表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/31

第二話

会合の夜が終わり、日にちが経ってようやく肩の荷の一つが降りた気分だった。

クラス君、アンブレラ女史、ザペル、三人との会合の成立は、クラス君が相当力を入れていたようだが、私にとっても祈願でもあった。

三人と比べて、私自身には力がない。その力を補う為にいつかは誰かと組む必要があったのだ。


それに、私には敵が多い。無事明日を迎えられるかわからない状況で、もし何かがあった時には頼れる者も必要だった。


「パパ!」


書斎で商店から上がってきた書類の決裁をしていると、扉を開けて我が愛娘が入ってくる。

そのまま私の胸へと飛び込むと、はにかみながら頰を擦り付けてきた。


私は無神論者だったが、目の前の天使が生まれた時、初めて神に感謝した。

愛おしい者の笑顔がこれ程私を幸せにさせるとは思わなかったからだ。


同時に、失う事を何よりも恐れた。もし我が子に何かあったのならば、それは世界が終わるのと変わらないだろう。


「おお、ペテレ。今日の勉強はおわったのかね?」

「うん!」

「3×3は?」

「ん、きゅう!」

「凄い!将来は学者になれるぞ!」


頭を撫でると、嬉しそうに笑顔を見せる。

ああ、動悸が止まらない。どうやら我が娘は私を微笑みで殺そうとしているらしい……。


「本日の家庭教師にボーナスを与えるように」


私は側にいた秘書に耳打ちする。仕事をした者には報酬を与えねば。私はよく金の亡者と言われるが、決して少しの金を惜しんで評価されるべき者を蔑ろにしたりはしない。




もし、数時間後に私が死ぬ事になっても、ペテレを不幸にさせるわけにはいかない。

そのために、策の一つとして昨日会合した三人には多額の献金と取引を行なっている。


クラスは必要に駆られて悪人となっているようだが、ああ見えてかなり善性の人間だ。

もちろん多額の金も渡しているというのもあるが、もし私が死んだら娘を見捨てるような事はしないだろう。

それに、この国有数の学者を家庭教師にして英才教育もしている。まだ実を結んではいないが、将来的には国一番の知識人になるだろう。

そうなれば有用性の面でもクラスは手放したりはしないはずだ。嫁にはやらんがね。



アンブレラには娘を守ってもらおうと思っている。あの女は苛烈だが身内には優しい所があり、少なくとも犯罪者以外の女子供に手をあげる事はしない。

それに、私が死んだ時、娘に入る遺産は莫大だ。娘しか知らない遺産の隠し場所も沢山ある。

場合によってはアンブレラの部下をその遺産で雇ってずっと護衛して貰ってもいい。幸いあの女の部下は全員女性だし悪い虫もつかないだろう。



ザペルは……何故か娘が気に入っている。

彼と娘が出会ったのは偶然だが、花を渡されたようでお兄ちゃんから貰ったのと見せびらかした時には久し振りに嫉妬で殺意を覚えたね。

将を射んと欲すれば先ず馬を射よとは言うが、私の娘から調略を仕掛けるとは……どうせ奴の戯れだとは思うが、手を出したら私直々に引導を渡そう。


他にも、ザペルは残虐で娘の教育に悪く、正直関わりたくはない人間だがこと知略の面では恐ろしい冴えを見せる。

もし彼が味方になれば娘に降りかかる謀略は全て弾く事ができるだろう。毒も程度によっては薬になる。用は使いようだ。

まあ、今の所は私の誘いは空振りに終わってるがね。しかし、気まぐれでも娘の力になってくれればいい。

気まぐれが起こるのを期待する程度には金は渡している。



まあ、最悪は考えているが一番は娘が私の後継者になってくれる事だ。

そのための準備として金が必要だ。まだ足りない。例え国一番の資金力を持つと言われても、まだ足りないのだ。


「それじゃ、今日はご本を読もうね。『競争戦略とマネジメント』でも読もうか。私の書いた本だよ」

「もっとおもしろそうなのがいい」

「そ、そうかね……」


そろそろこの辺りも勉強する時期だと思ったのだがね……。


「旦那様、そろそろ会食のお時間です」

「私は今非常に忙しい。どうせ貴族という名の金の亡者が無心に来ただけだ。いつもより多めに土産を渡して帰ってもらえ」


今の貴族に用事をキャンセルされたからと激昂する程のプライドはない。目的の金が貰えたなら時間を無駄にせず済んだと意気揚々と帰るだろう。


「女王陛下もいらっしゃいます」

「……分かった。ウチも出るとしよう」


……どうやら神輿を担ぎ出してまで私から金を巻き上げたいようだ。



………

……



「やあやあアサグナ君、商売は上手くいってるかい?」

「アムドムラ様が通して頂いた法律のお陰で、ますます繁盛しております」


会食が終わり、個人的な話がしたいと言うことで別室へと貴族と共に入る。

