34話 まどかの本音
「もう良いですから頭を上げてください。 まどかさんは男性ですから、わからなかっただけで悪意は無いのでしょうし、女性の知識が無いのも仕方のない事でしょうし」
頭を下げる俺に結衣ちゃんは優しく声を掛けてくれた……随分と時間は掛かったけど。
多分小一時間は土下座していたと思う。 しかもその間ずっと青蜜から罵倒されてたし、正直これで許してくれなかったら逆ギレしていたかも。
だって今思い返してもそんな悪い事言って無いだろ? こんなに罵倒される様な事か??
どう考えても青蜜や結衣ちゃんが俺の童貞を馬鹿にしてる方が酷いと思うんだが。
今だってさらっと馬鹿にしてたし!
「何? まどかちゃんのその目は? 何か文句でもあるの??」
青蜜はまるで汚物を見るかの様な冷たい視線を俺に向ける。
こ、こんなに舐められたままで良いのか俺! 今となってはこいつだって俺と同じ痛い側の人間だ、学校の時の様に謙る必要なんてないんじゃないか?
そうだ!! 此処は文句の一つでも言ってやる時じゃないか!!
今日こそ自分の殻を破ると決して俺は青蜜を見つめ返した。
「も、文句の一つくらい俺にだってなぁ!」
「なぁに??」
「も、文句のひ、ひとつくらっ」
「……一つくらい??」
「も、文句なんて一つも無いよ?? あの発言はどう考えても俺が悪かったしな。 許してくれた結衣ちゃんには感謝しかないよ!!」
「そうよね?? 良かった、まどかちゃんったら変な事言うんじゃないかと思ってひやひやしちゃったわ。 本当、結衣に感謝する事ね」
青蜜は俺の鼻先に触れそうな距離にある自身の握り拳を緩めた後、笑顔で話す。
……せこいって。 もう暴力じゃん、誰にも伝わらないと思うけどさ凄い風圧だったからね? 頬が震えたもん、俺の事を馬鹿にする奴が居たら代わりにくらてみるが良いよ。
絶対同じ気持ちになるから! 絶対な!!
この場では吐き出せない本心をどこぞの誰かに心の中で全力で俺は叫ぶ。 それしか今の俺には心のバランスを取る方法が思いつかなかったのだ。
大体さ、今更だけどこれ異世界転移の話だよね? その中で男が俺一人って事はつまり俺は主人公になるんじゃないの?
もしそうなら青蜜や結衣ちゃんはヒロイン的な立ち位置なんじゃ無いの??
まぁこの世界が今まで読んできた小説の様な世界じゃないのは百万歩譲って良しとするけどさ、せめてヒロインくらいはもっと俺に優しくても良いんじゃない?
別に青蜜や結衣ちゃんと恋仲になりたいとかって訳じゃないけどさ……こんな暴力ヒロインは今時流行らないと思うんだよね? しかも二人ともだよ? バランスおかしくない??
やっぱ俺の事を尊敬してくれたりさ、なんでか知らないけど最初から好感度マックスの子とかさ、異世界にはそう言う子が居て然るべきなんじゃないのかな。
「それにさ、俺まだ異世界に来てから自己紹介しかしてないよ? しかも勝手に言われただけの暴露大会みたいなものだよ?
本当にこれで良いの異世界の神様?
そろそろ能力バトルとかしないと異世界に来た意味ないじゃんとかいって馬鹿にされるよ?」
「誰に馬鹿にされるのよ。 はぁー、まどかちゃんさ、そのスキルあるんだからあんまり頭で色々考えない方が良いんじゃない? ついさっきもそれで失敗したばかりじゃない。 まどかちゃんってやっぱり少し馬鹿よね」
異世界の神様に尋ねた俺の質問に青蜜は首を傾げて代わりに答えた。
か、簡単に言うなよ! 頭の中で何も考えないで話すなんて普通に無理だろ、そんな簡単な事もわからない青蜜の方が馬鹿だと思うんだが??
……ってこう言うのが良くないんだよな。
良し! 次からはあんまり考えないで話そう。 素直な俺に慣れてもらった方が怒られる可能性は少なくなる気がするしな。
今回は自分から『言いたがり』のスキルを使う事を意識してみよう。
俺は今からなんでも素直に思った事を言おう、思った事を素直に思った事を素直に……。
「なぁ、結局我はどうなるのじゃ?? 殺されないで済んだと思って良いのか??」
今まで空気を読んで黙っていたのか、リアは俺達のいや、主に結衣ちゃんの顔色を伺いながら声を出した。
「え? あぁ、私はさっき言った通りです。 胸を大きくしてもらえるならこの件は無かった事にしますよ。 勿論最終的にEカップにしてくれたらですが」
「結衣ちゃんまだそんな事言ってんの? Aカップしか無理って言われたんだからそれで満足したら??」
「……え? まどかさん今のもスキルとやらでしょうか?」
「違うけど?? でもどうせ話しちゃうなら、あれこれ考えて話す意味無いかなって思ってさ。 だからこれからはあんまり考えないで話そうかなって」
「そ、そうですか。 まぁ、まどかさんが決めた事なら良いのですが。 と、とりあえずさっきの質問に答えますね。
魔女さんは確かにAカップしか不可能って言ってましたが、それは今の力の場合ですよね? つまり元の力を取り返せば私の胸をEにする事も可能だと思うんです」
「それは本当なのか、リア??」
「な、何を勝手に名前を呼んでるんじゃ! や、やめろ! ……ま、まぁ嘘か本当かで言えば本当じゃな。
仮に我が元の力を取り戻せばどんな貧乳だろうとEカップ、いやHにする事も出来るじゃろうな!!
だが元の力を取り戻せる日などくるとは思えんがな」
「え、えいち!?
魔女さん、貴方の力を取り戻す手伝いは私達もします。 たった今、貴方と私達は言わば協力関係になるのですからね」
「私達って誰だよ。 俺を含めないでくれよ?」
「……ず、随分な言い方ですね。 まどかさんだって自分の夢を叶えたいんでしたよね? 確かハーレムでしたっけ?
その夢の実現の為には魔女さんに力を取り戻して貰うのが一番だと思うんですが??」
「そうよ、まどかちゃん。 貴方のくだらない夢の為にも、この魔女に協力する事は悪い事じゃないんじゃないの??」
「中二病拗らせ処女は黙ってろ。 それから青蜜の、あっ間違えた。 処女っちの夢も十分くだらないからな?」
「……あん??」
「ま、まぁまぁ落ち着け。 は、話を進めようではないか、つまり我はお主らを辱めた代わりにお主達の夢を叶える。
お主らは我に夢を叶えて貰う為に我の力を取り戻してくれるって事で良いのじゃな?? 人間の夢を叶えるのは気が引けるが、それで生き長らえれると言うなら安い物じゃ、我としても力を取り戻してくれると言うならそれはそれで都合が良いしな」
「えぇ、私はそれでいいわ」
「わ、私もです」
「ったく仕方ねぇーな」
「「……」」
「まぁ乗り掛かった船だしな。 処女っち、偽乳っち! これからよろしくな!」
この瞬間、この世界におけるスキルの強制解除の方法を俺は学んだ。
スキルに取り憑かれた奴はとりあえず思いっきりぶん殴れば良いのだ、それだけで簡単にスキルを解除できる。
俺のかけた奥歯がその方法を教えてくれた……まぁ他のスキルが解除出来るかは知らないけど。
い、いたい。




