とある勇者の仲間達 〈ルカ編〉
「……なんですって??」
「あれ?? 聞こえて無かったのか?? んー、わざわざ2回言う意味もないんだけどな。
まぁ面白いからもう一回だけ教えてあげるよ、俺は優しいからね」
目の前の男は薄ら笑いを浮かべながら話す。
「お前達と最初にあった時に冴えない男が居ただろ??
ほらっ、あの洗脳が得意だとか言うクズ野郎!! あいつの記憶全部消しといたから」
「なっ!?」
「どうせお前達あいつに嫌な事でもされたんだろ?? じゃなきゃ俺の誘いを断る理由がないもんな」
「い、いや私達は別にっ」
「あー、大丈夫大丈夫。 無理して強がらなくて良いさ、嫌な記憶だろ??
それに安心して欲しい、あの男には他の女の子にも手を出せない様にもしておいたから」
「ほ、他の女の子にもですか??」
「あぁ、あいつにはとっておきの魔法をかけたからね」
「とっておきの魔法じゃと??」
リアの質問に男は遂に我慢出来なかったのか、笑い声を交えて答える。
「くくくっ、それはな、目覚めてから最初に見た男を好きになるって魔法だ。
面白いだろ?? あの調子じゃおそらく相手は隣にいたおっさんだな!!
あっははは!! 洗脳男には自業自得の魔法だろ?? きっと今頃、2人で仲良く眠ってるんじゃないか?? 一緒に風呂にでも入った後でな!!」
「……こ、殺すっ!!」
「ま、待ってくださいルカさん!! ダメです!!」
既に動き出していた私の胴体に結衣が飛びつく。
「は、放しなさい結衣!! この男、ダーリンになんて事をっ!!」
「……ダーリンだと??」
「お、お待ちください勇者様。 どうやら彼女はまだ洗脳が解けきっていないみたいです!!」
「そうじゃ!! あっ、いや、そうですぞ!! 此奴は我らの中でも特に強い洗脳を受けていたので、まだ後遺症がっ」
「……そうか、なら仕方ないか」
そう言うと男は抜き出した剣を鞘へと戻す。
「お前達、ちゃんとこいつの洗脳を解いておけよ。 これから先、一度でも俺の前で他の男をダーリンなんて呼べば……その時は容赦しないからな」
「わ、わかりました勇者様」
「ふんっ、胸糞悪いぜ全く。 俺は宿に戻るからお前達は引き続き魔王を探し出せ!!
わかったな!!」
「「「はっ!!」」」
私を除く3人が男の言葉に息を揃えて返す。
その状況に満足したのか男はそのまま一切振り返る事なく来た道を戻って行った。
「……どう言うつもりなの??」
「お、お主こそどう言うつもりなのじゃ!!
あのまま彼奴に逆らえば間違いなく殺されておったぞ!!」
「別に良いわよ!! 貴方達だって聞いたでしょ?? あいつがダーリンにした事をっ!!」
「そ、それはじゃな……」
私の言葉にリアは口を噤む。
「き、記憶を消したって言ってたのよ??
それがどう言う意味か貴方達はわかっているの?? ダーリンはもう私の事を覚えていない、全部無かった事になってるのよ!!
そんなのっ……そんなの許せないじゃない」
流れる涙を私は抑える事が出来なかった。
ダーリンと共有してる記憶は私にとって大切な物ばかりなのだから。
「本当にごめんなさい、私の所為でこんな事にっ」
「……なんでブルーちゃんが謝るのよ」
「だって……だって元はと言えば私が突っ走って余計なことをしたからじゃない!!
私、今すぐ勇者に謝ってくる!! 本当は全部嘘なんだって!! そうしたらまどかちゃんの記憶くらいっ」
「よ、よせ!! 無駄じゃ、この数週間でお主らもわかったじゃろ!! あの男は我らが謝った所で許しなどせぬ!! むしろ逆効果じゃ!!」
「で、でもっ!!」
「リアさんの言う通りです。 あの人はまどかさんとは違います!! 私達の話など聞く耳さえ持たないでしょう」
「き、聞いて貰うわよ!! 私はどうなっても良いけどまどかちゃんは関係ないもの!!
こうなったらあいつの愛人にでもおもちゃにでもなっ」
「良くありません!! あかねちゃん1人だけが責任を負うなんて私は絶対に許しませんから!!
