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ポンコツなおっさんに今更ながら異世界に召喚されてしまった。  作者: みんみ
ポンコツなおっさんに召喚されてしまった。
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20話 愉悦の魔女


「もう良いだろ、いつまで笑ってんだよ」

 

 いつまで経っても笑う事を辞めない青蜜に、俺は諦めながら言った。

 

 わかっている、面白いよな。 異世界まで来て身長伸びただけなんて聞いた事ないもんな、俺だって自分の事じゃなきゃ絶対笑っているだろうし。

 

「ご、ごめんなさい。 私、まどかさんがそんな悩みを持っているなんて想像できなくて、つい! 本当に申し訳ありませんでした」

 

 思わず笑ってしまっていた事に罪悪感を感じたのか、結衣ちゃんは何度も俺に頭を下げてきた。

 

「いや、良いんだ。 むしろ笑ってくれて助かったよ……」

 

 同情されるよりは笑われた方が良い。 

 自分でも意味のわからない精一杯の強がりを俺は結衣ちゃんに返した。 

 

 まぁ笑われるのには慣れているしな……。

 

「わ、私からも謝るわ。 ごめんねまどかちゃん、だってまさか身長がちょっと伸びる能力なんて思わなかったんだもの。 で、でも素敵な能力じゃない! ゆ、夢の170㎝台おめでとう」

 

「……青蜜、お前謝る気ないだろ?? 完全に馬鹿にしてる言い方だろ、それ」

 

「だ、だって仕方ないじゃない! まどかちゃんが面白い事するのが悪いのよ」

 

 そう言って青蜜は再びお腹を抑えながら大きく笑う。 


 い、いくら何でも笑いすぎじゃない? 俺だって傷付くぞ。

 

「何故笑っておるのじゃ??」

 

 魔女はこの二人が何故こんなに笑っているのかが心底分からないと言った表情を浮かべて青蜜に尋ねた。

 

「え? その……面白かったからよ」

 

「これの何が面白いのじゃ??」

 

 ……どこぞのスーパースターみたいだな。

 

 魔女の言葉に場の空気が少し重たくなる。 青蜜も少し困惑した顔を浮かべたのち、徐々にその表情から笑顔を少なくしていった。

 

「た、確かに少し笑いすぎたかも知れないわね、ごめんなさいまどかちゃん」

 

 この空気に居た堪れなくなったのか、青蜜は俺に向かって頭を下げた。

 

 いや、まぁそんな真面目に謝られても。 なんか余計惨めな気持ちになるし。

 

「どこに笑う要素があったか我にはわからんぞ? 至って健全な悩みだったではないか、身長が低い事や自身の性格を直したいと願う事のどこに笑える所があるのじゃ。 他人の願いを馬鹿にする事ほど愚かしい事はない。 反省すべきじゃな」

 

 魔女の言葉に青蜜と結衣ちゃんはバツが悪そうに沈黙した。

 

 ま、魔女さん! やっぱり長生きしているだけあって言う事が格好良いな。 

 

 そうだ、魔女さんの言う通り何も恥じる事なんて無いじゃないか!! 身長が3㎝も伸びたんだぞ? 

 こんなの元いた世界じゃ有り得ない事だったんだし、誇るべき事の様な気がしてきた!!  

 まぁもう一つの能力は本当に要らないけど……。 

 

「あ、ありがとうございます魔女さん」

 

「礼など良い。 本当の事を言ったまでだからのぅ」

 

 見た目はただの幼女の筈なのに話し方も相まってか、とんでもなく神々しく見える。 


 この人、実は良い人だったりするんじゃないか??

 おっさんが言ってた様な精神を破壊する様な魔女にはとても見えないし。

 

 

「それにな。 どっちかと言うと面白いのは、お主ら二人の方ではないか?」

 

 魔女は青蜜に視線を向けて続ける。

 

「お主ら年はいくつじゃ? 見た目は確かに若いが少なくとも、もう15年程は生きているのでは無いのか?? それがなんじゃ、誰かを助けたいだ、強くなりたいだ、意味不明な願いをして恥ずかしくないのか?? 人の事笑える立場なのか??」

 

 その言葉に二人は同時に頬を赤く染めていた。

 

 も、もうそれくらいで良いよ。 

 それにさっき魔女さんも他人の願いを馬鹿にしちゃいけないって言ってただろ?? 

 だからさ、もうこのくらいでさ。 

 

「我がもしそんな願いを他人に知られた日にはきっと死にたくなる程恥ずかしいじゃろうな! 

 あー恥ずかしい、良くそれで人の事を馬鹿に出来たもんじゃよな。 

 いや、むしろ良くこの場に留まっておれるのぅ。 

 ぷっ、勇者にでもなりたかったのか? それとも癒しの聖女か??

 どっちにしても英雄気取りの小娘共の面の厚い事よのぅ」

 

 もはや頭から湯気が出るんじゃないかと思う程に二人は耳まで真っ赤にしていた。

 

 こ、この魔女ついさっきまで自分で言ってた事を速攻で破り捨てやがった。 

 しかも煽りスキルがとんでもないな。 


 あの青蜜がなにも言えずに只々恥ずかしそうに縮こまっているのを初めて見たぞ。

 

「と、とりあえずさ。 話を先に進めないか?? 魔女さんは結局俺達に力を貸してくれるのかな??」

 

 何だか見ていられなくなり、俺は話を本題へと戻す事にした。 

 

「むっ、まぁそうじゃな。 今の我に出来る事は少ないがお主らを巻き込んだのは我にも責任の一端があるみたいじゃし、この世界が無くなるのは我にとっても都合が悪いからな。 協力してやるとするかのぅ」

