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11話 罰ゲーム執行人の罰ゲーム


「ま、まどかちゃんまだ居るのかしら?? 終わったからもう入って来ても良いわよ」

 

 部屋の前で特に何もする事の無く立っていた俺の耳に、ようやく青蜜の声が聞こえた。

 

 やっと終わったのか……あれから30分は経ってるぞ。 

 ってかなんか青蜜の声に元気がない様に感じるんだが?? 

 それに途中からリアの悲鳴が聞こえなくなったし……待っておいてなんだけど、正直入りたくないな。


 部屋の中の空気が間違いなく重いものになっていると感じながらも、俺は青蜜の声に軽く相槌を返し再びその扉を開けた。

 


 どっちにしろリアには話を聞かなきゃいけないもんな……うん、今回の事は触れない様にして、尚且つ出来るだけ明るく話を進めよう。

 その方がリアにとっても話しやすいと思うしな。

 

 部屋に入った瞬間からわかるどんよりとした雰囲気に負けない様に、俺は深呼吸して気持ちを整えて先程までリアが押さえ付けられていた場所へと向かった。

 


「お、お疲れ!! さてと、2人の用事も済んだみたいだしこれからの事について話し合いをっ……」

 

 部屋の中の光景を見た俺はそれ以上、何も話す事が出来なかった。

 

 お尻丸出しで気を失っているリアの姿に、壁の隅で小さく蹲って顔を伏せる青蜜と結衣ちゃん。

 世界が終わる間際なんじゃ無いかと錯覚する程にこの空間には絶望が漂っている様だった。

 

 ……えぇ、一体何があったんだよ。 

 いや、リアは分かるけどさ、なんで青蜜と結衣ちゃんまであんな感じになってんの?? 2人はむしろスッキリしてる方じゃないのか??

 

 とりあえずリアの丸出しのお尻に上着を被せて俺は青蜜達の元へと向かった。

 


「な、なぁ何があったんだ?? 2人ともなんでそんなに元気ないんだ??」

 

「あっ……まどかちゃん。 さっきは本当にごめんなさい」

 

「えっ?? いや、まぁ別に俺は気にしてないけど……」

 

 思ってもみなかった青蜜からの謝罪の言葉に俺は素直に驚いた。

 

 ほ、本当に何があったんだよ……こんなに元気のない青蜜は珍しいな。 ってか青蜜もだけど、結衣ちゃんも相当ショック受けてない?? 目が虚なんだけど。 

 

 ど、どうしよう、なんか話し合う空気じゃなくなってるよな……。

 

 今まで感じた事のない空気に俺は言葉に詰まる。

 

 

 


「リア、ちょっと邪魔するわよ。 今朝の話で少し気になった事があるんだけど……ってダーリン?? 

 リアの部屋で何やって……えっ?? 何?? どうしたのこれ??」

 

 途方に暮れる俺の背後からルカが驚いた表情を浮かべて部屋へと入ってきた。

 

「も、もしかしてダーリン……この年増魔女に乱暴を??」

 

 そんな訳ないだろ!! って思ったけど、確かに第三者から見たらそう見えるかも知れないな……うん、誤解を招く前にちゃんと説明しよう。

 

「じ、実はな……」

 

 俺は言葉を選びながら丁寧にルカへ今日の出来事を説明した。 

 

「……ふーん、そんな事があったのね。 それでダーリンがこの部屋に戻ってきたらこんな状況だったって訳??」

 

「あぁ。 だから俺にも今がどう言う状況か理解出来てないんだよ。 そう言う訳だから、リアへの話なら少し時間をおいてっ」

 

「いえ、それには及ばないわ。 もうなんとなくわかったから」 

 

 俺の言葉を遮ってルカはそう言うと、青蜜と結衣ちゃんに目線を合わせる様にしゃがみこんだ。

 

 えっ?? 今の説明で何かわかったの?? 俺からしたら殺人事件を解決するより難しいんだけど?? ……いや、解決した事なんてないけどさ。

 

 で、でもルカが何かわかったって言うなら後は任せよう。 

 俺にはどうする事も出来ないしな。

 

 俺はそのままルカへと視線を向けてその口が開くのを静かに待つ事にした。

 

「……ブルーちゃん、結衣。 貴方達、途中で気付いたんでしょ??」

 

「「っ!!」」

 

 ルカの声に青蜜と結衣ちゃんは同時に肩を震わせる。

 

「き、気付いたって……一体何にだ??」

 

「決まってるじゃない。 自分たちの行為が異常だって事によ」

 

 異常?? リアのお尻を叩く行為が?? 別にそんなのっ……いや、どう考えても異常だったわ。

 

「で、でもさ!! お尻を叩いたのは初めてって訳じゃないし、それに今回は前に比べたら数も少なかったしそんな事で青蜜達が気に病むとは思えないんだけど??」

 

 前回は100回だったからな。 それに比べれば今回は優しい方だ。


「ダーリンの考えも分からなくはないわ。 大方、この子達もいつものノリでやった事だと思うしね」

 

「そうだろ?? だから多分別の理由があるんじゃっ」

 

「ちなみにだけど初めてじゃないって事は前回も同じ事をしているのよね??

