40話 決戦は唐突に
「つ、つまりお主は動物園のゴリラを見て青っ子の事を思い出したのか??」
「え?? あぁ、その事については俺も悪いとは思ってる。
青蜜本人は許してくれたみたいだけど、リア達が怒るのも無理はないよな。
本当にごめん」
青蜜が帰ってくる来るまで間、俺はただただみんなに謝り続けた。
あの時の俺が何処まで口を滑らしていたかはわからないけど、恐らくみんなが怒ってる理由は青蜜をゴリラ扱いした事だろう。
最近みんな妙に仲良いからな、きっと青蜜の代わりに怒ってるんだろうな。
まぁ、メロが怒ってる理由はわかんないけど……はぁー、でもどっちにしろ謝って済む問題じゃ無いよな。
「へ、へぇー……そう言う事だったの。 そ、それは流石に良くないわね、女の子の事をゴリラで連想するなんて。
で、でもダーリンもこの通り反省してるみたいだし許してあげましょう、ねぇみんな??」
「そ、そうですね。 まどかさんは勇者の呪いで混乱してた所もあるでしょうし!!」
「う、うむ。 そうじゃよな、記憶を思い起こす事柄など大して重要でもないしのぅ」
ほらな、そう簡単にはっ……えっ??
「ゆ、許してくれるのか??」
結衣ちゃん達の口から出た予想外の言葉に俺は素直に驚いた。
「も、勿論よ!! そ、それに私としてはダーリンの記憶が戻ってくれただけで満足だもの。 何時迄も怒ったりする訳ないじゃない!!」
ル、ルカ!! 優しい!!
「わ、私も同意見です!! 過程はどうあれ結果的にまどかさんが救われたんです。 ほ、本当に良かったですね、まどかさん!!」
結衣ちゃん!! 可愛い!!
「ま、まぁ我は最初からお主なら勇者の呪いなんぞ簡単に打ち破ると信じていたしのぅ。
さ、さてとこれ以上この件に付いて話すのは辞めようではないか。
まどかも青っ子に余計な事を言うのは止めるのじゃぞ?? あ、彼奴もああ見えて傷付いてる可能性もあるからのぅ」
リア!! 格好良い!!
「ねぇ?? ゴリラって何なの??」
メロ!! ……いや、こいつはマジで何で怒ってたの??
ま、まぁ何はともあれまさかこんなにあっさり許してくれるなんてな!!
俺が気付いてないだけで、案外みんなとの絆ってのも深まってたりしてるのかもな。
よ、良し!! なんか今なら簡単に勇者を倒せる気がしてきたぞ!! なんかわかんないけど、絆の力ってのを感じる気がする!! 多分!!
「た、ただいま。 ごめんね、遅くなって」
ほ、ほらっ!! タイミング良く青蜜も帰って来たし!!
あれ?? もしかして今の俺達って最高のチームになりつつあっ……。
再び部屋に訪れた青蜜を見た瞬間、俺の陳腐な思考は完全に吹き飛んでいた。
「……ど、どうかな?? 変じゃない??」
白いワンピースを身に纏い、恥じらいを浮かべながら尋ねてくる青蜜の姿は、まるでお伽噺のお姫様の様にさえ見えた。
「……」
「ち、ちょっと。 黙ってないで何か言ってよ……」
「えっ?? あ、あぁごめん。 見惚れてて」
「みっ!! そ、そう、ありがとう」
……何だこれ、めちゃくちゃ可愛いじゃねぇーか!!
お淑やかそうな見た目に、恥じらいを含む笑顔!! 俺の好みのど真ん中なんだがっ!!
