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第三話


「さて、私が君をここに連れてきた理由だが、まず、君のその技術に惚れたというのがある。今ここは暗殺ギルドと言いながらも、優れた暗殺技術を持つ者が非常に少ないのだ。私と最初に紹介した三人、そしてザペル君しか『暗殺』は出来ないだろう」


他の人達が出ていった後に、マスターが私の目を見つめながら話す。


「この場には他にも沢山人が居るみたいだけど?」

「……君の疑問は尤もだろう。勿論、隠すつもりはない、恥ずかしい話だが本来の依頼を受けて暗殺を行う私達の派閥と、暗殺を利用する宗教組織として活動している派閥、今この組織は二分されているんだ……何となく分かると思うが、白い服を着た者と、ジラシスが後者の派閥だ。そして、白服は叫びながら相手を刺すだけで、とても暗殺とは言えない仕事しかしないのだよ。一応この組織は表では秘密になっている、あまり騒がしくなるのは困るのだがね」


随分面倒な事になっているなと思った。見たところ彼らならば実力で排除出来そうなものだろうに。


「本当は何とかしたいのだが……如何せん自称信者と言っている白服の者たちの数が多くてね。それに、ジラシスは困ったものだが、あの者達は本気で私達を信奉しているし、既に組織に入っている以上家族の一員だ。そう簡単に殺すわけにはいかないのだよ」

「私をその派閥同士の争いに巻き込むつもり?」

「勿論そんなつもりは無いと誓おう。ただ、私は君の力に惚れただけだ。もしこの場所が嫌なら直ぐ出てもらっても構わない……出来れば、この場所の事は喋らないで貰うと助かるがね――ああ、別に危害を加えるという訳では無いから安心してくれ」


仮にここから出ていくとしても、この場所の事を話すつもりは無い。危害を加えないとは言っているが、私の隠密を看破できる以上狙われたら無残に殺されるのは解っている。

恐らく、この場所に居る者たちならば簡単に出来る事だろう。


「まあ、心配ならこの組織がどういうものなのか見てもらえると分かりやすいだろう。幸い、ザペル君がこれから仕事に向かう予定だ」

「……あの人、私苦手かも」


街でたまに見かける詐欺師的な雰囲気が彼には有る。出来るだけ関わりたくない人種だった。

それに、身体を触った男の側に居たのも印象が良くない。


「最初にジラシスと居たから勘違いして貰うと困るが、ここでは珍しくどちらの派閥にも顔を出す中立的な立場だよ。まあ、それ以上に未だに正体の掴めない所が恐ろしいがね。彼の持つ話術や策謀を生み出す力が目についてスカウトしたが、まさか暗殺まで出来るとは――それに、私にはどうやって彼が暗殺を行っているのか分からないのだ。戦いは苦手だと本人は言っているが、周りの人に決して『殺された』と気付かせない有る意味最強の暗殺者でもある。実際、彼が行った殺しは全て事故か自然死として処理されている」

