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海戦

船の甲板に飛び乗ったキリヒトを見て、クマは笑った。


「ちゃんと会ってきたようだな」


見透かしたようなクマの態度に、キリヒトは少し不満そうだった。


「何でわかる?」


「見れば分かるとも。お前ほど分かりやすい人間もそうはいないぞ」


キリヒトが何か言い返そうとすると、船員の一人が大声をあげた。


「そろそろ出航するぞー!乗り込めよ!」


外で作業をしていた者たちが、どやどやと船に乗り込んできた。

その大半は海兵であるが、上陸後のこともあるせいか陸軍もいた。


「ほら、これ持っとけ」


海を進む大艦隊を眺めるキリヒトに、クマが無線を渡した。


「これでお前に指示を出す。言っても無駄だとは思うが、壊すなよ」


キリヒトが無線をセットすると、クマから通信が入った。


「聞こえるか?」


マイクの位置を調整しながらキリヒトは返事をした。


「聞こえてるよ。で、俺は上陸まで暇なのか?」


「いいや。お前は海戦でも戦力として期待されている。

 とはいっても難しいことじゃない。船から船に飛び回って、敵兵士を殺してまわるだけでいい」


「どれぐらいで戦闘になる?」


「遅くても3時間程度だな。戦線がどこまで広がってるか正確に把握できないが」


潮風を感じながら、キリヒトは海を眺めていた。

クマの言った通り、2時間ほどでルヴィとサイアの連合艦隊は戦場へとたどり着いた。

戦場では激しく弾丸が飛び交い、いくつもの飛行機と船が撃墜され沈んでいく。


「それで!俺はどうすればいいんだ!」


エンジン音や爆発音に負けないよう、キリヒトは無線に向かって大声で叫んだ。


「黄色い国旗が書いてあるのがバーズの船だ。

 適当な艦に飛び乗って制圧してくれ。制圧が終わった艦には何か…目印をつけとけ」


「随分ざっくりした説明だな!」


「…細かい指示をしても無駄だろ」


キリヒトは船を蹴り、思いきり跳躍した。


「よく分かってんな!」


蹴った反動で艦が大きく揺れ、悲鳴をあげた。


「…あの艦も物質種だったのか、悪いことしたかも」


高く飛び上がったキリヒトは、狙いをつけてパーズ艦の一つに着地した。

頭からは、流れ弾のせいで血が流れている。


「痛って…どっちの弾か分かりゃしねえな」


「な、何だこいつ!」「空から降ってきたぞ!」


キリヒトは腕を伸ばして、辺りにいる兵士をまとめて海に叩き落した。


「さーて、この艦を動かしてるのはどこだ…?」


上の方を見ると、船室の中で偉そうな服を着た人が慌てているのが見えた。

キリヒトはにやりと笑い、船室の壁に爪を突き立てて登り始めた。

窓を破り船内に突入すると、無数の銃口がキリヒトを狙っていた。


「撃てェ!」


船長らしき人物の号令により、全員が次々と発砲する。

だが、その瞬間キリヒトの姿はふっとその場から消えた。


「見失った…!?警戒し―」


号令より素早くキリヒトは船長の首を掴み、窓から放り投げた。

あちこちの窓が割れ、そこから兵士達が海へと放り投げられていく。

無人の船室を見回して、キリヒトは手をぱんぱんと払った。


「一丁上がり!何か適当に旗でもあげとくか」


外に出たキリヒトはさらに壁をよじ登り、天辺に白旗を突き刺した。

海を見ると、激しい戦闘が続いている。


「ひょーすげえ。さーて…次の船は…っと!」


後ろから切りかかられたキリヒトはあわてて体を捻って回避する。

キリヒトは大きな音をたてて甲板に飛び降りた後、自分を攻撃してきた相手を確かめた。


「…ナンバーズ?違うよな?」


顔のほとんどを布で覆った相手は、黙って刀を構えている。


「あ、アンタ世界会議の時にエメラル爺さんのそばにいた…」


キリヒトが言い終わる前に、相手は飛び道具を投げた。

眉間に向けて飛んできた一般に"クナイ"と呼ばれるそれを、キリヒトは手で受け止めた。


「…悪い、やっぱ名前は知らねえ。"ニンジャ"ってのは聞いたけど」


受け止めたクナイを地面に突き刺して、キリヒトは両手を上げた。


「俺はパーズの人間じゃねえし、エメラルとはやり合うなって言われてんだ。

 だから…うおッ!?」


地面に突き刺したクナイが浮き上がり、キリヒトの顔をかすめた。


「うお!?どうなってんだこれ!…おい、聞こえてんだろ!やめろって!」


キリヒトを艦の天辺から見下ろして、ニンジャはまっすぐ刀を構えた。


「問答無用。我らが国の民を殺した罪、命で贖ってもらう」


「はぁ!?そんなの知ら…!!」


再び背後から切り付けられ、キリヒトは間一髪でそれをかわした。

艦の天辺を見ると、そこにあったのはただの人形だった。


「ちょっ、一旦話を…!!」


刀を何度も受けながら、キリヒトは後退った。

数歩下がると、鋭い痛みがキリヒトの足を襲った。

見ると、地面にまきびしが置いてあった。


「ちょっとは話を聞けこの…!」


左手で刀を掴んだキリヒトが、ニンジャに向かって振った右の拳が空を切る。

残像が消えると同時にニンジャは空中から現れ、キリヒトの頭に短刀を突き立てた。


「…任務完了」


倒れるキリヒトの手からニンジャは刀を拾い、背中の鞘におさめた。


