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第17ゲーム デスゲームに巻き込まれましたっ!

 目覚めた時、私は見知らぬ部屋にいた。


「うっ……あれ? ここ、どこ……?」


 朦朧とする意識を必死に振り払い、まずは周辺状況の把握に努める。


 節電でもしているかのような無駄に暗い部屋。窓一つすらない打ちっ放しのコンクリートの壁。前と後ろに一つずつ設置された金属扉。天井から吊り下げられたモニター。


 さらに、左手首にはリストバンドのような装置。首に違和感を覚えて触れてみると、首輪まで装着されている。


 そして――不安げな表情を浮かべる人々。一、二……そこそこいる。十人くらい。余りにも非日常的な空間。面識のない男女が密室で十人。そう、この状況を例えるならば、まるでこれからデスゲームでも始めるかのような……。


 そう考えていた矢先のことだった。


「皆様、ようこそいらっしゃいました」


 瞬間、その場の全員が一斉にモニターへ顔を向けた。映し出されたのは謎の仮面を被った怪しい人物。聞こえてきた音声も加工されている。与えられた情報だけでは、男か女かも分からない。


 明らかに胡散臭い運営。こんな変人に取り仕切らせるなど正気の沙汰ではない。


 誰がどう考えても、今から始まるのはデスゲームなんじゃ……。


「早速ですが、皆様にはデスゲームをして頂きます!」

「だと思った!!」


 私の叫び声に、みんなが一斉に集中する。それは仕方ない。


 ちょっと待って。少し状況を整理しよう。


 私は伊佐名美命。デスゲーム運営事務局(株)の企画部に勤めている。


 そして、今からここで始まるのはデスゲーム。


 運営なのに! デスゲームに巻き込まれる! こんなことある!?



  ***



 そう言えば、前に話を聞いた。


 デスゲーム業界に、他社が参入してきたと。そんなに儲かる市場だったのか!


 何でも、とにかく格安らしい。頑張れば一般人でも視聴できるくらい。つまり、我が社が顧客として見ている層より、一つ下の層をターゲットにしているのだ。


 着眼点は悪くない。しかし、どうやって利益を出すのか。そんな低コストで、簡単にデスゲームを企画・運営することが可能なのだろうか。少々疑問に感じてしまう。


「さて、本日やって頂くゲームは――『殺し合い』です!」

「えっ!? そ、それがゲーム名なの!?」

「ルールは簡単です。生き残った最後の一人が勝者となります。皆様で殺し合ってください」

「それだけ!? シンプル過ぎる! 明らかに手抜きでしょ! もうちょっと考えて企画しなさいよ! 見てる人もすぐ飽きるわよ!!」

「なお、左手首に装着したバンドが生体情報を検知します。全員の死亡が判定されたら左手首のバントと――首に装着した爆弾付きの首輪が自動で外れます。すると、あそこの赤い扉から出られますので、そのままゲームから解放です。ちなみに、運営に逆らったら首輪が爆発しますのでご注意ください。以上です」

「もうルール説明終わり!? 業務説明かっ! ちょっと、逆に自信を無くすんだけど!? 他に無いの? 本当に他にルールが無いの!?」

「さっきから五月蝿いですね。貴女は何様ですか!」

「私はデスゲーム運営事務局(株)のゲームマスターよ!」


 会場が騒然とする。ゲームマスターも黙ってしまう。よもや、ライバル会社のゲームマスターを連れてきてしまうとは……。何という偶然。


「どうりで格安でデスゲームを販売してると思った。その辺の人間を適当に拉致して、適当に殺せばいいと思ってんでしょ! こういうあくどい手で参加者を集めているのね? うちとは真逆。全く、反吐が出るわ!」

「何が言いたいんです?」

「デスゲームを観戦するお客様は……死に直面した人間の覚悟や、裏切り・駆け引き・騙し合いというドロドロの人間関係や、考え過ぎて脳が溶けるような頭脳戦を見たいの! 人間の()()を目の当たりにしたいの! それを、()()()()? バカ言うんじゃないわよ! デスゲームは、そんな軽いもんじゃない! 言っときますけど、命が賭かってるんですよ!」


 しばらくの間、ゲームマスターは押し黙ったままだった。


 いや、裏で責任者が話し合っているんだろう。


 そして、再び話し出す。


「ならば、こういうのはどうでしょう。貴女と我々で()()をする。もし、このデスゲームの最後の1人として生き残ったならば――貴女の勝利です。我々は潔く負けを認めて、会社を畳みましょう」

「つまり、デスゲームの途中で死んだら、私の負け。アンタらは会社を存続させる。上等ね! やってやるわよ!」

「二言はありませんね」

「当たり前よ!」


 デスゲームに巻き込まれた伊佐名と、他のデスゲーム運営会社との壮絶な戦いが幕を開ける――!!



