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第五話

しばらくすると、シドラさんに連れられてあの子が戻ってきます。着替えも用意してあったみたいで、シンプルなドレスですが彼女に似合っていますね。

ただ、胸にあった装飾されている枠に嵌められた宝石は、彼女のお気に入りなのか前の服から外されて今着ている服に付け直されています。

髪も梳かされ直してもらったのか、陳腐な表現ですがまるで絵画から飛び出してきたかのようですね。


「お姫様のお帰りですね」


彼女の様子に思わずそんな感想を呟いてしまいます。私の言葉に嬉しかったのでしょうか、彼女は僅かに表情を変えてくれました。

いままで全くと言っていい程変わらなかったので、新しい表情が見れて嬉しいです。


「まあ、どうぞ座って下さい。それほど時間も経たないうちに食事も来ると思います」


私に促されるままに彼女は椅子に座ってくれます。お風呂に入ったお陰でしょうか、少し落ち着いたみたいですね。

対面に座って、彼女の目を見つめます。


「そう言えば、自己紹介がまだでしたね。私はザペルと言います。突然知らない所に連れてこられて不安になるかも知れませんが、安心して下さい。私が貴女に害を持つ意思があるならば、既に行為へ移っていると思いませんか?」


コクリ、と彼女が頷きます。

眼の前に居るのは知らない男の人ですからね、少しでも打ち解けなくては両親が居る家の場所を教えてくれないかも知れません。

都会の子は警戒心が強いみたいですからね。サラちゃんも私達以外の人が来ると猫のように隠れて様子を窺いますし。


「単刀直入に言うと、私は貴女の家の事が知りたいのですよ」


伝えたい言葉はシンプルに、お話の基本の一つですね。前の子がまだ子供ならば尚更です。

私は彼女に家の場所を教えてほしいと伝えます。


「知って、どうすると言うの?」


ああ!やっと話しかけて貰えました。辛くはありませんが、ずっと一人で話し続けるのはちょっと寂しかったので助かります。

それに、こうしてやりとりが出来るならば、もう解決ですね。早めに彼女の家を教えてもらって、今日は雨も強いですから泊まってもらって明日には送り届けましょう。

そういえば、妹から貰った地図がありましたね。これを見せて彼女に場所を教えて貰えばいいではないですか!今日の私は冴えてますね。

大まかな場所を教えて貰えれば、後はシドラさんかサラちゃんの知恵を借りればいいですしね。


「これです」


私はポケットから地図を取り出して、前の子に見せます。

んん……?なんだか縮尺が大きいですね、どうやら取り出す地図を間違ってしまいました。この街で、国の首都アラバが大きな丸い点で表されてます。あ、ここは私の村ですね。

こっちは本当にペンでちょっと突いたような点です、面白いですね。

しかし、これでは間違っても彼女の家を教えて貰う事など出来ないでしょう。アラバは他と比べて点が大きいとはいえ、彼女の家が首都より大きいとは思えません。


「ああ……」


見ると、彼女は口元を押さえて震えていました。

まあ、当たり前ですよね……家を教えて欲しいと地図を見せたのに、見せられたのが大陸地図だったんですから。私も可笑しくて笑いを堪えてしまうかも知れません。

また失敗してしまいました。顔が熱くなって、恥ずかしくて顔を見せる事が出来ません。私は座っていた椅子から立ち上がると、窓から外を眺めます。

まあ、元気が無かった子を少しでも笑顔に出来たと思えば良いでしょうか。プラス思考でいきましょう。


「お待たせしました」


ちょうど良いところで、シドラさんが4人分の料理を持ってきてくれます。

今日の食事はチーズがたっぷり乗ったパスタと、赤いソースが掛かったチキン、色合い鮮やかな野菜のサラダですね。

相変わらず良い仕事をしてくれます。


「まあ、焦らずともいいでしょう。時間はありますからね」


先程のミスを早く無かった事にしたかった私は、一旦この話を切り上げてシドラさんに見られない内に、出した地図を片付けます。

別に、彼女の家を聞くのは今直ぐじゃなくても良いのです。どうせ送るのは明日ですからね。明日、シドラさんにちゃんとした地図を渡して聞いて貰いましょう。

……改めて私が聞くにはちょっとハードルが高いので。


