24話 処女っち
「ちょっと待ってよ! もう私の番は終わりでしょ!!」
魔女の言葉に青蜜が顔を上げて反論する。
「お主の番が終わりなどと誰が決めたのじゃ?? 我がまだ満足していないのじゃ、このまま話を続けるのは当然では無いか。 それに何を焦っているのじゃ?? そんなに聞かれたくない秘密でもあるのか??」
「べ、別にそう言う訳じゃ無いけど……」
「じゃあ良いではないか、減る物でもないのだし」
「だ、駄目よ! 夢を聞くくらいならまだしも、直接秘密を尋ねるなんておかしいじゃない!! やって良い事と悪い事があるわ」
余程知られたくない秘密でもあるのか、青蜜は声を荒らげ魔女に怒鳴る。
まぁ、青蜜の気持ちもわかるし、言ってる事ももっともなんだけど、この魔女がそんな話を聞いてくれるとは思えないよな。
「ふむ、確かにお主の言う通りじゃな。 秘密を話せと言うのは些か無礼であったかも知れんのぅ、質問を取り消そう。 すまんかった」
魔女は反省している様に表情を曇らせ青蜜に頭を下げた。
「わ、わかってくれたらそれで良いわ」
その姿に青蜜は大きく息を吐き、安心した様に胸をなで下ろす。
……あ、青蜜。 まだ安心しない方が良いぞ、あれ絶対演技だから。
そう、あのイカれた魔女がこんな素直に謝るわけない。 そんな気持ちが少しであるならこんな悪趣味な自己紹介イベントをやる筈ないんだから。
そんな俺の思いを悟ってたか、魔女は俺の方に目を向け少しの笑みを見せた後、影蜜に話しかける。
「お主の本体が今は秘密は聞くなとうるさいからとりあえずそれは後回しにして、今はお主の悩みについて聞くことしようかのぅ。 さぁ! 我が聞いてやるぞ! なんでも話してみよ!」
「……えっ?」
青蜜が目を見開いて驚く。
ほらな、こう言う奴なんだよこの魔女……ちゃっかり後で秘密とやらも聞く宣言してるしな。 一瞬浮かれさせたり安心させたりさせてから突き落とす。
そんなのが大好きなサイコ魔女だぞ?? 本当、愉悦の二つ名は伊達じゃないよ……。
「悩みって言われても困るわ。 私は結構人生を楽して生きてきた方だし、勉強も出来るしさっきも言ったけど美人だし。 あんまり悩みなんてないのよね」
影蜜は顎を手で持ち少し首を傾げる。
確かに青蜜に悩みは無さそうだよな。
俺と違って学校生活に関する悩みは少ないだろう。 友達も多いし、彼氏もいるだろうしな……順風満帆じゃん。
「悩みがない人間など存在しない、お主にもまた大きな悩みがある筈ではないか?? 例えば、そうじゃなー、他人に嘘をつき続ける事への罪悪感とか」
「他人に嘘を……かぁ」
「あーあ!! わ、私は嘘なんついてないわ。 本当、この魔女さん何言っているのかしらね。 貴方が召喚した影の私も悩みなんてないって言っているじゃない。 無駄だわこんな質問、次に行きましょう。 はい、私の番は終わり!!」
額に汗をだらだらと溢しなが青蜜は強制的に影蜜の言葉を遮る。
「どうじゃ? 何か思いつく事はあったか??」
「ちょっと! もう終わりって言ったじゃない!! 聞いているの? 終わりだってば!」
……青蜜それ悪手だから辞めたほうが良いぞ。 ってかこいつ結構俺と似たような行動するよな。 こんな状況なのになんか少し親近感湧くな。
「うるさいのぅ、少し黙っておれ」
「はぁ? 黙って居られるわけ無いじゃない!! 大体これってプライバシーのっ」
誰かに口を塞がれたかの様に青蜜の声が消える。
……お、終わったな。 まさか青蜜でもこの魔女には勝てないとは。
「一つだけあるわ……」
青蜜の思いなど関係なしに影蜜がゆっくりと口を開く。
にしても、友達に嘘をついている事なんて普通だと思うんだけどな。 むしろ本音だけ話している奴の方が少ないだろ。 だから青蜜の悩みってのもそんな大した事じゃないじゃないかな??
