21話 キングオブハーレム
「あっ! そうじゃな、どうせなら全員集まってもらった方が面白いものが見えるかも知れないのぅ!! どれ、お主らも姿を見せい!」
魔女は急に思いついた様に手を鳴らし、その言葉を口にする。
「一気に出すと面白味が減るんじゃないかしら??」
「……」
今度は青蜜の声が後ろから聞こえる。
「ひっ! 何よこれ! どうなってるのよ!!」
もう一人の自分の姿を認識した青蜜は珍しく怖がっていた。
こう言う所は女の子らしいと思えるな。
結衣ちゃんも怖がっているのか、声に出す事は無かったが俺から見てもわかるくらいに身体を小刻みに震わせていた。
「さて、これで役者は揃ったな! ではこれより楽しい楽しい自己紹介を始めようではないか!! さっきも言ったがまずはお主からじゃ!!
名前と……そうじゃな、お主が隠している事をいくらか教えて貰おうかのぅ」
……やばいやばいやばいヤバイ!!
魔女の能力がどんな程度のものか知らないけど、こんなの黒歴史暴露大会になりうるじゃないか!!
早く止めないと! せめてあの事だけは言わせない様にしないと!!
「ま、待て俺!! 良いか? お前が本当に俺でもあるなら言って良い事と悪い事があるのはわかっているよな??」
影の俺とやらは顎に手を当てて何かを考えだす。
自分の仕草の筈なのになんか滅茶苦茶腹立つな。
俺いつもあんな顔してたのか?
次からは辞めようあれ。
「なるほど!! 確かに言ってはいけない事もあるな! 任せとけ、俺はお前だぞ?? 自分の事を信じてなきゃ誰からも信じて貰えない。
それが俺の、俺達の信条だろ??」
笑顔で親指を立てる影の俺の言葉に全身の毛が逆立つ。
あー!! だからそう言うのをやめろって言ってんだよ!! いちいち格好付けるな俺、気持ち悪いんだよ!!
それになんだその言葉、本当に俺が考えてたかそれ??
ダサいし意味わかんないだろ!!
……まぁ事実なんだけどさ。 頼むからもうこれ以上変な事は言わないでくれ! お願いします!!
「えーと、まずは俺の名前だったよな。 俺の名前は#福吉円人親父がエンジニアだったからこの名前をつけたって言ってたかな、正直あんまり好きではなかったけど、最近は漢字も簡単だし読みやすいから悪くないかもって思い始めたかな」
うん、良いぞ、その調子だ。
「将来の夢は医者になる事だ!! その為に今の学校に入ったからな」
か、完璧だ! 流石俺だな!!
「へぇーまどかちゃん医者になりたいんだ。 あんたがいつも勉強してたのはその為だったのね、なかなか見所あるじゃない!」
青蜜は感心した様に深く頷き俺の夢を褒めてくれた。
いや、この青蜜は本物の方じゃなくて影の方なんだけど、まぁそれでも青蜜に褒められるのは悪くない気分だ。
「私はあんな事思ってないからね??」
今度は本物の青蜜が俺の隣で呟く。
や、ややこしいな。 まぁあっちの青蜜の事は影蜜って呼ぼう。
結衣ちゃんの影は……あれ? 見た目はそっくりだけど結衣ちゃんの影だけ何か違うような。 何だこの違和感は??
「ってか、まどかちゃんの名前って円人って言うの?? ずっとまどかだと思ってたんだけど??」
「「俺は一回も自分の事をまどかなんて言った覚えはないけどな」」
俺達二人は同時に影蜜に言葉を返した。
「二人同時に話さないでよ。 ややこしいじゃない!!」
ど、どの口が言ってんだよ……。
「めんどくさいけど、本物、偽物で区切るのは私も納得いかないから勝手に呼び名を決めるわね。 あんたが円人! そこに座ってんのがまどかちゃん!
今度からそうやって呼ぶから!!」
ぎゃ、逆じゃない?? 普通俺が本名であいつがあだ名では??
「なに?? 文句あるのまどかちゃん??」
「あっ、いえ、すいません。 それで大丈夫です」
威圧感まで本物そっくりだな……思わず謝ってしまったじゃねぇーか。
「ふむ。 では円人よ、我が知りたいのはそんな大衆向けの自己紹介ではないのだ。
もっとお主という人間を我に教えてはくれないだろうか??」
「んー、そんな事言われてもなぁー。 俺の夢は昔からこれだし、この夢の為に今の学校に入学したのも事実だからなぁー。 これ以上話す事なんて何も無いぞ??」
その通りだ、円人。 魔女の言葉なんかに騙されるなよ。 俺の夢は医者だ、中学生の頃から一回も変っちゃいないんだから!