  ***



「では、ゲーム開始です!」


 遂に始まってしまった。果たして、伊佐名はどう切り抜けるのか。


「おっと、ここでルール変更です! 先程、ゲームマスターに食って掛かった女性。彼女が死亡した場合に、残る全員の勝利となります。ゲームから解放してあげましょう」

「なっ!?」


 そんな、ズルい! 全員が伊佐名に向かって突撃――


「甘いっ!」


 なんと、即座にプレイヤーの制圧を始める。一体、どういう訳か。彼女に触れた次の瞬間には、プレイヤーは地面に倒れていた。


「私はデスゲーム運営事務局の企画部で働く伊佐名美命! 今年で入社8年目の29歳! 身長155.5センチ! 趣味はデスゲーム作品の観賞! 好きな色は黒! そして――柔道有段者!」

「じゃあ、帯の色は……」

「もちろん、黒帯よ!」


 一般の有象無象では制圧など不可能。


「ちょっと? アンタら、ズルいじゃない。もう()()()ルール変更しないって、誓ってくれる?」

「……いいだろう。誓おうじゃないか。だが、君に殺せるかな……? 何の罪もない、自分からデスゲームに参加した訳でもない、ただの一般人を! 帰りを待っている家族がいる! 果たして、殺せるのかな……?」

「くっ、外道が……!!」


 実際のところ――殺せない。伊佐名には殺せない。


 彼らもまた被害者なのだ。自分と同じく、強制的にデスゲームに巻き込まれた。


 ならば、どうする……。


「みんな、安心して。既に種は蒔いた。私はデスゲーム運営事務局の企画部よ! 私以上にデスゲームに詳しい人はいない! 伊達にデスゲーム好きなんて名乗ってないわよ! 就活で会社のエントリーシートにも『趣味:デスゲーム』って書くほどよ! 他にいる!?」


 いないだろう。どうして彼女が就職活動に失敗したのか……今なら分かる気がする。


「余りにも杜撰なルールのデスゲームなんて、ぶっ壊してやりましょう! 全員で生き残る! この理不尽なデスゲームから、私たち全員で生還するわよ!」



  ***



 彼らが一体、何を始めたのか。ゲームマスターには確認する術が無かった。


 全てのカメラと盗聴器が破壊されてしまったから。禁止行為をルールに盛り込んでいないから、そうなるのだ。杜撰と罵られる訳である。


 だが、生きて出られるはずが――


  ***



「みんな、これでもう安心。奴らは私たちの行動を確認できない。だから、今から私が言うことをよく聞いて。一字一句として聞き逃さず! 死にたくなければ!」


 誰もが彼女に従う。だって、死にたくないから。


 そして、10分後。


 全プレイヤーは無事に生還した。首輪が外され、赤い扉を潜り抜けるのだった。最後の一人ではないため、ゲームの勝者ではない。しかし、扉を通過したら――ゲームから解放。


 確かに、ゲームマスターはそう言っていたのだ。



  ***



 無事に脱出した伊佐名美命は、混乱するゲームマスターと対面を果たした。


「バカな……どうやった!?」

「はぁ……爆弾付きの首輪なんて、今時流行らないわよ。そんなの使うのはド素人。もっとスマートに殺さないと」

「首輪を強制的に外したのか!? いや、そんなことすれば爆発は免れない……」

「違うわよ。私が操作したのは『バンド』の方よ。全く、安いの使ってるわね。うちじゃ採用しないわよ。生体情報って、脈拍しか測ってないじゃない!」

「だからと言って、無理にいじると……」

「首輪が爆発。そのくらい分かってるわ。簡単よ。強制的に()()()()()の」


 脈を止める――そんなことが可能か。


 可能である。例えば、脇の下にゴムボールなど、何かをぐっと挟めば――手首の脈は停止するのだ!


 それを9人で同時に行えば。


 1人が生き残ったと判断して、首輪が外れる。


 あとは順番に同じことを繰り返せばいいだけ。


「そ、そんな方法が……」

「私はデスゲームの運営だけど、自分の仕事に命を賭けて頑張ってるの。適当なデスゲームなんて、一度も作ったことがない! アンタたちは、デスゲームを舐め過ぎよ! もっとデスゲームを勉強してから出直しなさい!」

「完敗だ……我々の完敗だよ……」


 後日、伊佐名は社内で参入した他社が撤退したと聞くのだが……「あっ、そう」としか言わなかった。私が潰したなんて言えない。このことは墓まで持っていく秘密。


~今日のゲーム~

『殺し合い』

 シンプル過ぎて無念。穴だらけで無念。

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一般文芸デビューしました。(2020.09.01)

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