 

「そうか、良かった。 じゃあ早速だけど、この本について教えて貰えっ」

 

「じゃが一つ条件がある」

 

 俺の言葉を遮り、魔女は人差し指を立てた。

 

「条件? 何か手伝って欲しい事でもあるのか??」

 

「まぁ無い事もないが、今はまだ良い。 役に立つとも思えんからな」

 

「じゃあ何だよ、その条件ってのは?」

 

「我はな、疑い深いのじゃ。 お主達が我の発明品でこの世界に来た事は認めよう、じゃがそれだけでは我の異世界人への疑いは晴れぬ。 そこでなお主らには自己紹介をして貰いたいのじゃよ」

 

「じ、自己紹介??」

 

 なんか随分と簡単そうな条件だな、それにそんなんで疑いが晴れるものなのか?? やっぱ悪い人ではなさそうだよな。

 

「そうじゃ、ただ名前や趣味嗜好等を教えてくれれば良い。 お主らとは少しばかり長い付き合いになるかも知れんからのぅ。 どうじゃ??」

 

「まぁそんな簡単な事で良いなら。 断る理由もないしな」

 

「そうか! 良かった良かった!! そっちの二人はどうじゃ??」

 

 魔女は目を輝かせて今なお恥ずかしそうに俯いている二人に問いかけた。

 

「私も、問題ないわ。 むしろ自己紹介なんてして当然みたいなものだし」

 

「わ、私も大丈夫です」

 

 声小さっ! 二人とも相当精神力削られてるじゃん……まぁ二人ともあんまり誰かに馬鹿にされるの慣れてなさそうだし仕方ないか。 

 

 ここは早めに切り上げてあげた方が良さそうだな。

 

「二人とも問題ないみたいだから、まぁ先ずは俺からするよ。 俺の名前は福吉円っ」

 

「くくくっ、あっははは!!」

 

 俺の言葉を無視し、魔女は急に高笑いする。

 

 何でいきなり笑ってんだ? なんか面白い事でも言ったか俺??


「久しぶりじゃのぅ、この感覚。 今回も面白い物を見せて貰いたいものじゃ」

 

 今までとは同じ人物に思えない程の下卑た笑みを魔女は浮かべる。

 

 な、何度目だろうか、この嫌な予感は。 

 

「くくくっ、欲にまみれし愚かな人間達よ。 幼き日、誰か付けられし偽りの仮面を脱ぎ捨て、自身の愚かさを再三にして思い出すが良い。

 我、愉悦の魔女リア・リスの心を満たせ、さすれば我の力を貸し得てやろうぞ」

 

 意味のわからない口上を言い放ち、魔女は手を大きく上に突き出して指を鳴らした。

 

 なんか急にダサい口上言い出したけど、まぁ仕草は格好良いな、あれ。

 ……いつかやってみたい。 

 

 ってかどうしたら良いのこれ?? なにも起こらなっ。

 

「え? 何だこれ??」

 

 それは本当に一瞬の出来事だった。 気が付けば、俺達三人は一列に椅子に座らされており、手も足も拘束された状態になっていた。

 

 部屋の内装も全く別の物に変化しており、それはまるで何処かの裁判所を思い出させる様な部屋の作りだった。


 まるで俺達三人が判決を待つ容疑者の様だと想像させる作りだ。


「ちょっとなによこれ! こんなの聞いてないわよ!!」

 

 隣で青蜜が大きな声を叫ぶ。 

 拘束を外そうと身を捩りながら抵抗していたが、外れる気配は一切なかった。

 

 青蜜で無理なら俺にも無理だな……それにしても一体何が始まるんだ?

 

「静かにせい。 この空間は我が創造した小さき世界、どんなに足掻こうがお主がそこから自由に動ける事はない」

 

 俺達の座っている椅子の目の前にある大きなテーブルの上に魔女は立ち上がり嬉々とした表情を浮かべ見下げる。

 

「じ、自己紹介でこんな拘束する意味あるのか??」

 

「保険じゃよ。 下手に暴れられると面倒じゃからな」

 

 暴れる? さっき一体何の話をしているんだ? ただの自己紹介だろ??

 

「さて、では早速始めるとしようかの。 先ずはそうじゃな、やはりこう言うのは男からするべきじゃろうな。 お主名前を申してみろ!!」

 

 男って事は俺の事だよな? 名前ならさっきも言おうとしたんだかな……。

 

「さっきも言おうとしたが、俺の名前は福吉円っ」

 

「お主には聞いとらん。 少し黙っておれ」

 

 な、何なんだよ! 俺以外に男なんていないだろ!! 居るなら姿を表して欲しいもんだ。

 

「あー、なるほど。 俺に聞いている訳か! 凄いな、異世界の魔女様はこんな事も出来るんだな!! か、格好良いなぁ」

 

 ……今、俺に似た声がしたと思ったんだけど、気のせいだよね??

 

 俺が座る椅子の横から誰かが通り過ぎる感覚を感じ、俺はその人物に視線を向ける。

 

 おい、嘘だろ。

 

「初めましてだな、俺!」

 

 目の前に現れたのは紛れもなく俺自身だった。

 

「お主の自己紹介は此奴に行って貰う。 我の魔力で作り出した偽りの仮面を持たないお主自身のぅ」

 

 おっさんの言っていた事は本当だったのだと魔女の笑顔を見て悟る。 

 

 そうだ、自らを愉悦の魔女って言っていた時に気付くべきだったのだ……この魔女が俺達をおもちゃにしようとしている事に。  

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