表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/29

休息

ヌイドー王国 城内


「…そいつらは確かに、シルヴァ国のナンバーズだと名乗ったのか?」


手当を受けるバーミリオにクマが尋ねた。


「はい、そうです。片方は7、もうひとりは6だと」


クマがため息をついて、ナシャエルの書いた指示書を読む。


「やはりハッタリじゃなく、能力者が10人いるのか…。

 キリヒトが2人殺して、あと8人」


クマは近くの兵士に指示を出すと、兵士は外に走っていった。


「やはり…王はルヴィの本拠地へと帰還させるべきでしたか?」


「いや、それは違う」


クマは首を横に振って続けた。


「防御を固めれば、より多くの被害が出ていただろう。

 もしかしたら移動中を狙われたかもしれない。それに…」


チラリと向こう側の部屋をクマは見た。


「サイアのダラム王はご無事なんだろう?ということは敵は初めからルヴィだけを標的にしていた。

 このやり口は…パーズだろうな。不信感を煽る汚いやり方だ」


「たしかに、殺されたのはほとんどルヴィの護衛です。連中はサイアに見向きもしなかった…」


クマは黙って、辺りを調べ始めた。


「…ずいぶんやりあったみてーだな」


布を被せられた死体と、ボロボロになった部屋を見回してキリヒトはそう言った。


「当然だ。黙って王を連れて行かせるものか。

 …いや、結局攫われてしまった。私は…軍人失格だ」


「バーミリオ、あまり自分を貶すな。お前がそれでは、死んだ仲間も浮かばれない。

 今は、一秒でも早く傷を治して戦線に復帰してくれ」


クマの言葉にバーミリオは顔を伏せた。

やる事が無くなったキリヒトは、なんとなく落ちた燭台を拾って机の上に置き直した。


「慰めるつもりはねえ、負けたのは事実だ。

 あと俺も…あいつらに勝ったってわけじゃねえ」


「ずいぶんと謙虚になったな?」


「なんだよ、気持ち悪いな」


キリヒトが手を払い除けると、クマは肩をすくめた。


「まあいい、後で俺の執務室へ来てくれ。次の指示を出そう」


「さっき言っていた潜入任務か?」


クマは頷いた。


「そうだ。細かい指示はそこでするからな」


その言葉にキリヒトは首を傾げた。


「後でって言わずに、今一緒に行けばいいじゃねえか」


「今回の任務は長くなる。その前に会いに行く相手がいるんじゃねえか?」


さっき乗せた燭台が、地面に落ちて派手な音を立てた。


「あのクソ天使が言ったのか?」


「何のことだ?俺は誰の名前も挙げていないが」


震える手で燭台を乗せようとするが、うまく行かず再び地面に落ちる。

その様子を見て、肩を落としていたバーミリオの雰囲気が少し和らいだ。


「クマ…てめえ…」


「おっと、もう時間が無いぞ。さっさと行け」


キリヒトは舌打ちをして、割れた窓から飛び降りていった。


「…さて、ナシャエル。お前はどこまで考えているんだ…?」



「顔を出せと言われてもな…」


ナシャエルに見抜かれ、クマに煽られたキリヒトは図書館に足を運べないでいた。

もやもやする苛立ちをどうにもできず、広場の噴水をぐるぐると回る。

賑やかな広場には屋台や芸人も出ている。


「おや、キリヒトさんですか?」


何周かしたところでキリヒトは、屋台のぬいぐるみに呼び止められた。

タコのぬいぐるみは、話しかけながらも器用にたこ焼きを焼いている。


「はっは、ここ数日コなかっタですけど、どうしてたんですか?」


「戦争関係で、駆り出されてたんだ」


たこ焼きがキレイに船に盛り付けられていく。


「あぁ…先日も城で騒ぎがあったとか…物騒なことです。襲撃でも何でもなかったそうですがね。

 それにしても、ミーナさんがあなたに奢ってから毎日来てくれてたのに

 急にコなくなっタのはそういうことだったんですな。どうぞ」


「あ…えーと」


差し出されたたこ焼きを受け取り、キリヒトはポケットをさぐった。


「いやいや、お代は結構。こっちの国が前線で勝っタコとはニュースできいてますからな。

 応援とお礼をかねて、それはごちそうしますよ」


「私じゃなくて、まずここに来るのね?」


驚いて激しく咳き込むキリヒトの後ろから、ミーナが話しかけた。


「げぇっほ…なんっ…なんっでここに!?」


「館長から手紙をもらったの。『今日の昼食はいつものたこ焼きにするべき』って。

 あなた、ずいぶんと分かりやすいのね?」


「ぜぇぜぇ…あいつが異常なだけだ。俺はそんな…」


「はいはい。ねぇ、私にも一つお願い」


「もう作り始めてますとも!茹でダコになりそうですな、はっは」


タコは笑顔でそう答えた。


「それで、私結構心配してたんだけど」


せわしなく8本の足を動かすタコに背を向けて、ミーナがキリヒトに詰め寄る。


「そ、そーかよ。そりゃありがた…」


