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第4ゲーム 黙っていたら生き残れませんっ!(後編)

「あらぁ、それで結局ルールは変わらなかったのぉ?」

「そうなります……」

「終わったことやから、しゃーないわ。ご愁傷様」


 後日。伊佐名は会社の休憩室で先輩2人と話していた。


 ご存知の通り、D社は他社よりも比較的自由な社風である。数分程度の休憩ならば、勝手に取っても構わない。ただし、明らかに長時間サボっているのはNG。


 全員が缶コーヒーを片手に、背の高い小さな丸テーブルを囲っている。傍から見れば単なる世間話。実際その通りなのだが、伊佐名は2人から詰問されるのではないかと内心ハラハラしていた。いや、これまでの企画を振り返れば、問い詰められても仕方ない。


 しかし、彼らは温かく迎えてくれた。その優しさがちょっとだけ痛かった。優しくされることは嬉しいはずなのに、時として心に影を落とすのだ。全く、不思議なものである。


「せやけど、今回はいい線いってたんちゃう?」

「あと一歩及ばす、といったところです。その後も粘って、状況は二転三転しました。どうにかルール変更を提案させるまでに至ったんです。ただ……最終的に相手チームが合意することはありませんでした」

「そうなのぉ? 確かに、普通に考えて怪しいかもねぇ」


 その通り。怪しいのだ。絶対に何らかの裏がある。真っ向からルール変更を提案しても、大体は拒否されてしまうだろう。


「だけど、やり方ってもんがあるでしょう! 一度提案が拒絶されて、はい終わりじゃない。そこから喰らい付かなきゃ! その程度で諦めるな! 足掻いて、交渉して、代替案を出す! 自分の命と比べたら、それくらい安いものでしょ!」

「商品を値切る大阪のオバチャンみたいにな」

「あらぁ? 企画を提案する、私たちみたいにじゃなくて?」


 どちらの例えも言い得て妙。出鼻を挫かれて断念しては、何も始まらない。そもそも、一度の拒否で引き下がるなんて、どうしてあんなに打たれ弱いのか。私も人のことは言えないけど!


「提案の切り出し方が下手なんですよ。もっと既存のルールにイチャモン付けて! 『このルールおかしくない?』『絶対こうした方が早く決着が付くでしょ』とか!」

「あるあるやな」

「もしくは相手チームをガンガンに舐めて! 『これで俺が圧勝してもツマンナイからさぁ』『そうだ。特別にハンデをやるよ』みたいに!」

「聞いたことあるわぁ」


 ぶっちゃけ、これを期待していた。それなのに……えっ、みんなデスゲームについて知らないの? 見たことないの? 読んだことないの? やったことないの!?


 いや、本物はやったことないか。でも、似たようなアトラクションなら世間に溢れ返っている。


「でもぉ、そのお陰で既存ルールの()に気付いてもらえたんだからぁ。結果オーライじゃない」

「せやせや! 逆に、プレイヤーはルールを深く考察することができたんや。ミコちゃんの努力の賜物(たまもの)やで!」

「うぅ……何だか釈然としません……」


 これまでに担当した自分の企画。その4つを振り返れば――今回のデスゲームが一番盛り上がっただろう。色々とあったけれど、最終的には上手くいった。頭脳戦の駆け引きもできていた。プレイヤーが漏れなく口下手なだけで、考えることはきちんと考えていたのだ。


 ただ、私が思い描いていた展開とは違った!


 いつか理想のデスゲームを実現できる日は来るのだろうか。私の目の前へ白馬に乗った王子様が現れるくらい難しいのでは? 最近、そんなことを思い始めた。


 しかし、これは飽くまで()()()()の評価である。


 元来、伊佐名は理想が高過ぎる故に、自己評価が低くなる傾向にあった。第三者目線で客観的に評価すれば、優秀も優秀。この一年にも満たない短期間で、提案した企画を()()()通しているのだから。


 先輩の顔を潰しているのでは。期待に応えられていないのでは。日頃から気にしていたが……その答えは、否。本城や日向にとって、伊佐名が後輩であることは――先輩としても鼻が高かった!


「なんや。聞いた限りなら、ワイらとしても心配ないわ」

「そうねぇ。ちゃんと成長していて安心だわぁ」

「えっ……?」

「しっかりプレイヤー目線に立ててたやん。わざわざ全員分のルールブックまで用意するなんて。そういった細かい気配り、なかなかできるもんやないで」

「プレイヤーと対話できたじゃないのぉ。遂に到達したじゃない。ルール説明の()()()へ。一昔前の伊佐名ちゃんだったら、考えられないわぁ」

「それ、褒めているんですよね……?」

「当たり前やろ!」

「勿論よぉ」


 先輩から仕事ぶりを認められる。成長の証だと評価してもらえる。これほど嬉しい言葉は他にない――!!


 何だろう。最近、涙腺が緩んできたのかな。ふとした瞬間に潤んでしまう。それを、ぐっと唇を噛み締めて堪える。何度か目をパチパチさせ、必死に先輩たちから悟られまいとする。


「あ……ありがとうございます! 伊佐名美命、これからも頑張りますっ!!」

「なんや、ミコちゃん。急に元気が戻ったな」

「ふふっ。それでこそ伊佐名ちゃんね」

「ほら、休憩時間はもう終わりです! 行きますよっ!」


 空になったコーヒーの缶をゴミ箱に放り投げ、心機一転。


 いくら過去を悔いても仕方がない。未来を見なければ。


 彼女の意識は、次なる企画へと向けられていた。いつか絶対、最高のデスゲームを創り上げてみせると――!!


~今日のゲーム~

『献血ゲーム』

 ターン制チーム対戦型デスゲーム。お互いの血液をチップとして奪い合う変則ギャンブル。最小のベットは100ccから。勝負の鍵は失血状態でどこまで正常に戦えるか。その見極めと、いかに相手の血液型を看破して自身へ輸血するか。血液型を間違えたら死亡の恐れもあるため、ハイリスクハイリターン。4対4であることから、少し考えれば全ての血液型が揃っていることも分かる。血液型を相手の性格から判断するも良し、実験的に検証を試みても良し、敵プレイヤーと組むも良し、一か八かの賭けに出るも良し。ルール変更でゲームを有利に運ぶことが可能。しかし、同じ体型の人間を集めたことで、全員が似たような性格のプレイヤーとなってしまった。みんな引っ込み思案。ちょっと無念。

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一般文芸デビューしました。(2020.09.01)

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