「ふうん……」


まだこの組織に身を預ける程信用はしていなかったが、実力は本物なのは理解出来る。

興味本位だが、見てみるのも良いだろう。私はマスターに言われるままにザペルの所へと招待された。


………

……



「ザペル君。頼んでいた件、彼女も連れて行って欲しいのだが」


幹部一人一人に割り当てられた部屋で、赤髪の男は本を眺めながら書き物をしていた。一体何を書いているのだろうか。


「ああ、『救済』ですか。丁度いい頃だと思っていました。今から行きますね」


私達に気付くと、前の男は本を閉じてこちらに向き直る。

道中聞かされた話だが、この組織では宗教派閥の者たちは暗殺の事を『救済』と比喩している。

なんでも向こうでは暗殺対象となる人物は罪深く、これ以上魂が汚れる前に殺す事で救っている事になるらしい。

人によっては暗殺という言葉に神経質な者も居るので気をつけた方が良いと忠告された。


「確か、中央街25番通りの方でしたね。似顔絵は見ましたので大丈夫だと思います」

「……今行くのか?昼になったばかりだが……ああ、君の実力は疑っていない。しかし、今行くと大分人の目が有ると思うがね」

「私の『救済』は時と場所を選びませんから……ええと、その子の名前は?」


あの後、部屋の中に居た人達には私の名前も流れで答えてしまったが、宗教派閥の者は目の前の男も含めてすぐ出ていったので教えていなかった。


「……サラ」

「サラちゃんですか。良い名前ですね」


手を合わせて、嬉しそうな様子で男は答える。内心はどう思っているのかは分からないが、私と仲良くする気は有るらしい。




その後、共に外に出て男の仕事を見物するために後ろに付いて行く事にした。

道中、隠密技術を使い前の男の実力がどれほどの物なのかも確かめてみる。


「サラちゃ――ふむ、隠れんぼですか?」


男がこちらに話しかけようと振り向くが、ここならば大丈夫という確信が有ったのにザペルは直ぐにこちらを見て話しかけてきた。

やはり、組織の幹部クラスは私の隠密が通用しないか――この力は神に与えられた贈り物だと思っていたが、こう何人にも看破されてしまうと井の中の蛙だったのだなと自覚する。

時間を無駄にさせるつもりは無い。諦めて男の側に近寄った。


「――面白いですね、全然気付きませんでしたよ。サラちゃんは隠れんぼの才能がありますね」


嘘つき、ちゃんと見えていた癖に。お世辞のつもりだろうか。



それから、ザペルは中央街へと向かわずにスラムをぐるぐる回っていた。

一体何の意味が有るのだろうか。直進すれば既に目的地まで着いている距離だろうに、このままでは中央街どころか商家が並ぶ東地区に行ってしまいそうだ。

しかし、歩きに迷いは無いようだった。まさか土地勘が無いという訳では無いだろうし、何か目的でもあるのだろうか。


私の危惧した通りにそのまま東側に入ってしまうと、また辺りを歩き回り始める。暗殺対象の顔は知らないが、私がやるなら既に終わって教会に帰っている時間だ。


「あ、あのおじいさんですね」

「え……?」


今も人が行き交う大広場に立ち止まると、耳を疑う言葉が男から発せられる。

確かに大広場の噴水側に置かれたベンチに、老人が一人座っていた。赤髪の男も手の先をあの人に向けている。

しかし、思わず気の抜けた返事をしてしまった。目的の人物は中央街に居るのでは無かったの?

――いや、予め行動を調べておいて、この時間はあの場所に居るのが分かっていたのだろう。


しかし、中央街には貴族か金持ちしか住んでいない。そんな人物が買い物をしに外に出る事はあまり無いだろう。対象は老人だし使用人に任せるか商人自体を呼ぶのが普通だ。更に、この大広場までかなりの距離も有って移動するのも大変だろう。

毎日、この時間に、老人がこの場所のベンチに座っているなんてあり得るだろうか?

――まさか、この男は今日老人がここに来ると予想してこの場所に向かった?一体どうやって?


「それでは、行ってきますね」

「ちょ、ちょっと!」

「はい?」


私の疑問はよそにまるで知り合いに会うかのような気軽さで、赤髪の男が向かっていく。

慌てて呼び止めた。今は夕方に差し掛かる時間で日も出ていて、まだ大広場で屋台を開いて居る者や子供も走り回って遊んでいる。とても『暗殺』が出来る状況では無いだろう。

こんな状況で人を殺したりなんかしたら、直ぐに自警団か衛兵が駆けつけて捕縛されるか、顔を見られて人相書きが街に貼られる事になる。

これではただの通り魔ではないか。


「動くまで待って、人気のない所に行くまで尾行するんじゃないの!?」


私ならそうする。というか、ギルドの白服以外は皆そうするのではないだろうか。

いくら何でも無謀すぎる。


「待つ必要は感じませんが……サラちゃんも来ます?それとも、ここから見てますか?」

「ええ……もう知らないから」


全く意味が分からなかった。呆然としているとそのまま暗殺対象であろう老人の方へと赤髪の男は向かっていってしまう。

私はこれから起こるであろう騒ぎに巻き込まれないように、目立たない所に隠れる事にした。

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