「さて、一緒に食事にしましょう。この家に居る人は、みんな私の『家族』ですからね」

「はーい」

「頂きます」


給仕してくれたシドラさんに続いてシャンデリアに腰掛けていたサラちゃんも、音も立てずに飛び降りて料理が並べられた長テーブルの空いた席に座っていきます。


「んあ、また引っ掛かった、もう。折角ゴハン食べるって時なのに」

「今日は随分と多いですね、まあ、今は忘れて料理を楽しみましょう」

「むう……まあ、雨なので大丈夫だと思いますが……」


私には何も聞こえませんでしたが、サラちゃんには動物が罠に引っ掛かった音が聞こえるみたいで、フォークを持ったまま顔をしかめていました。

別にちょっと庭を荒らされたからって私は気にしないのですが、サラちゃんは心配性ですね。でも、今は食事の時間ですからね。目の前の料理を楽しみましょう。

あ、良いことを思いつきました。折角獣の肉が取れたのですから――


「明日はジビエというのも良いかも知れませんね……ああ、私の故郷では狩った獣を客人に振る舞う習慣があるんですよ、宜しければ貴女もどうです?」

「ボ、ボスゥ……あれに食べさせるのは良いですけど、私はゴメンですよ!?」


そうでした、サラちゃんはお肉が苦手なんですよね。一応食事は家に居る人みんな一緒に食べるというのが私の家のルールですので、それでは仕方ありませんか。


「それは残念ですね……ああ、ごめんなさいこちらで話してばかりで、そうだ、ずっと貴女というのも他人行儀でいけませんね。名前を教えて貰えませんか?」

「……既に知っているのではないのですか?」


彼女は小さく答えてくれました。

それにしても、彼女の名前、私は知りませんが……もしかして聞き逃してしまったのでしょうか。

いけませんね、折角仲良くなったと思ったので、ここで聞いていませんでしたと答えてしまったら、せっかく良くなった私達の信頼関係が……。

ごめんなさい、サラちゃん。貴女の立場を利用させてください。


「この子はサラちゃんと言うのですが、彼女とは初対面でしょう?私から教える事も出来ますが、私達人にとって名前というのは特別なものです。本人が伝える事に意義があるのですよ」

「……グラディエル」

「……私はサラだよ。よろしくね」


子供同士挨拶をする姿は微笑ましいですね。

それにしても、グラディエルちゃんですか、いい名前です。そう言えばこの国の女王様がそんな名前でした。きっとご両親は女王様にあやかって名前を付けたのでしょうね。

見れば、グラディエルちゃんはまだ料理に口を付けていませんでした。いけませんね、栄養を取らなければ大きくなれませんよ?


「グラディエルちゃんもよかったら食べて下さい……ああ、今日の料理も素晴らしいですね」

「有難うございます」


グラディエルちゃんがまだ料理に手を付けていなかったので、一度促してから私も口を付けて美味しいものだとアピールします。

シドラさんが私の言葉に礼を言ってくれます。いえいえ、むしろこちらが感謝したいですよ。


「他にも、何か欲しいものがあったら言ってくださいね?この街なら大体の物は揃うはずです」


アイスでも、ケーキでも、なんでも良いですよ。ワガママは子供の特権ですからね。


「――私をザペル様の故郷へと連れて行って下さい」


今までで一番はっきりと、こちらを見て答えてくれます。

困りましたね。私の村に一緒に行くのは構いませんが、今直ぐ行くには距離がありますし、なにより親御さんの許可を取らずに勝手に行くわけにはいきません。


「それは――少し早いですね。ですが、いつか一緒に行きましょう。私もグラディエルちゃんに故郷を見せるのが楽しみです」

「そうですか……」


明らかに落胆しています。ああ、友人やサラちゃんシドラさんならば今直ぐにでも馬車を飛ばす事もやぶさかでないのですが……。


「それに、今忙しいですからね。グラディエルちゃんを連れていくなら。それが終わってからになります」


それに、今村は農作業が忙しいので、連れて行ってもグラディエルちゃんに落ち着いて村を案内出来ないと思います。

少なくとも冬になるまでは難しいでしょう……本当に残念です。


「終わったら、連れて行ってくれるのですか?」

「ええ、約束しますよ」


一緒に村を回るのが楽しみですね。

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