18話 思いもよらぬ真実
「で、一体これは何なのじゃ??」
「あ、あの! 貴方がこの本の作成者の古の魔女さんなのでしょうか??」
ただならぬ空気の中で青蜜は振り絞る様な細い声で目の前にいる魔女に本を向けて質問した。
す、凄いな。 俺はまだ衝撃が強過ぎて声も出そうに無いのに……本当頼りになるな。
「ふむ、これは確かに我が作った物じゃな。 随分久しぶりに見たが魔力の痕跡から見て間違いないじゃろうな」
まじまじと差し出された本を見つめながらそう言い終えると、魔女は再び俺達へ視線を戻す。
「それはそうとお主ら一体何者なんじゃ?? あのポンコツのお友達か??」
「いいえ、違います、私達はただの協力者です。 魔女様、急な無礼をお許しください。 ですが私達にはどうしても知りたい事があったのです。
もし本当にこの本の通りにこのまま日記が進んだ場合、この世界は滅びる事になるのでしょうか??」
異世界っぽい体験をようやく出来て嬉しいのか、青蜜は少し芝居がかった口調に変わり魔女に質問する。
これも気持ちはわかる、魔女を召喚するなんてあっちじゃ絶対に出来ないだろうからな。 正直俺も興奮しているしな。
でもこう言う時ってこの世界じゃ大抵、後で恥をかく事になるんだよな……。
「協力者じゃと?? ……はっ! まさかお主ら何処かから転生とか転移とかして来た訳ではあるまいな??
いや、絶対そうじゃろ! じゃなきゃあんなポンコツに協力する者などいないであろうからな!!」
流石魔女様……鋭い。
「流石魔女様ですね。 その通りです、私達三人は皆、こことは違う世界からあのおっさんに呼ばれたのです」
「そうか! では何も話す事はないの!!」
「なっ、なんでだよ! 何かヒントくらい教えてくれたって」
「黙れ! クソ餓鬼!!」
く、口悪いなぁ。
やっと声を挟める事が出来た俺を魔女は睨みつけ、イラつきを隠さずに続ける。
「我はな、異世界人が大っ嫌いなのじゃ!! どうせお主らも女神だが、創造主だがに都合の良い力を貰っておるのじゃろ??
元にいた世界ではどうせ大した事もして無かった癖にな!! 人様から貰った力をさも自分の才能だと勘違いしておる腐った奴らじゃろ!! 」
なんか凄い怒ってない??
「まぁ別にそれはまだ許せる。 だが我が最もムカついておるのはあの意味不明な強さじゃ! おかしいじゃろ!
なんで異世界から来たってだけでそんな強力な力が貰えるんじゃ??
普通逆ではないか!! 神や女神なら既存の人間に優しくすべきでは無いのか!
正体不明の新規の人間如きに優しくしてどうする!!
本当に困った時にそいつらは命をかけて行動するのか?? するわけないじゃろ!!
行動を起こすのも、犠牲になるのも結局はその世界に住む民達では無いか!!
神ならそっちを救うべきじゃろ!!
異世界人がする事と言えば、ドヤ顔で力を見せびらかして自己満に浸るのみ、なんの役にも立たんわ!!」
魔女は鬱憤を晴らす様に大声で捲し立てる。
ど、何処かで異世界人に痛い目にでもあったんだろうか……余程の恨みを感じるな。
あっ! これはあくまでこの魔女の思想だからね?? 俺は異世界人好きだよ。 格好良いし!!
おっさんが聖女に対して怒っていた時と同じく俺は見知らぬ誰かに言い訳する。
下火になったとは言え異世界系もまだまだ人気だから、ほら、一様ね……。
にしても、これは困ったな。 便りの綱だった魔女にここまで強烈に拒否されるとは。 これは結構骨が折れるかもな。
「あ、あのぅ! 魔女さん! 私はあんまり異世界人がどうとか詳しくないので、なんとも言えないのですが、少なくとも私達、いえ私には特別な力なんてないと思います!
神様や女神様、それに創造主? って方にもお会いしてませんし……」
結衣ちゃんが少し声を震わせながらも魔女に話しかけた。
あぁ、そうだった。 結衣ちゃんの言葉で思い出したけど俺もなんの力も貰ってなかったわ。
それどころかこの世界の文字も読めないし……まぁ言葉が通じるだけマシかもだけど。
……俺もチートもらえる世界に行きたかったな。
「はんっ! 嘘を吐くでない! では一体どうやってこの世界に来たと言うのじゃ!!
言っておくがあそこで死んだ振りをしているポンコツにそんな力が無いのは知っておるからな??」
魔女は倒れているおっさんを指差して言い、その言葉におっさんの身体が反応を示す様に僅かに動く。
あのおっさん生きてたのか。
ってかもしかして、このままこの場をやり過ごそうと考えてたのか??
……本当にせこいな。
「う、嘘ではありません! 私達はその、違う方法で……」
結衣ちゃんが困り顔を俺に向けた。
か、可愛い。
「ゆ、結衣ちゃんの言ってる事は本当だよ。
俺達は間違えなく違う方法でこの世界に来たし、残念だけど俺にも特別な力なんて無いと思う。
俺達がこの世界に来れたのはそこにある貴方が昔作った機械の力なんだ」
俺は機械の方に指を向けると、魔女もそれに続く様に視線を動かす。
「はぁ? これで? 何を馬鹿な事を言っているんじゃ? 確かにこれも我が随分昔に作った物ではあるが、これはあくまで異世界の資源を取り寄せその最中に加工する物じゃぞ??
お主らにもわかる様に簡単に言えば石ころを召喚しその工程でダイヤモンドにするとかそんな程度のものじゃ!
こんな物で人間一人を召喚させようとすれば、負荷に耐えきれずその人間はほぼ間違えなく死ぬじゃろうな。
まぁ勿論試した事はないから、理論上はだがな。
作った本人に対して嘘を吐く根性は見上げたものじゃが、そんな事で騙される我では……って何をそんな青ざめた顔をしているのじゃ??」
きっとその時の俺達は全員同じ表情を浮かべていたんだろう。
「っておい! どこに行くのじゃ!! まだ話は終わってないじゃろ!!」
俺達はそのまま一言も声を出す事なく倒れているおっさんの元へ歩き出した。
「おっさん、何か言い残す言葉はある??」
青蜜が冷たく言い放つ。
「……し、知らなかったのじゃそんな制限があるなんて、わ、わしも被害者じゃ」
「「「はぁ??」」」
そこから先の事はあんまり覚えていない。
怒りに支配されて自分を失っていたのだと思う。
俺が再び自我を取り戻した時、俺の手には何故かおっさんの頭に残っていた筈の僅かな髪の毛が絡まっていた。




