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第二話


ふわあ……やっぱり凄い人が集まる場ってのは緊張するべ……。

っと、いけないいけない。妹があまり田舎者丸出しの言葉だと駄目だって言ってましたからね。言葉には気をつけませんと。言葉使いに関してもこの街に来てみっちり特訓させられましたから大丈夫なハズです。

でもびっくりするとうっかり素がでちまうだ……。



しばらくの間この街に暮らしていて、私は感動する事ばかりでした。

この街の人たちは国に頼らず、個人個人が責任をもって行動しています。ここまできっちりとはしていませんでしたが、まるで私が以前住んでいた村のようでとても共感しました。

その中でも、アンブレラさん、アサグナさん、クラスさんの三人は自ら指揮を取ってこの街に貢献しています。

アンブレラさんは自警団を組織して街を見回っていますし、アサグナさんは皆に商品が行き届くように物の流れを見ています。そして、一番走り回っているのはクラスさんでしょうか。

私達はあくまで街の人達を相手にしていますが、クラスさんはそれに含めて貴族様との調整も行っています。

貴族様と話し合って少しでも街の人達が良い環境に過ごせるように頑張っているのです。見た目は怖いですが中々出来ないことだと思います。少なくともまだ田舎者である私には出来ません。


今日の集まりに関しては、残念ながら私には全く理解できませんでした。田舎者で学が無いからと言い訳はしません。頑張って理解しようとはしているのですが、妹からは天然だから理解できても無駄と言われてしまいます。悲しいです。

しかし、話の後半で親睦会が行われる……という事はわかりました。



とても素晴らしいです。前々から気にはなっていましたが、私達は話し合いには参加しても、飲み会は行っていません。

村が豊かだった頃は、誰かが酒を街から買ってくるたびに酒盛りをして村の人同士交友を深めていました。この街でそれを行わない事が非常に残念だったのです。


しかし、クラスさんは何も考えていないわけではありませんでした!皆で親睦会をしようと言っていたのです!

残念ながらアンブレラさんは怒って出ていってしまいましたが……あの様子は村で見たことがあります。


スミスさん夫妻のスミスさんは、男女分け隔てなく仲良くする良い方でした。しかし、それが奥さんの嫉妬を呼ぶことになってしまいます……村の他の女性へのと、奥さんへのと誕生日プレゼントの価値が私から見ても変わらなかったのです。

奥さんは激怒しました「私だけ特別扱いして欲しいの!貴方の気持ちを他の女から奪ってやりたい!」元々愛していたのは確かでしたが、その言葉で目が覚めたスミスさんは奥さんを更に大切にするようになったのです。いい話ですね。


要するにアンブレラさんは好きなクラスさんから私達と一緒に親睦会に誘われただけだったのが気に入らなかったのです。

親睦会をするのはいいけど、二人っきりにもなりたかったんですね。


アンブレラさんがクラスさんの事が好きなのは全く気づきませんでした……正式なカップルでは無いと思うのですが、言われてみれば、あの二人は見つめ合う事が多かった気がします。

