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上陸

上陸直前、陸軍兵士達に対してクマは命令を下していた。


「上陸したら、民間人には手を出すな!攻撃していいのは兵士および戦闘の意思があるものだけだ!

 略奪、暴行、拉致、拷問、これらは全て禁止だ!また抵抗するものに対しても殺害は可能な限り避けろ!」


クマ達の目的はパーズを壊滅させることではなく、降伏させることだった。

そのためには中央議会を制圧し、国主であるスイシを捕らえるのが一番の早道だとクマは判断した。

ナシャエルの指示書にはあらかじめ絨毯爆撃をするよう書いてあったのだが、

クマは意図的にそれを無視していた。


「行け!行け!行け!」


戦艦が港につき、兵士達がぞくぞくと上陸していく。

キリヒトもその中に降り立ち、大きく伸びをした。


「さーて、俺もやるかぁ」


その横に、同じようにクマも飛び降りた。


「俺達は兵士よりはやくスイシのところまで行くぞ。

 ヤツを捕まえればこちらの勝ちだからな。ちゃんとついてこいよ」


キリヒトはむっとしたような顔をした。


「俺がどれだけ強くなったか知らねえようだな。

 追い抜かれても泣くんじゃねえぞ」


「そうか」


クマはそう言って地面を蹴り、キリヒトもその後を追い始めた。

待ち伏せしている兵士を適当になぎ払い、二人はパーズの市街地を走り抜けていった。


「兵の数が少ない…」


物陰にいた兵を気絶させて、クマが呟いた。


「ゼェ、ゼェ…逃げたんだろ、どうせ」


キリヒトは壁に手をついて、下を向いている。


「そんなわけあるか…それより、息が上がってるな。

 高速移動の能力を使ってもいいんだぞ?」


呼吸をととのえてキリヒトは顔を上げた。


「高速移動はまだ使いこなせねえ。使ったところで壁にぶつかるのがオチだ」


「…ということはぶつかったのか」


「うるせえな」


クマは笑って、屋根の上にするすると登った。

パーズは西洋建築のような建物が多く、屋根が尖っているものが多い。

キリヒトは何度か足を滑らせそうになっており、クマの平衡感覚に内心舌を巻いていた。


「城壁が見えた。あの中に入ればスイシがいる場所は目の前だ…っ!!」


地面が大きく揺れ、キリヒトはまた屋根から落ちそうになった。


「地震か?でけえな」


クマを見ると、クマは城壁を睨んだまま動かない。


「…違う!アレを見ろ!」


城壁が大きな音を立てて崩れ、巨大なブロック達が現れた。

カラフルな見た目をしたブロック達は、人型だけでなく竜や蜘蛛のような形のものもいた。

ブロック達は家屋を踏み潰し、ビルを押し壊しながらゆっくりとこちらへ向かってきていた。


「おいおい、自国の破壊もお構いなしかよ!これじゃあどっちが敵かわかんねえぜ」


キリヒトはそう叫んで、黙ったままブロック達を睨みつけているクマを見た。


「……ふざけるなよ」


キリヒトはクマの迫力に、背筋が凍った。


「物質種をあれだけ排斥しておいて…ブロックと手を組むだと…!!

 あまつさえ守るべき国を犠牲にして、国民を踏み殺すだと…!!

