18-2話 俺自身がざまぁになる事だ
どうやら取り敢えずは上手くいった様だな。
後は俺がやられた振りをすれば、勇者様も少しはやる気を取り戻すだろう。
まぁかなり簡易的だけど、一面のボスみたいな仕事は出来たかな。 気付かない内に女の子を救うのは、主人公あるあるだからな。
勇者の様子を伺いつつ、俺は出来る限り嫌味ったらしく答えた。
「ふんっ!! ならばもう一度洗脳をするだけの事、今度は勇者ごと俺の力の餌食にっ」
「なるほど……つまり僕が昨日体験した悪夢の様な出来事は全てこいつの仕業だったんですね」
俺の言葉を遮って目の前の男は冷たくそう言い放つ。
……あれ?? なんかあの勇者さんめっちゃ怒ってない?? ってかなんか空気が振動してる気がするんだけど??
「では、今こそ僕の全力を持って貴方を葬り去ります!!」
……あっ、やったわこれ。 まさか勇者さんがこんなにも憎しみに満ちてるとは思ってなかった。
うん、絶対死ぬわこれ、なんか今にも必殺技打ちそうだもん。
魔力が一切無い俺にも分かる程の力を込めながら目の前の男は姿勢を低くして戦闘態勢に入っていた。
「ま、待ってください勇者様!! ここは私にケジメを付けさせてもらえませんか??」
そんな空気を察してか青蜜が慌てて俺と勇者の間に入る。
「……ケジメ??」
「そ、そうです!! あんな男、勇者様が直接手を下すまでもございません!! 私が代わりに成敗して参ります!!」
あ、青蜜さん!! 流石空気の読める女だぜ!!
「わ、私も行きます!! ずっと騙されてた訳ですからね!! し、仕返ししたいのです!!」
結衣ちゃん!! 優しい!!
「それを言うなら私もだわ!!」
ルカ!! ……いや、ちょっと待って。 これはこれで流石に不味くないか??
「わ、我もじゃ!! まどか、いや、彼奴は我の手で葬らねばならぬのじゃ!!」
リアまで……あー、そうだったわ、この子達やっぱちょっと頭のネジが飛んでるんだわ。 わざわざ4人で立候補してどうすんだよ、1人で良かっただろ。
「……そうですか。 そこまで言うなら僕は手を出しません。 貴方達4人に後の事は任せます」
ほら、こうなるじゃん!! その流れは4対1の構図になるじゃんか!! ダメージ4倍じゃねぇーか!!
「ありがとうございます、勇者様」
そう言うと青蜜達はゆっくりと俺の方へと歩いてきた。
……まぁ覚悟は決めてたし我慢するか。
これも世界の為だし、何より……みんなの為だもんな。
「で、出来れば顔以外で宜しくな。 あと、バレない様にそれなりに本気で頼むわ」
精一杯の強がりを言う事が、今の俺に出来る最後の事だった。
「……ごめんねまどかちゃん。 ありがとう」
今にも泣きそうな顔で静かにそう呟くと青蜜は振りかぶった拳を俺の肩へとぶつけた。
いってぇ……いや、でもまだ耐えよう。 少しは強敵感を出さないと疑われるしな。
「お、お主ら一体何をしているんじゃ?? 馬鹿なのか??」
後ろで小声でおっさんが呟く。
……元を正せばおっさんのせいだろ!! よし、決めた。 この際だからおっさんも巻き込もう。
「おっさん助けてくれ!! 俺達味方だよな!! おっさんが俺に洗脳の方法を教えてくれたんだもな!!」
「なっ!! まどか殿何を言うか!!
わしはそんな事を教えた覚えなぞ……って結衣殿?? 何故そんな怖い顔でわしの方に近付くのじゃ??」
俺の気持ちを汲み取ってか、直ぐ様結衣ちゃんとリアはおっさんの方へと走り出した。
ごめんなおっさん……でもまぁ、おっさんにも責任はあるんだし我慢してくれ。
そしてそれから10分程、俺とおっさんは青蜜達に殴られ続けた。
「気は済みましたか??」
「……はい。 ここまでやればもう勇者様に反抗しようとは思わないでしょう」
「殺さないのですか??」
「えっ?? そ、それには及びません!!
見た所、この男は魔王に魔力を分け与えて貰っていた一般人に過ぎません。
魔力を使い切った今、特に害は無いでしょうから」
「そうですか。 まぁ君達がそれで良いなら僕は構いません。
さてと、では魔王を倒しに行きましょうか!! 実を言うと僕は異世界から来たのでこの星には詳しく無いのです。 良かったら色々と案内をして貰っても良いですか??」
「そ、それは……」
「おい、どうするのじゃ!! 我は行きたくないぞ!!」
「私だって嫌よ!! このままダーリンを置いて行けないわ!!」
「そんなのみんなそうに決まってるでしょ!! でもこのまま私達が残ったら状況的に可笑しいじゃない!!」
「どうしたのですか?? もしかしてまだ洗脳が完璧に解けてないのでは??
やはりトドメを刺さなくてはっ」
「あっ! い、いえ!! 大丈夫です!! もう完璧に自由ですよ!! 案内でしたよね?? 勿論私達4人は勇者様に着いていきます!!」
3人の声を掻き消すように結衣ちゃんはそう叫んだ。
「そうですか!! ありがとうございます!! では皆さん行きましょうか!!」
男は満足した様にそう言い残すと青蜜達4人を連れて何処かへと歩き始めた。
な、何とか生き伸びたな、結衣ちゃんに感謝だな。
それにしても『ざまぁ』される側って結構精神的に来るな。
心なしか脳みそが破壊された気もするし……まぁ結果的には勇者様がやる気になってくれたみたいだから成功かな。
……何回も言うけど、出来れば俺も勇者側が良かったわ。
頬で冷たい地面を感じながら、俺はそのままゆっくりと目を瞑った。




