13話 ヒトのきもち
「まずはわしがどの様にしてこの絵を解読したかと言うとっ」
「あぁ、そこら辺は飛ばして良いわ。 早いとこ結果だけ教えて貰えないかしら??」
ドヤ顔のまま口を開くおっさんに青蜜は冷たく言い放つ。
「なっ!! 何故じゃ!! 折角のわしの出番なのじゃぞ?? もっとありがたみを感じても良いではないか!!」
「いいから早く言え」
「うっ……ぐぬぅ」
青蜜の奴、やっぱり喘ぎ声って言われてるの怒ってるんだな。 目が本気だもん。
まぁ俺としてもおっさんの長話を聞かないで済むならその方が良いけど。
「……ふぅーまぁ良い。 わしはこの世界に来て学んだのじゃ、人には色々な考え方があるって事をな。
なので今回はあかね殿の意見に耳を傾けてやろうかのぅ」
複数回大きく頷いておっさんはしたり顔でそう話す。
相変わらずなんかムカつくなこのおっさんは。
ってかそんな事もっと早くに気付くべきだと思うんだが?? 仮にも一国の王様だろ!!
……どこで学んだのか凄い気になるのが悔しいけど。
「さて、ではわしが解読した内容を話すぞ。 まずはこの絵じゃが、ここには2つの生命体が描かれておる」
「2つの生命体ですって?? なんか遠回しの言い方ね、人間じゃないって事かしら??」
あっ、青蜜はそんなに気になってないのね。
いや、それが普通だよな、日本が滅亡しそうなこの状況でおっさんの心変わりなんて気になる方がおかしいもんな………くそ、後で聞いとくか。
「それがのぅ人間かどうかは定かでは無いのじゃ。 じゃが、この者達が何者かはわかっておるぞ」
「何者?? つまりどっちにしろ普通では無いって事??」
「そうじゃ、この者達はなっ」
せめてもの演出の為か、おっさんは一旦言葉を区切った後にゆっくりと続けた。
「世界を滅ぼす魔王と、それを阻止する勇者じゃ!!」
「「……は??」」
突然出てきたメルヘンな話に俺と青蜜は同時に声が出る。
ま、魔王に勇者って……ここは日本だぞ?? そんな話有り得ないと思うんだが??
「おっさん、解読間違えたんじゃないか??」
「し、失礼な事を言うで無いわ!! わしの解読技術は確かなものじゃぞ。
前回も……まぁミスはしたが間違ってはいなかったではないか!! そこの魔女がわしを呼んだのも、結局の所はわしの力を認めているって事じゃろうしな」
うっ……まぁ確かにおっさんの言う通りではあるか、リアが認めてるのは事実だからな。
「で、それが一体どうして日本が滅びる原因になるのかしら?? 魔王が居たとしてもそれを倒す勇者も一緒なんでしょ?? ならそんなに心配する事ないじゃない」
青蜜もその事に納得したのか、そのまま話を先へと進めた。
「はぁー、あかね殿もまだまだ未熟じゃな。 これはそんな簡単な話じゃないのじゃよ」
「な、何よ。 そんな変な事言ってないでしょ?? 勇者が魔王を倒すのは当然じゃない」
「そんな訳ないじゃろう?? 相手は魔王じゃぞ?? むしろ負ける事の方が多くらいじゃ。 そこの魔女に聞けばわかるが、そもそも勇者1人で魔王に勝った例など一つもないからのぅ」
「えっ?? ほ、本当なのかリア??」
俺はおっさんに言われた通りに直ぐにリアへと尋ねた。
青蜜と同じく勇者が負けるなんて想像していなかったから。
「……まぁそうなるな。 勇者とは魔王に挑む勇気ある者であって、一対一の戦闘で魔王に勝てる者ではないからのぅ。
加護や神具があって初めて対等に戦えるくらいじゃしな」
「いや、そう言った加護や神具が扱えるのも含めての勇者だろ??」
「それは……そうなのじゃが……まどかよ、此処が何処だが忘れたのか??」
「何処って、此処はちきゅっ」
そう言いかけて俺の言葉は止まった。
そうだった、今俺達がいるこの場所は異世界じゃない。 ここは日本なんだ、そう簡単に神具や加護が得られる場所では決してない。
リアがここに封印されたのも、これが理由だったくらいだしな。
「ま、まぁ可能性がない訳ではないぞ。 その勇者がこの環境と相性が良ければ勝てる見込みもゼロでは無いしのぅ」
俺の心情を悟ってかリアは励ますようにそう答える。
「……なぁ、おっさん。 その紙には他に何か書かれてないのか??」
リアの言葉が俺達を気遣っている事くらい直ぐにわかった。
きっと勇者が勝つ見込みなんて殆ど無いのだろう、だけどそれでも僅かな可能性に賭けるしかない。
もし他に役に立つ情報が残ってるならそれを見逃す訳にはいかない。
「そうじゃな……少し気になる文ならあるぞ」
「本当か?? 一体なんて書いてあるんだ??」
「うむ、どうやらこの者達はどちらも異世界からの転移者らしくてな。
初期の段階ではそう強くは無いらしいのじゃ。 特に魔王の方は覚醒するまでに2週間程度の時間があるみたいじゃぞ」
「……そう言う事ね!!」
おっさんの話が終わったと同時に青蜜が急に元気よく叫ぶ。
「そう言う事?? 何かわかったのか青蜜??」
「当然よ!! 私達がどうしてあの世界に行ったのか今になって分かったわ!! この為だったのよ!!」
少女の様に嬉々として話す青蜜の目は今まで見た事ないくらいに輝いていた。
どう言う事だ?? 俺にはさっぱりわからんぞ??