「いや、お主の夢はそんな物では無いだろう?? 思い出すのじゃ、何故お主は医者になろうとしたのか。 何故今の学校に通う事を決めたのかをのぅ」
「……俺が医者を目指した理由。
……あの学校に進学を決めた本当の理由」
「おいよせ、そんな大層な理由は無いだろ? ただあの学校が医者になる近道だっただけだろ??」
俺は心の底から焦っていた。
もしこいつにあの事を話されたら俺は一生クラスメイトに馬鹿にされて生きていく事になるだろう、それだけは阻止しないと行けない。
俺は俺自身を必死に説得する。
「き、気のせいだろ? あんなロリ魔女の言う事なんて気にしたら負けだぞ?? 俺が医者になるって決めたのはテレビドラマの影響じゃないか!! そうだろ??」
「そうだ、確かにあのドラマは感動した……いや、だけどなにか違うぞ??
俺にはもっと違う大きな夢、野望があった筈だ! そうだ! 思い出したぞ!! 俺は!」
「あー!! 魔女さん? 俺の自己紹介はもう終わっただろ?? 早く次に行こうぜ?? 拘束されているのも結構辛いんだよなこれがさ!!」
「円人よ、もう一度聞くぞ。 お主の夢は何なのじゃ??」
「おいおいおい、魔女さんよぉー、無視はダメだろ!! それに俺の夢は医者だって! 何回も言ってっ」
「うるさいのぅ、少し黙っておれ」
黙ってられるか!! こんなのプライバシーの侵害だぞ!
って、あ、あれ? ……こ、声が出ない! あのクソ魔女め!! おい、これは反則だろ!!
「俺の本当の夢……それは単純な事だったんだ。
俺は女の子にモテたかった!! 選り取り見取りの可愛い子に囲まれて生活したい! それが俺の夢だ!! だから俺は今まで必死に勉強してきたんだ!」
大声で叫ぶ円人の言葉に部屋の空気が凍りつくのを俺は感じる。
……終わった。 今までの人生も、そしてこれからの人生も俺に光が刺す事はもう無いだろう。
こんな事をクラスメイトの前で、しかもよりにもよって青蜜の前で暴露されたのだ。 元の世界に帰っても俺に居場所は無いのは確実だ……元々ない様なものだったけど。
それに今にして思えば、あそこまでムキになってこいつを説得したのが仇となった。
俺の必死さが、円人の言葉に説得力を持たせた様なものじゃないか。
「くくくっ、どうしてモテたいと思ったのじゃ??」
口角を上げ見るからに悦に浸る魔女は円人に尚も問いかける。
……もうやめてくれ。 お願いだからこれ以上は。 こんなの、こんなのって酷すぎる。 俺が何をしたって言うんだよ。
俺は必死に心の中で懇願する。 だけどそんな俺の事など気に留めず、円人は魔女の質問に素直に答えていった。
「小学生二年生の時、俺はキングオブハーレムって本を拾ったんだ。
その本の主人公は大して格好良くも無いし、勉強も運動も人並み程度だったのに、ただ優しいってだけで色々な女の子にモテまくっていた。
それが俺には本気で羨ましく思えたんだ」
「キ、キングオブハーレムって……」
何も言わなでくれ影蜜、こっちを見ないでくれ青蜜!
自分でもわかっているんだ。
でも仕方ないんだよ! あの本の主人公の人生は本当に凄い楽しそうだったんだから!!
「その夢がいつの間に医者に変わったのじゃ??」
もう質問すんな! お願いだから黙っててください!!
「俺がハーレムを諦めたのは、中学生になったばかりの最初の夏休みの出来事が原因なんだ」
お前も素直に答えるんじゃない! さっきの任せておけって台詞はどこいったんだよ!! それになにちょっと重たそうな雰囲気出してんだよ!! やめろそれ! クッソムカつくから!!
声に出せない怒りを、視線に込めて魔女に向ける。
そんな俺の顔を見てか魔女はその笑顔を一層輝かせていた。




