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第六話


「百歩譲って俺らの命獲りに来たのは良いけどよ、ちょっと遊びがすぎるんじゃねえか?」


三蛇会のクソを椅子に縛り付けると、何度も殴りつけてやった。

この会合に呼んだメンバーはクソッタレ共では有るが、少なくともこの国を駄目にする気はねえ。

悲しいぜ、この国にクソ野郎は有象無象居るが、マシなのはこの三人だけだってのはよ。


コイツが麻薬を扱ってるのは知ってる。金を稼ぐのは否定しねえが、薬を使った奴の末路は生産性を無くし迷惑をかけて死ぬだけだ。

わかってねえ、何故卵を産み続ける鶏を纏めて絞め殺す必要が有る。稼ぐにしても、卵を売り続ければ良いだろ。

鶏と違って人間は途中で何も生み出さなくなるわけじゃねえ、ジジババでも使いようはある。


鶏が居なくなる前に屠殺業者は廃業させて貰わねえとな?


「あの薬の工場を教えろ。教えたら楽に殺してやるよ」

「……誰がお前なんかに教えるかよ」


チッ、歳のせいか拷問も堪えるぜ。本当は他の奴に替わってもらいてえ位だが、アンブレラは戦闘狂だがこういうのには全く興味ねえ。


「ふわあ」


ひとしきり暴れてすっきりしたのか、あれから軽く一風呂浴びてあくびすらしてる始末だ。

自分の事しか考えないクソが。アレを直接見て少しでも危機感を感じないのかよ。


「ウチからも言うけれどね、早めに喋った方が良いと思うがね」


アサグナは口は出すが手は出さねえ。まあ、奴は殴ったら拳を痛めるだけで終わりそうだから俺は何も言わねえ。

ザペルの野郎はコイツ置いたら急にどっかに行きやがったし、ホントわけがわからん野郎だ。


しかし、あの薬は急いで滅ぼさなきゃならねえ。知能を無くして人を襲うようになる薬?ふざけやがって。

どれくらい投薬したらああなるのかとか、どうして死体が動くだとか興味はある。だがそれ以上にアレは危険すぎる。


あの毒物は最悪飲んだ本人が死ぬだけだ。有名な毒物なら銀の器を変えるとか判別方法も有るし、解毒する事も可能だろう。

だがアレは飲んだ奴が暴れて他の奴にも被害が出る。効果は即効で解毒する余裕も無さそうだし、ガスと違って煙が出ているとか明らかな異常もねえ。

井戸に投げ込まれでもしたらゾッとするぜ。住人がまとめて動く死体に変わったら被害もかなり出るだろうし、精神的な苦痛も酷そうだ。


「へ、へ……言っておくが、俺が死んだら薬を辺りにバラ撒くように言ってある……俺を開放しろ。今なら大人しくしといてやるよ」

「随分デケえ態度じゃねえか。さぞあの薬は自慢なんだろうなぁ!」


もう一度本気でブン殴るが、痛みは感じても堪えたようには見えねえ。


「でも、オメエ何か勘違いしてねえか?あの薬をバラ撒かれてもこっちは何も傷まねえよ。せいぜい馬鹿がおかしくなるだけだ。俺はな、あの薬で更に稼ぎてえんだよ」

「あの薬が出回るのかね?そりゃいい。噂の薬物を取り除ける浄水器!こういうキャッチコピーで不良在庫が捌けそうだ。むしろ増産してしまおうかね」


あの薬の存在が弱みだとは悟らせたくねえ。

アサグナも一時の売上より買い手が減ることの方が恐ろしいはずなのに、援護してくれるのは助かる。ついでに持ってる杖でブン殴ってくれるともっと嬉しいがな。


「早く終わらないの?もう帰りたいわ」


クソ女、お前は黙ってろよ。ブッ殺すぞ。


「強がるなよ……ビビってるのが丸わかりだぜ」

