25-1話 いっそ殺してくれ。
「どうしたの?? 食べないの??」
「あっ……あぁ、ちょっとお腹痛くなってな。 ご、ごめん!! 直ぐ戻ってくるから、メロはここで待っててくれ!!」
「え?? ち、ちょっとー!! 何処行くのよー!! ねぇー!!」
後ろから響くメロの声を無視して、俺は急いで部屋の外へと出た。
「ほ、本当に青蜜達が帰ってきたのか??」
メロの話を聞いて居ても立っても居られなくなった俺は、急いで青蜜の部屋の前まで来た。
扉の奥からは確かに話し声が聞こえる。
声の主まではわからなかったが、誰かがこの部屋にいる事は間違いなかった。
こ、この声が青蜜達たどするとあいつらは世界を救う事が出来たって事か??
「それとも……い、いや、そんな筈はないさ。
あいつらに限ってそんな事っ!!」
頭の中に広がる最悪な展開を拭い去る為に首を左右に大きく振り、俺は意を決して部屋のインターホンを押した。
「……はい」
インターホンから聞こえた声は、俺が良く知っている人の声だった。
ゆ、結衣ちゃんの声だ!! 良かった、無事だったんだ!!
「……もしかしてまどかさんですか??」
「えっ?? あぁ、そうだけど」
な、なんだこの感じ??
随分と他人行儀と言うか……本当にただの知り合いに話しかけている様に感じるんだが。
「まどかさん、何か用でしょうか??」
「あっ、いや……物音がしたからさ。 青蜜達が帰って来たんじゃないかと思って」
「そうですか……それは申し訳ありませんでした、うるさかったですよね。
これからは気を付けますね、要件はそれだけでしょうか??
だとしたらこれで失礼しても宜しいですか?? 今はあまり時間がなくて」
そう話す結衣ちゃんの声は明らかに動揺を隠せていなかった。
……やっぱり何かあったんだな。 いつもの結衣ちゃんらしくない。
だけどそれ以外にも何か俺に隠している様な気がするのは何だ??
いや、隠そうとしていると言うよりは、俺を遠ざけようとしている様なそんな気さえする……でも、俺だってこのまま黙って帰る訳には行かない。
「結衣ちゃん……一つだけ言いたい事があるんだけど良いかな??」
「……なんでしょうか??」
その言葉に俺は一旦呼吸を整える。
正直言って俺が頼りないのは自分が一番分かってる。
だけどもし青蜜の身に、いや青蜜だけじゃない!!
結衣ちゃんやリア、ルカが大変な目にあってるなら黙って見てるなんて出来ない!!
「結衣ちゃん、今がどんな状況かは俺にはわからない。
青蜜の部屋に結衣ちゃんが居るって事は、リアやルカもそこに居るんだろ??
確かに俺にはなんの力もないけどさ……出来る事があるなら何でも協力する!!
だからこのドアを開けてくれないか??」
「………」
返事はなしか……まぁ今更手伝いたいなんて虫が良過ぎるよな。
青蜜達が頑張ってたこの2週間、俺がやってた事と言えばおっさんとデートしてたくらいだからな。
それに冷静になって考えれば青蜜達にはあの勇者がついてるんだ。
だとしたら今も一緒に居る筈……俺を遠ざけ様としてるのもそれが大きな要因だろう。
……もしかしたら俺の役目なんてとっくに終わってたのかも知れないな。
「……帰るか」
これ以上この場に留まってもみんなを困らせるだけ。
その事に気付いた俺は自分の部屋へと戻る事にした。
「ま、待ってください、まどかさん!!」
「ゆ、結衣ちゃん??」
俺が自分の部屋の扉を開けようとした瞬間、隣の部屋の扉は大きな音を立てて勢い良く開き、中から涙目の結衣ちゃんが飛び出してきた。
ど、どうしたんだ?? こんなに慌てて……靴だって履いてないし。
驚いて固まっている俺に結衣ちゃんは勢いを殺さず駆け寄るとそのまま、胸に飛び込んできた。
「えっ?? ち、ちょっと結衣ちゃん?? ど、どうしたのっ」
「よ、良かったです!! 本当に良かったです!! まどかさん、無事だったんですね!! 私っ、私……」
大声でそう叫んだ後、結衣ちゃんは言葉を詰まらせでその場で泣き始めた。
い、一体どうしたんだ??
俺が無事だったってどう言う意味だ??
「ふん、じゃから言ったじゃろ??
此奴がそう簡単にやられる訳ないんじゃよ、お主らは心配しすぎなのじゃ!!
こう見えてもまどかは我の将来の婿候補なんじゃからな!!」
「な、何よ!! リアだってあの時は泣きそうになってたじゃない!!
結局信じてたのは私だけって事ね!!
まぁそれも当然なのよ、ダーリンが私の事を忘れるなんて有り得ないもの!!
私とダーリンの愛の力は最強なんだから!!」
困惑する俺を畳みかける様に、開きっ放しの扉からリアとルカが嬉しそうな声色を発しながら出てきた。
「ふふっ、ルカさんが一番泣いてたじゃないですか」
「な、泣いてないわよ、変な事言わないで!! って言うか結衣!! いつまで抱きついてるのよ!! 早くダーリンから離れないさい!!」
「そうじゃそうじゃ!! せこっ、じゃなくて……ず、ずるいぞ!!」
「リアさん、さっきから心の声がダダ漏れですよ」
久しぶりに見た3人は俺の前でいつも通りの会話を繰り広げる。
その光景ははとても嬉しいものだったが、同時に青蜜の姿がここに無い事がより一層俺を不安にさせた。
「な、なぁ……青蜜はどこに居るんだ??」
「そ、それはっ……」
俺の質問にみんなはさっきまでの笑顔を無くして俯く。
「……まどかさん。 色々説明しなくちゃいけませんが、今は時間がありません。
取り敢えずこちらへ来てもらえますか??」
「あ、あぁ」
重い口を開き結衣ちゃんは俺の手を引っ張って部屋の中へと入れてくれた。
「……あ、青蜜」
女の子らしい雑貨が所狭しに置いてあるリビングを通り過ぎ、寝室のドアを開いた先のベットに青蜜は目を閉じて横たわっていた。
よ、良かった。 無事だったんだな……本当に良かった。
「結衣ちゃん、青蜜は寝てるのか??」
「は、はい。 ですがっ……いつ目覚めるかはわからないんです」
「なっ!! ど、どう言う意味だ??」
俺の見た限り青蜜の身体には目立った傷はない。
今だって寝息が聞こえているんだ、無理矢理にでも起こせそうじゃないか。
「じ、実は……」
俺の質問に結衣ちゃんは答えにくそうに口を閉ざした。
「……その質問は我が答えるとしよう。
こうなったのは貧乳っ子のせいではないと言うのに、此奴はかなり責任を感じているみたいじゃしな」
そんな結衣ちゃんの心情を察してか、リアは俺の隣に来ると、静かに話を始めた。