 正気か貴様ら!!」


移動していた時とは比べ物にならない速度で、クマはブロック達の方へ跳躍した。


「おい!一人でどうにか…って、聞こえねえよな…!クソッ!待てよクマ!」


ブロックの巨人が民家を踏み潰そうとした時、クマがその顔を思い切り殴りつけた。

ゆうに10mを越える巨人の体が、その一撃でぐらりと揺らいだ。

倒れる頭に、クマはさらに攻撃をして地面にクレーターを作った。


「うわ…どうなってんだあいつ…。あれならヌイドーも一人で守れたんじゃねえか?」


クマが戦場に出なかったのは、ルードヴィアを何が何でも守るためだったが、もう一つ理由があった。

自分の底力を知られないためだ。

どれだけ強大な戦力を持っていたとしても、底が見えてしまえば対策が打ててしまう。

「未知数である」ということは非常に大きな武器だったのだ。


「はぁーっ…次!」


2体目を破壊したクマも、当然そのことは気付いていた。

だが、湧き立つ怒りがクマの心を曇らせていた。

怒りは視界を狭くして、判断力を低下させる。

3体目を粉砕し、休むことなくクマは4体目に飛びかかる。

段々と戦い方が雑になっていくのが、キリヒトでも分かった。


「…あいつ、何やってんだ?クソ、作戦じゃねえのかよ!」


5体目を吹き飛ばして、クマは膝から崩れ落ちた。

その後ろから、大きな蜘蛛型のブロックがゆっくりと近寄っていく。

影の動きでクマは攻撃を察知する。


「マズい…!!」


想像以上の体力を消耗したクマは、とっさの反応が出来ないでいた。

だが、脚を振り上げ、突き刺そうとした蜘蛛は上から落下してきたキリヒトに潰された。


「クマ!何やってんだ!こんなのてめえらしくねえぞ!」


核がありそうなところをグシャグシャと踏み潰して、キリヒトはクマに破片を投げつけた。

破片をよけることもなく、クマはキリヒトをただ見ていた。

乱暴に障害物を蹴散らして、キリヒトはクマの胸ぐらを掴んだ。


「てめえの過去とか何にも知らねえけどよ!今ここで突っ込むことで何か道が開けんのかよ!

 目的は何だ!?こいつらをぶちのめすことか!?違うだろうが!

 この戦争に意地でも勝つことだろうが!てめえがここで死んだら、勝てるものも勝てなくなんだろ!!