「あ?」

「お優しいお前の事だ……大切な人たちが犠牲になるのが怖いって目が言ってるんだよ」

「それに、俺の利権が欲しいならよ、俺を殺してからじっくりとコトを進めれば良い。何も三蛇会は全滅したってワケじゃねえんだ、ククク、何焦ってんだ?」

「フー……お前自分の立場がわかってねえようだな。俺は薬の出処を聴いた!後はオメエがそれを話すだけだ!俺の質問に答えやがれ!」


クッ……拷問が得意な奴はこの場に居ねえのかよ!こう言っちゃなんだが俺じゃ役者不足を感じるぜ。

部下でも連れて来てれば良かったんだが、この会合は出来る限り周りから隠しておきたかった。連れてきてるのは最小限の部下しか居ねえ。

そうだ、この会合は直前まで時間すら伝えて居なかった筈だ。一応聞いてみるか。


「そういやよ、何で会合の時間や場所を知ってたんだ?」

「フフフ……ザペルの野郎だ。お前らを殺したいって奴が教えてくれたんだよ!ハハハッ!せいぜい気をつけるんだな!いつ背後から刺されるかわからないぜ?」


待ってましたとばかりにペラペラと喋り始める。薬の出処もこれくらい口が軽いと楽なんだがな。


「だろうな」

「え……?」


俺の素っ気ない返事に、初めてコイツの顔から色が失われていく。



ここに来る前に一番の懸念だった、アンブレラのこれからの会合への参加は他のチンピラをボコボコに出来たお陰で機嫌が良くなったせいか、二つ返事でOKを貰った。

面白そうだからとか言ってたが、ムカつくぜ。完全に会合の意味を勘違いしてやがる。会合ってのはチンピラを呼び寄せてドンパチする為に開くわけじゃねえんだぞ。


クラスさん、今ならアンブレラさんの参加も承諾されるのでは?――ここから出ていく時に奴が俺に耳打ちしていった言葉も腹立つぜ。



それに、他のクソ組織も弱体化出来たのもデカい――俺さえ知らなかった危ねえ薬の存在も知ることが出来た。

三蛇会はさっさと潰したかったんだが奴ら隠れるのばかり能がありやがる。ここでトップを捕らえられたのは僥倖だ。やりやすくなるぜ。


この会合は俺の予想の斜め上を行って無茶苦茶になっているが、結果的には良い結果に終わりつつあるんだ。コイツから薬の場所を聞き出せればよ……。


誰のお陰かって?……ムカつく事によ、ザペルのヤロウのお陰なんだよなックソ!

あの野郎、ニコニコしながら、いつも好き勝手やりやがる!本当にムカつくぜ!これで俺たちに不利益があるならとっくに殺してる!


俺たちを囮にして敵組織を炙り出す?有効だぜ。実際に馬鹿がこうして釣られてやがるんだからよぉ!しかも、気難しいクソ女のご機嫌を良くするオマケ付きだ。

状況も危なかったみたいだが、見事にクソヤロウ自身がコイツを捕まえてやがる。なんだかんだ言ってヤロウが居なかったらあのアンブレラもヤバかったかも知れねえ。


まるで俺を含めて掌で踊らされているようで腹が立つぜ。いつかあのムカつく顔をぶん殴ってやる。


「ちなみに、お前があのクソヤロウと話した事も何となくわかるぜ。ヤロウ実際は俺たちを殺したいとは一言も言ってないだろ?」

「……」


しかも、可愛くねえ事に保身にも長けてやがる。今回に限らず、決して言質は取らせねえ……きっと、面倒くさい言葉こねくり回してコイツをその気にさせただけの筈だ。


「折角だから教えてやる。何でザペルのヤロウをこの会合に呼んだか――全く信用出来ねえからだよ。逆に手元に置いた方が安全だと思える位にな。向こうもそれを承知で参加してる」