ちらり、と相手の貴族の隣に座った、まだ少女の枠も出ない娘を見る。この国の女王陛下だ。見たのは久し振りだが、相変わらず生気が感じられない。

ここで会った時に挨拶もせず、今もソファーに座ったと思ったらずっと虚空を見つめ続けている。貴族も一体これでは何のために陛下を連れて来たのやら。

貴族の傀儡と噂には聞いていたが、こうも意思というものが感じられないと哀れだった。


「最近忙しいみたいだね?中々捕まらなくて大変だったよ」

「それは申し訳ありません。私もアムドムラ様と是非とも席を設けたかったのですが……色々とたてこんでまして」

「なあに、気にする事はないさ。それより、今度貴族街の道を整備する事になってね。予算もあるのだが、どうやら足りなくなりそうなんだ。君も利用しているだろう?」

「ええもちろん!馬車が通っても揺れない素晴らしい道路にして欲しいですね――では、ささやかですが私からも援助しましょう」


使用人を呼び出して、ここに保管してある金の一部を箱に入れて持ってこさせるように言う。

さて、1割でも使って本当に整備してくれれば良いのだが。今も貴族街の石畳は所々石が抜けたり欠けているせいで車輪が嵌まると揺れて尻が痛くなるからね。

見た目は不格好だが、市民街の方がまだ整備されている位だ。


「んー……アサグナ君、ちょっと足りないなぁ」


積まれた箱の数を見て、貴族が呟く。

面白い話だ。これで足りないという事はどうやら貴族様は街道を金製にしたいらしい。完成したならばさぞ壮観な事になるだろう。


「とは言われましても……私も無い袖は振れないというものです」


困ったような表情を見せて、私は貴族に答える。実際はまだまだ余裕はあるが、馬鹿に渡す金などない。


「なあに、私もタダでとは言わない。取引をしようじゃないか」

「取引ですか?」


珍しい事だった。少なくとも私は金をバラ撒く事とご機嫌取り以外貴族に対して行った事はない。


「商品も持ってきている――コレだよ」

「……御冗談を」


今も座って身動ぎもしない少女の肩に、男は手を乗せて言う。

馬鹿な、何を言っている?


「君も妻に先立たれて夜は寂しいだろう。もちろん必要な時には返してもらうが……いくら余裕があるとはいえ、君も王族を抱いた事はないだろう?」


信じられなかった。まさか、臣下が身売り同然に王を売り渡すまでに権威が失墜していたとは――

胸の奥に怒りが燻る。善人ぶるつもりは無いが、美しい少女が我が娘とダブって仕方なかった。


「……すみませんが、興味がありませんね」

「そうか、それは残念だ。おい、女王陛下を戻せ」


思わず客向けではない不躾な発言が出てしまう。


貴族の言葉で、向こうの使用人がまるで荷物のように少女を運び外へ出ていった。

お前が先程の言葉を言ったのは私で幸運だったな。クラスやアンブレラだったら死んでる。


正直私もこんな気に入らない奴は殺したい位だったが……国に刃向かえる程強くはない私が不甲斐なかった。



そして、今回は間髪を容れずに断ったが、仮に私が性欲に塗れた年端もいかない少女と寝るような奴だったとしても、王族に手を出すような事はない。

きっと手を出したら最期、王族と関わった事をネタにひたすら貴族から強請られる事になるだろう。

それすらも理解してしまって不快感が増していく。


「ですが、アムドムラ様の気持ちは理解出来ました。苦しいですがもう少し出しましょう」


正直もうこんな男と話すのはゴメンだった。渡すつもりは無かったが、さっさと金を出して帰ってもらおう。

追加の金が運ばれるまでの他愛のない世間話すら反吐が出る位だ。


娘が安全な所に居られるように、と安定した基盤を求めてソリニフへと来たが、やはり失敗だったか。これならば小国でも故郷の方がマシだ。

例え娘の周囲が安全でも、土台が崩れてしまっては全てご破算になる。何とか出来ないか……?


「何だ?」


その時、外で馬の嘶き声と大きな物が倒れ木材が割れる音が響く。襲撃か?

音に気付いた私の護衛達が、隣の部屋から続々と出てくると、私を囲んで盾を構え身構える。場合によっては私を抱えて連れ出すようにも言ってある、私自身が選別した頼れる者たちだ。

貴族が私の物々しい様子を見てゴクリと喉を動かした。嫌だったが一応男も守るように指示をする。


「アムドムラ様、駐車してあった馬車との衝突事故です」

「下手人を捕まえろ!逃したら承知しないぞ!」

「もう追っております。ご安心を」


襲撃ではないと知って安心したが、妙に嫌な予感がした。

暫く経ってから、貴族の使用人が青い顔をして飛び込んで、少女が居なくなった事を告げた。

ポイント評価感想、励みになってます。嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