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ルシアとユリウスの顔合わせが終わってから、ユリウスは頻繁にオーランド家を訪問するようになった。

王都から自然の都までは相当な距離があるのだが、ユリウスの魔法にかかれば、一瞬で移動することができる。

週に2回はルシアに会いにくる訳だが、そんなに来て何をしているのかと言うと、遊んでいる。

ただ、普通に遊んでいる。

初めて会った日の言葉通り、ルシアはユリウスと楽しめるような遊びを考えた。

無難に鬼ごっこをしようとしたが、相手はユリウス。彼を無邪気に走らせることはできないと悟った。

次に思いついたのは、かくれんぼ。

これが良かった。

ルシアは自分の庭ともいえる自然の都の全体を使って、大スケールのかくれんぼを提案した。

初めてやろうと言った時にはユリウスも、しょうがないから子どもの遊びに付き合ってやる、という雰囲気を醸し出していたが、いざやってみるとそうもいかない。

まずユリウスはルシアが隠れるために、1時間待たされた。

さらにユリウスは魔法が使えるので、それにも制限を設けたし、制限時間も与えられた。


これが案外、難しいのだ。


ルシアは山や森を知り尽くしているので、思っても見ないところに隠れていたりする。偽装工作も施していくので、簡単に痕跡を追ってはいけない。さらには野生の動物に遭遇するときもあるので、全く気が抜けなかった。


かくれんぼなんて幼稚な遊びだ、と思っていたユリウスも気がつけば夢中になっていた。



「御機嫌よう、ユリウス様」


ふたりがかくれんぼを始めて1年が経つ頃。ルシアは何処からともなく現れるユリウスに、驚くことなく挨拶し、不敵な笑みで微笑む。


「ユリウス様も自然の都のことを知り尽くしてきた頃だと思うので、今日は私がユリウス様を探すのはいかがですか?」


「そうだね。今のところ30勝20敗でわたしの勝ちだから、ルシアにもチャンスがないと」


ユリウスの挑発に、ルシアはムッと頬を膨らませる。


「絶対見つけますから! 手加減はしないでくださいね!」


「わかったよ」


これが事件の始まりだった。

この日、ユリウスが隠れる場所に選んだのは洞窟。隠れる時間はたったの5分間なので、はやく隠れないといけない。魔法で手に光を灯し、奥へ奥へと進むと、この洞窟は人工的に掘られたものだと気がつく。

