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第五話


「フン、元々信用してなかったが、やはり裏切ったか」


ザペルの野郎は苦戦しつつある女を尻目に前に出ると、こちらと対峙する。

こうもはっきり裏切られると逆に清々しい気分だぜ。まあ、元々殺すつもりだったんだ、分かりやすくなったと思えば良い。


「……裏切る?何を言っているのです?」


俺のそんな言葉に、心から理解できないと言った様子でザペルは返す。

チッ、元々仲間という意識すら無かったって事かよ。


「おい、何ボサッとしてやがる、さっさと女にトドメを刺せ」

「へ、へい」


いや、こんな野郎に構ってる場合じゃねえ、俺は部下に指示を出すと遅れて返事が帰ってくる。

俺たち以外の首なしは全部生き返って組み付いたのも増えてきてるようだが、今も少しずつ女に減らされつつある。アンブレラがフリーになったら終わりだ。

急いで他の薬中が女を抑えている間に、間合い外から一斉に女を突き殺す。この戦術は決めなくてはならない。

問題はザペルの邪魔だ――これは俺が牽制するしかねえ、部下たちだけで女を殺せれば良いが……。


「手を出すんじゃないザペル!」

「分かってますよ」


今も女に槍が迫ろうというのに、アンブレラの言葉の通り相変わらずザペルは動こうとしない。見捨てる気か!?


「うおおッ」


部下たちは槍に慣れているわけではないが、この時に備えて、『同時に刺す』という点だけは訓練しておいた。

掛け声と共に、俺の部下達が女を殺すべく槍の先を向ける。


「雑魚如きが、煩わしいのよッ」


両手に持っていた武器が振るわれて、まず致命的な軌跡を描いていたものが纏めて弾かれた。

死体モドキに組み付かれて自由が効かないのに、腕だけの力で長物を相手出来るとは――馬鹿力が。


――顔を狙った穂先は歯で無理やり止められた。胸に届く筈だったものは身体をずらされ脇を掠める。あれでは致命傷にならない。

ここに来て死にぞこないが増えすぎたのも向かい風になったらしい、複数が腰に組み付いているせいでこっちの人数の割に狙える場所が少ない。逆に盾として扱われている位だ。

ザペルが近くに居るせいで安易に背後に回れないのも厳しい……背後に回って後ろから殺るか、足元や下腹部も狙えればればまだ話は別だったのかも知れないが。

それか、同時にザペルが俺とやりあう展開でも良かった。それならば部下が野郎を俺に任せて安心してアンブレラを殺せるように動く筈だ。

一見集中しているように見えるが、部下たちがザペルを警戒している。あの女を殺すという段階で別の所に意識を向けてはいけないというのに。


まさか、ザペルは下手に動かない方が良いと読んでいたのか?……奴ならあり得る話だ。


死にぞこないごと突き刺そうとする者も居るが、僅かな訓練をしただけの部下では、刺しても貫通させる事が出来ない。

まあ、そもそもこのような事態になる前に女は殺せる筈だったのだがな……。


「俺も参加しなきゃマズいな……」


持っていた槍の先をザペルに向ける。速攻あの野郎を殺して、俺も加わらなくては。

柄を握る手に力が入る。奴の武力に関しては全くの未知数だ――調べても調べても確とした情報が出なかった。

噂では徒手空拳で全てを薙ぎ倒すだとか、俺と同じように槍に精通しているという話もあるが、噂の域を出ない。


神速の一撃をイメージする。狙うのは今も気持ち悪い笑みを浮かべた野郎の心臓。


「死になッ」


一度踏み込むと、一足飛びで一気にザペルへと接近する。多少は構えても良いものだが、全く反応する様子は無い。ハハハッ!戦い方も分からない雑魚だったか!


――獲ったッ!


