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襲撃

「こちらサイア空軍、所属不明のヘリ、応答せよ」


ヘリの無線に入った通信で、キリヒトは目を覚ました。


「こちらサイア陸軍中尉、メルート・ヤード。番号は2450963。

 ルヴィ国王を救出し、シルヴァのヘリを奪取して帰還中である。どうぞ」


メルートの答えに、通信相手は驚いたようだった。


「国王を!?…いや、失礼した。番号が確認できた。これより護衛に移る」


ルヴィにある空港に着いたキリヒト達を数人の軍人が出迎えた。

国民にはそもそも国王が拉致されたことが知らされておらず、

今回の任務を知るのは数名であったためである。

スカル達三人は入院することになったため、キリヒトはコランと二人で城に戻った。

王の部屋に入ると、松葉杖をついたバーミリオが頭を下げた。


「ご無事で…!今回の不徳、私は…!!」


下げる頭を手で無理やり戻し、コランは玉座に腰かけた。


「戦いを直接見たわけじゃないが、アレは…ナンバーズとやらは普通の対応じゃ無理だ。

 できるだけ早く対策を立てよう」


そう言って、後ろについてきているキリヒトに目をやった。


「今回のことは彼の功績が大きい。本当にな」


自慢げな表情をするキリヒトにも、バーミリオは頭を下げた。


「以前の無礼を許してくれ。本当に…王を救ってくれて感謝している」


「何だよ、色々言おうと思ってたのに…そう素直に感謝されると…」


キリヒトはしばらくどうしていいか分からない様子だったが、

壁際に歩いて行きキャビネットに腰かけた。


「俺のことはもういいって。それよかヌイドーに連絡しなくていいのか?」


「それもそうだ。クマも気をもんでいることだろう」


コランは受話器を取り、ヌイドー王国の番号を押す。


「…つながらん。どうなってる?

 これはホットラインだぞ……おかしい」


何度もかけなおすが、通話はつながらない。


「断線で済めばいいが、何かまずいことになっているのかもしれん。

 キリヒト、休む間も無くて悪いがヌイドーへ向かってくれないか?」


キリヒトはキャビネットから飛び降りた。


「別に機内で寝たから休みはいいけどよ…乗り物には食い物を積んでくれ。

 腹が減って死にそうだぜ」


「そうさせよう。外の者が案内するから、着いて行ってくれ」


キリヒトは手を振って、ドアから出て行った。


案内を命じられた若い軍人は、怯えたように何度もキリヒトを見ていた。


「なあ、なんでそんな俺を見るんだ?」


視線に耐えかねたキリヒトが、呆れ声で話しかける。


「ひっ…いえ、すみません、入院しているスカル殿から伺ったのです。

 あなた様の…その…"武勇伝"を」


人は自身の理解が及ばないものを恐れる。

スカルが語った通り、目の前にいる相手は自分を一瞬で粉々にできてしまう。

戦闘経験がほとんどないこの新兵にとって、キリヒトはあまりにも恐ろしい存在だった。


「…別に、味方に対しては何もしねえよ」


下を向いてキリヒトはそう呟いたが、新兵から恐怖の感情が消えることはなかった。

車庫に到着し、新兵は一台のジープの前で立ち止まった。


「あの…失礼ですが…運転はできますでしょうか?」


「一応な。自信はねえけど、まあなんとかする」


キリヒトはジープに飛び乗って、新兵を見た。


「でも何で陸路なんだ?空路の方が速いんじゃねえのか」


「ひっ…す、すみません」


図らずも威圧的な物言いになったことを、キリヒトは後悔した。


「その…こちらも戦争中ですので、不確かな情報を元に軍を動かせないのです…。

 それに、もし仮にヌイドーが非常事態だった場合…その…パイロットの帰還は難しいので」


言いにくそうに話を続ける新兵に、キリヒトは大きなため息をついた。


「で、これか。まあいいや、地図と食料をくれたらすぐにでも出発するぜ」


そう言ってキリヒトは新兵から鍵を受け取り、エンジンをかけた。


日が沈んだ荒野をキリヒトは一人ジープで走っていた。

信号もなく、歩行者もいない直線の道路ばかりが続いていたが、運転に自信の無いキリヒトは

そのことにほっとしていた。


「何で自分より足の遅いものを使うんだ…って思ってたが、

 長距離移動の時は楽でいいな」


保存食の缶詰を外に放り捨てて、キリヒトは呟く。

後部座席に山のように積まれていた食料のほとんどは既にキリヒトの腹の中に収まっていた。


「ゲホッ、ゴホッゴホッ!」


次の食料に手を伸ばし、一口かじったところでキリヒトは激しく咳き込んだ。

呼吸を整えて口に当てた手を見ると、血がべったりとついていた。


「はぁ…はぁ…。能力を封じられていた後遺症か?