「珍しく察しが悪いのね。 まどかちゃんなら直ぐにわかると思ったけど。
魔王が覚醒するまで2週間もあるんでしょ?? それってつまり私達が魔王を倒して世界を救えって事じゃない!!」
青蜜は手を大きく広げ立ち上がって高らかに叫ぶ。
「魔法を覚えたのも、身体強化されたのも全ては日本を、いえ、世界を救う為だったのよ!!
私と結衣、それにリアとルカが協力してくれたら覚醒前の魔王くらいならきっと倒せるわよ!!」
おおっ!! 確かに全てが繋がってる気がする!!
ナチュラルに俺を戦力外にしてるのは気に入らないけど、言われてみればそれ以外には考えられないシュチュエーションかも!!
「ねぇ、リアはどう思う??」
「う、うむ。 確かに魔王へと覚醒する前ならば勝てる見込みもあるかも知れんな……貧乳っ子が居ればじゃが」
「そうでしょ!! 結衣はどう?? 協力してくれるかしら??」
「えっ?? そ、そうですね。 私なんかに出来る事が有るなら勿論手伝います!!」
「そう言ってくれると思ったわ!! ルカは??」
「言ったでしょ?? ダーリンの故郷を守る為なら私はなんでもするわよ」
青蜜の提案にみんなは立ち上がって一言添える。
……まぁやるしかないよな、例え命をかける戦いになったとしても世界を救う為だと思えば軽いもんだしな。
「俺も協力するよ、あおみっ」
「みんなありがとう!! じゃあ早速作戦会議よ!! 先ずは魔王とやらの場所を突き止めないといけないもんね!!
あっ、でもその前に一旦私の部屋に移動しましょう、少しお腹が減ったもの」
俺の言葉を最後まで聞く事なく青蜜はそのままリアの部屋から出て行き、みんなもその後を追って行った。
……ふっ、ふふ。
おっさんと共に取り残された俺の目に自然と液体が溜まる。
いや、なんとなくわかってたけどね、戦闘系のイベントに俺の出番が無い事くらい……でも声くらいかけてくれたって良いじゃん。
こんなのって悲しすぎるじゃん??
「……まどか殿」
項垂れる俺の肩におっさんが手を置く。
「気にするで無い。 あかね殿も必死なのだよ、この世界を守る為にな。 決してお主の存在を忘れている訳では無いはずじゃ。 興奮して舞い上がっているだけなのじゃ」
……今日に限って優しくするんじゃねぇ、泣きたくなるだろうがっ。
「女の子の気持ちを理解す事も、男の役目じゃぞ。 わしはこれでそれを学んだのじゃ、人には人の考え方があるとな」
さっきと全く同じ台詞を言っておっさんは俺の前に小瓶を置いてその場からゆっくりと立ち去って行く。
その小瓶はテレビでよく見るCMの物だった。
………乳酸菌で何を学んだんだよ、あのおっさん。
その気持ちが一番分からんわ。
誰も居なくなった部屋で俺は静かにその瓶の蓋を開け、中に入ってる錠剤を1つだけ口へと運んだ。
……乳酸菌ってしょっぱいんだな。
やる事がなくなった俺はそのまま寝転がり、目を閉じて腸内環境を整える事に専念した。




