1話 あいつの聖剣、格好良すぎだろ!!
「お主らぁ!! そんなで侵略者からこの星を守れると思っておるのか!! もっと根性見せぬかぁ!!」
「その通りじゃ!! 奴やは相当に強敵じゃぞ。 自分の国を、大切な者を守りたいと思うなら死ぬ気で頑張らぬかっ!!」
「は、はいっ!!」
窓から響くおっさんとリアの怒鳴り声を聞きながら俺は自分の部屋から外を眺めていた。
リアもおっさんもかなり真剣だな、まぁ自分達の国の未来がかかってるんだし当然か。
兵士達に混じってる青蜜と結衣ちゃんも本気で強くなろうと努力してるんだろうな。
「……良しっ!! 俺も自分に出来る事をやらないとな!!
先ずは溜まってる訓練服の洗濯からだな、早く手伝いに行かないと!!」
時計を確認し俺は早歩きで洗濯場へと向かう。
勇者との戦闘が終わり何故かのんびりと休日を過ごしていた俺達だったが、冷静に考えるとこの星がアザミレア達の襲撃を受けるのはもう間近なんじゃないかと言う事に気付き、今になって急いで戦闘の準備を始めていた。
……今にして思えば何であんなに余裕ぶってたんだろうな。
勇者を倒した事でちょっとだけ浮かれてたんだろうけど、俺を含めてみんなちょっと異常だったよな。
ま、まぁそれは置いといて見ても分かる通りリアとおっさんは兵士達の基礎能力を高める為に日々ああして訓練を監視している。
因みにルカとメロがあの場に居ないのは魔法部隊の方を見守っているからだ。
青蜜と結衣ちゃんはその両方の訓練を日によって受けてるのが今の俺達の現状かな。
え?? 俺は何してるかだって??
勿論俺にだって仕事はあるさ。 みんなが集中して訓練する為には大量に出る洗濯物や兵士達の食事を用意する人が必要だからな。
い、いや、こう言う雑用だって大事な仕事だからね??
縁の下の力持ちが居てこそ兵士達は戦えるってもんだから!!
まぁ殆どこの城の執事やメイドさんがやってくれてるし、むしろ俺は少し邪魔してる様な気もするけど。
と、とにかくみんなが今出来る最大限の事をしてアザミレアって侵略者を迎え撃つ!!
これが俺達がこの間話し合って決めた内容だ。
「……うん、わかってるよ」
現状を思い返し自分の必要性を一切感じなくなってしまった俺の足が勝手に止まる。
要らないよね俺。 なんか流れでこっち世界に戻って来たけど明らかに足手まといだもんな。
日本で大人しくしてた方が良かったまであるよね??
「……とりあえず一旦部屋に戻ろう」
来た道を振り返り、重くなった足をゆっくりと動かして俺は自分の部屋と帰る事にした。
「ああぁぁ!! 何でいつも俺だけこんな感じなんだよ!!」
部屋に戻って来た俺は枕に顔を沈ませながら全力で不満を叫ぶ。
「俺も特訓したいぃ!! 雑用じゃなくて最前線で戦ってみたいぃ!!」
………まぁ流石にそれは無理だって俺にもわかってるよ。
異世界に来て未だに魔法も使った事ないし、青蜜や結衣ちゃんみたいに身体強化だってされてないからさ、完全に戦力外だって自分でも知ってるよ??
でもさ、明らかに次が最終決戦じゃん!!
普通の流れで言えばなんか上手い事能力が覚醒しても可笑しくない頃合いじゃん!!
何だよこの扱い!! 嫉妬で頭がおかしくなりそうなんだけどっ!!
俺はそのまま数分間、心の中で愚痴を溢し続けた。
「ふぅー……叫んだお陰で大分落ちつてきたかもな。 うん、今更無い物ねだりしたってしょうがないよね。 今までもずっとこんな感じだったんだ、考えてみれば慣れたもんだったわ」
それに今回は前回と違って少し違う所もあるからな。
落ち着きを取り戻した俺は壁にかけてある剣を手に持ち鞘から抜き出す。
「ふぁー……何回見ても格好良いなぁ、これ」
目の前で綺麗に光り輝くその刀身に思わずうっとりしてしまう。
勇者が置いていった伝説の剣、名前は確かミルバースとかって言ってたよな。
リアは勇者が使わなきゃただの光る剣だって言ってたけど、正直剣なんて光れば十分だろ!!
キラキラしてるだけで俺的には満足なんだよな!! だって見て!! マジでこれめちゃくちゃ格好良いから!!
「これを貰えただけでも異世界に来た甲斐があったって言っても過言じゃないよ本当に」
……誰も居ないよな??
ベットから立ち上がり周囲に誰も居ない事を確認する。
よ、良し、今なら出来そうだ。
俺は一度剣を鞘へと仕舞い呼吸を整えてポーズを決める。
「わ、我が聖剣ミルバースよ!! 魔を滅する輝きを放ち混沌の闇を打ち破れ!!」
……き、気持ちいぃ!! うわぁーこれやばいな、厨二心を揺さぶられまくるわ。
何回でもやり直したくなっちゃうもん!! もっと良い口上考えて色々試そう!! 意外にシンプルなのも良いかもな!!
「光合せよ!! 聖剣ミルバース!!」
かぁー!! 楽しいぃぃ!! 光合せよとかめっちゃダサいけど、それがまた楽しいぃぃ!! マジでこの聖剣気持ち良すぎだろ!!
も、もっと色んなパターンで光らせよう!!
その後も上がりまくったテンションを抑える事などせず、俺は存分に勇者の残した聖剣で遊ぶ事にした。
「はぁはぁ……ちょっと疲れてきたな。 まぁでも最高に楽しかったわぁ!!」
「おっ、ようやく終わったのか?? 因みにじゃが良い口上は出来上がったのか??」
「あー、それがまだ悩んでるんだよな。 まぁ時間だけはあるしゆっくり決めっ……い、いつからそこに居たんだ??」
俺が振り返った先にはベットの上で退屈そうに寝転がるリアの姿があった。
もしかしなくても聞かれてたよね……クソ恥ずかしいんだがっ。
「ん?? あぁ、確か光合成がなんたらって時くらいじゃったかな。
ってどうしたのじゃ?? 顔が真っ赤じゃぞ??」
「別に何でもないけど?? いつもこのくらい赤いけど??」
「はぁー、まぁ安心せい。 勝手に入った我も悪かったし、こんなくだらぬ事など誰にも言ったりなどせぬわ」
「……助かる」
汗が滲む額を拭いながら、俺は静かに剣を元の位置へ置きリアの隣に腰を降ろした。