ユリウスは好奇心を刺激されて、かくれんぼの事は頭の片隅に押しやって、光の差し込む開けた空間に出た。

そこの真ん中には、何か玉が祀られている。

ユリウスは魔法を解いて、砂がこびりついた玉をこすった。ぼろぼろ砂が落ちて、そこに見えたのは光沢のある黒い水晶。


「なんだろう。これは」


大きな穴が開いた天井に玉を掲げて、それを覗き込む。


ギョロリ


「な!」


突如黒い玉の中に、目玉のようなものが現れ、ユリウスの目とかち合う。

その瞬間彼の頭には悪夢のような映像が流れ込む。


「ウァっ!!」


ユリウスは立っていられず、その場に跪く。強烈な力に飲み込まれそうになり、ユリウスは自制が効かなくなった。

精霊たちも騒ぎ出し、彼の魔力が暴走を始める。


「ユリウス様!!」


異変を感じたルシアが、全速力でユリウスのもとに走ってくる。

だが、ルシアの声はユリウスには届かない。幻術にかかった彼は膨大な魔力を自分の周りに放出した。

豪然たる光にルシアは目を細めるが、果敢に光の中心にいる彼のもとに駆け寄る。


ユリウスの側に落ちた黒い玉に、護身用で持っていた短剣を思いっきり突き刺した。


「ユリウス様!」

「っ! ルシアっ、離れて!」


正気を取り戻したユリウスだったが、暴走が止まらない。彼の周りでは精霊たちが怒りで暴れている。

なんとか収めようとするが、これだけの暴走は初めてで、止め方がわからない。

彼は今までの人生で一番焦っていた。



「大丈夫。大丈夫だよ、ユリウス様」



何か温かくて優しいものに包まれる。

混乱のせいで、それがルシアだと気がつくのにも時間がかかった。

ルシアはユリウスの背中に手を回し、泣いた子供をあやすように一定のリズムで背中をさする。


「落ち着いて。深呼吸。吸って、吐いて」


ルシアに言われるまま一緒に、深呼吸をして呼吸を整える。


「大丈夫。この手の中に、魔力を収めてみて。手をあっためるみたいに」


彼女はユリウスから身体を離すと、彼の両手を包み込み、そう言った。

すると不思議なことに暴走していた魔力が球状になり、ユリウスの手のひらに現れる。ルシアはそれを挟むように、ユリウスの手ごと包んでいた手を閉じた。


「ね。大丈夫でしょう?」


前世で自分が暴走していた時にやっていた方法だ。

ルシアはユリウスを安心させるために、にっこり微笑んだ。

彼はそれで気が抜けたのか、その場で気を失ってしまう。

後から駆けつけたアズベルにユリウスを託し、急いで屋敷に戻った。




ユリウスが次に目を開いたのは、知らないベッドの上。オーランド家の屋敷だ。

魔力の放出のせいで、疲れた身体を起こす。


「ああ、 ユリウス様。目を覚まされましたか」


安堵の声が聞こえ、横を見るとアズベルが控えていた。


「……どのくらい寝てた?」


「3時間ほどです。魔力の暴走を感知した時は、どうなることかと」


そこでユリウスは慌ててルシアの様子を聞いた。魔力を持たない彼女が、あんな風に暴走の渦中に飛び込んでくるとは思っても見なかったのだ。


「……ルシア嬢は、お部屋に引きこもってしまったようで。自分のせいでユリウス様を危険に晒してしまったと」


「彼女のせいじゃないのに」


ユリウスはベッドから足を下ろす。


「ちょ、どちらへ?」

「わたしの婚約者のところ」


ルシアの気配はかくれんぼのせいで、すっかり覚えてしまっている。彼女がどの部屋にいるのかは聞かずともわかっていた。


扉を叩き、ルシアを呼ぶ。