「残念!」


そう言ったキリヒトの腕が伸び、ニンジャの体にしゅるしゅると巻き付いた。

もう片方の手で肩を突き刺すと、再びニンジャの姿が人形へと変わった。

うつ伏せに倒れたキリヒトの首に、上から刀が振り下ろされた。

金属音がして、ニンジャの刀が宙を舞う。

首から刃を出して、キリヒトは刀を弾いていた。


「これだけ首を何度も狙われれば流石に反応できるぜ。それに…」


キリヒトの腕がニンジャをしっかり拘束した。


「もう回避はできないだろ…偽物じゃないよな?」


ニンジャの覆面を剥がし、キリヒトは驚いた。


「女だったんか…どうりで軽いわけだ」


「覆面を返せッ…!くそッ…この殺人鬼め…!」


もがくニンジャを、キリヒトは肩に担いだ。


「殺人鬼ねぇ…色々聞きたいけど、多分俺よりクマの方がちゃんと話せるよな…よし!」


来た時のようにキリヒトは船から船へ飛び、自軍の艦へと戻った。


担いだニンジャをクマの前に下ろし、キリヒトは肩を回した。

クマがいるのはヌイドーでも最大級の艦だった。


「パーズのを一隻沈めたら…何だ、何か変なニンジャに襲われた」


クマの頭には疑問符が浮かんでいるようだった。


「エメラルの"シノビ"と呼ばれる精鋭部隊に見えるが?

 エメラルとは戦うなと言ったはずだ」


「いやこのニンジャが先に襲ってきたんだって!しかも俺がエメラルの国民を殺したとかなんとか」


黙っていたニンジャがキリヒトをにらみつけ、大きな声を出した。


「とぼける気か!数日前にエメラルの町の一つ、リジアンを焼いておいて、よくも…!!

 それに、貴様が以前殺したドン・リザベンもエメラルの人間だ!」


キリヒトはニンジャに顔を近づけ、頭を持った。


「このニンジャめ、よく聞け!いいか!俺は!生まれてこの方エメラルに行ったことはねえ!

 リザベンの件も、俺は知らん!俺が待ち合わせ場所に行った時は既に死んでた!」


「口では何とでも言える…!」


にらみ合う二人を押しのけて、クマはため息をついた。


「失礼、私はヌイドーの国王であるクマだ。

 これ以上は外交問題に発展しそうなので、国王としての立場から言わせて頂く。

 彼…キリヒトは、我々の国の兵士となってからはエメラルに行ったことは無い。

 そして、彼がヌイドーに所属したのは世界会議より前のことだ。

 よって数日前、貴公らの町を焼くのは不可能だ。よろしいかな?」


ニンジャはぐ、と言葉に詰まった。


「……証明はできるのか?」


「軍事機密になるが、必要とあれば彼の行動の記録を渡そう。

 また、ルヴィ国王にも同じ証言をしていただけると思う」


黙ったニンジャを見て、クマは笑顔を見せた。


「納得していただけたようだな。

 今回、彼を攻撃したことについては、お互いに誤解があったせいだと思いたい。

 幸い、彼にも大きな怪我は無いようだ。

 ついては、誤解を解くためにエメラルと友好関係を築ければ良いと思うのだが?」


「…不問にするかわりに、協力しろというのか」


クマは笑顔を崩さない。


「こちらとしても敵対したくは無いということだ。

 そちら側が、先に攻撃を仕掛けてきたとしてもね」


"そちら側"の部分をクマが強調すると、ニンジャはばつが悪そうに目をそらした。


「…こういう大人のやり取りって、俺は好きじゃねえなぁ」


頭から流れる血を拭って、キリヒトがそう言った。


「王に…ベリル様に話は通そう。だが、拘束されたことも話すからな」


「どうぞ。ありのままの事実を報告すると良いだろう。

 もう大丈夫だろう、キリヒト、離せ」


キリヒトは腕をもとに戻し、ニンジャの拘束を解いた。


「ふ…覆面も返せ」


「…破れた」


恥ずかしそうに言うニンジャに対して、キリヒトは平然と答えた。


「…!!」


「わかったよ、それについては悪かったよ…」


恨みがましくにらみつけるニンジャにキリヒトはそう言って、自分の服を破いた。


「昔から顔を隠すことは多かったから、すぐできる…ほら」


キリヒトはどうにか覆面になりそうなものをこしらえて、ニンジャに渡した。


「満足か、ニンジャめ」


「さっきからニンジャニンジャと…私にはツバメというコードネームがある」


そう言ってツバメは手の前で印を結んで、キリヒトを睨んだ。


「…リジアンの件はこちらの勘違いだったのだろう。

 だが、リザベンについてのことがある!貴様にはまだ聞くことがあると忘れるな!」


そう捨て台詞を吐き、ツバメは煙と共に姿を消した。


「……本当に殺してないんだな?」


疑いの眼差しを向けるクマに、キリヒトは中指を立てた。


「してねーっつってんだろ!どいつもこいつも!

 イライラするぜ!もう2,3隻沈めてくる!」


乱暴に扉を閉めて出ていったキリヒトの後ろ姿を見て、クマはため息をついた。

キリヒトが艦を落としている間に、エメラル海軍は連合軍と協力することを宣言した。

そのかいあってか、キリヒトが3隻目を制圧するころには、パーズ海軍はほぼ壊滅状態だった。

戦いの場はパーズ本土へと移ろうとしていた。

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