「……処女なの」
「「はぁ??」」
久しぶり声を出した俺は円人と共に影蜜の言葉に最大級の疑問符をぶつけた。
今のはきっと聞き間違いだろう。 俺も随分と気持ち悪い奴になったもんだ、処女厨では無いと思っていたけど、こんな聞き間違えをするって事は俺にもそんな気持ちが少しはあったのかも知れないな。
まぁだけど青蜜が処女な訳ないだろ?? こいつ昼休みに友達とあんな生々しい会話をしている奴だぞ??
「なんじゃ、お主生娘じゃったのか? でも別にお主くらいの年齢なら珍しいものでも無いじゃろう?? 何故そんな事で悩んで居たのじゃ??」
魔女まで聞き間違えてんのかい!
何度も言うがこいつが処女なわけ。
「珍しいの! 私の周りだと珍しいのよ!! 私が入学して仲良くなった友達はもうみんな、その、経験済みなの……中学の時はそんな話した事無かったからまだまだ先の話だと思ってたのに、高校に入った瞬間には、そういう行為をしてて当然みたいな流れになってて……それでつい経験済みだって言っちゃったのよ。
そこからはもうずっと嘘ばかりつくしかなくて……。 毎日スマホでそういうサイトばかり見る様になってしまったの、周りの話に置いていかれない様にね。 どうにかして辞めたいのだけど、今更言い出せなくて。 ……それが今の私の悩みよ」
顔を赤らめ手をもじもじさせながら影蜜は恥ずかしそうに答えた。
う、嘘だろ? 嘘だよな青蜜??
俺は隣に視線を向ける。
俺の目に入った青蜜は半狂乱で足をバタつかせていた。
……マジかよ。 青蜜、お前ビッチじゃなくて処女っちだったのか。
「お前、ビッチじゃなくて処女っちだったんだな!」
俺の心の声を円人が代弁した。
も、もしかしてお前も『言いたがり』のスキルあるのか?? いや、それよりもそんな言葉口にしたら影蜜に殴られるぞ!! いやいや、待てよ……むしろ殴られてしまえ。
おまえは一発殴られた方が良い。 その方が俺がすっきりする。
「……誰が処女っちよ。 あんただってクソ童貞じゃない」
泣きそうな声で小さく呟いた影蜜は円人の肩を優しく小突いた。
……はぁ? なにあれ?? キレそう。 俺がビッチって言った時は殺す勢いだった癖に……それにお前ら影同士が俺達本人より仲良さそうな関係なのが尚更腹立つ。 俺だって青蜜にあんな可愛い仕草してもらいたいわ!!
何で影ばっかり良い思いしてんの?? 祖先は一緒だよね??
ただ単に俺が神に嫌われてるって事??
「あー、なんかしらけてしまったのぅ。 生娘だの童貞だとなんだのは我は興味ないんじゃ。 別に面白くないからのぅ、もう良い、次じゃ、次!!」
魔女は本当に興味ないらしく飽きた様に話す。
その言葉に隣の青蜜は身体を激しく動かした。
まぁこんなカミングアウトさせられたのに興味ないの一言で済まされると確かに腹立つよな……。
無駄に話す事になった青蜜が不憫だ。
それにしても結衣ちゃんは大丈夫なのだろうか??
ここまで一度も口を開かなかった結衣ちゃんの事が心配になる。
さっきからちょくちょく話しかけたり目があったりしてるのにまるで反応がない。 俺と青蜜の話の最中もずっとあの魔女を睨みつけていた。
何だか結衣ちゃんはいつもと全く違う雰囲気を醸し出している様な気さえする。
なんかちょっと怖いんだよな。 今の結衣ちゃん……。
「次はお主じゃな。 まずは名乗ってみよ」
「……」
「どうしたのじゃ??」
「すいません、私は貴方ごときに名乗る名など持ち合わせておりません……。
さっさと消えろこのクソガキババア魔女がっ!!」
中指を魔女に突き立て、舌を出しながらドスの効いた声を影惣は部屋中に響かせる。
その声は俺が抱いていた結衣ちゃんへの甘い幻想を一瞬でぶっ壊したのだった。




