33話 無知の土下座
「詳しくじゃと? 何じゃお主ら二人はこの男の夢を叶えてやりたいのか?? だったらいっそお主らがこの男のハーレムに加わればっ」
「嫌よ、私が詳しく聞きたいのはそんなしょうもない事じゃないし」
リアが困惑気味に話した言葉を青蜜は即座に否定する。
言っとくけど俺だって嫌だからね?
基本的に俺のタイプは結衣ちゃんみたいなお淑やかな……いや、今となっては結衣ちゃんもタイプじゃなかったけどさ。
それにしょうもないってなんだよ! どうせ青蜜の聞きたい事だってしょうもない事だろ!!
「じゃあ一体何を聞きたいんじゃ??」
「わ、私の願いも叶える事が出来るのかって事よ! その……貴方の力を使えば私を特別な存在に出来るかなって思って」
ほら、俺とほとんど変わらないじゃん。
しかも自分で言って最後の方に恥ずかしくなるなよ。 なんかその照れた表情見せられるとこっちまで恥ずかしくなるんだからな?
「ふむ、その特別とやらの基準はいまいちわからぬが、お主は確か世界を救いたいとか言っておったよな?
なら、この世界を救えば必然的にお主の目的は達成されるのではないか??」
「た、確かにそれもそうね」
青蜜はどこか嬉しそうに呟いた。
部屋一面に先程までとは比べ物にならない穏やかな空気が流れる。
……あれ? もしかしてこのまま行けば上手い事いくんじゃないか??
後は結衣ちゃんの願いさえリアが叶えてくれたら全て丸く治りそうな気がしてきたな。
結衣ちゃんがリアへの攻撃を中断したのもそう言う事だと思うし。
「魔女さん、私からも一つ質問があるのですが良いですか?」
俺の想像通り結衣ちゃんもリアに話かける。
「ひっ!! な、な、なんじゃ??」
さっき覚悟は決まったとか言ってたけどやっぱまだ怖いんだな。 めっちゃ震えてるし。
「あかねちゃんとまどかさんと同じく、私の願いも、その……叶えて貰えたりするのでしょうか??」
「おお、お主の願いとは何なんじゃ? いくら我でも神になりたいとか、全ての世界を征服したいとかは無理じゃぞ?? あっいえ、無理ですよ??」
ほぼ100%胸を大きくして欲しいって事だと思うけど??
「そ、そんな下らない事ではありません! その、私の胸を少しでも良いから大きくして欲しいのです。
出来ればEくらいに!!」
E!?
俺は思わず振り返って楽しそうに円人と影蜜と談笑している影惣に目を向ける。
Eってさ、今の結衣ちゃんからしたら少しってレベルじゃないんじゃ……影惣の胸全然膨らみないけど??
「まどかさん、どこ見ているんですか?」
「あっ、すいません」
こ、怖い。
それに一瞬だったのによく気付いたな……ってかあいつら何で楽しそうに談笑してるの?
本体も勿論だけど、お前らを生み出したリアがさっきまで殺されそうだったんだぞ?
助けに来ようとか思わないの??
それと俺のあの笑顔は腹立つな!! 何笑ってんだあいつ!!
「で、どうなんでしょうか? 私の願いも叶える事が出来るのでしょうか??」
リアの答えを待たずに結衣ちゃんは再度問いかけた。
よっぽど真剣なんだな、急に丁寧な言葉遣いになってるし。
まぁでもリアならこの程度の願いなら直ぐにでも叶えられるんじゃないか?? 魔女と言えば姿を変えるのは大得意だろうし。
「……む、無理じゃ」
ほらな?? 胸を大きくする事なんてハーレムを作る事に比べたらっ……あれ??
「なっ! 何でですか!! ハーレム作りや世界を救う事なんかよりよっぽど簡単な願いじゃないですか!!」
納得できないと言わんばかりに結衣ちゃんは声を荒らげる。
そりゃそうだ、俺から見ても一番簡単な願いに思えるぞ? もしかしてこれはリアの些細な抵抗なのか??
「もしかして、私が貴方を殺そうとした事を恨んでいるんですか?? だとしたらこっちにも考えがあります。
……今すぐ私の胸を大きくしないと言うのなら、貴方を殺します」
俺と同じ思いとは言え、それは脅迫だよ結衣ちゃん……しかも滅茶苦茶太刀の悪い。
「本当に無理なんじゃよ! 嘘など言ってないのじゃ!!
人間の身体を弄るのは相当な魔力が必要なんじゃ。 そこにいるまどかとやらも死ぬ思いとマイナススキルを手に入れてようやく3㎝身長が伸びただけじゃぞ? それくらい難しい事なのじゃよ!!」
殺気を放つ結衣ちゃんにリアは慌てふためく。
ん? なんか今すごく嫌な単語言ってなかった?? マイナスとかなんとかって……。
「難しいって事は不可能では無いって事ですか? 私も死ぬ思いを体験してクソみたいなスキルを身につければなんとかなるって事ですか??」
クソって……いやまぁその通りだから何も言えないけどさ。 なんか辛いな。
「それでも無理なんじゃよ。 Eなんて不可能じゃ!!」
「D!!」
「き、厳しいです」
「し、C!!」
「すまん」
「……B」
今にも泣き出しそうな表情を浮かべ、か細い声で結衣ちゃんは呟く。
ごめん、俺なんかより結衣ちゃんの方が辛いよね。
「い、今の我の力では出来ても精々Aくらいなのじゃよ」
そ、それって一番下なんじゃ? どうやら本当に俺の人生も此処までの様だな。
「……Aで十分です。 私をAカップにしてくれるなら今回の事は水に流してあげます」
「え? それって今と何も変わらないんじゃないか??」
「まどかさん、私は今……AAカップなんです」
俺の疑問に結衣ちゃんは静かに答えた。
女性陣から向けられる軽蔑の視線に自分の無知さとこのマイナスクソスキルを呪いながら俺はその場で直ぐに土下座をした。




