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31話 最胸の狂気


「それにしても貴方ならあんな魔法くらいどうにでもなるって思ったけど、案外そうでもないのね。 

 こんな強力な結界を作れるのに不思議だわ。 一体どうして………あっ、もしかして今は訳あって力をあまり使えないのかしら??」

 

「……」

 

 落ち込む俺に追い討ちをかける様にメロは嬉々として話す。

 

 もう辞めて、俺のライフはゼロじゃん。

 

「あら?? 返事はしないのね?? って事は正解かしら?? 

 って事は……この忌々しい結界も時間制限付きって所なのかな??」

 

 えっ!! 嘘?? マジで??

 

 メロの言葉に驚いた俺は急いでリアの顔色を伺う。

 

 ……め、めっちゃ悔しそう。 じゃあ本当に時間制限付きなのか?? それって相当ヤバくないか??

 

「ふふふ、これも正解なのね。 なら私はこのままゆっくり時間が流れるのを待つ事にしようかな、そうすればいずれわかる事だもんね」

 

「……い、いずれじゃと?? お主何か勘違いしておらぬか?? 

 確かに我の結界に時間制限がある事は認めよう。 じゃがそれでもまだ30分程は持つじゃろう。 

 その間お主が生存出来ると思っておるならっ」

 

「出来るわよ」

 

 リアの言葉を遮りメロは得意げに答える。

 

「だって貴方達に私は殺せないでしょ?? 

 さっきお兄ちゃんが言ってた青蜜って子を救いたいなら私をここで殺す訳にはいかないもんね。 

 それに……そもそも貴方達に誰かを殺すって事が出来るの?? 

 そこの芋虫には無理でしょうし、お兄ちゃんもそんな事は出来ない。 

 可能性があるとしたら魔女でもある貴方だけだけど……私の見立てじゃそれも無さそうね」

 

「わ、我が出来ないとでも??」

 

「ええ。 もし本当に出来るって言うなら今すぐやってみたら??」

 

 メロは挑発する様に手を大きく広げる。

 


 

 ……悔しいけど、メロの言ってる事は間違ってない。 俺は勿論、ルカやリアだってメロを本気で殺す事なんて出来ないだろう。

 

 あの時は殺し合いをするんじゃないかと思ってたけど、俺もリアがトドメまでは刺さない、いや、刺せないだろうと考えてた。

 俺が知ってるリアは、そういう奴だから。

 


「……はぁー、終わったのぅ。 確かに此奴の言う通りじゃな、我は殺しはやらんからな」

 

 俺の思いを肯定する様にリアは小さく呟いた。

 

「そう言うと思ったわ。 どうやらこの勝負は私の勝ちみたいね」

 

「あぁ、そうなるのぅ……なぁ、頼みがあるんじゃが」

 

「頼み??」

 

「うむ、青っ子にかけられた魔法をといて欲しいのじゃよ。 勿論、我を殺した後でも良い。 ダメかのぅ??」

 

「……そうね。 まぁ私の邪魔をしないって約束してくれるなら良いわ。 

 正直言えば私だって貴方に命を見逃して貰ってるわけだしね。 

 この世界を征服した後でその子にかけた魔法は解いてあげる、約束するわ」

 

「出来ればこの世界も壊して欲しくないんじゃが??」

 

「それは無理よ、私にも事情があるの。 でも、そうね、貴方達は見逃してあげるわ。

 私がこの星を壊す前に別の世界へと逃げなさい、それが最大限の譲歩。 

 お兄ちゃんから貰ったそうめんのお返しって所かしら」

 

 淡々と進められるリアとメロの会話に俺はもう口を挟む事は出来なかった。

 

 

 結果から言えば俺達は魔王に負けたのだ……俺のせいで。

 

 

 俺に出来る事と言えば勇者とやらがメロに勝つのを祈る事だけだろう。 

 でももしその祈りが届いた場合は青蜜の意識は戻らないのかも知れない。

 


 ……一体俺はどっちの勝利を考えるべきなんだろうか。 

 


 地球と青蜜、選べるものじゃない。 俺にとっては地球と同じくらい青蜜の事も大切なんだから。

 

「……いや、そもそも敗者に選択権なんてないか」

 

「ダーリン」

「まどか」

「………」

 


 またしても勝手に出てしまった俺の言葉は、ただただこの場の空気を重くする事しか出来なかった。

 

 

 




 

 

「……敗者?? 何を言ってるんですかまどかさん??」

 

「えっ??」

 

 隣から聞こえた声に俺はゆっくりと顔をあげる。

 

「すいません、遅くなりました。 ちょっと探し物をしてて」

 

 探し物?? そう言えば結衣ちゃん一体何処に行ってたんだ??

 

 俺に向かって優しい笑みを浮かべた後、結衣ちゃんはゆっくりとメロの方へ向かって歩き出した。

 

「さてと……メロさん。 覚悟は決まりましたか??」

 

「はぁ?? 貴方何を言って……えっ?? な、何かしらそれ?? なんのつもり??」

 

 結衣ちゃんの言葉に直ぐに反応したメロだったが、次第にその声に恐怖が滲む。

 


「あぁ、これですか?? どうです、結構立派でしょう??」

 

 そう言って結衣ちゃんは手に持っていた物をメロへと向ける。

 

 


 ………えっーと、ん?? 見間違いじゃないよね?? 結衣ちゃんさ、あれってうちにあった包丁に似てる様な。

 

 

 俺は目を何度も擦り、結衣ちゃんの手元へピントを合わせる。

 


 ……完璧に包丁だ。 しかも俺が親父から貰った出刃包丁じゃん!! 

 えっ?? 結衣ちゃんそれをどうするつもりなの?? 

 

 

「良く目に焼き付けておいてくださいねメロさん。 これはもう直ぐ貴方の身体の一部になるんですから」

 

 

 俺の疑問を解消するかの様に結衣ちゃんは真顔でメロに言い放つ。

 

 そんな結衣ちゃんの表情にリアやルカ、メロまでも顔を強張らせていた。

 

 


 

「……私はこれでメロさんを殺しますね」

 

 


 

 先程までの重たい空気の部屋が今はまるで質量まで感じられる程にその特性を変え始めるなか、結衣ちゃんは僅かに微笑みながらそう呟いた。 

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