「ルシア嬢。今回の件はあなたのせいではありません。閉じこもっていないで、出てきてください。わたしはあなたにお礼が言いたい」


返事は一向に返ってこない。

ユリウスが起きたと聞きつけたデイモンドとガーネットもルシアの部屋の前に現れる。


「あぁ、ユリウス様。ご無事で……。どこか痛いところは?」


「全く問題ありません。心配をおかけしました。ただ、そうですね。ルシア嬢が顔を見せてくれないのは、心が痛いです」


部屋の中の彼女にも声は聞こえているはずだが、鍵を閉めて出てくる気配はしなかった。


「失礼しますよ、ルシア嬢」


ユリウスは魔法でガチャリと扉を開ける。

扉の横に座っていたルシアは驚いた顔で、ユリウスを見上げた。

暗い部屋に光が差し込み、ユリウスの姿は眩しい。


「ユリウス様……。申し訳ありません」


ルシアはその場で土下座した。


「あの場所を選んで、玉に触れてしまったのはわたしだ。ルシア嬢が謝ることなんて何もないよ」


「で、でも」


「君は悪くない。本当にわたしに危害を加えようとしたら、精霊たちが黙っていないよ」


ごもっともな答えに、ルシアは上体を起こす。

落ち着いたふたりは、何があったのかを話すために席に着いた。


「ルシア、お茶を淹れてくれる?」


ガーネットは、お菓子を机に並べながらそう言った。

ルシアはいつもの通り立ち上がって、お茶の準備をし始める。

だが、ティーポットに茶葉を入れる動作がおかしい。

ユリウスはまだルシアが落ち込んでいるだけかと思ったが、そうではなかった。


「ルシア、あなたまさか」


気がついたガーネットが彼女の目の前で二本の指を立てる。


「これは何本?」


すぐに答えられるはずの問いに、ルシアは口をつぐむ。


「……見えていないのね」


ユリウスはハッとした。

魔力の暴走で自分の周りには激しい光が現れていた。その中で魔法も使えないルシアは水晶を壊し、彼を抱きしめたのだ。目を閉じることはしていなかった。


「わたしのせいだ」


「ち、違います! 決してユリウス様のせいではありません。全部が見えていないわけではないのです。ただ、曇りガラスをかけているような感覚なだけで、慣れれば生活には問題ありません」


「いや。わたしの責任だ」


ユリウスは立ち上がる。


「今回の件は、わたしが責任を持って調べます。ルシア嬢の目をもとに戻す方法も探します。大切な娘さんにこのような傷を負わせてしまい、申し訳ありませんでした」


「そ、そんな。これは娘が勝手にやってしまったことで、あなた様が気にするようなことでは」


デイモンドは、ルシアがたまに見せるお転婆ぶりを知っている。そして優秀なユリウスがルシアを傷つけるようなことをしないこともわかっていた。


「いいえ。婚約者を傷つけるなど、あってはならないことです」


断固として自分に責任があると譲らないユリウスは、そのまま魔法で王都の自宅に戻ってしまった。





それを機にユリウスは、オーランド家に来なくなった。


彼は王立魔法学院に入学し、魔法を学び直し、ルシアの目を治す方法を探していた。

聴覚、嗅覚、触覚、味覚、視覚の五感と呼ばれるものは、魔法では治せないものとされており、優秀なユリウスであってもその方法を見つけるのには途方も無い努力が必要だったのだ。


一方のルシアは、目が見えにくいというハンディキャップを克服するために、訓練を重ねていた。目が見えているように振る舞えれば、ユリウスが罪悪感のために自分に割く時間が減らせると思ったのだ。

