3話 防衛戦略会議始まります!?
「えっーと……あのさ、悪いんだけど先ずはこの状況を説明して貰えっ」
「私は反対ね」
困惑する俺の言葉を遮り青蜜は力強い声で続ける。
「敵の国に単身で乗り込むなんて危険すぎるもの。 いくらまどかちゃん本人が行くって言ってもそんなの絶対に止めるべきじゃない!!」
「そうです!! まどかさん1人を危険な目に合わせるなんて私も納得出来ません!!」
「青蜜……結衣ちゃん……」
……ごめん、なんか熱く語ってる所で悪いんだけど2人とも何の話してるの??
「まぁお主らはそう言うと思っておったわ……ルカはどうじゃ??」
「私の意見を聞く必要はないでしょ?? 私がダーリンを1人で敵国に送るなんて馬鹿な事に賛成すると思ってるの??」
「う、うむ、まぁそうじゃよな。 メロも同じ意見か??」
「そうね、私としてはいつだってお兄ちゃんのやりたい様にさせてあげたいんだけど、今回はそうも言ってられないかな。
あいつの国に行けば命の補償なんてないもの」
リアに話を振られた2人は不満そうにそう告げた。
……うん、何となくわかってきたわ。
つまりあれだ、俺が勘違いしてたってわけだな。
リアが言いたかった事って日本に帰れって事じゃなくて敵国に偵察に行って欲しいって事だったのか!!
何だよ、てっきりお払い箱かと思ったじゃねぇーか。 良かった良かった、ちょっと安心したわ。
偵察くらいなら1人でも行けっ………いや、そっちの方が無理じゃね??
俺1人とか死にに行くようなもんじゃね??
話の流れを理解した俺の背中にじんわりと汗が滲み始める。
ま、まぁでも青蜜達も反対してるし多分大丈夫だろう。 いざとなったら格好悪いけど勘違いしてたって言えば良いしな。
そもそも俺1人が行った所で何の情報も得られないと思っ。
「わしは賛成じゃな」
みんなが反対意見を言う中、人混みに紛れていたおっさんが静かにそう呟いた。
お、おっさん!! 居たのか!! 座ってないから全然気付かなかったわ!! いや、それよりも今なんて言った??
も、もしかして賛成って言った??
「……おっさんは黙ってなさい。 部隊長じゃない貴方にはこの場での発言権は無いわ」
えっ?? 今のおっさんってそんな地位低いの?? これでも国王だよね??
ってかその言い方だと青蜜と結衣ちゃんは隊長なの?? 成り上がりがすげぇーな、おい!!
「ぐぬぬっ、確かにあかね殿の言う通りじゃがこの場は流石に黙ってはおれぬ!!
お主らはまどか殿の男の覚悟を無駄にする気か!!」
いつになく真剣な表情でおっさんが叫ぶ。
……あれ?? なんか嫌な流れを感じるんだけど気の所為だよね??
いやいや流石に大丈夫だろ、あのおっさんが青蜜達を説得出来るとは思えないもん。
「男の覚悟?? 何よそれ??」
「まどか殿はな、今回の旅が危険な事など重々理解しておる。 その上で、自分の命を賭けてまで敵国の偵察に行くと言ったのじゃぞ?? その覚悟が如何様なものかお主達にわかるか??」
「それはっ……で、でもたった1人でなんて!!」
「仕方ないではないか!! 聞けば魔素に嫌われてるまどか殿にしかアザミレアに気付かれずに潜入する事は不可能らしいではないか!!
そこの魔女もそう言ってた筈じゃ!!」
「……まぁそれはその通りじゃが」
あぁ、なるほど、だから俺1人なのか!!
魔素の嫌われ者じゃなきゃバレちゃうって話だったのね!! 納得したわ!! ……つら。
「おっさんが何を言っても無駄よ、私は意見を変えるつもりは無いわ。 絶対にダーリンを行かせないから」
「ルカっ」
まぁ実際バレずに潜入出来ても意味なさそうだしな。
……うん、おっさんはもう変なこと事言わなくても良いぞ。
正直に言えば1人で行くのは嫌なんだよなぁー、日本ならまだしも敵国なんて俺には荷が重すぎる。
「はぁー、お主らは何もわかってないのじゃな」
喋るなって!!
