42話 勇者に出会ってしまった 1
「遂に本性を現したか、この外道魔王め。
だがなお前の野望はこの俺が必ず打ち砕く!!
何故なら俺は、この世界を守る勇者だからだ!!」
俺の言葉に勇者は何処か嬉しそうに叫ぶ。
……なんか楽しそうだな、あいつ。 テンプレの台詞を無理矢理詰め込んでるし。
まぁそりゃそうそうだよな、魔王を倒す時なんて一番興奮する所だもん、盛り上がるなって言う方が失礼だよな。
ってかそんな事よりやっぱ恥ずかしいわ!!
何回も言ってるけど俺魔王じゃないんだもん。
自慢じゃないけどむしろ人間の中でも弱い部類だからね!!
「神戦に使われし古の聖剣よ。 今こそ、その力をここに示せ!!
さすれば俺がお前に魔王の血を注いでやる!! 来い、ミルバース!!」
そんな俺の考えなど知るよしも無い勇者は腰に刺していた剣を鞘から抜き出した。
うわぁ、何あれ!! 格好良い!!
さっきまで出してたのに、いつ間にか鞘に戻していた所を差し引いても格好良いと言わざるを得ない!!
だってキラキラしてるもん!! なんかほらっ、凄いキラキラしてる!!
「おい、お主が見惚れてどうするのじゃ。 それとも何じゃ?? あの剣になら心臓を突き刺されても良いと言うのか??」
「あっ……うん、そうだよな。 あれ俺を殺そうとしてるんだもんな」
リアの言葉で冷静になった俺は再び勇者の剣に目を向ける。
でも本当凄い光ってるよなぁー。
一体あんなの何処で手に入れたんだよ、テレビでも見た事ないぞ??
やっぱ地球には色々な可能性があるって事かぁー、なんか嬉しいな。
「何をニヤニヤしておるのじゃ?? 正気か??」
「正気だよ。 たださ、リアは前に地球にはあんな神具はないって言ってたよな?? 実はあの時俺はちょっと寂しかったんだ。
だってそれじゃロマンが無いだろ??
だから敵とは嬉しいな、あんな格好良い剣がこの星にあったなんてっ」
「はぁ?? 馬鹿かお主はっ!! あんな剣がこの星で見つかるならとうの昔に我が回収しとるわ!!
あんなのどう見てもプレゼントでは無いか!!」
「プレゼント??」
「あぁ、そうじゃ。 大方いつもの転移者ガチャの副産物じゃろう、彼奴は他にも五大属性の魔法を使えるし聖気だって扱えるしのぅ。
仮にも勇者として転移してきただけあって良い能力をもらったもんじゃよ全く」
子供みたいにはじゃぐ俺にリアは淡々と説明する。
……そうか。 そうだよな、あんなの普通じゃないもんな。 忘れてたけど、おっさんの話じゃ勇者もこの星に異世界転移して来たんだもんな。
そりゃあ良い能力だって貰えるよね……聞いた?? 五大属性に聖剣だってよ。
クソっ!! せこいじゃん!! 俺の能力なんてつい口が滑ってしまう程度の能力に身長が3センチだけ伸びただけだよ??
……いや、身長は嬉しいんだけどさ、違うじゃん??
なぁ、こんな違いが許されて良いのか??
断じて否だろ!! 羨ましすぎて嫉妬の魔王になりそうだわ!!
「何をブツブツ言っているんだ、外道め。
それとも戦う前から諦めたか??
くくっ、それならさっさと土下座でもするが良い。
素直に謝ればお前の部下だけは助けてやっても良いぞ?? まぁお前が俺の聖剣に切られる未来は変えられないがな」
……なんか段々ムカついてきたな。 青蜜達の気持ちが少しわかってきたわ、この勇者さん基本的に人をイラつかせるのが上手なんだわ。
「どうするまどかちゃん?? 土下座でもする??」
「いや、その場合俺が死ぬんだけど??」
「ふふふっ、そうよね。 安心して、まどかちゃんは……魔王様は私が守ってあげるから」
青蜜はそう言うと、俺の前に立って勇者と対峙する。
いつになく積極的だな、そんなに勇者に恨みでもあるのか??
「……何の真似だ?? まさかお前なんかが俺と戦う気か??」
「えぇ、それにそれは私の台詞よ?? 貴方なんかが魔王様と戦える訳ないじゃない。 私1人で十分だわ」
さすが青蜜さん、もう役に入りきってたわ。
「はぁー、随分と舐められたもんだ。
四天王の中でも最弱のお前に俺の相手が務まると思われてるとはな」
えっ?? 青蜜達って四天王扱いされてるの?? 初耳なんだけど??
ってかメロを入れたら5人になるんだけど?? ……まぁ四天王って言えば5人か。
「御託は聞き飽きたわ。 さっさとかかってきなさい??」
「女を殴る趣味は無いが……これも教育だな」
勇者はそう言うと青蜜との間合いを一瞬で詰める。
「ほうっ、この一撃を交わすか!! ならこれはどうだ!!」
素早く剣を振り回す勇者の攻撃を青蜜は軽やかに避け続けている……と思う。
いや、正直早すぎて何が何だかわからん!!
