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出会い1

焼け焦げた骨を、キリヒトは拾う。

炎は夜明けにはおさまり、S.L.ウォールには再び平穏が戻っていた。

だが、いつもの丘から見える風景は一変していた。

ゴミ溜めの町はほとんどが焼け跡と化し、生き残った人間は以前の1/10にも満たなかった。


「…クソ」


赤い目の男に殺された少年のものであろう骨を、キリヒトは粉々に握りつぶした。


「酷い有様だ」


自身に気配を感じさせぬその声に、キリヒトは一瞬で身構えた。

相手の顔を見る前に、突然降り出した滝のような雨に顔を打たれる。


「!!」


そこに立っていたのは白いローブを着た華奢な青年だった。ピシャリ、と雷が青年の後ろに落ちると、

金色の髪の隙間から覗く二本の角がギラリと光る。

一瞬地面に映った彼の影には、明らかに翼が生えていた。


「な、何だお前は…!?」


「ゴミ溜めにも、積み重なった美しさがある。

 それを焼いてしまうとは、もったいないとは思わないか?」


質問を無視して淡々と話す相手に、キリヒトは戸惑っていた。

拳を握りさっきより大きな声で叫ぶ。


「てめえ、何もんだ!何しに来やがった!」


「天使」


青年はそう答えキリヒトを指でさした。


「お前をスカウトしにきた。来るべき戦いのために」


「スカウトだと!?お断りだ、どこのどいつか知らねえが、てめえみたいなイカれた野郎に…」


言葉を言い終わる前に天使は指をふった。


「拒否権は、お前にない。今から私がお前を試す。私に傷をつけられたら合格だ。

 そして…」


天使はどこからともなく一本のナイフを取り出した。


「私はこれを使おう。うっかり死なれては困るからな」


上からの物言いと小馬鹿にしたその態度に、キリヒトの頭に血が上る。


「ゴチャゴチャうるせえんだよ!死んで後悔しやがれ!」


キリヒトは殺すつもりで、天使の真後ろに瞬間移動して蹴りを繰り出した…が。

死角であり、なおかつ一瞬の出来事であったにも関わらず天使は簡単に腕で蹴りを受け止めた。

今まで無表情であった天使の表情が初めて怒りに変わる。


「止め…!?」


「マジメにやれ…殺すぞ」


天使がにらみつけるだけで、キリヒトは吹き飛ばされて

そのまま傍にあった木をへし折って丘の下まで転がっていった。


「畜生…!骨折だと…!」


キリヒトにとってこれほどのダメージを短期間に二度も負ったことは、耐え難い屈辱だった。

体がミシミシと治る音と共に、ふらふらとキリヒトは立ち上がった。

口にヒビが入り、少しずつ裂け始める。


「だったら、アイツの見えないこの場所から攻撃を仕掛ければ…」


キリヒトは、ぐ、と足に力を入れ再び丘の上に戻ろうとした。


「遅すぎる。本当に噂通りの実力があるとは思えん」


キリヒトの胸からナイフの先が飛び出し、口からは血が溢れる。


「が…!ぐ…!」


「…もういい、期待外れだ。死ね」


そのまま持ち上げられ、ジタバタともがくキリヒトを見て天使は無表情で言い放った。

天使の左目から入れ墨のような線が上下に伸びる。

それに合わせてぐぐ、と天使の角が伸びる。

髪の端がじわじわと黒色に変わり、背中からは一対の翼が生えた。


「ぐ…クソッ!」


キリヒトはナイフを無理やり引き抜き、天使の方に向こうとする。

だが、天使の姿は翼に完全に覆われていた。

さらに、翼から次々と羽根が散りキリヒトの視界を妨げる。


「チッ!前が見え…!!」


キリヒトは距離をとろうとしたが、羽根の向こうから繰り出された斬撃がそれより速く

キリヒトの右目から胴体にかけてを切り裂いた。


「こんなチャチな武器も防げんとは…話にならん」


小さなナイフをクルクルと回し、天使が呟く。


「ぐ…まだだ!」


肩で息をしながら、キリヒトは足を踏ん張る。

キリヒトの切り裂かれた部分が高速で治癒していき、右目も再生される。


「超再生、か。面白い能力を持っているな?」


そう言って天使が口の端を上げた。


「だが…」


天使の左目の模様がさらに広がっていく。


「それでも不十分だ。死ね」


キリヒトは再び吹き飛ばされ、丘に思い切り叩きつけられる。

さらに天使が手を上にかざすと、空から光の柱が何本も降り注ぐ。


「『天より降り注ぐ絶望』」


瞬く間にキリヒトの姿は光にかき消され、丘は逆にクレーターと化した。

光の柱が消えた後、天使はクレーターを覗き込み驚いた顔をした。


「ほお、まだ息があるか…というよりまだ原型を留めていたか。

 だがもう再生できまい」


キリヒトの下半身は砕け、右腕は肘から先が、左腕は肩ごと消滅していた。

ズタズタになった体を動かすこともできず、キリヒトはただ呻いた。

天使はもう十分、といった様子で後ろを向き歩き出した。


ふと、天使の足が止まる。


「あいつの右腕…切断面がきれいすぎる…」


グルン、と天使が後ろを振り向くと同時に、指が刃物のような形状に変化したキリヒトの右腕に

天使の首は切り落とされた。

鈍い音がして頭が地面に落ちる。頭を失った棒立ちの胴体からは、血があふれ出していた。


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