「……どう言う意味よ??」
俺の心境など露知らずおっさんは話を続ける。
「此度の話、魔女の話じゃまどか殿が即答したらしいではないか。 その意味がお主達にわかるか??」
「まどかちゃんは優しいもの、きっと断れなかったんでしょ」
……あっ、ごめん青蜜、勘違いしてなかったら多分断ってたわ。
「馬鹿者!! そんな訳ないじゃろ!! まどか殿はなっ!! まどか殿はお主らの事を第一に考えて決断したんじゃ!!」
………。
「わ、私達の事をですか??」
「そうじゃ!! 現状、我らの軍がアザミレアに勝てる確率は低い。
じゃが奴らがいつこの国に攻め寄ってくるか、どう言う戦略を取るのか、詳しい情報さえ手に入れば戦況をひっくり返す事も可能じゃ!!
それはつまりまどか殿にとって大切な者達を救う事が出来ると言う事になる」
「まどかちゃん」
「まどかさん」
「ダーリン」
「お兄ちゃん」
……いや、そんな目で見られても困るんだけど。
「わかったか?? お主達の命はまどか殿にとって自分の命より大事なのじゃ。 もう一度聞くぞ?? ここはまどか殿を信じて送り出してやるべきではないのか??
それが覚悟を決めた男に捧げる女の愛情だとわしは思うがのぅ」
「……」
え?? 嘘でしょ?? 何この空気……マジで言っての??
「ふぅー、そもそも偵察と言っても長くて1週間程らしいではないか。 流石のまどか殿もその様な短い期間で大きなヘマはしないじゃろう。
ここは信じて送り出してやるべきではないか??」
「……」
あっ、ダメだ。 なんかもう引き返せない所まで来ちゃってる気がする。
いつもなら起こり得ないおっさんの渾身の説得劇に俺は戸惑いを隠せなかった。
「……どうやら結論は出たようじゃな。 まどかよ、お主がそこまでの覚悟を決めておるならこれ以上我等が口を挟むのは野暮と言うものじゃろう」
「ち、ちょっと待ってくれ!! 俺は別にっ」
「ごめんね、まどかちゃん。 そんな風に思ってくれてるなんて考えてもいなかったわ。
余計な事を言ったわね、私達」
おいおいおいおい青蜜さんよ。
いつもは俺の思考を完璧に読み取ってるよね?? 何で今回に限って精度ガタ落ちなの??
嫌だからね?? 行かないからね俺??
1週間って全然短くないから!! 1日で死ぬぞ、マジで!!
「……さ、最後にもう一度だけ確認して良いか?? まどかよ、お主は本当にアザミレアの国に単身で乗り込むんじゃな??」
「リ、リアさん!!」
「わ、わかっておる!! 今更此奴の気持ちが変わるとは我だって思ってはおらぬが、それでも……もう一度考え直して欲しいのじゃ。 我が頼んだ事とは言え、出来るなら断って欲しかったのじゃ」
「うぅ……ダーリン……ダーリン」
「お、お兄ちゃん絶対に無事に帰って来て」
全員が顔を俯き涙声で小さく呟く。
「………行くよ。 俺は俺が出来る事から逃げたくないんだ。
任せてくれ、必ず有益な情報を持ち帰ってくるから!! 全員が笑って過ごせる未来を掴みとる為だしな。 って事で留守を頼んだぜ、みんな!!」
……うん、こんなの断れないじゃん。 この状況でやっぱ辞めるなんて言える奴が居たら教えて欲しいわ。 月に変わってぶん殴ってやるから。
その後の事はあんまり覚えていない。 リアがなんか色々言ってた気がするけど、頭に入って来なかった。
最後まで作り笑顔を浮かべる事しか出来なかった俺の目におっさんのしたり顔が映る。
……あの野郎、さては気付いてやがったな。
無事に帰って来れたら真っ先にあのムカつく顔を殴ろう。
こうして俺にとって最初で最後の防衛戦略会議とやらは終了した。
次話更新今日中