 そういえば、やけに腹が減る気がするな」


キリヒトは既にいつもの倍以上食していたが、それでもまだ腹は膨れていなかった。


「ナシャエルがいればなぁ、色々聞けたのに」


キリヒトは今までナシャエルのことをすっかり忘れていたが、彼が倒れた世界会議から

既に一週間以上が経過していた。


「まだ寝てんのかな…じゃあヌイドーで何かあったらまずいんじゃないのか?

 …もっと急いだほうが良いかもな」


キリヒトは最後の食料を飲み込むと、アクセルを思いきり踏み込んだ。


空が白むころ、キリヒトはヌイドーの近くまで来ていた。

近づくにつれて、キリヒトの顔に焦りが出る。


「マジかよ…」


ヌイドーのあちこちから煙が立ち上り、爆発音が響いていた。

途中には壊れた戦車や装甲車があちこちに転がっており、激戦が伺える。

城下町の外に広がっている点在する家々は、ほぼ全て焼き払われていた。

道の真ん中で横転する戦車の前で、キリヒトは車を降りた。


「どうやるんだったか…ダイヤルを回して…」


車載の通信機のスイッチを入れ、ルヴィに通信を試みるが繋がらない。


「妨害電波…?一回ここを離れなきゃいけないのか」


再びキリヒトは車に乗り、後ろを見る。

と、その時空気を切り裂く音が頭上から聞こえてきた。


「やべッ!」


爆音と共に車が炎上する。

キリヒトは車から飛び出して、草地をごろごろと転がった。

空を見ると爆弾を落とした戦闘機が、ヌイドー城へと向かうのが見えた。


「クソ…戻ってる暇はねえ、俺が何とかしねえと!」


そう言ってキリヒトは地面を蹴り、車よりも速くヌイドーへと向かい始めた。


ヌイドー国 城内


「城門を封鎖しろ!Aチームは敷地内に入った兵を何としても殲滅するんだ!