つ、罪は私達全員にあるんです……勝手に償おうとしないで下さい」
「結衣の言う通りよ、私は別にブルーちゃんを恨んだりしてないもの」
「……結衣、ルカ」
そうだ、ダーリンがこうなった責任は私にもある。
だったらいっそ私があいつのっ。
「何度も言わせるな、その考えは無しじゃ。
彼奴は我が見てきた転生者に良く似ている、我らがどう足掻こうがその決定を覆す事はない」
私の思考を読んだのか、リアは静かな声で呟く。
「……じゃあどうすれば良いのよ。 このまま見て見ぬ振りをしろって言うの??」
「あぁ、そうじゃな」
「っ!! 話にならないわ!! あんたがそんな奴だって思わなかった!!
言っておくけど、私は絶対にダーリンを見捨てたりなんてしないから!!」
「そうか、なら今すぐにでもあの勇者様と恋人ごっこでもしてくるが良い、いや、お主の場合は我慢できずに特攻しそうじゃな。
それが望みならもう止めはせん、さっさと死んでくるが良い」
「リ、リアさん!! いくら何でも酷すぎます!!」
「酷いじゃと?? はんっ、我からすれば望みの無い賭けに出てまどかを諦める方がよっぽど酷いがのぅ!!
良いか?? まどかは死んだ訳では無いのじゃ!! だとすれば我らもここで死ぬ訳にはいかないではないか!!
さっさと魔王を見つけてあの腐った勇者と共にこの星を救う!! それがまどかの望みでもあるしのぅ」
「……」
「たかが勇者の魔法なんぞに怯えおって!!
お主の愛とやらはその程度なのか?? まぁ我としてはライバルが減って都合が良いがな」
「……ダーリンが記憶を取り戻す保証でもあるの??」
「そんなものあるわけないじゃろ?? 仮にも勇者じゃ、今の我にどうにか出来る物ではないのぅ。
……じゃが、仮に記憶を取り戻せないなら新たに刻んでやれば良いだけじゃ。
今度こそルカという女を忘れられない様にのぅ」
「お、おっさんを好きになってるかも知れないのよ??」
「うっ……それはっ……ええぃ!! 別にそんなもの構わんではないか!! 彼奴はハーレムを目指しておったのじゃぞ?? またその心理状態になる可能性は高い!!
そしてあのポンコツはその中の1人ってだけじゃ!!」
「……何よそれ。 ふふっ、めちゃくちゃじゃない」
リアの焦った表情に私は思わず笑ってしまった。
「ルカさん??」
「ごめんなさい、結衣。 それからブルーちゃんも」
「えっ??」
「私、やっぱりあんな奴の言う通りになんて出来そうにないわ。 それから死ぬのも嫌みたい」
ありがとうリア、お陰で決心が付いたわ。
「過去から未来にまで飛んできたって言うのにダーリンの側に居られないなんて嫌だもの。 さっさと魔王を倒してみんなで帰りましょう??」
「……ルカ」
「そんな顔しないでよ、ブルーちゃんを恨んでないって言ったでしょ??」
「そうだけどっ」
「それからリア、残念だけど貴方はライバルじゃないわ。 そもそも最初から私の圧勝だから」
「……くくっ、その根拠の無い自信はどこから来るんじゃ?? まぁその方がお主らしいがな」
「いや、これは根拠あるけど?? 多分、ダーリンはリアの事だけは一切性的に見てないわよ」
「なっ、そんなわけないじゃろ!! 我が一番大人の魅力に溢れておるのに!!」
「年増なだけじゃない。 見た目は幼稚園児だし」
「ぐぬぬっ……し、しかしまどかの事だからこう言う見た目も好きな筈じゃっ」
「はいはい、魔女の嫉妬は放っておきましょう。 さてと、さっさと魔王を見つけに行きましょうか。 ブルーちゃん、今日は何処に行くの??」
「えっ?? そ、そうね!! 今日もこの間と同じ所に行きましょう!! 魔力の痕跡があったもの!!」
「結衣、準備は良い??」
「は、はい!! いつでも行けます!!」
「お、おい!! 無視をするでない!! あっ、こら!! 待てっ!! 我を置いていくな!!」
私達は勇者に言われた通り魔王探しを再開した。
待っててダーリン、私の事を必ず思い出させてあげるから。 おっさんとはあまり仲良くなっちゃ駄目なんだからね??
そして今度こそ忘れられない思い出をダーリンと……。
「ん?? 何じゃお主顔が赤いぞ?? 風邪か?? 風邪なのか??」
「う、うっさい!! 何でもないんだから!!」
勇者と旅を始めて10日目。
私達は遂に魔王の手下を見つけた。




