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22話 お兄さんじゃないけど、妹って思えるなら問題ないよねっ


「ねぇ、何でそんな離れた所に居るの?? こっちに来たら良いじゃない」

 

「えっ?? あぁ、そうだよな」

 

「いや、全然近付いてないじゃん。 あれ?? もしかして緊張してる?? 

 ふふ、怖がんなくても取って食べるような真似はしないから安心して」

 

「べ、別に怖がってないわ!!」

 

「そう?? じゃあここに座りなよ」

 

「……わかったよ」

 

 ベットに我が物顔で座る少女に、そう促されて俺は渋々隣へと腰を下ろす。

 

 

 くそ、出来れば近付きたく無かった。

 いや、本音は近付きたかったんだけどさ、今のこの子の格好がその……エ、エロ過ぎる。

 

 貸したシャツだけで全身を覆い隠す姿は、女の色気とやらを何倍にも上昇させている様に俺には思えて、近付けば近付く程に目を逸らせなくなってしまっていた。

 


 

 ……はっ!! いかんいかん、危うく吸い込まれそうになる所だったわ。 

 マジで危険だな、これ。 もしかして童貞を殺す服って社会的に殺すって意味だったのかも知れん、

 こんなの下手したら理性がぶっ飛ぶわ!!

 良いか?? 耐えろ、耐えるんだ俺。 

 


「お兄さんってさ、名前はなんて言うの??」

 

「えっ??」

 

 いきなり出てきたありふれた質問に思わず声が出てしまう。

 


 そ、そうか、そう言えばまだ名前も名乗って無かったな。 

 それに俺もこの子の名前知らないし……うん、せめて自己紹介くらいはちゃんとしなきゃな。

 舞い上がって全然気にして無かったわ。

 

「ごめん、まだ名乗ってなかったな。

 俺の名前は福吉円じっ」

 

「あー、やっぱり良いや。 名前聞いてもどうせ覚えられないから!!

 これからも適当にお兄さんって呼ぶ事にするね」

 

 俺の言葉を遮って少女は興味無さそうに手を振った。

 

 ……じゃあ最初から聞くなよ。 

 これでも結構嬉しかったんだぞ、久し振りに本名で呼んで貰えると期待したじゃねぇーか。 

 

「な、何?? 何でそんな悲しそうな顔してるの?? むしろ喜びなさいよ、お兄さんって呼ばれるの好きそうじゃない」

 

 ……まぁ正直言えば名前より嬉しいのは事実だけど。 

 でも嬉しそうって思われてるのは、癪だな。 

 うん、渋々受け入れた感じにしよう、その方が格好良いし。

 

「はぁー、わかったよ。 俺の事はお兄さんで呼ぶ事に異論はないよ」

 

「なに偉そうにしてるのよ、言っておくけど内心喜んでるのバレバレよ?? 

 口角上りっぱなしじゃない。 

 それとも、もしかして私の勘違いなのかな?? 

 だとしたらちゃんと名前で呼んであげるわ。 さぁ、どっちが良いか正直に言ってみなさい??」

 

「……お、お兄さんが良いです」

 

「はい、良く出来ました」

 

 そう言うと少女は満足そうに笑いながら手を叩いた。

 


 く、悔しいっ!! で、でもそんな嫌な気もしない様な……ってやばい、歪む!! 

 このままじゃ性癖歪んじまう!! メスガキに歪まされる!!

 落ち着け、深呼吸だ。 俺が好きなのは落ち着いた大人の女の人だ!! こんな子供じゃない!! そうだろう??


 相手のペースに飲まれるな、俺は年上でここは俺の部屋だ!! 地の利は俺にあるんだから!! 

 

「ふぅー……で、君の名前はなんて言うんだ??」

 

「……知りたい??」

 

 こっちを向くな、胸元を見せるな、エロい声出すな!! 理性を保つ苦労を知れ!!

 

「せ、せめて名前くらいは教えて欲しいね」

 

「ふーん、名前に限らず色々な事を教えてあげても良いんだけどなぁー」

 

「あのな、今はそう言うのは良いから真面目に会話をっ」

 

「今は?? あははっ、何よ。 後で教えてもらおうとしてるの?? お兄さんったら……ほんとうにえっちなんだから」

 


 むきゃー!! なに、何なのこの子!! 天才なの?? 男を誑かす化身ですか?? こんなの淫魔じゃん!!

 もう良い!! 後でどうなっても構わないわ!! 

 据え膳食わねば男の恥!! 

 

 行くぞ、福吉円人!! 今日こそ本物の男になってやろうじゃっ。

 

 

「……メロスよ。 メロス・ガット・リリンキッド」

 

「えっ??」

 

「えっ?? じゃないわよ!! 名前よ!! 

 私の名前!! お兄さんが聞いたんでしょ!!」

 

 俺の反応に不満なのか、少女は少し恥ずかしそうに顔を逸らす。

 


 ……うん、まぁ知りたがってたんだけどさ。 

 それこそ今じゃないんだよなぁ。 もう完全に襲おうとしてたしさ。 

 マジで襲う2秒前だったからさ、なんかね拍子抜けというか。

 

「な、なによ!! どうせ変な名前って言いたいんでしょ!! わかってるわよ!!」 

 

「い、いやそう言う訳じゃないって!! えーと、メロスだっけ?? 格好良いじゃん!! 

 なんか外人みたいな名前でさ!! 憧れちゃうね!! 俺が昔好きだった小説にもメロスっていたし!!」

 

 なに言ってんだ、俺。 あのメロスは男だし、褒め言葉になってないよな。

 

「……ほ、本当??」

 

「えっ?? あぁ!! 本当さ!! メロスもガットもリリンキッドも全部最高にイカしてるよ!!」

 

「え、えー、そ、そうかなぁ」

 

 あれ?? なんか分かんないけど、めっちゃ嬉しそうだな。 

 ま、まぁ名前を褒められて嫌な気分になる子はいないか。 

 

「あっ、ちなみになんて呼べば良いかな?? メロスちゃんとか??」

 

「えへへ、お兄さんが好きに呼んで良いよ。 

 因みに良く呼ばれるのは、メスとかメスガキとかかな」

 

 いや、それ虐められてるんじゃないの?? ってかよくメスガキって呼ばれてるの?? 名が体を表し過ぎでは??

 

「ねぇ、なんて呼ぶの??」

 

 返事が遅いからか、少女は身を乗り出して俺の顔を覗き込む。

 

 ち、近い、そしてなんか良い匂いがする。 同じジャンプー使ってた筈なのに何でこんな良い匂いするの?? おかしくない?? 


 い、いや、今は呼び名を決めるのが先か。 

 うーん、そうだな……流石にメスとかメスガキとは呼べないしな。 メロスはやっぱ男っぽいし……。

 

「メ、メロで良いか??」

 

「うん、良いよ!! じゃあこれからも宜しくね?? お兄さん!!」

 

 そう言うとメロは綺麗に片目を閉じて嬉しそうに微笑む。

 

 

 なんか急に甘えてきた気がするけど、これは俺の気のせいかな?? 

 あれ?? ってかメロって日本人じゃなかったのか?? 

 見た目は外国人だと思わなかったな、日本語も上手だし。


 ……うん、折角だしこのまま色々聞いてみようかな。 今なら俺の質問にもある程度答えてくれそうだしな。

 

 

 俺の肩に身体を密着させているメロにもう一度視線を向ける。 

 

 満足そうに鼻歌でリズムを取っているその姿はまるで本当の妹の様だと錯覚してしまう。 

 

 

 ……まぁ現実にこんな妹は居ないから二次元の話だけどね。

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