 ちゃんと考えて動けこの……アホ!!」


クマはそれでもまだキリヒトを見ていたが、しばらくして自嘲気味に笑った。


「…お前から、『アホ』と言われるとはな。俺もヤキが回ったもんだ。

 そうだな。俺達の目的は…勝って、帰ることだ。」


クマはそう言って体から武器を数本取り出した。


「…何だそれ」


「奥の手ってやつだ。行くぞ!」


クマが巨人の足を切り倒すと、キリヒトは倒れたそれを粉々に引き裂いていく。

武器を使った効率的な攻撃をクマが仕掛け、キリヒトが力で叩き潰す。

巨人達は次々とプラスチックの破片に変わっていった。

だが、城壁の奥から奥から巨大なブロック達は現れてきていた。


「キリがねえ…ヤバくねえか?」


「いや、大丈夫だ」


空気を裂く音がして、迫撃砲の攻撃が巨人に当たる。


「俺達がここで食い止めたから市街地にほとんど被害を出すことなく、本隊が接近できた。

 対抗するための重兵器も準備してある…これで先に進めるな」


「でもよ…アレは落とした方がよくないか」


キリヒトが上を指差すと、ブロックの竜が戦車に向かって火を吹いていた。


「…対空はヘリと飛行機しか想定してなかったな。竜は完全に予想外だ。

 よし、これ持っとけ」


クマはキリヒトに持っていた大剣を手渡した。


「あ?何だよこれ、俺は武器使えねえよ」


「いいから持て」


キリヒトは渋々受け取ると、剣を眺めた。


「どこにしまってたんだ、こんなの…」


「その剣を突き刺すだけでいい。それで事足りる」


クマの言っている意味を聞こうとしたキリヒトはふいに、柔らかい布の感触を首筋に感じた。


「え?」


キリヒトが自分自身の首を掴むクマを見たのは、一瞬だけだった。

次の瞬間、キリヒトは空にいた。


「な…あぁ!?あいつ…俺をぶん投げやがった!!」


ものすごい速さで上に飛ばされながら、なんとか地上を見るとクマが手を振っていた。


「帰ったら覚えとけよ!!」


キリヒトは悪態をついて空中で姿勢を整え、竜の位置を確認した。


「いた!そこか!」


キリヒトは自分から見て、右斜め下を飛ぶ竜に対して片腕を伸ばした。

プラスチックが砕ける手応えを感じ、腕を元に戻して竜の背中にしがみつく。

竜は背中に違和感を感じたようで、不愉快そうに体を何度も揺すった。


「うお!くそ!大人しくしやがれ!」


クマに渡された剣を持っているので、片手でしがみつくことしかできずキリヒトは今にも振り落とされそうだった。


「この…!!」


体がふりまわされる反動を利用して、竜の背中に思い切り剣を突き立てた。

苦痛の咆哮をあげて、竜は体勢を大きく崩した。


「く、ら、えよオラァ!!」


さらに適当なところをメチャクチャになぐりつけ、ブロックをガリガリと引き剥がし始める。

竜は体を揺するのをやめて、体をぐるぐると回し始めた。

まるでドリルのように回転する竜に、キリヒトは目を回し始めた。


「ダメだ…うぷ…もたね…」


遠心力も合わさって、キリヒトは空中に投げ出された。

ぐるぐると回転しながら宙をとんだキリヒトは、地面に落ちてアスファルトの道路をしばらく跳ねた後、

路地へと突っ込んだ。

室外機や柵を破壊して、さらに家の壁につきささってやっとキリヒトは意識を取り戻した。

煉瓦に埋まった顔を抜いて、頭を左右にふる。


「ぶはっ!いてて…」


キリヒトは体についた砂を払って、立ち上がった。

その後すぐなにかに気付いたように、鋭い視線であたりを見回し始めた。


「…何だ?敵か?」


辺りから漂ってきたモヤのようなものが、5つの人型へと集まった。

気付いたときには、戦艦で戦ったツバメと似たような姿をしたニンジャ達がキリヒトを取り囲んでいた。


「…やはり、ツバメの言う通りあれは騙りということか」


身構えるキリヒトを見て、最も背の高いニンジャはそう言った。

ツバメ、という単語を聞いてキリヒトは納得したように頷いた。


「エメラル陸軍が見当たらねえと思ったが、そうか、影みたいになってるんじゃそりゃ気づかねえよ。

 ニンジャってことは仲間だってことでいいんだよな?」

 

キリヒトの質問に答えず、長身のニンジャは刀を抜いた。


「上空の竜にしがみついてたのは貴様だな?」


「ハヤブサ、やめなさい」


ハヤブサと呼ばれたニンジャは静かな声に窘められたが、刀は下ろさなかった。


「コイツは殺しても死なないらしいじゃないか…それに、ツバメを捕らえたと。

 こんな態度で、そのまま行かせたんじゃ俺達の名折れだろ!」



ハヤブサは体に力を入れて、鋭い突きをキリヒトの顔へと繰り出した。

刃が物に当たる鈍い音が辺りに響いた。

キリヒトは突きを顔を動かしただけでかわし、刀はコンクリートの壁に深々と突き刺さっていた。


「ニンジャってのは人の話を聞かない集団なのか?

 それとも、そこのハヤブサってヤツが―」


キリヒトはそこまで言って、空に走った閃光に目を奪われた。

閃光弾にも匹敵する光は、ニンジャ達が手を止めるのにも十分すぎるほどだった。

光の正体は、キリヒトが突き刺した剣に落ちた特大の雷だった。


「雷…?あの落雷はラッキー…ってことでいいのか?」


黒焦げになって落ちる竜を見て、キリヒトは呟いた。

その言葉ではっと我に返ったハヤブサは、剣を引き抜き再び構え直した。

それを見てキリヒトは首を横に振った。


「何がしたいんだ?こんなことしてる暇ねえだろ!」


再び繰り出された鋭い突きをキリヒトは回避せず、正面から頭突きで受け止めた。

勝ちを確信したハヤブサの顔に笑みが浮かぶ。

だが硬化すらしてない額にぶつかった刀は、粉々に砕け散った。


「…!?」


服についた破片を払い、キリヒトはハヤブサを睨んだ。


「次仕掛けたら刀じゃなくて腕へし折るぞ。

 味方だって聞いてるから反撃しなかったんだからな」


「俺の刀を折って、ただで帰れると思うのか?」


柄を捨て、ハヤブサが胸の前で印を組んだ。

嫌な感覚がキリヒトの背筋を凍らせる。


「やめろ」


少し身長の低いニンジャがハヤブサの手をそう言ってはたいた。


「トビ…!!」


「初段の突きのときに刀を砕かれたのに気付いて無い時点でお前の負けだ」


やや怯えたような目でトビと呼んだ相手を見てから、ハヤブサは後ろに下がった。


「キリヒトと言ったな。戦いは終わりだ。

 攻撃はしたが、君も貴重な刀を一本砕いた。ここはお互い水に流そう」


「退くってんなら何もしねえよ。どっちみちやり合ってる暇はねえ。

 …ただ、ニンジャのことは嫌いになったけどな」


「我々も、君たちと仲良くするつもりはない。同盟もここを落とすまでの間だ。

 では、さらばだ」


ニンジャたちは煙と共に姿を眩まし、後にはキリヒトだけが残った。

その後すぐ、クマが家の屋根から飛び降りてきた。


「災難だったな」


「見てたんなら助けろよ」


何かの端末を操作してるクマに、キリヒトは不満そうな視線を向けた。


「いや…あの中に知り合いがいたんで、あんまり顔を合わせたくなかった。

 あと雷を落として疲れたしな」


「おいおい、落雷は偶然じゃないってのかよ…いてっ」


クマの手から走った電気をくらって、キリヒトは体を曲げた。


「そんな都合のいいことがあるか。とはいってもあれほど大きさだとコントロールもきかんから、

 剣を突き刺してもらう必要があったけどな」


その話をきいて、キリヒトは何かを思い出したようにはっとした。


「そうだ!てめえいきなりぶん投げやがって…っておい!聞いてんのかよ!」


抗議するキリヒトをよそに、クマは端末をしまってパーズの中心を指さした。


「もうあんな化物はいないはずだ。これ以上どっちにも被害を出さないためにも、さっさとスイシを捕らえるぞ」

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