そういえば今日会合に参加するときにも、見つめ合って二人はいい雰囲気でした。お陰でアサグナさんが居心地悪そうにしていましたが。


まあ何にせよ二人が仲違いするのはあまり良くありません。お互い引けないだけでお似合いのカップルなのです、私がちょっと間を取り持ってやればきっとうまくいくハズ。



「ボス、緊急連絡」


出ていったアンブレラさんを追いかけようと外に向かおうとした所で、壁の影から染み出すように子供が現れる。

ひえっびっくりしただ……都会っ子は人を脅かすのが得意だべなあ……。もうおらも何度驚かされたか――

妹から外では絶対田舎面を晒すなと鍛えられたせいで笑顔から変えられなくて助かったべ。都会っ子にびっくらこいて腰が抜けたとか村で笑われるだ。


「サラ、今忙しいので明日にして下さいね」


サラはごっこ遊びが好きで、よく私にせがんできます。私も昔は妹と一緒に勇者やお姫様のごっこ遊びをしたものです。ちなみに私が魔王役で、飼い犬のポチがお姫様役でした。

感受性豊かなせいか、設定もこだわっていますね。よく私に様々な冒険をした事を淡々と話してくれるので飽きさせません。

でも、知ってる子とはいえ子供と遊ぶにはもう遅い時間ですからね、それに、アンブレラさんが帰るのを止めなければなりません。

私はサラちゃんという近所の子にポケットに入っていた飴を渡すと、家に帰るように促します。


「で、でも――」


そんな私の様子に、サラちゃんは戸惑ってしまいます。

いつもは乗ってあげるんだけど、今日は私の手が離せませんからね、すみません。明日は遊びましょうね。


「大丈夫、分かっていますよ」


サラちゃんが遊べなくて寂しい事は分かっています。私は唇に指を当てると、笑顔を向けました。

彼女は頷くと、また影の中へと入っていきます。最近の都会の子は、すごいですね。




会合の場所である高級宿の外へ出ると、帰りの馬車を呼んでいたアンブレラさんが乗る所でした。

ドレス姿でありながら、彼女の歩みは淀みなく、誰の手も借りる事なく馬車へと飛び乗ります。いけません、このまま彼女を返してはクラスさんの恋路が――


「待ってください」


私はアンブレラさんを呼び止めます。

目を見開いて私をひとしきり見ると、アンブレラさんは乗ろうと思った馬車から降りて、先程と同じ足取りで近付いてきます。良かった、間に合ったみたいですね。


っと、石畳の隙間に足を引っ掛けて転びそうになった上に、風が吹いて、被っていた帽子が吹き飛ばされてしまいました。女性の前で恥ずかしいですね。


「不意打ちだと思ったんだけど、コレ躱すの?やっぱアンタ面白いわね」

「それは有難うございます」


私の様子が滑稽だったのか、アンブレラさんの機嫌が治った気がします。そう考えたら躓いた甲斐が有ったのでしょうか。

ふと、下を見ると彼女の手には綺麗な装飾がなされた剣が握られていました。彼女は刀剣が好きで、正装でも見えないように帯剣していると聴きます。

村のボブおじさんを思い出します。おじさんは犬好きが高じて、犬が横に居ないと落ち着かないと常日頃言っていました。彼女も同類なのでしょう。


「で、何?」

「ぜひ戻って貰えませんか?」

「……貴方は分かっていると思うけれど、私に何のメリットが有るのよ?あんなんじゃ私が暴れられるような展開にならないじゃない」

「いえ、そうとは限りませんよ?」


アンブレラさんがお酒を飲むとどう変わるのかはわかりませんが、酒が入ると皆気が大きくなります。

突発的に腕相撲大会とか起きることもあり得るのです。アンブレラさんは見た目によらず力が強いので、きっと優勝出来るでしょう。


「……へえ?」


私の言葉に、アンブレラさんが反応します。やっぱり、はっきりしない態度のクラスさんにイライラしていたのでしょうね。

親睦会で暴れてストレスが発散出来れば良いのですが……。


「それに、参加しなければ後悔する事になります」


カップル未満の男女は少しのすれ違いが永遠のすれ違いになると聞きます。出来れば、私は二人には幸せになって欲しい――

きっとこのまま離れ離れになってしまったら、二人は一生後悔する事になるでしょう。


「わかった、戻るわ……でも、何も無かったら――殺すから」


ああ、戻ってくれるみたいですね、安心しました。それに、ますますアンブレラさんがスミスさんの奥さんに似ていると再確認してしまいました。

スミスさんの奥さんも良く「あなたを殺して、私も死ぬ!」と言っています。でも、次の日には仲睦まじい様子で二人並んでいますね。一見過激に見えますが、女性にとって『殺す』は愛情表現でもあるのです……そう考えると、アンブレラさんも可愛いものですね。


そんなアンブレラさんと愛し合えるクラスさんは幸せ者です……羨ましいですね。

そうだ!クラスさんなら用意しているとは思いますが、私も何もしないというのは情が薄いと言うものです。

早速側に居たアンブレラさんの使用人に耳打ちして言付けを頼みます。きっと丁度いい時間に届けてくれるでしょう。


ポイント評価、励みになりますのでお待ちしてます。

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