23話 青の可能性
「まどかちゃんにならって私も名前で関して言うなら、青なのか赤なのかはっきりしなさいよ! って思ってた時もあったわね。
まぁ、でも青も赤も好きな色だから気に入っているわ、結局は両親がつけてくれた大切な名前だしね」
俺の混乱を他所に影蜜は自己紹介を進めた。
とりあえず影蜜の話を聞こうと思う。 色々な事があり過ぎて考えを上手く纏める事が出来なさそうだ。
……それにしても改めて見るとこの影っての本当に上手く出来ているな。
隣に青蜜がいなきゃ、誰だってこいつを本物だって思い込みそうなクオリティーだ。
きっと当の本人は良い気持ちはしてないだろうけどな、俺もそうだったし。
「で、一体他には何が聞きたいのかしら? 私はまどかちゃんと違ってあんなダサい秘密はないし、長話も好きじゃないのだけど??」
影蜜は挑発的に魔女に物申す。
別に俺は喋ってないんだけどな……。
まぁでも、影蜜の言っている事は俺も思っていた事だ。 こいつが俺みたいな恥ずかしい目に合うとは考えにくい、いつも自信満々だし、割と自由に生きていると思うしな。
「ふむ、まぁ基本はさっきの奴と同じで良い。
お主はどんな夢を持っているのじゃ??」
「夢?? そんなの決まっているじゃない! 私の夢は世界を救う事よ! 何故なら私はその為に生まれたんだから!!」
魔女の質問に影蜜は即座に言葉を返した。
……ごめん、青蜜。 俺の勘違いだった、相当恥ずかしいやつだ、これ。
俺は隣に座る青蜜に視線を向ける。
か、完全に茹で上がってるな……。
む、無理もない。 今の青蜜は数分前の俺と同じだ、きっと今頃目の前の自分を消す方法でも一生懸命考えているんだろう。
……それかもう諦めてるのかの二択だな。
「世界を救う為に生まれたとはどう言う意味じゃ??」
「そのままの意味よ。 私ってほら、特別な感じがするでしょう??」
「別に我はそう思わんが??」
「それは貴方に見る目がないからよ。 私は明らかに他の人とは違うわ、私は美人だし勉強だって出来るからね」
ああああぁぁ、青蜜さん! これは俺も耐えられそうに無いよ!! なんか俺まで恥ずかしくなるし! 早くあの魔女止めた方が良いって! 青蜜なら出来るだろ??
「まどかちゃん、お願い……見ないで」
俺の視線を感じ取ったのか、青蜜は俯いたまま今にも事切れそうな小声でそう呟いた。
……流石の青蜜も心が折れたか。
「勉強が出来るから特別と言うのなら、お主よりそこ男の方が特別と言う事にならぬか? お主らの学校で一番成績が良いのは彼奴なのじゃろ??」
俺を巻き込むなクソ魔女。
「まどかちゃんは勉強だけだから駄目よ。 世界を救う物語の主人公になる為にはもう少し格好良くなくちゃ」
……ほら、無駄に傷ついたじゃねぇーか。
「それに私には、私こそが特別だと断言できるもう一つ理由があるわ!!」
「ほぉう?? それは興味あるのぅ一体なんなのじゃ、その理由とは??」
「それはね、私の髪が青いからよ!!」
影蜜はわざとらしく髪を払い、続ける。
「貴方にはわからないかも知れないけど、私の元居た国では生まれつき青色の髪なんてとても珍しいのよ!!」
まぁ、これはその通りだ。 俺だって青色の髪なんて青蜜くらいしか知らないし。 ってか生まれつきだったのか、てっきりオシャレか何かで染めているのか思ってた。
「か、髪の色が違うだけで特別じゃと? くくくっ、お主も面白いやつじゃのぅ。 正直言うが何も関係ないと思うぞ? それになんと言っても色が悪いのぅ。 赤やピンクならまだしも青じゃなぁー」
魔女は本気で悩んでいる様に顔を傾げる。
え? この世界でも赤とかピンクって強い感じなの? いや、別に青だって弱くないと思うんだが? 俺の好きなキャラは青髪が多いぞ??
「確かに貴方の言っている事も一理あるわ」
無いだろ。
「私の世界でも青色は弱いイメージなのよ。 鬱々しかったり使えない奴だったり、更には思い人に振られるキャラだったりもするわ、本音を言えば私も赤色が良かった、それは認める。 青はなんか敗北者感があるのは周知の事実だから」
おい、そんな事実無いだろ! 捏造すんな!! お前がそう思っているだけだからな?? 少なくとも俺はそんな事思ってないからな!! ……もうあんまキャラとか設定とか職業の悪口を言うのは辞めてくれ、そのたびに何故か底知れぬ不安を感じるんだよ。
そんな俺の不安など露知らず、影蜜は次第に声を荒らげ始めた。
「だけどっ! だからこそ私は世界を救いたいのよ! 青色の髪に青蜜と言う苗字、これはまさに運命だわ!! どこぞの神様が私に青という色の価値を高めて欲しいってお願いしたのよ!! 私はその為に生まれたのよ!! 世界と、青を救う為にね!! 当面の目的は赤色に勝つことかしらね」
……こ、これ笑う所? 青を救うって何? どこぞの神って誰? それに青蜜あかねの赤はスルーなの? さっきどっちも好きって言ってなかったっけ?
「……あ、青蜜」
「辞めて、そんな目で見ないで……気持ち悪いのは十分理解しているのよ」
何処かで聞いた台詞を青蜜は呟く。
俺はこれ以上青蜜に話しかける事はしなかった。 今の青蜜の気持ちを俺は世界中の誰よりも理解できている自信があったから。
「よく言ったぞ!! あっぱれじゃ!!」
影蜜の宣言に魔女は大きな拍手を送り満足げな笑みを浮かべながら続けて言う。
「では次はお主が秘密にしている事を話してもらうとするかのぅ??」
こ、この魔女! 誰にでも容赦ないな! 青蜜の事も殺しにかかっている。 正直もう十分致命傷だと思うのに、ここで追撃するとは……本当にゲスい魔女だな。




