じゃし、しかもたったそれだけで民衆からは神様扱いじゃ!
王様もびっくりの道楽職業じゃぞ!!
全くもってあいつらは何故あんなに偉そうなのか! 目に見える成果を出す訳でもないのに、この国が平和なのは私達が祈っているおかげですと詐欺まがいの口上を偉そう垂れおるし!!
その癖実際にこの世界が危機に陥っている今になって急に逃げ出す最低な根性。 わしはな、お主より聖女が、いや聖女に関わる団体も何もかも大嫌いなんじゃよ!!」
おっさんは早口で捲したてる。
……あれ?
何でおっさんが聖女嫌いって話になっているんだ? どこかで会話飛ばしたか、聞き逃したかな俺?
混乱する俺におっさんは畳み掛ける。
「お主の言いたい事は良くわかるぞ。 つまりはオカルトが嫌いなのじゃろ??
わしもそうなのじゃよ。 つい2年程なのじゃがな、この国は未知の病原菌に悩まされておったのじゃ。
その時もな、誰一人としてそういった事態になる事を警告していた者はいなかったんじゃよ、それどころかその前の年には全員都合の良い事ばかり言っておった。
来年は建国して千年になるから今まで一番良い年になるでしょう、ですからもっと羽振りを良くして欲しいとかほざいておったわ!!
結果はどうじゃ、最悪の年では無いか!!
しかもその騒動の最中でさえ聖女は特に何の役にも立っておらんかったしな!
役に立たないどころか、民衆を引き連れて集団でお祈りしますとか言って余計に感染が広げた事もあったのじゃ!!
あの時は流石のわしも怒りたくなってしまったわい。
まぁわしは大人じゃから我慢してあげたがのぅ……それなのにあいつらときたら終息したとたん、私達が全ての菌をこの身に受けた事でこの騒動は収束したのですとか言い張り、わしに金品を要求してきたのじゃ! お主これをどう思う? わしの怒りは間違っておるか??」
「いや、どうって言われても……」
俺は聖人とかにはなりたくないって言っただけで、別に嫌いって言ったわけでは無いし、そもそもその理由もただ単に堅苦しいと思っただけだしなぁ……。
まさかおっさんが聖女の事を大嫌いだとは思っていなかったから反応に困る。
いや、話を聞く限り聖女か悪いと言うよりおっさんが騙されただけの様にも感じるけど。
どちらにせよ聖女になって欲しいと頼んできたくせに、その聖女に対してこんなに不満を抱えていたとは。
……本当に何考えてるかわからないおっさんだな。
「ま、まぁおっさんの怒りも間違ってないとは思うぞ? 俺が言いたかった事も似た様な事だしな」
「おー! やはりわかってくれるかぁ! わしはな、ずっと不満じゃったのじゃよ。
だけどこの国では聖女を貶める発言はタブーとされていてな、ずっと本音が言えなかったのじゃ、だけどお主のお陰ですっきりしたわい。 ありがとうな」
おっさんの怒りにつられてとりあえず話を合わせてしまった。
俺はこんな事思ってないからね?
あくまでおっさんの意見だからね??
心の中で何処かの誰かに弁明する。 俺の国でも聖女は人気者だから……。
「ふぅー。 さて、それじゃあ聖女になってくれるのかな??」
おっさんは優しげな笑顔で俺に微笑んだ。
「……嫌だよ」
「なっ!」
何で驚いてんだよ……今の会話のどこに俺が聖女になろうと思える箇所があったと思っているのだろうか?
ため息ばかり出てしまう、一体いつになったら俺は元の世界に戻れるのだろうか。
「なぁ、おっさんはそんなに聖女が嫌いで信用もしてないのにどうしてまた新たな聖女を探しているんだ??」
素朴な疑問を俺は尋ねる。
「あー、それはな。 とある占い師に真の聖女がこの世界を救うと言われたからじゃよ」
得意げに胸を突き出しどこか勝ち誇った表情でおっさんは言った。
どうしておっさんがドヤ顔をしているのかが全く理解できない。
よりにもよってなんで占い師の言葉を信じる事が出来るんだ?
もしかして話の流れ的にその占い師っては他の人とは違う凄い力の持ち主だったりするのだろうか??
「その占い師の言葉を信じているのはどうしてなんだ?」
考えるより直接聞いた方が良いだろう。 このおっさんの思考は簡単に理解できるもんじゃないからな。
「それはな……えーと、あれ?? 確かに何故わしはあんな奴の言葉を信じておるのじゃろうか? オカルトにはもうこりごりしておったのに」
おっさんは首を傾げ、本気でわからないと言った表情を浮かべている。
その惚けた表情に俺はようやくこのおっさんの事を一つだけは理解した。
俺をこの世界に召喚したおっさんはポンコツだと言う事を……。