 Bチームは民間人の救出に当たれ!非戦闘員を全員シェルターに収容しろ!」


城内で指示を出すクマに、ブリキの兵士が走ってくる。


「クマ様!救援を要請しに行った者は…全滅しました!」


「クソ!まずい…ここが落ちればシェルターも終わりだ!」


パーズ兵とブロック兵の連合軍がヌイドーへと侵攻を開始したのは、

キリヒトが丁度捕獲されていた時だった。

敵はヌイドーの通信を断つことを最優先で行ったため、本国へ救援要請を出せなかったのだ。

だが、ナシャエルの想定では十二分に防衛しきれるはずだった。

簡単に防衛網を突破され、城下町にまで攻め入られたのは二つのイレギュラーによるものだった。

一つ目はナンバーズ。4と5の二人が先陣を切り、

最初の防衛線を突破したため敵はほとんど消耗しなかった。

そしてもう一つは、巨大なブロック兵。

神話に出てくる巨人のような大きさのブロック兵が数体、

全てを踏みつけながら進んできたのだった。

先兵と盾を兼ねた巨大ブロック兵はほとんど破壊できたものの、

やはりこれにより敵軍の消耗はかなり抑えられてしまった。


外にいた住民の大半が城下町へと避難していたが、城門が破られた今

城下町は完全な混乱へと陥っていた。


「はっ、はっ、はっ…」


火のついた家々の間を小さな木製人形が走っていく。

混乱の中逃げ遅れたのは、事態を把握できない子供が多かった。

闇雲に走っていた人形は、パーズ兵士の一団と出くわしてしまう。

兵士は銃を構え、無慈悲に引き金を引いた。

銃声がして倒れたのは…発砲した兵士だった。


「全員ぶっ殺す気かよ?タチが悪いぜ」


銃口を捻じ曲げ、兵士の顔へと向けたキリヒトが人形の前に立つ。

子供を軽く蹴って路地に押し込み、自分の両手首を打ち合わせた。

皮膚の下に隠れていたリストバンドが広がり、腕全体を防御する。


「何か…面積が増えてねえか?ま、いいや」


それと同時に兵士全員がキリヒトに向かって発砲する。

キリヒトは弾丸を家屋の壁に飛びついて回避し、さらに壁を蹴って姿を消す。


「標的を見失った!サーモに切り替えろ!」


そう叫びながら兵士がスコープを切り替えた瞬間、前列にいた兵士がバラバラになった。

両腕の爪を伸ばしぐるぐると回転して、キリヒトは兵士の全てをなます切りにした。


「活けづくり…いや、死んでるな」


死体から溢れた血で、装着を解除したキリヒトは路地に蹴り飛ばした子供に近寄った。


「…!!」


ガクガクと震える子供を背負って、キリヒトは再びため息をついた。


「またこれか…。この子供どうしようか…。

 そういえばシェルター…以前クマが言ってたっけ。そこに連れて行けばいいな。

 おい、しっかり捕まってろよ!」


キリヒトは燃える城下町を走り抜けた。

途中何体もの兵士を屠り民間人を助けたが、彼らが向けるのは決まって畏怖の眼差しだった。

城内に入ったキリヒトは、シェルター前にいる兵士に近寄った。


「キリヒト殿!ご無事で!」


敬礼をする兵士人形に背負った子供を渡して、辺りを見る。


「…ミーナって奴はこの中にいるか?」


兵士はバツが悪そうに視線をそらした。


「は…申し訳ありません、何分混乱が続いておりまして…。

 誰が救出済みかはまだ分かっておりません」


キリヒトは舌打ちをして、シェルターに目を向けた。


「今、誰か私のこと…キリヒト!?」


人混みをかき分け、ミーナが姿を現す。


「ミーナ!ああ、良かった!」


安堵の表情をして、キリヒトはミーナに駆け寄った。


「いきなり戦闘が始まって…近くにいた子どもたちを皆連れてここまで避難してきたのよ。

 でも、ここにもいつ敵が来るか…」


「はっ、敵ならかなり始末してきたぜ。

 民間人も何人か助けたしな」


不安そうに話すミーナを、キリヒトは何とかして元気づけようとそう言った。


「でも…私の家も、街も焼かれて…本当に助かるのかわからない…」


今にも泣きそうなミーナの顔を見て、キリヒトは言いようのない感情に襲われていた。

今まで感じたことのない、悲哀と憤怒が入り混じったような苦痛。

背筋を伸ばし、キリヒトはまっすぐにミーナを見た。


「俺が…何とかしてやる!」


根拠のない言葉であったが、キリヒトは心の底からそう思っていた。

キリヒトがそう言った時、シェルター前の壁を貫いて一人の男が入ってきた。

ナンバーズの服、白いフードと仮面をつけた男がゆっくりとシェルターの入り口に歩いてくる。

悲鳴とともに、人々はシェルター内へと逃げ出した。


「そう…か。ではそれを…見せてもらおう…」


唸るようにしゃがれた声で男は言い、キリヒトを指さした。

一瞬遅れて、ヌイドーの兵士達は銃を構えた。


「撃て!」


シェルターを警護する兵士が男に向けて次々と発砲する。

男が手をかざすと、弾丸は全て空中で静止した。


「私は…ナンバーズの5…グラブ。キリヒト…久しぶり…だな」


グラブはそう言い手のひらを裏返した。


「てめっ!」


キリヒトは動きを察知して、近くにいた兵士数人を慌てて突き飛ばした。

キリヒトの手の届かない距離にいた兵士は、頭を撃ち抜かれ絶命した。


「初っ端でこれかよ…待て、久しぶりだあ?俺はテメーなんて知らねえぞ」


グラブは黙って仮面を外すと、刻印された番号と傷跡が顕になった。

それを見て、キリヒトははっとした表情をする。


「思い出したぜ…てめえ、俺が脱走した時に出てきたヤツだな。

 まさかナンバーズだとは思わなかったぜ」


立ち上がって、キリヒトは腕を回した。


「ここから先は絶対通さねーからな。以前の俺と同じだと思うんじゃねえぞ」


グラブは仮面を戻し、両手を広げた。


「その言葉…そのまま返そう…」

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