10-2話 ジュラシックショック
「おい、まどか殿。 いくらなんでもこんな所で寝てると風邪を引いてしまうぞ??
今朝、無理矢理起こしたのは悪かったがせめてベットで寝た方が良いのではないの??」
「……えっ?? あれ?? お、俺、死んでないのか??」
おっさんの声で意識を取り戻した俺は慌てて辺りを確認した。
俺が寝転がってたのは、さっき恐竜に食われた場所と同じ所だった。
「お、おっさん!! さっきここに恐竜が……ティラノサウルスが居ただろ?? 何処行ったんだ??」
「はぁ? ティラノ?? 恐竜?? なんじゃそれは?? この世界の生物なのか??」
「あの大きな生物だよ!! ここに居ただろ?? 俺はそいつに頭から喰われたんだけどっ!!」
「喰われたじゃと?? ふふっ、まどか殿もまだまだ子供なのじゃな。
そんなの夢に決まっておるではないか。 現にまどか殿の頭はしっかりとあるじゃろう??
ふむ、きっと疲れておるのじゃよ。
そう言えば、青蜜殿も結衣殿も今日は疲れた顔をして帰って来ておったしな」
呆れた様子でおっさんは溜息を吐きながら頭を振るう。
「いや、あれは絶対夢じゃなっ」
「もう良い、とにかく一旦部屋に帰って落ち着くのじゃ。
なぁに恥じる事はない、起きたばっかりで夢と現実を混合してしまう事は良くあるしのぅ。
安心せい、わしは口の堅い男だ、誰にも言ったりはせぬぞ」
俺の肩に手を乗せて数回頷いた後、おっさんは呆れた様に首を振って敷地内から出て行った。
夢?? あれが??
俺は自分の手で頭を触る。
た、確かにあるな。
もしかして寸前で喰われなかったって事か?? それとも本当に俺の夢だったのか??
「……リアに聞けば分かるか」
ゆっくりと立ち上がり、昨日教えてもらったリアの部屋へと俺は向かった。
もしさっきのが夢じゃなかったら、俺が想像してる以上に大変な事がこの地球で起こってるかも知れない。
……これはめんどくさいとか言ってる場合じゃないかもな、こんなの世界中がパニックになる可能性があるぞ。
未だに恐怖で震える足を懸命に動かし、俺はリアの部屋の扉を開いた。
「リア!! 今すぐ聞きたい事があるんっ」
「よ、よせ!! 今回は別に我のせいじゃないじゃろ!! 冤罪ではないかぁー!!」
「黙りなさいリア。 結衣、しっかりと押さえ付けておいてね」
「はい」
「や、やめるじゃー!! もうお尻を叩かれるのは嫌じゃー!!」
……何やってんのこいつら。
リアの部屋には既に青蜜と結衣ちゃんが訪ねて来ていた。
「はっ!! ま、まどかか?? お願いじゃ!! 此奴らを止めてくれ!!」
俺の声に気付いたのか、うつ伏せにされられ両手を結衣ちゃんに固定されていたリアは足をバタつかせながらそう叫んだ。
いや、止めてくれてって言われても……。
今の青蜜と結衣ちゃんを止めれる人間なんていないと思うんだけど。
「……まどかちゃん、貴方には私達の怒りが理解出来てるわよね??」
こちらに目を向ける事なく青蜜が冷たい口調で言い放つ。
「えっ……あぁ、まぁ気持ちは分かるけど」
おそらくだけど、学校での一件だろう。 秘密にしてた事が完全にバレてたもんな。
「気持ちは分かるけど何??」
「……な、何でも無いです」
いや、こえーよ。 なんでこんなに怒ってるの?? 女の子にとっての秘密ってこんなにも重い事なの??
「じゃあ話は後にして貰えるかしら?? 今からこの魔女のお尻を1000回叩くから、時間はそれなりにかかると思うけど」
「せ、1000回じゃと!! そんなの死んでしまうわ!! ま、まどかよー!! 散々助けてやったでは無いかぁ!! 頼むのじゃ、どうにかしてくれ!!」
「うっ……」
い、痛い所を突くな。 確かにリアにはかなり助けて貰ったし、どうにかしてあげたいけど……無理だろ。 スイッチの入ったこの2人を止めれる気しないもん。
「ううぅ、頼むのじゃ。 このままじゃ絶対に死んでしまうのじゃ」
……ま、まぁ出来る限り頑張ってみよう。 流石に可哀想だもんな。
「な、なぁ青蜜。 確かにリアも悪い所あったけどさ、あの状況じゃ仕方なかったんじゃないか??」
俺は言葉を選びながら慎重に青蜜へ話しかけた。
「……仕方なかったですって??」
「あ、あぁ。 だってさ、俺達の代わりが居なかったら今頃大騒ぎだぜ??