まずは身の回りのことに始まり、ちゃんとお茶を淹れることができるようになると、だんだん細かい作業ができるように練習を積み重ねる。

綺麗に字が書けるようになって、一番初めにしたことはユリウスに手紙を書くことだった。

そのころには、彼と会わなくなって4年の時が経過していた。

手紙の返事には、ルシアの目を治す方法を見つけない限り君に合わせる顔がない、という内容が綴られ、ルシアは胸が痛んだ。


それもそのはず。


ドラゴンの血さえあれば、ルシアは自分の目を治すことができた。


しかしそれは、彼女の前世であるマテマが戦姫エーデに殺されることになった原因に他ならない。

マテマは、ドラゴンの血で「魔法陣」と呼ばれる特殊な図形を組み合わせたものを書き、それにあった呪文を詠唱すれば誰でも魔法を使うことができる、という発見をしていた。

素晴らしい発見かと思われたが、それは魔力を世襲する貴族たちからすれば都合の悪いものだった。

誰もが魔法を使える世界は、望まれてはいなかったのだ。

そして、マテマは魔王討伐で殺された。

彼女さえいなければ、魔法陣を知る「魔導師」は存在しなくなるからだ。


だから、同じ轍は踏めない。


といってもまず、今の彼女では、ドラゴンから血をもらうことすらできなかった。



そうして、手紙のやり取りはなんとかできるようになったルシアだが、ユリウスと会わない時がまた過ぎて、17歳になった。

社交界にデビューする年だ。


ルシアは王都に赴き、パーティに参加する。


慣れない空間に目が回りそうだったが、表情には出さず、隅の方で息をひそめる。

たくさんの人がいるなか、ルシアは人の顔がぼんやりとしか見えないので、皆同じようにしか捉えられない。

声や体型で特定することになるので、あまり人とは関わりたくなかった。


「美しい銀細工のような瞳のお嬢さん。よかったらわたしと踊りませんか」


なぜ嫌だと思っている時に、こうもお誘いがあるのだろうか。

ルシアは内心では盛大にため息を吐く。

こうなったら仕方ない。一曲くらいは踊らなければならない運命なのだろう。


戸惑いつつも差し出された手を取ろうとした時だった。


「すまないが、先約がある」


少しだけ浮かせた手を、横から来た誰かに取られる。

そのままホールの方へ連れて行かれるが、ルシアは混乱していた。


「まぁ、ユリウス様が踊るのかしら!」

「見たことがない子ね。誰かしら?」


そんな声が聞こえて、ルシアはまさかと目を凝らす。

確かに髪は他の人にはない金色に見える。


「ユリウス様ですか?」


幼い時とは違って、すっかり身長が伸び、声も変わっていたので気がつかなかった。


「……いいや。人違いだ」


嘘だ。

ルシアはそう思った。彼はユリウスなのだと、本能が告げている。

だが、彼は治療法が見つからない今、このような形でルシアに会うのは不本意なのだろう。


「そう、でしたか。すみません。なら、お名前をお聞きしても?」


ルシアは掴まれていない手で拳をつくり、笑顔を貼り付けた。

これ以上、彼を困らせたくない。

それだけだった。


「……ユーリ。そう呼んでくれ」

「わかりました。ユーリ様」


嘘が下手な人だ。いや、本当はユリウスだと気がついて欲しいのかもしれない。

ホールを通り過ぎてルシアが連れて行かれたのは、個室だった。


「ユーリ様?」


彼女は目を丸くしていると、料理が並べられたテーブルに座らせられる。


「かぼちゃのキッシュ、ミートパイ、パスタ、サンドウィッチ、ケーキ……何が食べたい?」


ユリウスが目が見えないルシアのために用意してくれたのだと、彼女は気がつく。

適当に並んでいるものをつまんでいたのだが、ユリウスの計らいにルシアは嬉しくて仕方なかった。


「いちごのケーキはありますか?」


スイーツにありつけていなかったので、彼女はきく。


「あるよ。好きなだけ食べるといい」


お皿に盛ってくれる彼は、どう考えたってユリウスだ。

久しぶりに会えたのに、この目で見えないことの虚しさと、ユリウスと呼べない悲しさに、不器用な彼の優しさ、自分で治すことができるのに黙っている罪悪感で、胸がいっぱいになったルシアの瞳からは涙が流れた。


「どうしたの?」


ユリウスの戸惑いの声が聞こえる。


「ごめんなさい。嬉しくて」


最初の「ごめんなさい」には、一言では表せない謝罪の意味が込められていた。


「はは。私ったら駄目ですね。婚約者がいる身なのに、あなたに優しくしてもらったら、こんなに胸がいっぱいになってしまいました」


「……そうか。ひどい婚約者なんだな」


「そうなんです。小さい時は毎週のように会いに来てくれたのに、もう7年くらい会ってくれません。わたしが情けない婚約者だから、愛想をつかされてしまったのかも」


「それはありえない」


自分がずるいことをしていることはわかっている。でも、ルシアには止めることができなかった。

何せ、7年ぶりの再会だ。

罪悪感で目を治す方法を探してくれても、他に好きな人ができていたら、自分は重荷でしかない。

それを確かめなくてはいけないと、ルシアは彼に会うことができたら訊くのだと覚悟を決めていた。


「いいえ。私、ずっと考えていたんです。この婚約はただ私が〈緑の民〉であるから決まったもの。あの人は努力家で素晴らしい人だから、特別なお友達とも上手くやっているはずなので、〈緑の民〉の私でなくても想いを寄せる方ができたらそちらの方と一緒になったほうが、幸せになれるんです。こんな枷でしかない私と婚約をし続ける必要は……」


