30話 女子高校生の異常性
「こ、この世界が滅ぶだけではすまんぞ?
我を殺したら元の世界にも戻れるかわからんのだぞ? もしや、あんな古びた機械を使うつもりなのか?
あんなの使ったらお主ら次こそ死んでしまうぞ? それでも良いのか??」
必死に結衣ちゃんを説得する様に魔女は言葉を投げかける。
そ、相当焦ってるな。
それよりおっさん……何がいつでも帰れるだよ、話が違いすぎるだろ。
「構いません、貴方を殺した後の事はその時になってから考えますので」
あっいや、今はそれどころじゃなかったわ。
やばいって青蜜!! 結衣ちゃん止めないと!
同級生が魔女殺しなんて嫌だろ??
「お、お主らぁ!! この者の友なのだろう?? た、頼むっ!
我が悪かったから、こやつを止めてくれぇ! 死ぬ! このままでは確実に我はこの女に殺されてしまう!!」
魔女は今にも事切れそうな掠れる声を響かせる。
自業自得とは言え流石にあの叫び声を聞くと可哀想ではあるな……。
まぁでも、魔女からこの提案が出たのは良かった、これで俺達も動けそうだ。
「助けたいけど、この拘束具が外れない限りは無理だ! 何とかならないのか??」
俺はここぞとばかりに自身の拘束具を外す事を魔女に要求した。
「ぐっぐふ……わ、わかった外す。 今外すから早く助けてぇ」
その瞬間、俺と青蜜の手足を拘束していた鎖は綺麗に消えてなくなった。
良し! 後は結衣ちゃんをどうにかして止めるだけだな!! ま、間に合えば良いけど……。
俺は急いで結衣ちゃんの元へ走った。
止める方法なんて全く思いついてなかったが、彼女に魔女殺しなんてさせる訳には行かない。
その一心で必死に足を前に動かす。
「ゆいぃ!! ちょっと待ちなさい!!」
そんな俺を一瞬で追い抜かし、青蜜は結衣ちゃんの名前を叫ぶ。
あ、あいつも身体強化されてるんだよね?? そうだよね??
……足速いんだな、青蜜。
いや、でもあの速さなら間に合うだろう。 今は嫉妬してても仕方ない。
それに俺もさっき心の中で青蜜に頼んじゃってたし。
それにきっとあいつなら、青蜜なら上手く結衣ちゃんを止めてくれる筈だ。
「ゆい、それ以上は待ちなさい!! そこから先はまだ駄目よ」
うんうん、やっぱり青蜜も止めようとしてくれて……あれ? 今さ、まだって言ってた??
俺より数歩先にたどり着いた青蜜は、そのまま絶叫しながら一直線に魔女に向かって行く。
俺はさっき追い抜かれた際に後ろから見えた青蜜の腕には濃い血管が浮き出ていた事を思い出す。
あー、忘れてた。 青蜜もこの魔女を恨んでるんだもんな……。
「おらぁ!! このド腐れ底辺魔女がぁ!!」
「がっはっ!!」
勢いよく放たれた青蜜の拳は魔女の右頬を完璧に捉え、その幼い顔を大きく歪ませた。
か、完全に入ったな……ってか青蜜もいくら魔女相手とは言え、よくもあんな見た目の奴を容赦無く殴れるな。
「な、な、何してるんじゃ貴様、助けてくれるんじゃなかったのか?」
「はぁ? 何で私があんたを助けると思ったのかしら?? 私の気持ちはゆいと全く同じなの。
覚悟は良いかしら愉悦の魔女様??」
青蜜は指の骨を鳴らし魔女を脅す。
忘れてたけどやっぱあいつも怖いよな……。
「ま、待つのじゃ!! 我の様なこんな幼子を本気で殴ったり、ましてや殺そうとするなんて、お主らには人の心が無いのか?
我が弱っていて抵抗できないからって好き放題するなんて恥ずかしくないのか?? お主らもう十分大人と言って良い歳じゃろ?」
いや、それはお前には言われたく無いだろ。
「「貴方には言われたく無いわ」」
「ひっ!! い、嫌じゃー! 誰かぁ助けてくれぇ! わ、我はこんな所で死ぬ訳にはいかないんじゃ!! まだまだやりたい事もあるんじゃぁー!!」
遂には目に涙を溜め魔女は自身の小さな身体を精一杯動かして暴れだす。 だけど結衣ちゃんはそんな魔女の姿に動揺する事は無く冷静に青蜜に話しかけていた。
「それであかねさん、何時になったら私はこの魔女を処分しても良いんですかね??」
「そうね、取り敢えずは私の気が済むまでは駄目ね。 まぁ安心して後少し殴ればこの怒りも落ちついてくると思うから、その後は貴方の好きにして良いわ」
「わかりました、あかねさんの頼みなら少し待ちましょう。 ですが、私はこの魔女から手を離すつもりはありませんので、そこだけは了承してくださいね」
「えぇ、勿論。 その魔女を抑えてくれるのは私にとっても有難いしね」
まだ少し距離があるからうっすらしか聞こえないけど、あれ本当に高校生の会話なの? 青蜜も結衣ちゃんも完璧に正気を失ってるだろ!
もし俺が今更あの場に着いたとして二人を止める事なんて出来るのだろうか??
……いや、無理だ。
あの二人の表情、聖女どころか悪魔だもん。




