表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/29

怪物



シェルターの入り口を守るように立つキリヒトを、窓からミーナは不安そうに見ていた。

ふと、じっと二人を見ていたミーナのすそが引っ張られた。


「ミーナせんせぇ…こわいよぉ…」


図書館で授業をしていた時にいた、男の子がミーナの服を引っ張っていた。


「ダメじゃない、こんなところにいたら。

 安全な奥に行かないと…」


そう言ってミーナが子供を抱えようとすると、グラブが大きな声を出した。


「安全…こんなシェルター…私の手にかかれば…簡単に破壊できる…」


グラブはゆっくりと、キリヒトを指さした。


「貴様らに…できるのは…この男が負けないよう…祈るだけだ…」


それを聞いた、ミーナの足元にいる子供はガクガクと体を震わせはじめた。


「みんな…しんじゃうの…?」


グラブの声は奥の方にいる子どもたちの耳にも届き、一気にパニックが伝染する。

子どもたちが一斉に泣きだそうという時、さっきよりも大きい声が響いた。


「見てろ!!」


キリヒトは後ろを振り返り、自分を指差した。


「俺がこいつをぶちのめすところをな!!」


キリヒトはミーナを守りたかった。

ミーナの守りたいものも同じように守りたかった。

キリヒトは、自分のためではなく他人のために戦うようになりつつあった。

グラブの方を向いて、キリヒトは笑った。


「待ってくれてたのか、随分優しいんだな?」


グラブは静かに首を横に振った。


「一方的に…お前を殺せば…後ろの人間達も…諦めるだろう」


「言ってくれんじゃねえか。死ぬのはてめえだ」


キリヒトは体を揺すって、構えた。


「さあやるか、クソ野郎!十何年か前の決着を着けようぜ」


キリヒトは地面を蹴り、グラブに飛びかかった。

手を硬質化させ、顔に叩きつけようとする。

だが、同じように硬質化したグラブの腕に受け止められた。


「懐かしいだろ!?」


キリヒトはそう叫んで、口から大量の酸を吐き出した。

グラブは硬質化した腕を盾のように広げ、酸を外側へと飛ばす。

広がった盾を切り離し、グラブはそれごとキリヒトを蹴り飛ばした。


「…!!」


だが、盾の後ろには何も無かった。

キリヒトは蹴り飛ばされる前にグラブの後ろにまわっていた。


「これもなぁ!」


キリヒトは両腕で首を絞め、さらに火を噴いた。

グラブの全身が炎に包まれ、キリヒトはそこから離れた。


「言ったろ?以前とは別物だぜ…ほら、さっさと来いよ。

 こんなクラシックな攻撃でやられるわきゃねえだろ」


炎に包まれながら、平然と立っているグラブに向かってキリヒトはさらに挑発する。

グラブは火のついたフードをゆっくりと脱ぎ捨てた。

その下から無数の傷がついた体が露わになった。


「随分と傷だらけだな、超再生が不完全なのか?」


「私は…最初期の検体だ…元を辿れば…貴様の超再生も…元々は私の能力だ」


グラブは自分の体についた傷を撫でる。


「ナンバーズの黎明期…力を得るために…様々な実験を経た…」


グラブは振りかぶって拳を前に突き出した。

右腕が一気に伸び、キリヒトの足を掴む。


「うおッ!?」


腕を引き戻しながらグラブは、左手を鋭利な爪に変えた。

キリヒトは両腕を顔の前で交差し、さらに硬化させた。

だが、グラブの爪は硬化させた腕を貫いた。


「ぐっ…痛ェ…」


掴まれた足を基軸に、キリヒトは体を跳ね上げてグラブの顔を蹴り上げた。

だが、仮面の中から出てきた舌にキリヒトの足は巻き取られる。


「この…!!」


掴まれた手と足から刃を出し、キリヒトは拘束を振りほどいた。


「戦い方が…不完全…だ。お前は…すでに私より…多くの能力を…持っているはず…」


キリヒトは傷を再生しながら、距離をとった。


「じゃあこれならどうだ!?」


キリヒトの体が青い甲殻に覆われていく。

かつてコントロールを得た時よりも、『喰らう者』はより人間離れした姿へと変わっていた。

体が一回り大きくなり、恐竜のような姿へと変わっていった。

爪は鋭く、尾は長く強靭になっていく。


「そんな…あれが、キリヒト…?」


ミーナが怯えながら、小さな声で言った。

変身した姿を見て怯えていたのはミーナだけではなく、シェルター内の人々全員がそうだった。


「それも…不完全なのだ…たたでさえ…勝てぬ相手に…技術と能力を失ってどうする…?」


キリヒトは答える代わりに大きく吠え、尻尾を繰り出した。

だが、グラブは尾を受け止めそこに掌底を入れる。

ビリビリと振動が伝わり、キリヒトはよろめいた。

しかしすぐに体勢を立て直し、爪をグラブの頭に振り下ろす。


「…!」


回避しようとした矢先、グラブは足を枝分かれした尾に巻き取られ倒れた。

間髪入れずグラブの頭に、爪が突き刺さった。