「ルシア嬢」


ユリウスが名前を呼ぶ。

ルシアはどうしようもない気持ちを、“ユーリ” に告げる。


「ユーリ様。私は、ユリウス・ローレンシウム様が大好きなんです。だから、彼をこれ以上縛りたくない。どうしたらいいですか」


ルシアは両手で顔を押さえつけてむせび泣く。ユリウスが立ち上がる音は聞こえなかった。


「泣かないで、ルシア。君に泣かれると、どうしていいかわからない」


ルシアの隣に膝をつき、ユリウスは彼女の手を外そうとする。


「む、無理です。私の方こそユリウス様に合わせる顔がありません」


彼女は顔を手で覆ったまま、外そうとしない。

だが、目の前に何かの気配を感じ、額に柔らかいものが押し当てられて、ハッとする。


思わず顔から手を離すと、間近にユリウスの顔があった。


額にキスされたのだと気がつくと、ルシアの顔は赤く茹で上がる。

前世は一匹オオカミだったので、恋愛ごととは無縁だった。完全にウブである。


「な、え、ユリウスさま?」


「君もずるい子だね。わたしだとわかっていて、先に言ってしまうんだから」


「へ?」


「この7年間、君以外にわたしと遊んでくれる子なんて、誰もいなかった。ずっとルシアのことばかり考えて過ごしてきたんだ。君との婚約以外は受け付けるつもりはないし、たとえ君が嫌がっても逃がすつもりはない。わたしにここまでさせるのはルシアしかいないんだから」


ルシアの涙はおさまったかと思ったが、ユリウスの言葉を聞いてまたポロポロ大粒の涙が溢れる。


「泣きすぎだよ。可愛い顔が台無しになっちゃう」


「ユリウス様のせいですよっ」


「ごめん。でも、本当に今日の君は見違えるほど綺麗だよ」


「っ!」


こういうことをスラスラ言えるこの男が、憎たらしい。

しかしルシアは、あることに気がつく。


「今日の私? 7年ぶりのはずですが、まさか……」


「ええ。ユリウス様は、魔法で頻繁にオーランド家に行ってはルシア様の様子をのぞいていましたよ」


「——アズベル」


それまで気配を消していたアズベルが、ここぞとばかりに口を開く。


「ルシア様が体調を崩された時なんて、毎日通ってましたからね」


「アズベル!」


ユリウスが声を張るが、アズベルには全く反省の色が見えない。


「ずるいですよ、ユリウス様。私は7年もあなたの顔を見られていないのに」


本当は7年どころではないのだろう。これから先、彼の顔をちゃんと見ることはできない。


「……触っていいですか?」


ルシアはユリウスの顔に手を伸ばす。


「いいよ」


やりたいことを理解してくれたユリウスは、ルシアの手をとって自分の頬に触れさせる。

彼女は壊れ物を触るような手つきで、ユリウスの顔を触覚で覚えようとした。

バランスのとれた顔だ。スッキリとした鼻に、大きな唇。瞳の色は今は青しか捉えることができないが、長い睫毛に大きな目だった。


「すっかり大人になっちゃったみたいですね。声も低くなって、一瞬誰だかわかりませんでしたよ」


ルシアは手を離した。


「ごめんね。まさか君がそこまで思い詰めてるとは知らなくて。それに愛想をつかされたのはわたしの方だと思っていたから、ただ会いに行くのが怖かったんだ。君に会う理由が欲しくて、目を治す方法を探していたんだけれど、なかなか難しくて。会いに行けなかった」


「もういいんです。こうやって会えたから。これからはまた会いに来てくれますか?」


「ああ。毎日でも会いに行く」


「それはちょっと来すぎです」


アズベルが吹き出す声が聞こえる。

ユリウスとこんな風に話せるのは、彼女くらいだ。

彼は学院に入ってからは、嫉妬の目を向けられ一悶着あったりして、人に心を開こうとしなかった。

だから、こんなに誰かのために尽くせる人だとは誰にも思われていないだろう。

ユリウスが珍しく見せた楽しそうな顔に、アズベルもほっと肩の力が抜けた。





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