「そこ、危ないですよ」


ぐらり、と俺の身体が傾げる。

足元の感覚がおかしい。敵を眼の前にしているのに、思わず下を見た。


クソッ!間抜けだぜ……ここだけ石畳の敷石が抜けてやがる――


苦し紛れに振るった槍は、俺が崩れるのを待っていたのか、体勢を低くして突っ込んできたザペルの上を掠める。


手袋が嵌められた手が迫る。野郎は体術使いか――




………

……



「大丈夫ですか?」


転びそうだったので急いで支えようと思ったのですが、間に合いませんでした。勢いよく顔から私の手にぶつかった彼は凄い音を立てて倒れます。

声をかけたのですが、全く反応しません。本当に大丈夫でしょうか――

全く、道路の整備はしっかりしないと……後でクラスさんに言って直して貰うようにしましょう。彼ならば業者に対する伝手も持っているでしょう。

私も先程は危うく転ぶ所でした。


「この程度で倒れるとは……人間はやはり脆いですね」


気絶した彼を優しく寝かせると、周りの人達に告げます。

彼は組織のトップらしいので今の姿は格好悪くて、あまり部下に見せられるものではありません。

なので彼が特別転んだだけで気絶するような軟弱者なのではなく、皆同じ状況になったら気絶してしまいますよ、と私はさりげなくフォローも忘れませんでした。

長い都会暮らしでこのような機微も覚える事が出来てよかったです。このまま彼が帰ったら笑われてしまいます。


「あ、兄貴ィ!」


先程までアンブレラさんと素敵な演舞を繰り広げていた方の一人が、こちらに近付いてきます。


「よそ見するとは余裕じゃないッ!」


おまけに、皆マジックも得意なようです。あっという間に首が無くなってしまいました。

人体切断マジックショーというやつですね。以前私も見せてもらいましたが、ステージで見ても近くで見ても全くタネが分かりません。まるで本物のようです。

でも、首がなくても皆動いていますし……一体どのような仕掛けなのでしょうか。まさに魔法のようと言えるでしょう。

それにしても、先程は急いで出ていきましたしアンブレラさんの喜びようは凄いですね。流石クラスさん。アンブレラさんの好きな芸が得意な人を呼んでくるとは解ってますね。


他にも、クラスさんが注文したであろう肉が辺りに転がっていました。

ああ!なんて勿体無い……いくら肉が嫌いだからって、肉だけ捨てちゃ駄目ですよ!アンブレラさん!

それに、本来ならば芸も室内でクラスさんやアサグナさんと一緒に観る筈だったでしょう。アンブレラさんのワガママで芸者さんに迷惑を掛けたみたいで申し訳ないです。


「良しッ!ザペル、そいつを連れて戻って来いッ!」


頭上からクラスさんの声が聞こえます。特等席、というわけでは無いみたいですが、クラスさんやアサグナさんも芸を見れたみたいですね。

クラスさんの言われた通り、流石に三蛇会の方をこのままこの場所に寝かすわけにはいかないですし、私は彼を優しく抱き上げました――これくらいの重さなら問題なく運べそうですね。


「アンブレラさんはどうします?」

「決まってるでしょ?まだまだ遊び足りないわ」


アンブレラさんが笑みを浮かべながら答えます。もうこんな遅い時間なのに元気ですね……芸者さんも心なしか疲れた顔をしている気がします。

それと、何かアンブレラさんの側に居た芸人の方が急に居なくなって、捨てられていた肉が増えてる気もしますが――もう夜ですし私も眠いので気の所為でしょう。


「それでは皆さん、歓迎の準備は出来ています。良ければゆっくりしていってください」


私は皆さんにあいさつすると、この場を後にします。

皆さんパーティーに参加出来るのが嬉しかったのか、背後から歓声が聞こえてきました。



勘違いモノでよく見かける意見で後半になると勘違いに無理が生まれるというのがありますよね。

この作品を書くにあたってはその点を意識していたりします。


え?今回の主人公の認識滅茶苦茶じゃないかって?




ポイント評価励みになります。

感想も嬉しいです!読ませて貰ってますが、返信は本文の方に集中したいので少々お待ち下さい。

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