急に3人の生徒が行方不明になるって事だからな。 それに比べれば、多少恥ずかしい思いをしたって」
「多少ですって?? まどかちゃん、私がクラスの女の子になんて言われてるか知ってる??」
「あー、3Fってのか?? 妖精なんて可愛くて良い方だと思うけど」
「そっちじゃないわよ!!」
俺の言葉に青蜜は声を荒らげた。
「純潔の処女様よ!! 朝から何人もの生徒にそう呼ばれたわ!! しかも、聞いた話じゃ私自身がそう呼んで欲しいって言ったって事になってるのよ?? 挙げ句の果てには外でも何人かにそう呼ばれたわ」
……うわぁ、それはきついな。
「私なんて詐胸の盛り師ですよ……ふふっ、可笑しいですよね。 サムネイルなんて使った事無いのに」
青蜜に次いで結衣ちゃんが悲壮感を漂わせながら呟く。
そしてその言葉を聞いたリアは、顔を青くして信じられない量の汗を流していた。
……思った以上に傷が深すぎるなこれ。 ってか影達は馬鹿なの?? なんでそんな事言っちゃうんだよ。
は、話を逸らそう!!
うん、今はこんな事をしてる場合じゃないって思って貰えたら……まぁ100回くらいには減らしてくれるかも知れないし。
「ふ、2人のリアに対する怒りもわかるけどさ。 先に俺の話を聞いてくれないか?? このままじゃ地球が大変な事になりそうなんだよ!!」
「……何??」
よ、よし。 結衣ちゃんは興味無さそうだけど、なんとか青蜜は食い付いたな。
相変わらずこう言う話題は好きだなもんな、青蜜は。
「し、信じて貰えないかも知れないけどさ、さっきアパートの前に恐竜が居たんだ!!
これってリアの言ってた困った事ってやつだろ?? だったら早くなんとかしないと行けないんじゃないか??
あんなのが暴れ回ったら大変な事になるぞ!!」
俺は出来るだけ緊張感を漂わせる事にした。
流石に直ぐには信じてくれないだろうけど、せめて嘘じゃない事をわかってもらう為に。
「……はぁー、なんだそんな事か」
「えっ??」
気のせいかな?? 今、青蜜そんな事って言った??
「まどかちゃんね、そんな事今はどうでも良いの。 恐竜なんかより、私のこれからの人生の方が大切だわ」
うわ、気のせいじゃなかったわ。 マジかよ、こいつ。
「いやいや、恐竜だぞ?? 下手したら死人が出るんだぞ??」
「出ないわよ。 その恐竜なら私も見たわ。 あれはただの映像よ、結衣が実際に殴ってたけど触れなかったしね」
え、映像?? あのリアルな恐竜が??
「そうですよ、まどかさん。 ですからそんなしょうもない事は後回しで良いんです。 今は何よりも制裁をすべきなんですから」
なるほど、映像だったのか。 あー、だから食べられても生きてたんだ、俺。 納得したわ……って納得できるか!!
え?? 何なのこの子達?? 馬鹿なの??
百歩譲って映像だから危害は無いってのは分かるよ。
でもそんな事とか、しょうもない事って言葉で片付けれる話じゃなくない??
ってか今さらっと結衣ちゃんが恐竜に殴りかかったって言った??
なんか色々衝撃だけど、その言葉が一番の驚きだわ!!
「もう良いかしらまどかちゃん?? その話なら急ぐ程の事じゃ無いでしょ??」
……うん、わかってたよ。
わかってたさ、影達が馬鹿なんじゃなくてこの2人がおかしいんだよな。
「……何よ、そんな顔しなくても良いじゃない。 はぁー、わかったわよ!! 1000回は辞めてあげるわよ!!」
何も言えなくなった俺の顔を見て青蜜は溜息を吐きながらそう言った。
……一体何がわかったんだよ、俺にはお前らが馬鹿だって事以外何もわからんぞ。
「特別に50回で許してあげるわよ」
「ほ、本当か!! やったのじゃー!! まどかよ、助かったのじゃ!! ありがとのぅ!!」
マジでなんもしてないけどな。
「……その代わり、この服は無しね」
そう言うと青蜜はリアのパンツを脱がして投げ捨てた。
「な、何をするんじゃ!! 生か?? もしや生で叩く気なのか?? そんなの酷すぎるでは無いか!!」
「そう?? じゃあ1000回でも良いのかしら??」
「……うぅ、このままで良いのじゃ」
泣きそうな声でリアはそう呟き、覚悟を決めたのか顔を床に密着させる。
その姿に俺はこれ以上出来る事は無いと悟り、無言で部屋から出て行った。
恐竜の姿を見た時は本当にやばいと思ったんだけどな……身近にもっとやばい奴が2人も居るんだもん。 そりゃあ予想も出来ない展開になるよね。
青蜜の数字を数える大きな声とリアの悲鳴と共に響く甲高い打撃音。
雲一つの無い青空を見上げながら、俺はその音が終わるのを静かに待つ事にした。




