20話 亜麻色の髪の少女
「……暇だな」
おっさんとの動物園デートから3日後、俺は1人で自室のベットに寝転がっていた。
この3日間、何か青蜜達の手助けになる事は無いかと色々考えたけど結局何も思いつかなかったからだ。
せめて連絡くらいは取れないかと考えたけど、青蜜達も流れに身を任せて勇者に着いて行ったからか、誰とも連絡は取れなかった。
「リアから貰ったスマホも使えないとなれば打つ手なしか……結局俺1人じゃ何も出来ないんだよな」
おっさんもあれから帰ってこないし……こうなったら信じて待つしか無いよな。
青蜜達なら何だかんだ上手くやってくれるだろうしな。
「ふぅー、そろそろ時間だし行こうかな」
自分の無力さを痛感しながらも、その気持ちを振り払うようにベットから立ち上がり、勢いのまま俺は外へと出た。
「今日も暑いな。 少し歩いただけなのに汗が止まらん」
20分後、目的の場所へと着いた俺は近くにあるベンチへと腰を下ろす。
「11時50分……そろそろか」
青蜜達の事を思い出してから俺は毎日この公園へ来ていた。
リアが教えてくれた地球の走馬灯ってのを見る為だ、それが青蜜達の今の状況を掴める唯一の方法だからな。
……まぁわざわざ公園まで来なくても家の前で見れるんだけどさ、正直言って結構怖いんだよね。
初日なんて思わず叫んじゃったもん、この公園なら結構広いし近くに家もないから、いざって時に大声出しても大丈夫だからな。
さてと一昨日から見てる感じだと、青蜜達の方もあんまり上手くはいって無さそうだったけど今日はどうだろうか。
緊張をほぐす為か、そんな言い訳を考えながら俺はスマホの時計と公園の風景を交互に見ていた。
そんな状況から20分程経った頃、俺の目の前には最早見慣れた生物が佇んでいた。
「……うん、やっぱり青蜜達も大変なんだな」
目の前の生物は、その大きな口を全開にし当然と言わんばかりに俺に近付いてくる。
いつ見ても怖いなこいつ……ってかおかしくない??
あっちも俺の姿見えてるの?? 何で毎回俺の事食べようとしてくるの??
もしかして俺ってティラノさんにも嫌われてんの??
いくら映像だって言われてもこのシチュエーションだけは絶対慣れないわ!!
迫り来る最強生物の圧力に俺は身体を一切動かす事が出来ず、なす術も無く頭を差し出した。
恐竜に頭を喰い千切られる体験なんて普通は一回で十分なんだけどな……何で俺だけ4回もしなきゃいけないんだろう。
せめてもっと良い走馬灯見てくれないかな、地球さんさぁ。
生まれ育った星に不満を抱きながら俺は慣れた手筈で気を失った。
「……はっ!!」
俺が再び目を覚ました頃、辺りはすっかり暗くなっていた。
「今日は随分と長い間気を失ってたみたいだな……なかなか耐性なんてものは簡単に付かないもんなんだな」
いや、気絶の耐性なんて要らないか……ま、まぁ、状況判断がすぐ出来る様になったって意味では便利かも知れないな。
さて、じゃあ帰るとすっ。
「……ようやく起きたと思ったら随分と変な事を言うのね。 まぁ良いわ、それより重いから退いてくれない??」
「えっ??」
突然聞こえたその声に俺は素直に驚いた。
誰だ?? いや、それよりも今の声どこから聞こえたんだ??
なんか凄く近くから聞こえた様な気がしたけど。
「ねぇ、聞いてるの?? 私は退けてって言ってるんだけど??」
退けて?? 何言ってるんだ?? 俺はベンチに座ってるだけだろ??
ってあれ?? なんか視界が変だな……随分と地面が近く感じる。
俺は困惑しながら声の主を探す。
「ちょっと!! あんまり動かないでよ!! 横よ、横!! とりあえずこっち向きなさい!!」
横??
俺はその声に釣られる様に顔を動かした。
「……えっーと、誰??」
俺の視線の先に居たのは、見た事も無い少女だった。
「だ、誰ですって?? 何なのこいつ!! 信じられない!!
目が醒めるまで待ってやってたのに第一声がそれ?? 本当最悪、だから嫌いなのよ!! もうさっさとどっか行ってよ!! 邪魔なんだから!!」
え、何で怒ってんだ?? ベンチに座ってただけでこんなに怒られるなんて納得できなっ……ん??
ってか顔近くない?? それにやっぱり変だぞ???
何でこの子、顔が横向きになってるんだ??
………あれ?? もしかしてこの状況って。
「ひ、膝枕されてる??」
「……どうやら今になってようやく状況が理解出来たみたいね。 それで?? いつまでこうしてるつもり??」
その言葉に俺は急いで体勢を変えて立ち上がり、その流れで頭を深く下げた。
「ご、ごめん!! いや、すいませんでした!! 本当にっ、本当に申し訳ありませんでした!!」
や、やってしまった!! まさか気を失ってる間にこんな状況になってるなんてっ!!
どうしてこうなったのかはわからないけど、とりあえず全力で謝ろう。
さっきは薄暗くてあんまり見えなかったけど、多分この子は中学生くらいだと思うもん。 こんなの事案だよ、下手したら社会的に終わりだぞ俺。
「……はぁー、そんなに謝らなくても別に良いわよ。 元々先に座ってたのはあんたなんだしね。
気を失ってたのだって何か理由があるんでしょ?? 怒ってないから顔をあげたら??」
「ほ、本当に怒ってないのか??」
「本当だってば。 それに私も少し言い過ぎたからこれでお相子って事にしましょう??」
……よ、良かった。 マジで助かったわ、今の時代にこんな天使みたいな子が居るんっ。
顔をあげた瞬間、俺の思考は完全に止まってしまった。
俺の目の前には文字通り天使みたいな少女が座っていたからだ。
「どうしたの?? 私の顔に何かついてる??」
街灯に照らされたその表情は幼いながらも何処か妖艶な雰囲気を醸し出している。
「い、いや、別に……」
「そう、なら良いわ。 で?? 貴方は一体何してたの??」
肩にかかる程度の亜麻色の髪を靡かせ、まるで雷が住んで居る様な黄色の瞳を俺を向けた。
「えっ?? あぁ、別に何もしてないんだ。 ただベンチに座ってただけで」
「な、何もしてない?? 何もしてないのに気を失ってたの?? あははっ、何それ!! 貴方って馬鹿なの??」
うっ……確かに何もしてないのに気絶してたって馬鹿みたいだな。
でも正直に言った所で尚更馬鹿にされるだけだしな。
ここは我慢しよう。
「まぁ良いわ。 ねぇ、折角だしもう一回ここに座ったら??
丁度私も暇してたの。 お兄さんの話、良かったら色々と聞かせてくれないかしら??」
「……えっ??」
少女の思い掛けない提案に俺の心はいつも以上に戸惑ってしまっていた。