「リ、リアっ!! 青蜜は大丈夫なのか??」
「落ち着くのじゃ。 確かに青っ子の攻撃は当たっておらんが、勇者の攻撃を紙一重で避け続けておるのも事実。 今は暫し耐える時なのじゃ!!」
えっ?? 青蜜攻撃してるの?? ってか紙一重なの?? マジで分からん!!
リアの言葉に俺は再度2人を凝視する。
だけど結局2人がどんな戦いをしているのか俺には全く分からなかった。
「……はぁはぁ」
「お、驚いたぞ。 まさかここまで俺の動きについて来れるとはな」
数分後、息を切らせた2人が向かい合う様に立ち止まる。
青蜜の服には所々切られた跡はあったが幸いな事に傷はつけられていない様だった。
「ふむ、なるほどのぅ」
その青蜜の姿を見てリアは小声で呟く。
「何を納得してるんだよ」
「今の勇者の力を見極めておったのじゃ、おそらくまだ力を温存しておるじゃろうが……我の予想では随分と簡単に勝てそうじゃな」
「ほ、本当か??」
あれでもまだ力を抑えてるならかなり厳しい戦いになる気がするんだけど??
「まぁ曲がりなりにも流石は勇者じゃ、今の我等よりは強いのぅ」
「今のって……だったら俺達は勝てないんじゃないか??」
「案ずるでない、今の我にはこれがあるのじゃぞ??」
そう言うとリアは笑顔を浮かべながら手に持っていた物を俺に見せつける。
「そ、それって」
「そうじゃ、あの小娘が持っていた魔力石。 我の分裂体の一部じゃ」
そういえばリアが持ってたままだったな。
こいつしれっとパクってたのか。
「パクってなどおらん!! と言うか元々は我のじゃ!!
まぁそんな事はどうでも良い。
行くぞ?? 悠久の時を彷徨えし我の魂のカケラよ……今こそ我の元へ帰ってくるのじゃ!!」
そう言うとリアはその石を口に入れてそのまま飲み込む。
何か言わないと飲み込めんのかこいつは……まぁでもなんか凄いパワーアップしそうな展開だな!!
何より石を飲み込むって格好良いっ。
「がはっ!! うえぇ……気持ち悪いのじゃ」
前言撤回、全然格好良くなかったわ。 ってか普通むせる??
自分の魂の欠片なんじゃないの??
「そんな目で見るでない。 仕方ないじゃろ、あんな大きな塊を飲み込むのじゃぞ??
それに高濃度の魔力を一気に取ると気分が悪くなるのはお主も経験あるじゃろ??」
……あぁー、まぁそれはそうだな。
毎回吐いてたもんな俺。
「わ、悪かったよ。 で、結局パワーアップは出来たのか??」
「ん?? 見れば分かるじゃろ?? ってそうじゃったな。 お主には分からんよな、すまんすまん!!」
うわぁ!! めっちゃムカつく言い方された!! さっきの仕返しだこれ!!
ふんっ!! 別に良いもんね、魔力が何だよ、魔素が何だって言うんだよ!!
言っておくけどそんなもの就職には役に立たないからね?? 社会人には必要無い能力だから!!
……無いよりは有った方が良いのは確かだけど。
「リ、リア!! ちょっと不味いかもっ!!」
不貞腐れていた俺の耳に青蜜の叫び声が響く。
やべぇ、勇者の事忘れてたわ!!
俺は急いで青蜜に視線を戻した。
……えっーと、何あれ??
俺が戻した視線の先で勇者は巨大な光の球体を天に掲げていた。
「調子に乗りやがって!! お遊びもここまでだ!! 俺の究極魔法をもって全員纏めて息の根を止めてやる!!」
えぇ……さっきまで聖剣で切るって言ってたよね?? 魔王の血を吸わせてやるとか言ってたよね?? なんで急に魔法に頼ってんのこの人、情緒もやばいし。
ってかデケェー……こんなの食らったら絶対死ぬんだけど。
「砕け散れ!! 五神咆哮累破!!」
呆気に取られている俺に向かって勇者は遠慮なくその球を放つ。
あっ、駄目だ、これは死んだわ。
どう考えても逃げ切れない大きさに俺は死を覚悟した。
「まどかちゃん!! 私の後ろに!!」
え?? 青蜜さん?? この状況で俺を庇うの?? マジで一体どうしたんだ??
こう言う時、いつもなら速攻で諦めるのに!!
「……まどかよ、先程は悪かったな。 お詫びと言ってはなんじゃが、お主にもわかりやすく今の我の力を見せてやるとするぞ。
そうじゃな、やはりこの場はこれが一番盛り上がりそうじゃな」
困惑する俺の前でリアは大きく息を吸いこむと声に乗せてその空気を吐き出した。
「消え失せろぉ!!」
空気を震わせる程のリアの叫び声は目の前の球体を一瞬で消し去る。
……え?? 何?? 何で?? 勇者の究極魔法は??
「ど、どうじゃ?? お主はこう言うのが好きなんじゃろう??」
何が起こったか全く理解出来ない俺に向かって、リアはとても満足した様に満面の笑みを浮かべていた。
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