「やる…死に直結する一撃だ」


爪を引き剥がし、グラブはそう言った。

仮面が割れ、破片が地面に転がっている。

倒れたままのグラブに、キリヒトは飛び乗った。

馬乗りの状態で下にいるグラブをめちゃくちゃに爪で切り裂いていく。

切り裂かれながらもグラブは素早く舌を伸ばし、キリヒトの目を抉った。


「ウゥ…!」


怯んだ隙にグラブはキリヒトの両脇腹に腕を突き刺し、中身を引きずり出す。

キリヒトも負けじと、グラブの胸に両腕をねじ込んだ。

しばらく双方の血と臓物が飛び散っていたが、ふいにキリヒトが大きく息を吸い込んだ。


「当たれば死ぬ」


グラブそうが言って両腕を地面につけた瞬間、キリヒトは口から熱線を吐き出した。


「カッ!!」


間一髪でかわしたグラブはキリヒトから離れ、建物の壁を走り出した。

素早く飛び回るグラブに対して、何度も熱線をぶつけようとする。

しかし、グラブがある地点に立つとキリヒトはピタリと吐くのをやめた。


「不完全…訂正する…"それ"は十分に強い。可能ならば…こんな手は…使いたくなかった」


グラブは、シェルターを背にして立っていた。

だが、キリヒトを止めたのは攻撃ができないことだけではなかった。

シェルターの窓からは、たくさんの人が戦いを見ていた。

その全てが、キリヒトに恐怖の目を向けていた。

キリヒトが守りたかった、ミーナでさえも。


「我が主の命は…絶対だ…どんな手を使っても…遂行する」


動きの止まったキリヒトの首に、伸びたグラブの右腕が突き刺さった。

右腕はさらにキリヒトの後ろにある壁にも突き刺さっていた。

キリヒトは『喰らう者』を維持できず、甲殻が地面に剥がれ落ちた。

口から血を溢れさせ、キリヒトは突き刺さった腕を掴んでもがいた。


「お前は…私達と同じく…虚無なのだ…。守る…復讐…その全てが中途半端…。

 ただ目の前にある…食事を食べるのと同じ…。浅いのだ…お前は…」


もがくキリヒトに、グラブは右腕を縮めながら近づいていく。

グラブが眼の前まで近づいた時、キリヒトはもがくのをやめた。

その代りに、突き刺さった右腕を強引に外し始める。


「意味のない…抵抗だ…わからないのか?」


ブチブチと肉が千切れる音がして、キリヒトは首から腕を外した。

超再生はやや機能不全気味であり、流れる血は止まらない。

グラブは右腕をもとに戻し、棘のような形へと変化させた。


「再び突き刺せば…いいだけだ…」


グラブが突き刺すよりも速く、キリヒトはグラブの右腕を自分の腹に突き刺した。

キリヒトはさらに血を吐き、体を震わせた。


「狂ったか…?」


腹にグラブの右腕を突き刺したまま、キリヒトは自分の右手で攻撃を仕掛けた。

グラブは左腕を硬化させ難なく受け止めるが、キリヒトはその腕を掴みさらに自分の腹に突き刺す。


「何を…!!…抜けない…!!」


グラブの腕を筋肉で締めながら、キリヒトは仰向けに倒れ込んだ。

その状態でキリヒトの顔だけが、『喰らうもの』の姿へと変化する。

意図を察したグラブの表情が驚愕へと変わった。


「まさか…体を固定するために…だが、こんな自分を痛めつけるやり方…!!」


キリヒトはさらに倒れる瞬間に両足を絡ませ、外れないようにしていた。

大きく口を開け、息を吸い込むキリヒト相手にグラブは必死に抵抗していた。


「し、収縮…抜かねばできない…切断…離せ!」


グラブは手足を枝分かれさせキリヒトを何度も突き刺した。

さらに自身の両手を棘で切断しようとするグラブに、自分の腕を突き刺して阻止する。

舌で目を突き刺されても、キリヒトは力を緩めなかった。


「こんな…私が死―」


戦闘時に発射したものよりも、倍ほどの大きさの熱線が空に向かって放たれた。

熱線の放射はしばらく続き、終わった時にはグラブの死体は頭部どころか肩まで消滅していた。


「ゼー…ゼー…」


自分に突き刺さった棘を折り、キリヒトはふらふらと立ち上がった。


「…ヒュー…ヒュー…」


言葉を発しようとしても、喉が損傷しているため風の吹くような音しかしない。

あちこちに何本もつきささった棘を抜きながら、キリヒトはシェルターを見る。

全身を朱に染めて、ずたずたの体をした自分が見えた。

その奥からは変わらないどころか…さっきよりもさらに怯えた無数の目が、

キリヒトをじっと見ていた。

命をかけて、血を流して守りぬいたキリヒトに、喝采は無い。


(俺は…俺は……ただ…)


ミーナを見て、キリヒトは悲痛な表情をした。


「あれは…ばけもの…?」


子供がミーナの足元で小さな声で囁いた。

誰も何も言えず、そこから動けなかった。

沈黙の中キリヒトは、声にならない音を出しながら、

今にも倒れそうな足取りでシェルターに背を向けて歩き出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