「ここに来たなら、何か食べる前にせめて一言声かけてくれてもいいじゃない」


「あー…いや、そのー」


目線をそらしながら、キリヒトは後ずさる。


「時間が、ほら、無かったからよ。こう、食事だけとってすぐ戻ろうと」


「10分ぐらいこの広場にいタコとは言わないほうがいいですか?」


怒りと悲哀の入り混じった目で、キリヒトはタコを見た。

タコは気にすることなく、船にたこ焼きを盛り付けていた。


「…もう。結果的に会えたから、許してあげるわ」


たこ焼きを受けとり、ミーナが笑う。


「それで…時間が無いのは本当なの?」


「い、いやそれは本当だ。この後すぐクマの所に向かうことになってんだ」


ミーナはそれを聞いてため息をついた。


「ああ、ここの王様…。そう…もう少し、話したかったわね」


キリヒトは視線を逸らした。


「戦時中だもの、仕方ないわね…。…必ず、また帰って来るのよ」


「思ったんだけどよ。そんな約束、する必要あるか?」


食べ終わったキリヒトは、たこ焼きの乗っていた船を握りつぶして立ち上がった。


「何、言ってるの?」


キリヒトは、怪訝な顔をするミーナの目を見た。


「帰ってくるのは当然だから…俺は、勝つことを約束する」


笑顔で料理を続けるタコの方へ、キリヒトは顔を向けた。


「俺自身の目的だけじゃない。ここを、S.L.ウォールのようにはしたくないと俺は思ってるんだ」


「S.L.ウォール…!あなたって…」


ミーナがはっとした表情をしたのを見て、キリヒトは小さく笑った。


「そういや言ってなかったな。帰ってきたら、教えてやる。だから…」


キリヒトは体を沈め、足に力を込める。


「待ってろ」


「…っ!」


突風に顔を覆ったミーナが目を開けた時、もうそこにキリヒトはいなかった。


「ミーナさん、彼を信じてあげましょうよ」


「…そうね。でも、いつだって待つ時は不安なのよ」


タコの言葉に、ミーナは髪をかきあげ微笑んだ。




「知ってるか?入り口ってのは入るためにあるんだ」


窓から入ってきたキリヒトに、クマが文句を言う。


「直接来たほうが早いと思ってよ。…それで?」


クマはさらに文句を言いながら窓を閉めた。


「向こうは早速声明を出してきた。王と引き換えに全面降伏しろとな」


「飲むわけ無いだろ?」


クマは頷いた。


「幸い情報は我々にしか伝わっていない。協議中ということにして時間を稼ぐ」


「救出任務ってわけか」


キリヒトが肩を回しながらそう言った。


「王の体には非常時に備えて、発信機が仕込んである。既に破壊はされているが、

 おおよその位置は掴むことができた」


キリヒトは一枚の航空写真を手渡された。


「ここは…!」


「お前がかつて逃げ出した場所…シルヴァ大森林の、収容所だ。

 …ナシャエルの書いた指示書にも同じことが書いてあった」


写真を返し、キリヒトが笑った。


「生まれ故郷に帰れるなんて、嬉しいぜ。じゃあ、早速出発といこうか?」


拳を握るキリヒトをクマが手で制した。


「今回は、お前に部下をつける」


「…は?」


口を開けるキリヒトを少し見て、クマは入り口の方へと向いた。


「ナシャエルの提案でもあるが、正直これには俺も賛成だ。

 待たせてすまん、入ってくれ」


ドアが開き、3人の兵士が部屋の中へと入ってきた。


「彼が、先程話したキリヒトだ。すまないが、自己紹介を頼む」


軍服に身を包んだ、リボンをつけた暖色のチェック柄テディベアが敬礼をする。


「クラムと申します。衛生兵です」


その隣に立っている、大柄な兵士がキリヒトを見た。


「メルート。専門は電子工学です。

 加えてトレーサー…足音で人を識別できる能力を持っています」


最後に、顔に髑髏の入れ墨を入れた兵士がキリヒトの方を見ずに口を開いた。


「スカル。本業は爆弾兵だが、サバイバル能力が必要だと言われたので」


キリヒトは3人をしばらく見て、ため息をついた。


「なあおい、俺にとってただの人間は足手まといだってわからねえのか?」


キリヒトがクマの肩に掴みかかると、3人の兵士が同時にキリヒトに銃を向けた。


「手を下ろせ」


「…何だよ?」


「ああ、いい。すまないが、抑えてくれ」


兵士たちを睨むキリヒトの顔を押しのけ、クマは銃を下ろすよう指示した。


「いいか、今回の任務は殲滅じゃない。救出なんだ。

 大森林を象のような足音を立てて移動するつもりか?収容施設をまるごと破壊するつもりか?

 王が怪我をしていたらどうするつもりだ?」


キリヒトは、何も言えず黙っている。


「分かったら、大人しく従え。これはナシャエルの指示でもある」


クマはポンと手を叩いた。


「さて、では任務開始だ。

 お前が切り開いた前線基地までは輸送機で移動して、そこからは徒歩だ。健闘を祈る」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