 その時はどこでやったのかしら??」

 

「えっ?? あー、確かリアが魔法で作り出した特殊な空間だったけど……でも、場所はあんまり関係ないだろ??」

 

「やっぱり……ダーリン、場所は大きく関係するわ。 

 初めてお尻を叩いた時と違ってここは日本なのよ?? ダーリン達の故郷だわ。

 部屋は違えど見慣れた空間に馴染んだ日常の風景。 そんな場所で見た目だけだけど、幼い女の子のお尻を丸出しにして容赦なく叩いたのよ?? 

 罪悪感が生まれるのも当然じゃないかしら??」

 

「……た、確かに」


 ふと辺りを見渡した時に我に帰る可能性はかなり高いもんな。

 

 顔を赤らめて俯いてる青蜜と結衣ちゃんの姿がルカの言葉の信憑性を高める。

 

「はぁー……まぁ長い間異世界に居たから、こっちの世界の常識が歪む気持ちも分からなくはないけど、それにしたって貴方達はやりすぎじゃないかしら?? 

 リアはリアなりにこの世界のバランスを保とうとしてくれたんでしょ?? 

 怒りをぶつけるとしたらあのポンコツのおっさんであってリアじゃないわ。 

 それどころかリアはお礼を言うべき対象だと思うんだけど??」

 


「「……おっしゃる通りです。 ごめんなさい」」

 


 お、おおー、あの2人が素直に謝ってる……まぁルカの言葉は完全に正論だしな。 

 でもこれで一段落ついたかな?? 後はリアが目を覚ました時に2人が謝れば解決だもんな。

 一時はどうなるかと思ったけど、やっぱりルカは頼りになっ。


「謝って済む問題だと思ってるのかしら??」

 

 俺の思考を遮り、ルカは冷たい声を青蜜達に向ける。

 

 ……あれ?? えっーと、ルカさん?? 

 

 その声色に俺は何故かとてつもなく嫌な予感を感じてしまう。

 

「良い?? 貴方達のせいで私の貴重な時間を無駄に使ってしまったの。 その罰はしっかりと受けてもらうわ。

 ……そうね、ここはやっぱりリアと同じ目にあってもらうのが良いかしら。 2人共壁に手を着いてお尻をこちらに向けなさい??」

 

「わ、わかったわ」

「わかりました」

 

 ルカの言葉に、特に反抗する事なく青蜜と結衣ちゃんが姿勢を変える。

 


 ……またこのパターンなの?? はぁー、まぁ良いか。 さっきと同じ様に部屋の外で終わるを待ってればっ。

 

「……どこに行くのダーリン??」

 

「えっ?? い、いや、ここから先は俺が居ても意味ないだろ??」

 

「何言ってるの?? ブルーちゃんと、結衣のお尻を叩くのはダーリンの役目なのよ??」

 

「……はぁ??」

 

 えっ、何言ってるのこの子。 

 

「当然じゃない!! だ、だって私はダーリン以外の人を叩くなんてしたくないんだもの」

 

 いや、なんで照れてんの?? 

 

「お、俺だって無理だよ!! 2人のお尻を叩くなんてそんな事出来る訳なっ」

 

「良いのよ、まどかちゃん。 これは罰なんだもの……あんな幼い子を失神するまで叩いた私の罰なんだから」

 

「そうですよ、まどかさん。 遠慮しないで思いっきり叩いてください。 そうじゃないと私……自分を許せそうに無いんです」

 

 俺の声をかき消して2人は大きな声でそう宣言した。

 

 ……か、勘弁してくれ。 青蜜も結衣ちゃんも絶対気が動転してるだけじゃん。 後で冷静になった時、殺されるのが目に見えてるんだが。

 それにいくらなんでも同級生の……しかも女の子のお尻を叩くなんて出来る訳無いだろ。 

 自慢じゃ無いけど、こっちは童貞なんだぞ!! ハードル高すぎて頭ぶつけるわ!!

 

「ダーリン、これもあの子達の為なの。 わかってあげて」

 

 目を瞑り、大きく頷きながらルカが呟く。

 

 ……頼りになると思った俺が馬鹿だったわ。 

 ってかさっき自分で言ってたよね?? この空間でお尻叩きするなんて異常だって!! 

 そんな事言われたら尚更出来る訳なっ。



「あっ!! でも、どうしても出来ないって言うなら無理にとは言わないわ。

 あのおっさんが帰って来たら、任せれば良いしね」

 

「……やるよ」

 


 おっさんに叩かせるくらいなら、俺が叩くわ。 

 なぜかそれだけは許せないもん。

 

「流石ダーリン!! そうね、じゃあリアと同じく10発ずつ叩いてあげて!! 本当は服もない方が良いんだけど….」

 

「服は有りでお願いします!!」

 

「そ、そう?? まぁダーリンがそう言うならそれで良いわ」

 

 ルカはそう言うと、俺の手を掴み青蜜と結衣ちゃんの前へと引っ張る。

 

「はい!! いつでも良いわよ!!」

 

 


 ……母さん、父さん多分俺は近いうちに死ぬ事になると思う。 最後にもう一回だけ会いたかったよ。

 まぁでも狼や恐竜に喰われて死ぬよりはマシなのかもな。



 俺は覚悟を決めて手を挙げ、無心で目の前のお尻へと手を振り下ろした。

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