もう一つ奴の行動が俺の利益になっているからという不思議な理由もあるが、とにかく俺はあんな良くわからねえ奴は側に置いておく事に決めたんだった。

それに、奴にはこの三人に無いモノも持っている。仮に俺らが本格的に手を組むっていう話になったら、奴みたいな毒がいい感じに働く事もあるんだ。本当にムカつくがな。




「お待たせしました」


そうこうしている内に、このホテルのシェフを側に置きながら銀色のワゴンを押してクソヤロウが戻ってくる。

上には湯気を立てた料理が乗っていた……ああ?腹でも減ってたのか?それにしてはやけに量が多いな。


「皆さんお腹が空いたでしょう。私が話をつけて用意しておきました。良ければゆっくり食べましょう」

「おお!構わないかね?」


気の利いたつもりかよ。しかし、なんだかんだ言って食い意地の張ってるアサグナが皿を取ろうとカートへと近寄っていく。


「……いや、やめておこう」

「そうですか?アンブレラさんは――」

「私もイヤ」

「残念です」


が、料理を覗き見ると口元を押さえて踵を返していった。本当に残念そうにザペルは眉を下げて答える。

このホテルはこの街でも質が良くて有名な場所だ……シェフも王宮で働いても問題がない程度にレベルが高い。

――そんな人物が作った料理をアサグナが避ける?まあ、家に帰れば似たような料理いつでも食ってるだろうが……。


「クラスさんも如何ですか?」


ザペルのヤロウ自身が、大皿の料理を小皿に取り分け始める。

何故シェフは動かない?仮にもホストが客……それもVIPに雑用をやらせるか……?

よく見ると、シェフは身体を震わせていた。只事ではない様子に俺の息が詰まっていく。


「ザペル様!お願いでございますっ!私は一介のシェフでございます!こ、このような事は二度と!もう二度と頼まないで頂きたい!お願いですっ!」


壮年のシェフがヤロウの足元に伏せて声を震わせながら叫ぶ。

ザペルはため息を一つつくと、手に持っていた小皿を置いて、しゃがんで今も泣き出しているシェフの肩に手を置いた。ビクリ、と身体が震える。


「私はこの場所に来る『食材』を『調理』して欲しいと頼んだだけですよ?何かおかしい事がありますか?」

「で、ですが……」

「ああ、確かにこんな時間に仕事を頼むのは非常識だったかも知れませんね、これで足りると良いのですが」


懐から一枚、紙を取り出すと折りたたんでシェフの手へと握らせる。チラリ、と見えたが銀行から金と交換するための券面のようだった。

それも、大判で信頼のある預金者に渡される、白紙に希望の金額を書くタイプだ。商人が大口の取引に使うものであって出来の良い料理にポンと渡すやつじゃねえ。


「うう……」


シェフは握らされた銀行券をそのままに泣き続ける。俺は立ち上がって、ザペルのヤロウが持ってきたモノを覗き込んだ。

肉ばかりだ。一見上手く調理されている――だが、その白く濁った目玉はなんだ?見覚えあるぜ……。


「テメエ……なんて事を……」


――皿に乗っているのは、さっきまで外に居た奴らだ。


「どうぞ、できたてですよ」


俺は思わず後ずさり、そのまま椅子に座ると、ヤロウは何事もなかったかのように俺の前に取り分けた肉を置きやがった。正気かよ。


「三蛇会の方も食べますよね――大丈夫ですか?怪我してるみたいですが」


俺と同じように三蛇会の奴の前にも料理が運ばれる。

全く自然体に、まるで目の前の料理がアレだとは知らないみたいにヤロウは料理を切り分けていく。


「ザンジ……お前、こんな格好になりやがって……」


見ればさっきまで散々ブン殴っても平気だった三蛇会の野郎も泣いていた。俺も泣きたい位だぜ。

今日一日で何人男を泣かすつもりだ奴はよ。


「……?手が空いてないみたいですし、私が食べさせてあげますね」

「やめろ……」


小皿を手に持って、ヤロウはスプーンでボロボロになった肉を掬って奴の口元に寄せていく。


「肉は滋養に良いと聞きます。これを食べて早く怪我が治ると良いですね。幸い皆さん食べないみたいですし、いっぱいあります」

「やめろ……」

「駄目ですよ、勿体無いじゃないですか」


「話すッ!例の薬の事は話すから……やめてくれぇぇぇぇぇぇ!アグッ――ングッ」

「泣く程美味しいですか!でしたら私の分も結構ですので、全部食べて下さいね」


ここにザペルのヤロウを呼んだのは失敗だったか……?



一時間後

業者「あのーザペル様から頼まれたものですが」

ザペル「ああ!有難うございます(はえぇ……料理もう出来てるのに、頼んだお肉とお野菜今届くなんて、不思議だべなあ)」


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