17話 期待外れ
「ほ、本当に呼ぶのか? 相手はあの魔女じゃぞ? お主らが精神に異常をきたしてもわしは責任取らんぞ??」
「うるさいわね! もう決まった事じゃない!! 今準備しているんだから邪魔しないで!」
「……はい」
おっさんの言葉に青蜜が冷たく反応を返していた。
まぁ仕方ないよおっさん。 おっさんが悪いもん。
おっさんから魔女を呼ぶ方法を聞き出した俺達は早速その準備に取り掛かっていた。
途中何度もおっさんの横槍が入ったが、基本的にはおっさんの話は無視すると決めていた為、黙々とその準備を仕上げていく。
「結衣殿ぅー! 本当に良いのか? お主がお主で無くなってしまう可能性もあるのだぞ??」
「……みんなで決めた事なので」
作業も終盤に近付きおっさんの邪魔も徐々に力を増していく。
まだ言っているのか……いい加減諦めて欲しいものだ。
確かにおっさんの言う、精神に異常をきたすってのが本当なら恐ろしいが、多分あれはおっさんの嘘だろう。
嫌味を言われるのが嫌だって言ってたしな。
「こっちは完成したわよ!」
「こ、こちらも終わりました!!」
少し離れたところから青蜜と結衣ちゃんは声を俺に手を振ってきた。
後は俺だけか。
おっさんから教えてもらった魔女の呼び出し方法は驚くほど簡単なものだった。
部屋の四隅に血で二重丸を描きその内側を塗りつぶす。 その後は部屋の中心地にもう一滴血を垂らせば魔女を呼べるらしい。
正直こんなので呼び出せるのか不安で仕方ないけど、青蜜に脅されたおっさんが嘘をつくとも思えなかったのでとりあえず実行する事にしていた。
話し合いの結果、反対の二角はおっさんの血でこっちの二角は俺の血を使う事になったのだが、思った以上に血ってあんまり出ない。
良く漫画とかで簡単に出してるの見てたけど、あいつらも我慢してたのかなぁっと俺は思った。
だってこれめっちゃ痛いから!!
「まぁこんなもんで良いだろ」
ようやく作業を終えた俺は、みんなが待つ部屋の中心地へ戻る。
「終わったの??」
「あぁ、軽く貧血気味かもだけどな」
「だ、大丈夫ですか??」
「これくらい世界を守る為ならなんて事なっ」
「嘘に決まっているでしょゆい。 馬鹿はほっときましょう」
あ、青蜜!!
せめて最後まで言わせてくれても良いだろ!
こんなのあっちの世界じゃ絶対言うタイミングないんだから!!
「なぁ……本当に呼ぶのか??」
おっさんは心底嫌そうに言った。
そ、そんなに嫌なのか……何かトラウマでもあるのだろうか??
「もう決めた事なの!! まどかちゃん、お願いね」
「お、おう!」
青蜜の言葉に促され俺は自分の手の傷口から血を絞り出す。
何とか数滴出た俺の血はそのままゆっくり部屋の地面に落ちていった。
何の音もせずに落ちた血はそのまま地面に吸い込まれる様に消えて無くなり、その箇所からみるみると煙が立ち昇って来た。
周りの皆が見えなくなる程の煙が視界を覆った時、その中心地に人影がある事に気付いた。
ほ、本当にこんなので呼べるの? お手軽過ぎない??
古の魔女……綺麗な人だったら良いな。
「むっ、何じゃ?? この感覚は……あのクソポンコツ!! またくだらん用事で我を呼びおったな!!」
聞いた事のない声が部屋に響く。
どうでも良い事で悪いんだけど、口調がおっさんと被っているんだよな……。
なんかもう見た目よりそっちが気になってくるわ。
「ちっ、折角良い所じゃったのに!!」
俺の視界からゆっくと煙が晴れていく。
目を見開いてその中心にいる人物を凝視する。
やっぱ見た目の方が気になるわ!!
「……こ、子供??」
思わず声に出してしまう。 目の前には小さい女の子が一人だけ立っていた。
「おい。 今、誰か我の事を子供と言ったか??」
俺の身長の半分ぐらいしかない少女は凄む様にこちらに目線を向ける。
緑色の目に整った顔立ち、目立つであろう長く白い髪は大きく二つに束ねている。
服装は……ん? これは制服か? しかもなんか園児みたいのだな。
本当に魔女の子供が来たんじゃないか、これ。
「わ、私ではありませんぞ!! この者です!! この者が言ってました!!」
おっさんは少女に頭を下げ、一瞬で俺を売る。
ほ、本当の事だけど、この身軽さは恐ろしいな。
でもおっさんがこんなに怖がっているのを見ると、どうやらこの子が古の魔女で間違えないらしい。
……はぁー、ロリ魔女か。 期待して損したなぁ。
「嘘つけ! どう考えてもお前じゃろがぁ!!」
魔女の言葉と共に俺の隣にいたおっさんの姿は部屋の壁際まで飛んで行った。
…い、今何かしたのこの子??
全く動いてなかった様に見えたんだけど!! ってかおっさん大丈夫なのか??
後ろを振り返りおっさんの様子を確認する。
意識が無いのかぴくりとも動かない。
まさか、おっさん死んだんじゃ無いよな??
こ、この子の事を子供とかロリとか言うのは絶対辞めよう、あんなの俺は耐えられないだろうし。
……ごめんなおっさん、俺の身代わりになってもらって。
おっさんに感謝の気持ちを持ちながら、俺は目の前の魔女に目を戻す。
見るからに不機嫌な魔女をこれ以上刺激しない様にしようと俺は心に決めた。