「まどかちゃんが喜んでくれるならこう言う服も悪くはないわね」
……ヤベェ、超可愛い。 今の聞こえた?? ズキューンって音。 俺は聞こえたよ、あんな擬音存在しないと思ってたけど本当にあったんだな。
さてと、じゃあ何処行こうかな。
デートプランなんて全くわからないけど、とりあえず近所のカフェでもっ。
「……おい、我らを忘れてる訳じゃあるまいな??」
「はっ!! あ、いや……忘れてないよ?? うん、めちゃくちゃ覚えてるから!!」
ドスの効いたリアの声に俺は即座に現実に戻された。
あ、危ねぇ、完全にみんなの事忘れてたわ。 あと一歩遅かったら、青蜜の手を握って出て行ってたわ。
今の青蜜の格好にはそれ程の力があるもん、こればっかりは俺のせいじゃないよ。
「ダーリン?? 鼻の下を伸ばすのは勝手だけど、これ以上無駄な時間を過ごすなら私にも考えがあるわよ??」
「はい、すいません」
……うん、まぁ俺の責任も少しはあるよね。
でも一体どうしたんだ青蜜の奴。 今から勇者と戦いに行くって言うのに、こんな俺好みっ……いや、女の子らしい格好してきて。
それともこの服装が青蜜にとっては動きやすかったりするのか??
「そ、そんなにじろじろ見ないでよ……は、恥ずかしいじゃない!!」
……もう何でも良いや。
可愛いんだもん、なんかいつもと違って性格も丸くなってる気がするし。
もしかして戦闘モードになると乙女になるのかな?? だとしたらもう少しだけこの状況が長引いてもっ。
「リア!! 来てるわ!!」
「わかっておる!!」
俺の思考を遮り、急に大きな声を上げたメロの言葉にリアがすぐさま反応を示す。
「ちっ、随分とせっかちな奴じゃのぅ。 お主ら、我の近くに集まるのじゃ」
「えっ?? なになに?? どうしたんだ急にっ」
「まどかさん!! 急いでこちらに!!」
困惑する俺の手を結衣ちゃんは強く引き寄せると、そのままリアの近くへと急いだ。
「良し、全員そこを動くではないぞ?? 死にたくなかったらのぅ」
リアはそう言うと両手を上げて叫ぶ、
「我が鎧をその程度の魔法で砕けると思うでないぞ!!」
……いや、どう言う状況なんだ?? 何でみんなそんな真剣な表情なの??
俺だけまた何もわかってないんだけど!!
「な、なぁリア。 もしかして攻撃されっ……うおっ!!」
俺がリアに尋ねると同時に、まるで雷が落ちてきたかの様な光の柱が俺達の頭上に降り注ぐ。
な、何だこれ……俺の部屋の天井が完全に消え去ってるんだけど。
「ぐぅ……やはり勇者の力とは厄介じゃのぅ」
リアの周りに居る俺達を除いて、部屋の物が次々と消失していくのを見て俺はようやく誰かに攻撃されている事を悟った。
「……ほう、この攻撃に耐えるか。 流石は魔王と言った所だな。 出て来い、俺とお前の運命に決着をつけようではないか」
数秒後、俺の私物が全て消えた部屋の天井から聞いた事のある男の声が響く。
……お、俺の私物が。 お気に入りのグッズ達がっ。
「何が運命よ、調子に乗って!! 行くわよみんな!!」
「ま、待ちなさいよ!! 私が魔王なんだからね!! ここは私が最初に行くべきでしょ!!」
「よ、良くも我の城の一部を……絶対に許さん!!」
「あっ、あなたまで先に行くの?? 待てって言ってるでしょ!!」
「まどかさん、私達も行きましょう!!」
「えっ?? あ、ちょっと……」
展開の速さに着いていけず俺は完全に出遅れてしまう。
……ってか俺が行ってもなんの役にも立たなくね??
勇者の事舐めてたわ、こんなとんでもない攻撃してくる奴なの??
こんなの俺が入る余地なくないか??
今更思い出したけど、俺って何の力もないしな。
「……大丈夫よ、まどかちゃん。 私と、みんなと一緒ならきっと何とかなるわよ、今までだってそうだったでしょ??」
「あ、青蜜」
取り残されて居た俺に青蜜は優しく微笑みながら手を差し出す。
……そうだよな。 力があるとか無いとか、そんな事今更関係ないよな。 俺はずっとこうだったんだ。
や、やってやろうじゃねぇーか!! 勇者様に一般人の意地を見せてやる!!
「行こうか、青蜜!!」
俺は覚悟を決めてその手を掴み、青蜜と共に部屋の外へと飛び出した。




